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第一章

 ヒラニプラ市街地――からかなりかけ離れた郊外。
 バスを乗り継いだりして漸く辿り着けるその場所に、小さなスパ施設は存在していた。

「……と、大まかな流れはこのような感じになると思います」
「はい、了解しました。それにしても、今日はお忙しい中ありがとうございます。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
「いいんですよ、こちらこそよろしくお願いしますね」
 このスパを切り盛りする少女、ボニーと、卜部 泪(うらべ・るい)が頭を下げてあいさつする。今、彼女たちは今日のイベントに関しての打ち合わせをしている。
「他のお客さまも居ますし、私はそちらの方に回っていると思うのでこちらのイベントに関してはお任せしてしまう事になると思いますが……」
「いえいえ、こちらも場所を提供して貰えただけでもありがたいのでお任せください」
「そう言ってもらえるとありがたいですけど……ところで……」
 ボニーがちらりと視線を横に向ける。そこに居るのはorzとうなだれる金元 ななな(かねもと・ななな)天野 翼(あまの つばさ)、そして和 泉空(かのう いそら)であった。
「あの……どうかしたんですか?」
「あーいえ……これなんですけど……」
 首を傾げるボニーに泪が見せたのは、イベント開催に関するプログラム。
「……わぁ」
 それを見て、ボニーが驚いたような声を上げる。

 イベントは大きく分けて三部構成になっていた。
 第一部は一般公募により集まった者達によるプロレス。
 第二部は一般公募とプロレスリングHCの一部選手による特殊ルール形式試合。
 第三部はスパ施設を利用したイベントだ。

「随分と参加者集まったんですね。第一部なんか十試合ありますよ?」
 ボニーの言う通り、第一部に描かれている試合数は全十試合。タッグ、シングルと入り乱れており、参加者はかなりの量である。
「ええ、確かに集まったんですけどね……問題はここです」
 泪がまず指さしたのは第二部のプログラム。
「んー……ん? あれ? お二人の名前が二度出てますね?」
 ボニーが気づいたのは参加選手欄。第二部で行われるガントレットマッチ、ノーリングマッチの両方に於いて、とある人物――翼と泉空の名前が両方に載っていた。
「全体の参加人数は予想外に多かったようですが、どうやら偏ってしまったようで……人数が足りないのでお二人が両方参加することが決定したようです」
「……二試合連続で、ですか?」
 ボニーの言葉に涙が頷いた。慰安どころか普段よりハードな事態になってしまったことに、二人の少女レスラーはorzとがっくり膝をついているのである。
「大変ですね……で、なななさんは一体? 別に試合出るわけでもないでしょうに」
「それはこっちです」
 そう言って次に泪が指さしたのは、第三部プログラム。
「……あぁ」
 すぐに、ボニーが納得したように頷く。
 そこにはこう書かれていた。

 ※お詫び
 予定していた焼肉フラッグ戦ですが、人数が集まらなかったため中止となりました。御参加を希望されていた方々、楽しみにしていた皆様に深く御詫び申し上げます。


「折角考えたというのに……まさかの没……」
 orzと項垂れるなななが、そう呟いた。
「うーむ、選択肢を増やし過ぎたのがいけなかったのでしょうかね……」
「まあその辺りは勉強になったという事で……と、そろそろ時間ですね」
 時計を見てボニーが言う。
「あ、そうですね……ほら皆さん行きますよ、準備を始めてください」
 泪の呼びかけに項垂れている面々はゆっくりと立ちあがった。だが足取りは重そうである。
「……大丈夫かなぁ」
 その様子を見て、ボニーが心配そうに呟いた。