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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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第1章 その男、天上天下天地無双につき・その1



 決闘、それはほとばしるほどヒートな彼らの合い言葉。
 決闘、それは意地と意地のぶつかり合うガチンコの感情表現。
 決闘、それは気合いと根性と鉄拳による何人にも侵されざるグローバルコミュニケーション。
 東の果てでは今や絶滅種となったバンカラ野郎が夕日の河原で拳で語り合い、はたまた西の果てでは華麗なる貴族たちが白手袋の度重なる応酬の末、その矮小なる自尊心を満たすため、細い剣で突つき合ったと伝えられている。
 菩提樹前駅から奴隷都市アブディールに向かって続く線路の上。
 見渡す限り180度大パノラマの湿原地帯、奇怪な草木が群生し、腐敗した水が嫌な臭気を上げている。
 そこにナラカエクスプレスから置き石除去にやってきた有志たちがズラリと横に広がって並ぶ。
 視線の先には同じくこちらを睨み付ける愚連隊が。
 奈落人【ハヌマーン・ヴァーユ】WITHスーパーモンキーズである。
「……ようやく来たか。逃げずに来たのは褒めてやるぜ!」
 ビシィと指を突きつけるハヌマーンだが、部下がちまちまと線路に小石を置いているのでなんか様にならない。
「この道は私たちの未来へ続く大切な道……、申し訳ありませんが、下がって頂きます」
 純白の貴公子エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は前に立ち、光条兵器の蒼薔薇を突きつける。
「ふん、何度も同じことを言わせるんじゃねぇ。俺様に言うことを聞かせたかったら、俺様を倒してみやがれ!」
「……この地に足を踏み入れたときから覚悟の上です。行きますよ、皆さん!」
 蒼空学園置き石撤去隊は次々に武器を構え、対するスーパーモンキーズも武器を手に襲いかかってきた。
 後の学園史に刻まれる蒼空学園史上初のナラカの戦いの幕開けである。


 ◇◇◇


 突撃突撃また突撃、そして突撃に次ぐ突撃。
 それが白猿大将ハヌマーンの唯一無二の戦闘方針、突撃以外の指示を下したことはこの数千年一度もない。
 隊列なにそれ食べれんのとでも言いたくなるほどの激しさで、配下のお猿の着ぐるみ死人戦士は突っ込んでくる。
 蒼空の面々はすぐさま散開し各個撃破にあたった。
 男装の麗人ジェルソミーナ・ファブリカ(じぇるそみーな・ふぁぶりか)も綾刀を持って迫る敵と斬り結ぶ。
「……まずはハヌマーンとこいつらの分断が先決だな」
 さるさるスーツを着込んでいるため、見た目は可愛らしいスーパーモンキーズだが、殺気は本物だ。
 そして、ハヌマーンに認められた戦士だけあってその実力も本物だった。
「結構まずい……、かも」
 斬り結んだ瞬間、ジェルソミーナに不安が走った。
 空京のチンピラレベルの戦闘力ではない、少なくとも名だたる山賊か空賊、修練を積んだ戦士レベルだ。
「どんな奴が乗り込んで来たかと思えば……、意外と大したことないウキね」
「おい、なんだその語尾は?」
「ハヌマーン様の命令で猿らしく振る舞ってるウキ。あの方は猿以外に厳しいウキから……」
「そいつはご苦労なこったな」
 かすかな微笑を携え刀を振るうが、剣の腕はわずかに向こうが勝っている。
 死人戦士は白刃を打ち伏せ、返す刀で骨まで断てそうな大刀を振り上げた。
「ウキィーッ!」
 刹那、一発の銃弾が大刀を弾いた。
 完全に不意を突かれ、大きく体勢を崩す死人戦士。
「今がチャンスです! ジェルソミーナさん!」
 碧血のカーマインを構え叫んだのは、相棒のドマーニ・オルソ(どまーに・おるそ)だった。
「すまない、ドマーニ」
 横一文字に刀を振り抜き、がら空きになった胴を両断する。
 隙間をすり抜けるように刃が払われると、死人戦士は悲鳴を上げてその場に倒れた。
「まずは一人」
 しかし、敵はまだまだたくさんいる。
 仲間をやられた報復なのか、スーパーモンキー達がわらわら集まってきた。
 スプレーショットでドマーニが牽制をかけるも、どこ吹く風とばかりに向かってくる。
「ま、また随分と凶暴そうなのが出てきましたね。これじゃ、僕達だけで彼らの分断を行うのは難しいんじゃ……」
「無茶は承知の上だろ、泣き言を言ってるヒマはないぞ」
「私も加勢させて頂きますよ」
 蒼薔薇を弄びながら、エメが颯爽と死人戦士の前に立ちはだかる。
 ノブレスオブリージュ……、友のため道を切り開くことこそ、高貴なる務め。
「皆さんはハヌマーンをお願いします。こちらの方々は私たちで出来る限り引きつけます」


