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ぼくらの実験記録。

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4.温泉

「あゆむぎゅー」
 温泉につかった途端、アルコリアは歩を羽交い絞めにした。
「むぎゅむぎゅ。あゆむーん、ぎゅーぅ。歩分補充でいやしー、いやされー はふぅ……このまま一緒に沈んでもいいー。ぶくぶくー」
「くすぐったいよ、アルコリアさん〜」
 歩が笑いながら逃げる。
「まてーまてー!」
「ここまでおいでー! あぁ、気持ち良い〜! お肌すべすべになったり、体に良さそうな成分だったら本格的に温泉作りしてみたいなぁ」
「あゆむーん、ぎゅーぎゅー」
「アルコリアねーさまー、ボクもかまってー」
 円が猫なで声でアルコリアに媚を売る。
「ん? まどかちゃんどしたの?」
「自室から持ってきたのーお風呂セット。あひるのおもちゃ(キングエリザベート2世)とシャンプーハット! ねぇねぇアルコリアねーさまー」
 今日、円は初めて『アリコリアねーさま』と呼んだ。
 その呼び名を、アリコリアは果たして気に入ってくれるだろうか?
「髪あらったげるー! 歩ちゃんにばっかり優しくしてる…つまんない……牛ちゃんの…髪をわしゃわしゃして洗ってあげたい! アルコリアねーさまー!」
「『ねーさま』って……。そうかそういうことね! ふふふ、まどか…ねぇさまが、可哀相なまどかを鍛えてあげる」
 アルコリアは円の無い胸をわしっと掴んだ。
「ひゃっ!?」

「むぎゅぐにぐにぐにぐに。うりうりうり、おおきくなぁれ! きゃふふふっ。完成された肉体の私がやるんだから間違いないよ!」

「アリコリアねーさまぁー」
 嬉しさと恥ずかしさに包まれながら、円は頬を染めた。
 ラズンはその横で様子をじっと見ていた。
「アルコリアが言ってた、アユム、マドカ、ウーチャン……。アユムはアレ…マドカはあれ……」
 そしてきょきょろと目を泳がせ。
「アレがウー・チャン? アルコリアといっしょのぱっつん」
 そう言うと、ラズンはくすくす笑った。
「……はぁ〜…それにしても気持ち良いねぇ〜」
 祥子が大きく伸びをしながら天井を仰ぎ見て吐息を漏らす。

「湯気が天井からポタリと背中に〜♪ ハ〜ビバノンノン♪」


「せっかく水着持ってきたのに、もう、制服びしょびしょー」
 朱美が苦笑する。
「いいじゃないの、たまには」
「男性が来た時、これならすごく安心じゃない?」
「それはそうだけどー…」
 祥子と、側に寄ってきた歩の言葉に、しぶしぶ納得する朱美。
「でもまさか七瀬歩まで乗り気で温泉作りに来るとは思わなかったわ、ちょっと意外な感じ」
「祥子さん?」
「でもこうやって友達と一緒に何かするのって楽しいわよね」
「温泉作りはまたの機会にお預けだけどねっ」
 楽しそうに会話をしている二人の姿を横目に。
 朱美は、水圧で身体に張り付いている制服をじっと見ていた。
 はっきりと分かるボディライン。
……なに? この胸の大きさの格差は? もう育つ見込みがない身上だから軽く絶望するんですけど?
「その胸少しよこせー!」
 朱美は歩に襲い掛かった。
「ちょ、ちょっとやめて朱美さん!」
 口では否定するが、それでも楽しそうな歩だった。

「な、なんの音じゃあ?」
 藤右衛門はわざとらしく剛太郎に尋ねた。
「いや全く分からないでありますなぁ」
 目の前には湯気と思われるものが葉の隙間から漏れて来ている。
 跳ねる水の音。
 黄色い歓声。
 明らかに温室に出来た温泉に、女の子達が入っている!!!
「何か、あるようじゃのう? い……行ってみるか?」
「ほぇ、いや、その……どう…」
 どうしよう。
 風呂を覗くなんて愚行、超じいちゃんと一緒にするのはヤバイ! だけど……見たい!
「………」
 剛太郎の返答が無いことに、藤右衛門は焦った。
 一緒に行くとでも言ってくれれば、偶然を装って覗き見が出来るのに。
 しかし別行動に走って覗きをしている姿を見つかっては……。その様な愚行、超孫にバレたくない!
 二人は各々思案に明け暮れる。
「風呂はこっちかー?」
 がさがさと草を掻き分けながらやって来たのはラルク。再び合流した。
「おっさん温泉とか風呂はが好きだから、絶対に入って……おぉ、いたのか」
「お疲れ様であります!」
「こんにちはじゃ」
「二人も風呂に入りに来たのか? それなら一緒に行こうぜ」
「お、あ、でも……」
 返事を聞き終わらぬうちに奥へと進むラルク。
 そして。案の定、悲鳴。
「うわっ、わわ、悪い悪い! まさか入ってるなんて思わなかったから!」
 嘘の無い本当の声は、人の心を打つ。
 剛太郎達だったら、こうはいかなかっただろう。
「……って、なんだぁ? 制服のまま入ってるのか?」
「あはは、これには深いわけがあってぇ〜」
 歩が苦笑しながら答える。
「そっか、制服かぁ……ちょい気持ち悪いかもしれないが、それなら一緒に入ることも出来るわけだ」
「そ、そうでありますね」
「そうじゃのう」
 もしかして……と二人が思った瞬間。
 ざぶんと大きな音と水しぶきを上げて、ラルクが風呂の中へと飛び込んだ。
「はぁー極楽極楽!! いい湯だなー」
「ちょっ……」
 剛太郎の声は全く聞こえないかのように。
「なんかひっさびさにゆっくり浸かってる気がするな!」
 気持ちよさそうにお湯を楽しむラルク。
「ほらっ! お前達も!」
「は…はぁ……」
「それじゃあ遠慮なく…ご一緒させてもうらおうか…のう」
 同じく服のまま、静々と湯の中に浸かって行く剛太郎と藤右衛門。

