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リアクション
■□■□■□■
「うん、こんな感じかな」
森の中へと足を踏み入れていたリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は、甘い香りのハーブを探しだしていた。
持ってきていた水筒には、森の奥に湧いていた清らかな軟らかい水を入れているので、時々たぽんっと音がした。
ハーブは全部で5種類。
リアトリスが目指していた量を上回る収穫があったようだ。
「ホイップ喜んでくれると良いな」
ホイップが受け取って喜んだ時の顔を思い浮かべ、つい顔がゆるむ。
ハーブと水を持って、開けた場所へとくると、近くではフットサルで対戦している姿が見受けられた。
試合は後半のようだ。
「ふふ、美しい紅葉に秋を楽しむ人々……美しい!!」
そして、少し離れたところでは、その様子をニヤニヤと写生している明智 珠輝(あけち・たまき)の姿があった。
カンバスに描かれているのはフットサルをしている綺人の何故か無駄に肌蹴た姿だった。
そして、それをツッコム人は誰もおらず、放置プレイとなった。
「ホイップが遊び終わったら渡せるように今のうちに作っておかなくちゃ」
急いで自分の持ち物を平らな場所で広げる。
中にはすり鉢や抽出する為の道具が入っていた。
暫く作業を続ける。
試合の方は終了し、皆でスポーツドリンク等を飲み、談笑しているのが見える。
「ホイップ!」
ホイップがリアトリスが居る場所の近くの草むらへと近付いてきたので、声を掛ける。
「リアトリスさん! こんなところで何してるの?」
未だ体操服にブルマという出で立ちのホイップが気が付いて、走り寄った。
「ちょっと、待っててね……うん、良い香りに仕上がったみたい」
水色の透明な瓶に入れられた液体を手首にひと吹きし、匂いを確かめたのだ。
「わっ、爽やかだけどちょっと甘い香りがする」
「調合は成功だよ! はい!」
リアトリスはその水色の瓶をホイップへと手渡す。
「へっ? わ、悪いよ! リアトリスさんが一所懸命に作ったものなんでしょ?」
「これはホイップにあげようと思って作ったものだから、もらってくれないと困っちゃうかな」
「へう……じゃ、じゃあ有り難く使わせてもらうね! 有難う!」
ホイップとリアトリスは笑い合う。
「おお! 私のアート魂に火が!! 美しいお嬢さん達、是非モデルになって下さいませんか?」
そこへ、カンバスを抱え息を荒くしている珠輝が割って入ってきた。
「え、え〜っと、リアトリスさんは女性じゃないよ? 綺麗なのは認めるけど……」
「そ、そんな綺麗だなんて! でも確かにこんな格好してるけど女性ではないよ?」
「美しければ女性だろうと綺麗な男性だろうと関係ありませんよ! 是非、私のモデルに!!」
珠輝の熱意に押され、2人は了承したのだった。
いつまでも体操服のままでは風邪をひきそうだったのでいったん着替えをしてくる。
モデルとは言っても、適当に動いて話していて良いらしいので、おしゃべりをしながらゆったりとした時間が流れて行く。
「珠輝さんはどうしてここに?」
「ふふ、たまたま秋の美しさをカンバスに写しておきたかっただけですよ」
ホイップの質問に楽しげに答える。
「さっきも何か描いてたよね?」
「ええ、こちらです。見ますか?」
リアトリスの言葉に嬉しそうに言う。
「良いの!?」
2人は声がはもり、嬉しそうな珠輝から先ほどの絵を見せてもらった。
そこには、無駄に肌蹴た綺人とそれを愛おしそうに見つめるクロセル、そしてボールをなでまわす社の姿だった。
「…………私達の絵って……どうなる……の?」
「怖いかも……」
2人は怖くて珠輝の顔が見れないでいる。
「ふふ、楽しみにしてください。ほら、もう完成ですよ」
恐る恐る完成した絵を手に取ると、意外にもまともに描かれたホイップとリアトリスの姿がそこにはあった。
仲が良さそうに談笑し、本当に楽しそうにしている。
「……凄い」
「うん……珠輝さんって絵が上手なんだね!」
2人の言葉に満足すると珠輝は腰を上げた。
「それは記念に差し上げますよ、ふふ」
そういうと次の被写体を探しにさっさと行ってしまった。
「ホイップが持ってると良いよ」
「えっ、でも……」
「今度、ホイップの部屋に遊びに行くから、その時見せてね」
「うん! 有難う!」
2人はまた笑い合うのだった。
■□■□■□■
「ホイップさん! 今度はあたしと一緒に遊ぼうよ! 皆とばっかりずるい!」
笑い合っていたところへ、駆けてきたのはカッチン 和子(かっちん・かずこ)だ。