 ◇◇◇


「……すまない、ここは任せるぞ!」
 一人、また一人と置き石撤去隊はスーパーモンキーズを振り切って、ハヌマーンの元に前進を始めた。
 無論のこと死人戦士達もみすみす大将の元へ行かせるわけがない、背中を見せる彼らに追いすがる。
 だが突如、上空から何枚もの氷壁が降り注いだ。
 氷術で生成された大きな壁は、死人戦士の行く手を阻み、ハヌマーンに向かう彼らの背中を守る。
「すこし出遅れたけどなんとか間に合った……。なるほど。ナラカエクスプレスが動いてないから妙だとは思ったけど……、まさか線路に置き石とはね。どこの世界にもハタメーワクな連中ってのはいるもんだな、まったく……!」
 振り返ったジェルソミーナとエメの視線の先に、父性溢れる如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)の姿が。
 ヒーローは遅れて現れるとは誰の言葉だったか、特別便組の佑也も遅れて決戦場に到着である。
 彼の横では相棒のアルマ・アレフ(あるま・あれふ)がおいしいバナナにパクついている。
「バナナうまー!」
「……って、おーいアルマさーん。なんでここで食事始める?」
「だってほら、腹が減っては戦は出来ぬって言うでしょ?」
 ゴクリと佑也はツバを飲み込む。
 美味しそうだったわけではない、彼女の食べ方に何かしらおかしなものを感じたのだ。
「つか、食べ方おかしいから……」
 逞しく反り返った果実を艶かしく頬張り、唾液まみれになったソレにねっとりと舌を這わせている。
「普通に咥えてるだけじゃない?」
「咥えてるっていうかしゃぶっ……、なんでもない、俺が悪かった、ゴメンなさい」
 閑話休題、バナナの食べかたにかかずっている場合ではないのである。
「ううう……! バナナ……! バナナでウキ……!」
 しかしながら、死人戦士達も彼女のバナナに興味を持ったようだ。
 佑也がバナナを持ってたら、佑也のバナナと書き記せたのに残念であるが、結局書いてしまっているので無問題。
 彼らの着込んださるさるスーツには、バナナに目がなくなってしまうと言う、恐るべき呪いがかかっている。
「なんだか心無しか囲まれているような……」
「いや間違いなく囲まれてるって! いつまでも食べてないで撃退するぞ、アルマ!」
「りょーかいっと!」
 アルマはバナナの皮を投げつけ、ポンプアクション式ランチャーの光条兵器『レッドラム』を発現させる。
 赤光する弾丸で集まった死人戦士を吹き飛ばし、更に火・雷・氷術を打ち込んで追い打ち。
 多彩な技で効果的な属性に探りを入れたものの、これと言って弱点はよくわからなかった。しいて言えば、やはり死人だけあって光輝属性が効いた気もするが、基本的にどの属性に対しても大した抵抗は持っていないように思えた。
「はああああっ!!」
 パートナーに続き、佑也もアルテマトゥーレを纏った刀で、立ちはだかる死人戦士に斬り掛かる。
 相手は大刀でそれを受けるが、彼の放つ剣気にジリジリと押されているように見えた。
「うぐ……、こいつ、結構強いでウキ。さっきの男女と違って……」
「ちょっと待て、男女って俺のことか!」
 別の死人戦士と鍔迫り合いを繰り広げるジェルソミーナが抗議の声を上げたがそれは置いておこう。 
 佑也は素早く氷壁に身を隠し、敵を攪乱しながら、隙を突いて斬り掛かる一撃離脱の戦法。
「ど……、どこへ消えたでウキ?」
「ここだよ」
 斬撃一閃。
 数では勝るとは言え、不意を討たれた死人戦士達は次々に切り伏せられていく。
 タイマンでは勝てないと悟ったモンキーズは、取り囲んで背後から襲いかかるのだが、佑也は何枚か上手だった。
 振り返り様に放ったサイコキネシスで、死人戦士の身体を標本のように宙空に貼付ける。
「そう来ると思ったよ」
 次の瞬間、飛んできた蒼薔薇が磔の死人戦士の眉間に突き刺さった。
「敵は彼だけではありませんよ、このエメ・シェンノートの相手もして頂きましょうか」
「むむむ……、生者のくせに生意気ウキ!」
 死人戦士の攻撃を優雅な身のこなしでかわし、蒼薔薇の貴公子はブライトグラディウスの一閃で黙らせる。
 誰もが思わず見惚れるほどの美麗なる剣技の冴えであった。
「もうすこし剣術のレッスンを積まれたほうがよいのでは……?」
 エメは微笑をたたえ、後ずさりする死人戦士を見つめた。
「こ、こいつもただのスカした奴じゃないウキ……」
 そしてまたジェルソミーナもまた一人打ち倒し、佑也やエメと背中を合わせるようにして並んだ。
「ようやく二人目……、思ったより骨が折れるな……」
「大丈夫ですか。あまりご無理はなさらないでください、ジェルソミーナさん」
「そうだぜ。俺やエメくんがいるんだ、面倒な敵は押し付けてくれも……」
 気遣う二人に、彼女は首を振った。
「心配してくれて嬉しいよ。でも、俺だって戦闘は苦手だけど、やるときはやるってとこ見せたいんだ」
 取り囲むスーパーモンキーズを見回し、彼らは再び武器を構える。
 まだ敵はたくさんいる、倒れた仲間を踏み越え、死人戦士達はらんらんと光る目でこちらを睨んだ。