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リアクション
序章 プロジェクトN
空京。
新幹線のホームに乗り遅れた生徒が1人、ポツンと立っていた。
「ちっ。日にちを間違えちまったぜ。帰るとするか……って、アアア???」
駅の大型スクリーンに、なんと、のぞき部部長弥涼 総司(いすず・そうじ)の顔がアップで写っている。
そこにテロップが出る。
『スケベを束ねる真の勇者、のぞき部部長』
続いて、キリン隊隊長村雨 焔(むらさめ・ほむら)の顔が大写しになり――
『女性の体を守る頼れる男、キリン隊隊長』
「なんだこりゃ」
音楽が盛り上がり、スクリーンに文字が躍る。
バンバババーン!!!
『緊急ドキュメント【プロジェクトN】
〜のぞき部VSキリン隊、京都戦争・完全生中継!〜』
生徒は踵を返すとベンチにどっかと腰掛け、腕を組んでふんぞり返った。
「見せてもらおうじゃねえか。お前らの戦いっぷりをよお!」
京都の旅館。浴場前の休憩所。
ここには、大きめのテレビと、牛乳や珈琲牛乳の自動販売機、マッサージチェアが1台ある。
テーブルには、旅館のサービスで八つ橋が用意されている。
テレビでは、今まさに「プロジェクトN」が放送されている。まずは、のぞき部とキリン隊の過去の戦いを振り返る映像が流れている。それが終わると、いよいよ生中継が始まる。
「プロジェクトN」の制作陣を紹介しておこう。
志位 大地(しい・だいち)は、カメラマンとリポーター。(男子風呂を中心に)
アレクス・イクス(あれくす・いくす)は、カメラマン。(女子風呂を中心に)
シーラ・カンス(しーら・かんす)は、リポーターとアレクスのサポートだ。(女子風呂を中心に)
無線配信される映像を切り替えて放送にのせるのは、リーダーでもあるエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)だ。
エメはサインの入った書面をドンッと置いた。
「のぞき部とキリン隊の各リーダーからお墨付きをいただきました。邪魔さえしなければ、撮影もライブ放送もオーケーです」
アレクスは、キリン隊が集まっている川原に向かった。
さっそく猫じゃらしを見つけてじゃれているが、すぐにエメから注意が入る。
「アル君! 遊ぶのは終わってからにしてください!」
「にゃうー」
キリン隊は隊長が忙しいらしく、副隊長の橘 恭司(たちばな・きょうじ)が仕切っている。
「今回、隊長とも連絡を取り合いながらやるが、現場の指揮は基本的に俺に任された。といっても、まあ、俺は俺にできる事をするだけだ。肝心なのは……1人1人の働きさ。なあ! ショウ」
「え? あ、ああ。そうだよ。キリンは首が長いから、敵を見つけることができる。……見つけようぜ」
幹部の葉月 ショウ(はづき・しょう)は、どこかいつもと違うような気もしたが、気のせいだろうか……。
キリン隊の特攻隊長は、ケンリュウガーだ。
「ケンリュウガーだ。正義のために、やってやろうぜ」
特撮ヒーローコスプレのケンリュウガーに扮しているのが武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)ということはみんな知っているが、やさしいから言わないでいる。いい仲間だ。
彼らは昼間、“森の前の森”に罠を作っていた。それに協力してくれた緋山 政敏(ひやま・まさとし)が紹介された。が、
「悪いけど、俺はキリン隊ってわけじゃないよ。ただ、こいつ等に安心して風呂を味わって貰いたいだけだから」
パートナーのカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)とリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)を引き連れ、去っていった。
風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)は、キリン隊への協力を名乗り出ていた。
「キリン隊に協力します」
風祭 隼人(かざまつり・はやと)も、名乗りを上げた。
「俺も。俺もやるぜ」
ライ・アインロッド(らい・あいんろっど)も参加を表明した。
「せっかくの旅行ですから、一晩頑張りましょうか」
恭司は彼らと力強く握手した。
「ちょっと待った!」
永夷 零(ながい・ぜろ)が、割って入った。
