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ぼくらの実験記録。

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ぼくらの実験記録。

リアクション

「すごい……!!」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は目の前に広がる大きな温泉を見て、息を呑んだ。
 鬱蒼と茂る緑のジャングルに突如現れた巨大な池──いや温泉。
 湯気がもうもうと立ち上っている。
「こんなに大きいとは思わなかったよ!」
 感嘆の声を吐き出す歩とは裏腹に、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は苦笑してみせた。
「ムカデのリベンジの為に腕を磨いていたのに……もう跡形もないのね」
 ひどく残念そうに呟いた。
「それに、地面や岩を砕くぐらいなら持って来た武具でいけると思っていたけど、必要無かったみたい……」
「落ち込まないで、アルコリアさん! さてと。まずはお湯の調査から始めた方が良いかな? 温室は不思議空間だから、このお湯も普通のお湯じゃないかも。さすがに専門的な調査は出来ないから……」
 そう言うと、歩はぺろりと、ほんのちょっとだけお湯を舐めてみた。
「どう?」
 心配そうに、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が顔を覗き込んでくる。
「ちょっと……しょっぱい…かなぁ」

「…って、歩ちゃんスターップ!!!


 桐生 円(きりゅう・まどか)が両手をばたばたさせながら慌てふためいた。
「舐めてどうするの! …って舐めて大丈夫なら平気かー、つまんないのー」
 せっかく用意してきたリトマス試験紙が無駄になってしまった。
「……私も舐めてみようかしら」
 そう言うと、祥子もさっとお湯を口の中で転がし味を確かめてみる。
「本当……塩分が含まれてるみたいね」
「でしょ?」
「ねぇねぇ、ところでさぁ。ここ入るの? 更衣室どうすんの? 女の子だけならまだいいけど、男の子もきっと来るよねぇ? その…混浴はチョット恥ずかしいというか……」
 姉御肌な気質だが実は純情派な那須 朱美(なす・あけみ)が、少しだけ頬を赤らめながら言った。
「確かにね。女だけなら背中の流しっことかするんだけど……男の視線は邪魔ね」
 祥子の言葉に、そこにいた全員が頷く。
「おふろーやだー、めんどくさーい」 
 我慢していたラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)が、どうやら限界が来たようで叫び出した。
「どうしてお風呂にはいらなきゃいけないの? せっかく浴びた血が流れ落ちちゃう! 命が流れ落ちて行っちゃうよ?」
「……ん? ラズンちゃん? なんでお風呂入るかってぇ?」
 優しく微笑んでいたアルコリアの顔が、一変して真顔になる。

ログデナシは綺麗になる為お風呂にないるんじゃないの、汚れる為に綺麗になるの。……だから入りましょ?」

 最後には満面の笑み。
「そ、そうか〜また血に塗れる為に綺麗にならなきゃいけないんだ、分かった!」
「最近戦闘ばっかりだったから、まったり癒されたいわ…」
 アルコリアはうっとりと水面を見つめる。
「ムカデの神と争った大蛇の神が負傷し、温泉に浸かって傷を癒したところムカデの神を撃退出来た……そういう謂れのある温泉があるんだけど、ココもそんな感じになるのかしら?」
 祥子が意味深に呟く。
「どうかなぁ……そのうち干上がるんじゃないの?」
 朱美の突っ込みが、なぜかしっくりきてしまう。
 ここは百合園学園の温室。
 今まで温泉があったわけではない……偶然の産物だ。
 突然生まれたのだから、その逆もあり得る。
 祥子は顎に手を当てながら言った。
「新たに温度と湿度が上昇する原因が出来たわけだけど、大丈夫よね? 悪い影響が出るようならさっさと埋めるべきなんだけど、そうでないなら今のうちに活用しましょ。だけど思ったより深そうね、湯溜りの底の方は玉砂利しいておけばいいかしら?」
 その時。
「あ! 白衣の裾が!」
「ぇえ? ──うぎゃあっ!!」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の声で、円は悲鳴をあげた。
 円の着ていた服の裾がびしゃびしゃになっている。
 引きずって歩いていたのが仇となった。
 自分の温泉の知識をひけらかして優越感に浸るために白衣まで着てきたのに!
 メガネをかけ髪型をポニーテルにし、そしてゴム手袋をしながら試験管を持って、完璧な扮装をしていた円。
「かなしいよーかなしいよー。とりあえず持ってきた道具はそこらにぽいちょー。必要ないなら、ないでいいんだよ。やってみたかっただけだしー」
 独り言のように呟きながら道具を手放していく円は、とても寂しそうだった。
 そんな円を見ながら、ロザリンドはブーツを脱いでいく。
「温かい……」
 足裏に湯の感触。

『校長、お湯加減いかがですか?』

『うん、とってもいいよ。そうだ、ロザリンドも一緒に入る?』

『え? そ、そんな……はい……』

そっとお湯の中へと身を浸し、徐々に校長へと近づいていく。

タオルから覗く滑らかな肌、鎖骨……

『あ……』

思わず吸い寄せられて──


「大丈夫?」
「!?」
 白昼夢から覚めると、目の前にはアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)がいた。
「のぼせちゃったの?」
「だだだだだ、大丈夫です!」
 赤面しながら首を振るロザリンド。
「にしても……これ温泉? ムカデが深くまで穴を掘っていたのかしら?」
「すごいですよねぇ」
「温泉なら入ってみたいけど……」
 アリアは袖を捲くり、湯に触れようと手を差し伸べた。
 が。
 尊前で思い止まる。
「そう、ダメよ! この温室にあるもの全て油断してはダメ! 徹底的に調査してからでも遅くないわ」
「舐めてみたけど普通だったよ?」
「舐めたの!?」
 歩の発言に驚きを隠せないアリア。
「と、とりあえず採取して……あ、その前にまず透明度はどれくらいかしら?」
 アリアは身を乗り出して、お湯を汲もうとしたが。
「あ」
 ボチャン。
 思い切り足を滑らせて、温泉に服のままどっぷり浸かってしまった。
「服がっ…重……!」
 ばちゃばちゃと水飛沫を上げ、まるで溺れているかのように見えたアリアに驚いて、皆は慌てて飛び込んだ。
「アリアちゃんっ! だいじょ…う、ぶ……、みたいだね」
 地面に足のつく形で、皆が苦笑しあう。
 アリアを助けようと制服のままそこにいた全員が飛び込んでしまった。
「ふふ…」
 アルコリアが笑った。
 堪え切れずに皆も爆笑。お湯を掛け合い、楽しそうにはしゃぎまくる。
「どうせ温室! すぐに乾くよ!」
「そうですね」
 皆気持ち良さそうに、お湯を楽しんでいる。

14時00分。 記録者 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)


とりあえず鉄板と周りが見える位置にビデオカメラを設置しておいた。

定期的にバッテリーやメモリーカードを交換すれば問題ないだろう。

これからどう言う結果になるか楽しみである。

てかあの百足倒すなんてオバタさん実はかなりの猛者なのでは。


そんなわけで百足の穴からお湯が沸いたとか言っていたのでやって来て見れば。

女の子達が温泉で戯れているではないか!

……しかし何故か制服のままで。つまらん。


「あ、いかん。余計なものまで書き込んでしまった……」
 大佐は最後の文章をごしごしと消しゴムで消す。
 視線の先には白い湯気が立ち込めた温泉。そこから女生徒達の黄色い声が聞こえる。
「後は服さえ脱げば──…あっ!」
 大事なビデオカメラは温室前に設置してきてしまった。

「急いで取りに戻らねばっ! 裸体を拝めるかもしれん!」

 大佐は一目散に駆け出した。