「ごめんね! うん、遊ぼう!」
「いってらっしゃい」
リアトリスに見送られ、ホイップは和子と一緒に森の中へと入っていた。
森の中ではちょうど金住 健勝(かなずみ・けんしょう)が図鑑を片手に何やら収穫中。
「ホイップ殿の借金はまだまだ残っている……。ここで少しでも足しにして、任務を完遂せねばならないであります」
軍手をし、籠を背負ってやる気満々のようだ。
「今日は借金の事は気にしなくて大丈夫だよ?」
「わひゃーっ! いつからいたでありますか!? 気が付かなかったであります……」
背後からホイップに急に話しかけられ、持っていた図鑑を落としそうになる。
「そうだよっ! 今日は皆でホイップさんと遊び倒すんだから」
「むぅ……しかし、せっかくキノコや栗を拾っているでありますし……」
「それなら、お昼を作ろうとしている人達に持っていけば喜ばれるんじゃないかな?」
「……そうでありますな。皆で楽しい方が良いであります」
ホイップの提案に納得したようで3人で食材探しと、森の動物観察が始まった。
「さてと、これとこれは大丈夫で、こっちは毒か」
森の中へと入ると一足先に博識を使って見極めている本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)とクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)がキノコを探しにきていた。
今日のお昼に振る舞ってくれるとの事。
「楽しみにしてるね!」
「期待してて!」
あっちの方で水の音がすると2人は汲みに行ってしまった。
「わっわっ! 今の何!?」
ホイップの足元を何かが素早く掠めて行った。
「もしかして……!?」
和子がその何かが入って行った草の辺りをかき分けると、なんと野生のゆるスターを発見することが出来た。
「可愛い〜!」
女性2人の声がはもる。
続いて、前に見た(食べた)事のあるパラミタ猪を見る事が出来た。
静かにしていると何とかやり過ごせ、戦闘にはならなかった。
「むっ! こんなところに黒松であります! あのキノコがあるかもしれないであります!」
興奮したように、黒松の下の砂地を丁寧に掘っていく。
すると、そこには直径2〜3センチの丸くコロンとした物体があった。
白かったその物体に少しでも手が触れると淡い紅色に変色した。
「やったであります!!」
「えっ? これキノコなの?」
健勝に和子が質問をする。
ホイップも見たことのないキノコに目を丸くしている。
「これはショウロというであります。漢字で書くと松の露となる……と図鑑に書かれているであります」
「へぇ〜……あ、良い香り」
ホイップが1つ手に取り、匂いを嗅いでみると、果物のような香りが広がった。
「どれどれ〜?」
和子も試すと、気に入ったらしくて、幾度も匂いを嗅いでいた。
「くそぅっ、明智の奴どこに行きやがった……うぅ……寒い」
3人のいる近くでは珠輝を探している変熊 仮面(へんくま・かめん)の姿があった。
「へぇ〜っくしょい!」
くしゃみが出るのも無理はなく、全裸に薔薇学マントのみという格好なのだ。
縮み上がりながらも、なおここに来ているであろう珠輝を探す。
珠輝から今日はどうやらホイップ主催の宴会と先ほど連絡を受け駆けつけてみたらしい。
「へぇ〜……あ、良い香り」
聞いた事のない女性の声に反応し、そちらへと足を運んでみるとキノコ狩りに夢中になっている3人を発見できた。
「この子が噂のホイップちゃんか……一応、いつものやっておくか」
仮面はマントをギュッと閉じ、準備を完了させる。
そっと草むらからホイップに近づく。
「フフフ……お嬢さん、御機嫌いかが?」
いきなり立ちあがり、ホイップへと声を掛けマントを一気に広げた。
「あっ! エノキ茸発見したよ!」
タイミングが悪く、たまたまホイップがキノコを発見した場面で、ホイップの顔は全くそちらを向いていなかったのだ。
「でも、小さいであります」
「健勝さんの方が大きいね」
会話を聞いてわなわなとふるえる仮面。
何かを勘違いしているようだ。
「本当だ、そっちは全然小さくて成長してないみたい」
和子の言葉が止めを刺した。
(いくら寒くって縮こまってるとはいえ……屈辱!)
「うわぁぁぁぁーん!」
激しい衝撃を受けマントをはためかせながら走り去ってしまった。
「ん? 何かさっき話しかけられたような?」
「気のせいじゃない?」
「そっか」
こうして3人は心行くまで秋の味覚狩りを楽しんだ。
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