「俺もキリン隊に入るけど、この猫とカメラはなんだ?」
「ライブ中継にゃう!」
「それって、盗撮じゃないのか。結局のぞき部と同じことじゃねえか!」
「違うにゃう! 盗撮できないにゃう!」
解説しよう。
彼ら「プロジェクトN」制作陣が用意したカメラは、超ハイテク盗撮防止カメラ「チェリーバージン1号」である。
これは、女性の身体を撮影すると、自動制御装置が働いて大事な部分が写らないようになる特殊カメラである。
胸(乳首を中心に7センチ)は自動的に超ピンぼけとなって何かわからなくなり、股間は自動的にブルマを履いているような処理が施され、セクシーパンティーも、アソコそのものも決して写らない。
写ってから処理するのではなく、そもそもレンズに写らないため、データをいじっても絶対に悪用されることはない。
……そういうカメラなのだ。
アレクスは、試しに広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)のミニスカートの中を撮影する。
「きゃ! 恥ずかしいですぅー」
モニターを見ると、あら不思議。ファイリアがしっかりブルマを履いている。
「これはこれで恥ずかしいですけどね……」
「なるほど。悪かったな」
零も納得したようだ。
そして、生放送が始まった。
カメラの前で、恭司はさらに話を進める。
「パンダ隊のことだが、今までキリン隊の女子分隊扱いとして活動してもらっていたが、今回から独立した組織としてやってほしい。のぞかれる側からの瞬時の対応は、分隊では難しいからな。もちろん今まで通りに協力体制は取るし、まあ、定義の問題だな」
みんな、なるほど……と納得する。ということは……
「そこで、パンダ隊のリーダーを決めてほしいんだが――」
「はいっ! 私やります!」
白波 理沙(しらなみ・りさ)が手を挙げた。
創設時からのメンバーで、今までも活躍している。満場一致でパンダ隊の隊長に決まった。
就任の挨拶を、と言われてみんなの前に立つ。
「ん。おほん。おほん。ええっと、のぞき部ですが………………………………潰す!」
「おおおおおおおおおお!」
パチパチパチパチ!
この一言だけで拍手喝采とは、パンダ隊も意外と単純だ。
そして、同じく創設時からのファイリアがパンダ隊副隊長に就任した。
「がんばりますですー」
恭司のパートナークレア・アルバート(くれあ・あるばーと)とフィアナ・アルバート(ふぃあな・あるばーと)もパンダ隊だ。
パンダ隊は、なかなかの大所帯に成長している。
「優斗君。パラミタを離れたこんなところで会うなんて、これはもう、ラブですわね☆」
「ハイそこナンパしないっ! 修学旅行だから当たり前!」
理沙にツッコミをいれられたのは、パートナーのチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)。
初期からのメンバー、ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)もやる気満々だ。
「のぞき部は、徹底的にお仕置きしちゃおう!」
新人の桐生 ひな(きりゅう・ひな)は少し控えめに、
「新人ですし、難しいことはちょっと……。とりあえず、お風呂で様子を見ておきます」
パートナーのナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)も加入した。
「にゃはは。わしが悪い奴をお尻ペンペンしてやるのじゃ」
菅野 葉月(すがの・はづき)も新戦力だ。男の制服を着ているが、ただ着慣れているから着ているだけらしい。
「菅野葉月です。……甘党です」
それを聞いて、葉月仲間のショウが割って入った。
「そうだったのか。俺も甘党だぜ。また共通点ができたな」
2人の葉月の間に割り込んで、というよりショウをグイグイ押して追い出しているのは、菅野葉月のパートナーミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)。
「ミーナだよ! 悪い虫は駆除するに限るよね!」
ショウのパートナーガッシュ・エルフィード(がっしゅ・えるふぃーど)もいる。
「僕はお兄ちゃんの手伝いをするよ」
「おーっほっほっほ」
いかにも高飛車なお嬢様ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)がドリルのようなロールを揺らしながらやってきた。
