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リアクション
■□■□■□■
川のせせらぎも心地よく、秋風が時折吹くと川から魚が跳ねる。
深さはそれほどなく、川底が綺麗に見える。
その川からほど近い場所にバイクを止め、自前の釣り道具一式、それから軽い昼食と読みかけの小説を2冊降ろすと座り心地の良さそうな場所へと腰を下ろす。
橘 恭司(たちばな・きょうじ)が急に思い立ち足を伸ばしたのだった。
「……銀杏の匂い?」
周りを見渡すと、釣りを楽しんでいる菅野 葉月(すがの・はづき)とミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)、和原 樹(なぎはら・いつき)とフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)の奥で剣術の稽古をしているクライスとジィーンを見つけた。
どうやら匂いがするのはクライス達からのようだ。
側にはネットに入った大量の銀杏がある。
「秋の名物ですからね」
最初は少し気になったが、次第にそのゆったりとした時間にはまっていく。
釣り糸を垂らし、反応があるまでミステリー小説に目を落としている。
糸が引いても慌てずにゆっくりと対処していた。
側では葉月達にホイップがどうやら加わったようだ。
「空が高いですね……」
空を見上げると高く、ゆっくりと雲が去っていく。
陽光に目を少し細めた。
「しっしっ! なんでフォルクス・カーネリア達が近くにいるのよ」
まるで威嚇している猫みたいになっているのはミーナだ。
「邪魔に思っているのはコーミア殿だけではない。こちらだってそうだ」
また何故か火花の散っている2人。
「良いじゃないですか。皆で一緒の方が楽しいですよ?」
「そうだよ! 皆で一緒に楽しもうよ」
それに、葉月と樹がフォローを入れた。
「そうだけど……ぶ〜……」
「そうだが……」
葉月の言葉にぶー垂れながら、ミーナはぴったりと葉月にくっついた。
「ここで釣りしてたんだ!」
森から出てきたホイップが葉月達を発見し、側へと寄った。
「ま、またお邪魔虫が……!」
せっかくのデートと思っているミーナはホイップを睨みつけた。
「あ、あはは、気にしないで一緒にやりませんか? 予備の釣り道具ありますよ? そちらにいる君もどうです? めったにない機会ですし、こちらで会話しませんか?」
「では、ご一緒させていただきます」
葉月の言葉に確かにめったにない機会だと判断したのか、恭司は小説を閉じて近くへと来た。
「ここでは何が釣れるの?」
糸を垂らしながらホイップが聞く。
「どうやらヤマメやウグイなど食べられる魚が多いみたいです」
「そっかぁ……釣れたら塩焼きとか良さそうだね」
葉月の返答に楽しそうに声を上げる。
「そしたらワタシの火術に任せてよ!」
ミーナは葉月を取られまいと必死に会話に入った。
「頼もしいですね」
その様子に微笑しながら恭司が言葉を挟んだのだった。
■□■□■□■
皆が楽しそうに遊んでいるのを眺め、東雲 いちる(しののめ・いちる)とギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)は開けた場所へと腰をおろしていた。
そこからは紅葉の紅が良く映える場所で、いちるは心配そうにギルベルトをちらちら覗き見ていた。
「凄く綺麗な赤ですよね」
「……ああ」
いちるの言葉に所在無げに返答する。
「ギルさんの瞳の色も同じく綺麗ですよ」
「……」
(そうか……前に一度だけ赤が嫌いだと……自分の瞳の色すら憎いともらした事があったな)
ギルベルトはいちるの目を見ずに言葉を紡ぐ。
「俺は自分の守護していた土地を守れなかったのだ……。燃え広がる炎は城を飲み込み、血に染まった領民や領地をも更に紅く紅く染めてしまった……。その業火が目に焼き付いて離れない」
「……」
ギルベルトの言葉と酷く自嘲した様な悲しみの表情にいちるが声を詰まらせた。
そのまま膝立ちになるとギルベルトをギュッと抱きしめたのだった。
その様子は誰の目に触れる事もなく、暫く続いた。
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