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ぼくらの実験記録。

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ぼくらの実験記録。

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「……いつ来ても、温室というところは素晴らしい…」
 賈思キョウ著 『斉民要術』(かしきょうちょ・せいみんようじゅつ)が、ガラス張りの温室を見ながら感嘆の声を漏らした。
「珍しい植物がたくさんあって本当に」
「むぅ……」
 斉民の言葉を断ち切って、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が小さく唸った。
「ん? どうしたのだ?」
「ワタシの方が絶対美味しく作れると思うんだよねぇ。だけど既に調理されている……作り甲斐がありそうだったのに」
「中華料理の食材でムカデはポピュラーな食材だ。普通は素焼きか、揚げるのだが」
「……ムカデの毒も薬学研鑚で欲しい…。それにしても既に調理済みとは……」
 佃煮にされていることが悔しくてたまらないらしい。
 弥十郎はどうしても自分の手で作ってみたかったようだ。
「ワタシの考えでは、シンプル味は暴れだしてしまうんじゃないかと思うんだねぇ。そして南国フルーツ味は体から甘い匂いを発して、蝶が競って現れそだ。タネ子エキス入りは媚薬成分で元気になるんじゃないかな」
「なるほどの。どんな効能が出るのか楽しみだ」
 斉民が佃煮を前に微笑んだ。弥十郎はそれを見て、大きく頷いた。

「13:15……っと」
 翡翠達からノートを受け取ったエルシー・フロウ(えるしー・ふろう)は、持参したクレヨンを手に、絵を描き始めた。
 記録帳は絵日記と化す。
 白紙だったページは、既にメルヘンの世界へと変貌していた。
(一体あの佃煮はどんなお味なんでしょう? 気にはなりますけれど、ルミさんに止められてしまいましたので……)
 料理好きのエルシーは、ムカデ料理に興味を惹かれながらも、パートナーであるルミ・クッカ(るみ・くっか)を心配させたくない為、味見を断念した。
「今回私は記録係でお手伝いです。頼まれたからにはしっかりお仕事しなくては!」

13:15 記録者 エルシー・ルミ・ラビ・ニビ


 張り切っているエルシーの様子を見て、ルミは胸を撫で下ろした。
(温室関係はどうにも信用ならないでございます。巨大ムカデの佃煮……毒でもあるのではございませんか? 例え無かったとしても、あのようなものをエルシー様達にお召し上がり頂く訳には参りません! わたくしの命に代えてもお止めしなくてはっ)
 ルミは固く誓った。
「ムカデのお料理どんな味がするのかなー。甘いのかなぁ?」
 鼻をひくつかせながら、ラビ・ラビ(らび・らび)が独り言のように呟いた。
「フルーツ入りの南国味……甘そうだよねぇ…」
 甘いものが大好きなラビは、興味津々に見入っている。下手をすればすぐにでも手が伸びて、つまみ食いをしてしまいそうな雰囲気だ。
 ルミの猛反対に合い、食べる事を断念せざるを得なかったラビだが、味が気になって仕方が無い。
「……何でラビたちは食べちゃいけないんだろ?」
 気付かれないように囁く。納得がいかない。
「むっむむむ、虫を喰らうなど冗談では無いわー! わらわの高貴な口にはそのような物は合わん!!」
 狐裘 丹び(こきゅう にび)は温室の入口付近に立ち尽くし、鉄板の上の物は決して見ないように視線を逸らしていた。
 目には涙が溜まっている。
 置き去りにされるのが嫌でついて来はしたものの、ニビは原型があろうが無かろうが、虫と聞くだけで気分が悪くなるぐらいの、大の虫嫌いだった。
「早くこんな所から去るのだよー!」
「……ルミおねーちゃんも、ニビおねーちゃんみないに虫が苦手だったのかな? だから駄目なのかな? 食べ物は見た目より味なのにねー、虫でもねー」
「虫虫言うでないわー!!」

 ニビの声が大きく響いた。
 周囲の視線が一斉に集まり、意地っ張りのニビは慌てて平静を装った。

「う〜んとぉ…一番口当たりが良さそうな気がする南国風味を食べてみよっと! れっつトロピカル〜♪」
 クラーク 波音(くらーく・はのん)は鼻歌混じりに言った。
「巨大ムカデの佃煮か〜、味はきっとすごい事になってるんじゃないかなぁ〜。でもフルーツを混ぜた佃煮なら、多分デザート感覚で食べられると思うんだ。もちろん予想だけどっ♪」
「料理が趣味の私としては巨大ムカデの佃煮は興味深いです…! 珍味としてどのような味かぜひ試してみたいところですね」  
 挑むような目をしながら、アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)は微笑む。
 その横で、ララ・シュピリ(らら・しゅぴり)が声を張り上げた。
「ララも一緒に佃煮さん食べるよぉ! 果物さんと一緒のなら、ララも食べられそうかもぉ〜♪」
 やはり皆、誤魔化しの無いシンプル味を食べるのは気が引けるらしい。
「んっふっふ〜、もし、虫さんになれるならカブトムシさんになってみたいな〜。空も飛べるし、力持ちでヒーローさんみたいな虫だもんねっ♪」
「……波音ちゃん…」
「カブトムシになって、温室の中飛んでみたり―」
 楽しそうに語る波音を見てアンナは苦笑した。
(虫の料理を食べて虫になるなんて、考えにくいですよね……期待しない方が良いと言うべきなんでしょうか…)
「佃煮さん食べると本当に虫さんになれるのかなぁ? ララはぁ虫さんになるならアゲハ蝶さんになりたいなぁ!」
(ここにもいました……)
「──さてと! じゃあ、食べてみよっか♪」
 波音が佃煮の山へと手を伸ばした。
 アンナもララも、一緒になって手を伸ばす。
 フォークも楊枝も用意されているけど、こんな物はもう手づかみで食べるべき!
 皆も、恐る恐る鉄板の前に集まりだして、同じように佃煮を一つまみ──…