「わたくしも、不届き者をこらしめますわ。おーっほっほ」
甲高いノートの笑い声が響く中、
キリン隊・パンダ隊の既存メンバーのケータイに、メールが入ってきた。
『ワンワンニュース! のぞき部幹部の椿 薫(つばき・かおる)、退部。理由は「好きな人ができた」 byDOG』
「DOG? 犬?」
「誰かしら。まさか、ロボット犬のガーヴ?」
「こういうことをするタイプじゃないと思いますですー」
「うーん……これ、本当かなあ?」
大地は、堂々と浴場前の休憩所に集まったのぞき部を撮影していた。
こちらも部長が準備に忙しく不在で、新幹線の中で正式に就任が決まったという副部長も姿を見せていなかった。
今ここに集まったメンバーは、以下の面々である。
黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)
坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)
影野 陽太(かげの・ようた)
大草 義純(おおくさ・よしずみ)
鈴木 周(すずき・しゅう)
秋葉 つかさ(あきば・つかさ)
ヴァレリー・ウェイン(う゛ぁれりー・うぇいん)
薫がいないが、本当に退部したのだろうか。
誰もそのことを口にしようとしないのが、かえって不気味である。
幹部の周は、別室から1人の男を呼びよせた。
新入部員の赤月 速人(あかつき・はやと)だ。
「俺は、のぞき部の情熱に男を感じた。お前らとは兄弟になれそうだ。……共に頑張ろうぜ」
みんなに歓迎された。それはもう熱烈に。
幹部のにゃん丸が、みんなに作戦を説明する。
「部長や副部長とも話し合ったんだけどねぇ、今回は、いかにキリンとパンダを撹乱できるか、そこに尽きると思うんだぁ。だから適度に協力しつつ、でもあまり固まらないようにやっていこう。チャンスはきっと訪れる」
「ただ……」
と陽太が前に出る。
「それぞれがのぞき部員としての自覚を持って戦わないといけません。さあ、円陣を組みましょう」
いつもより気合いの入った陽太に戸惑いつつ、みんな、輪になって肩を組む。
陽太は、輪の中心でさらに部員を鼓舞する。
「我らのぞき部。生まれたときは違えど、死ぬ時は皆一緒です。地獄で再会しましょう!」
「オオオオオー!」
と、そこにのぞき部副部長がラジカセを持ってやってきた。
クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)だ。
「やはり、キリパンを撹乱させるためには部員の絶対数がもっともっと必要です。あ、そこのリュースさん、どうですか?」
リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は、たまたまそこで八つ橋を食べていた。
「のぞきですか? オレはやめておきます。グロリアに殺されますから」
「そうですか……」
「クライス。今さら勧誘しても遅いんじゃないか?」
「いえ、策は練ってありますよ。……サフィさん!」
セクシーなドレスを着たサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)がやってきて、休憩所の電気を消す。
クライスがラジカセのスイッチを押すと、なんとも妖艶な音楽が流れ始める。
「な、なんだこれは……!」
「クライス殿、これは何事でござる?」
クライスはいつになく楽しそうで、いつの間にかミラーボールも回っている。
「みなさん。ようこそ! パラミタロック座へ!!!」
サフィは恥ずかしそうにテーブルに上る。
「は、恥ずかしい……でも、言い出しっぺはあたし。我慢我慢……」
踊りながら、少しずつ少しずつ服を脱いでいく。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
クライスの狙い通り、どんどん人が集まってきている。
これには、のぞき部一のイベンター鹿次郎も感心しきり。
「さすがは副部長でござる。人を集め、欲情をかき立て、勧誘しやすい雰囲気を作るわけでござるな。いや〜、まいったでござる!」
クライスはサフィの前を右へ左へ歩き回りながら、集まったバカ、否、観衆どもに演説をする。