 ちゃぽん…。

(──なんだか予定が狂いまくっているであります!)
(おかしい…おかしいわい! こんなはずでは無かったんじゃ!!)
 二人の頭の中はパニック状態だった。

「おい……大丈夫か?」
「ぶ〜んぶ〜ん」
 アルハザードの声掛けにも、雪白は全く反応しない。
 由二黒は由二黒で、手をしゃかしゃかしゃかしゃか擦り合わせている。
 飛び立とうとした所を間一髪押さえつけ、檻の中へと放り込んだ。
「普段からバッタやハチや芋虫やらを好んで食べているだろう? 正気に戻れよ……」
「ぶ〜んぶ〜んぶ〜ん」
「………」
 アルハザードはがっくり肩を落とした。そこへ。
「大丈夫ですか?」
 大きな網を抱えながら、ヴァーナーがやって来た。
「檻のそばにいると危険ですよ? 優梨子おねえちゃんが凶暴化してるって聞きましたから」
「うおっ、そうか」
 慌てて飛び離れる。
「ボクは、温室の中に飛び立った人を探しに行って来るです。捕まえてみせます!」
「なるほどね……あっ!」
 アルハザードが何気なく見た温室の入り口片隅に、羽の生えた波音とアンナとララ。
 固まって、しゃかしゃかしゃかしゃか手をすり合わせている。
「捕まえるです〜!」
 網を振りながらヴァーナーがが突進する。
 飛び立つ三人……いや三匹。
 天井張り付いて、羽を身体を震わせている。
「ぶ〜んぶ〜んぶ〜ん」
 そしてまたもう一匹、近くを飛んでいる。氷雨だ。
「えいっ! えいっ!!」
 網を振り回すが、氷雨は隙をついて大きく飛び立った。 
「ぶ〜〜〜ん」
「ああ…逃げられましたぁ……。でも、まけません!」
 ヴァーナーは必死に後を追いかけた。

「料理人と薬学を目指すものは、結局体で試すのが一番!」
 佃煮を前に、弥十郎はごくりと唾を飲み込んだ。
 そんな弥十郎を斉民は横目で眺めている。

■斉民の観察日記


弟子とはいえ、3種類試すとは見上げた考えである。

しかも、副作用を考えて少量ずつ試すと言うのは良い考えであると思う。

ただ、まだ基礎が甘い。漢方は複数の素材が相乗効果を生むのを忘れておる。

仕方ない。凍らせるか。



 斉民は自分のメモリーに書き込んでいく。
「………」
 その横で、垂の手が激しく動いていた。
 佃煮三種を更に細かく分断し、団子状に丸めている。
「よし! これでいいよなっ! みんなも食え!」
 ライゼと栞の前に団子を突き出す。そして、とばっちりで弥十郎にも。
「せっかく作ったんだ、一粒で三度美味しいミックス版だぞ! 食えよ!」
「うぇ!? ぇ……い、いただきます…」
 勢いに呑まれ、弥十郎は断れなかった。
 そしてライゼと栞も。
「んじゃ、いっただっきまーす!」
 垂の号令で、三人も覚悟を決める。
「それじゃ、頂きます!!(ぱくっ!!)」
「よし、食うぜ!(ぱくっ!)」
「…………」
 斉民を除いた四人が一斉に口の中に入れた。
 数分後。
「ば…ばぶー」
「!?」
 弥十郎は咄嗟に【セルフモニタリング】を使った。必死に平静を保つ。
 ライゼと栞の二人が身体を丸めている。
 ハイハイ歩きまで始めて……
「すごいなこれ。この効能と味なら、一度身を茹でて薬効を低くしたほうがいいね。あと、殻から外した身を切って炒めるといいかな。そしたら、このプリプリ感を活かせるかも」
 感心しながらも弥十郎はじっくりと観察している。
「ばぶーあばばっば…」
「だぁだぁ〜」
「……幼児化しておるわ」
「そうみたいだな」
「!? 効かないのか??」
 垂は無表情で、軽快に佃煮を食べ続けている。
「俺はある意味特異体質だからな、今の所変化は起きていない。多分問題ないだろう」

「そうかぁ。【セルフモニタリング】のお陰でワタシもなんと…か、ば、ばば、ばぶー……、!?」

 弥十郎は慌てて口を押さえた。
「哀れな……」
 斉民が同情の目を向けた。