「みなさん、聞いてください。我々は、天下ののぞき部です。欲望に正直な活動をしています。世間には、これを悪と見なす方もいらっしゃいます。残念なことです。なるほど確かに、欲望のままに行動していては社会が成り立ちません。僕たちは人間です。動物ではありません。倫理、理性、法律、合理性、そういったもので欲望を縛ってきたからこそ人類の発展があるのです。しかーーーしッ! しかし! その結果、いったい何を得てきたというのでしょう……」
ここでクライスの泣きの演出が入る。
手を振るわせ、目を潤ませての大芝居だ。
「2019年の今、地球はボロボロです。緑がなくなっているのは……女子の体をのぞかずに自動車を作ったりしてるからです。世界に平和が訪れないのは……のぞきをしないで戦争なんかしてるからです。今こそ、今こそ! のぞきが必要です! のぞきこそ、愛。のぞきこそ、正義。さあ、愛と正義のために、立ち上がりましょう!!!」
サフィのストリップは、あとは下着だけになっている。
「サフィ! サフィ! サフィ! サフィ! サフィ! サフィ! サフィ! サフィ! サフィ! サフィ!」
サフィは恥ずかしくて困りながらも、会場の「サフィコール」に押されて少しずつチラリチラリと見せていく。
「ううー。これ、どこまで見えてる? 大事なところ、見えてないよね? ね?」
クライスは周囲を見渡して、愕然とした。
のぞき部の仲間たちが、勧誘も何もせずに、観衆と一緒になってサフィに夢中になっているのだ。
「おいおい、クライス! お前の彼女? いいなー。エロいなー」
「クライスさん。僕、サフィさん、好みです」
「なんだよなんだよ、クライスったらよお。水くせえな。あんな可愛い娘がいたのかよー。ちくしょう!」
ボッコーーーッ!
クライスは仲間を殴った。
「イタタ。な、殴りますか、普通」
のぞき部は、しょせんのぞき部。エロの前に見境なくなっていた。しまいには、つかさがズンズン前に出て来てお願いし始めた。
「クライス様。私もステージに上がってよろしいでしょうか。上がってよろしいでしょうか。大事なことなので2度言わせていただきましたけど、上がってよろしいでしょうか」
「ダ、ダメです!」
クライスはステージに上がった。
「ここまで!」
「助かったー。はい、お仕事終わり」
サフィが大急ぎで浴衣を羽織る。
ブーーブーーブーーー!
ブーイングの嵐だが、これはさすがに予想していた。
「もっと見たいんですか? ならば見ればいいんです! もっと魅惑的で、もっと多くの女子が集う桃源郷が……そこにあります。さあ! のぞき部に入って、一緒にのぞきましょう!」
汗だくになっての演説の甲斐があって、風森 望(かぜもり・のぞみ)が入部を希望してきた。
それを見ていた外野が「女子じゃねえか」と茶々を入れると、望がキレる。
「可愛い女の子を愛でるのに、男女の違いなどありますか!」
望の迫力に感動したクライスは、即座に握手して歓迎した。
「今回は、敵の目を欺くだけでも意味があります。よろしくお願いします」
まだ会場にはサフィのストリップから現実に帰ってこられない者が数名いた。
カーチェ・シルヴァンティエ(かーちぇ・しるばんてぃえ)は興味があるのかのぞき部をチラチラと見ていたが、駒姫 ちあき(こまひめ・ちあき)の視線を感じ、何も言わずに去っていった。
ウブなレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は、初めて見るストリップに興奮しすぎて、いまだに口をあんぐりと開けていた。
「レイディスさん。一緒にのぞきませんか」
「だ、誰がのぞくかよっ!?」
顔を真っ赤にして断り、去っていった。
結局、新入部員はあまり入らなかった。
がっかりしたクライスの元に、政敏が通りかかった。
「よかったぜ、演説。これ、今の時点での罠一覧だ」
罠MAPには、森の前の森や混浴城の罠が一目瞭然だ。
「これは凄い……。入部希望ですか?」
「いや、俺ができるのはここまで。……皆の幸運を祈る!」
政敏はさっさと風呂に入っていった……。
離れたところで、ずっと腕を組んで見ていた者がいた。トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だ。
トライブはパートナーの千石 朱鷺(せんごく・とき)とともに黙って去っていった。
そして、のぞき部もいよいよ本格的な活動を開始する。
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