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【決勝】シュトゥルムヴィントvsバベル


  5

 ついに始まった決勝戦。
 志方 綾乃(しかた・あやの)は命懸けの位置でコントローラーを握っていた。
 すぐ足下をイコンが飛び交い、数メートル横をレーザーが突き抜けていく。非殺傷設定とはいえ、あくまでもイコン用。直撃すればただでは済まない。
 空飛ぶ魔法で彼女が漂っているのは、人工島の遥か上空。すぐ上には中継用の艦船型イコンが浮遊している。
 彼女のグランシャリオはリモコン操縦。リモコンを守る上では安全な位置取りではあるのだが、
「んー、決勝のこと考えてませんでしたね。ま、志方ないですけど」
 一対一なら遥か下方の自機と敵機とその流れ弾に注意を払えば良いだけだが、なにせ決勝は都合十体が入り乱れての小隊戦。流れ弾の数も一回戦の比ではない。
 と、また新たに足下から流れ弾。
 綾乃は慌てて身をかわす。かわした後で、眉をひそめる。
 流れ弾の原因は、あろうことか自機だった。
『オーッホッホッホッ! さあさ逃げ惑いなさい!』
 通信器からこぼれてくるのは、パートナーのリオ・レギンレイヴ(りお・れぎんれいぶ)が放つ嬌声だった。
 彼女の役割はグランシャリオ内部での火器管制。バベルのチーム内で綾乃たちが請け負ったのは砲撃支援なのだが、支援の意味をどう取ったのか、無闇やたらと撃ちすぎな気配がする。
 少々おつむが足りないことに定評のあるリオらしいと言えばそれまでではあるが……。
『おいコラ! あんまり無理に撃ちすぎるなよ! 反動制御も楽じゃないんだぞ!』
 嗜めるのはラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)。彼女の担当は機体の姿勢制御。リオの乱射による反動の影響を最も被る役割である。
『綾乃、敵機が迂回してこっちに向かってる。僕の合図で――』
「?」
 通信管制を担当しているマール・レギンレイヴ(まーる・れぎんれいぶ)の声が、不意にノイズと共に途切れる。
『こちらバベル3よりバベル2へ。通信妨害ね。大丈夫、こっちでフォローする』
 頭の中に直接響いてきたのは、同じバベルの茅野 茉莉(ちの・まつり)の声だった。
 通信妨害により統率を乱す、という戦術は予測の範疇である。こうした事態に備えた茉莉のテレパシーによるフォローも、どうやら問題なく機能しているようだ。
『バベル2よりバベル3へ。了解しました。引き続きお願いします。私も、上空から何か発見したらすぐ報告します』
『バベル3了解。呼ぶ時は、強く念じてくれれば伝わるから』


  6

 各機に敵側からの通信妨害がかけられたこと、以降の通信をテレパシーでフォローする旨を伝え、茉莉は自機の戦闘に意識を戻した。
「まずいな。早くも態勢を立て直されたようだ」
 操縦を担当するダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)が、現状を端的に伝えてくる。
 試合開始直後、神出鬼行のワープ移動で敵陣深くに斬り込んだのだが、敵も然る者。すでに陣形の立て直しが終わっている。
「せめて2対1に持ち込めれば良かったんだけど……この状況じゃ難しいわね」
「うむ。どうやら敵も同じことを考えていたようだ」
 会話の間も、ダミアンはHexennachtを駆る。
 神出鬼行を発動。僚機と連携、敵機に挟撃をかけるが、狙った敵機を他の機体が助けに入る。2対1の構図に持ち込むのはやはり難しいようだ。
 どころか、隙あらば敵も多対1の構図に持ち込もうと挟撃をしかけてくる。考えることは同じらしい。
 結局、単機同士での戦闘が目立つ。
 ダミアンはサイコブレードを振るい、敵のブレードを迎え撃った。
 機体の調子はかつてないほどに良い。BMIのシンクロ率も最適化されているし、絶妙な曲線を描く装甲の輪郭は、浅い角度の攻撃ならばよけるまでもなく衝撃を逃がせるほど。
 整備を担当したパートナー、レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)の功績だろう。
 逆に言えば、今回の敵はそれだけ自機のコンディションが良好にも関わらず苦戦を強いられる、難敵ということだ。
「面白くなってきた」
 乾いた唇を舌で湿らせ、茉莉は火器を操り、放った。


  7

「ジャミングは成功した。だが敵機に陣形の乱れはない。おそらくテレパシーで対処されている」
「あちゃー、対処されたか。まあ、流石にそう上手くはいかないか」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の報告に、V3・ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はさして残念そうでもない口調で応じた。
 通信の妨害は、成功すれば費用対効果が大きい。ダメ元でもやるだけやって損はないだろう、程度の戦術である。ひとまず、相手側が通信の重要性を認識していると把握できただけで十分だ。
 そんな思考を巡らせる間にも、ルカはヨクに回避機動を取らせる。
 敵機の射程を見極め、できる限り敵の死角や射程外、かつ自身の射程内からバルカンで弾幕を張った。
 叶機と共に、遠距離からの射撃がルカたちの役割だ。
 何度かクリーンヒットを奪っているが、流石に敵も、駆動部やセンサー類は守りきっている。そう易々と勝てる相手ではない。
「紫月、右下方から回り込め。叶、陣形が乱れかけている。もう二十メートル左へ」
 僚機に指示を飛ばしながら、端末を叩くダリルの指先は休まることを知らない。
『両手利き』と『ゴッドスピード』による肉体速度の上昇に加え、『財産管理』で高速演算も駆使。ダリル持ち前の明晰な頭脳も手伝い、状況把握と指示は極めて迅速かつ正確だ。
「よっ、と」
 ヨクも軽快に敵の射撃をかわしていく。
 機体のレスポンスの速さ、機敏さ、どれも準決勝までの激戦後とは思えないベストの状態だ。
 パートナー、夏侯 淵(かこう・えん)とその従者たちによる試合ごとの整備の成果だった。
 これならいける。
 手応えを感じ、ルカはさらに戦闘へ没頭していく。


  8

「大吾、来るよ! 二時方向!」
「おう!」
 索敵を担当するパートナー、西表 アリカ(いりおもて・ありか)の声に応じ、バベル5・大吾はアペイリアー・ヘーリオスを駆る。
 敵機の射撃を左右へ機体を揺らして回避。間隙をつき、上昇しながらビームキャノンを放った。
 かわす敵機。ビームアサルトライフルの短連射で牽制する。
 深追いはして来ない。自陣に戻った敵機を追う形で、ガトリングガンとミサイルポッドによる掃射。一網打尽を狙う。
「……ダメか」
 射撃を続けつつ唇を噛む。
 敵の陣形は硬い。その上で柔軟さも合わせ持っている。今のような掃射に際しては躊躇なく散開、それに応じて各個撃破を狙っても、狙われた一機を援護する形でまた陣形を戻されてしまう。
「少し危険だが……アリカ!」
「ん、使えるよ!」
 意を決し、アリカへ確認。
 使用可能。僚機を巻き込まないタイミングを見計らい、ミサイルポッドからミサイルを射出。
 狙うのは地上。陣形の前方中央に出ている機体だ。
 敵機は再び散開。一箇所を目指していたミサイルが各々衝突、誘爆し、爆炎と白煙が空域を満たした。
「――起動!」


  9

「妙だな」
 大吾の攻撃に、V1・紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は眉をひそめる。
『なにがです? マスター』
 魔鎧化し、唯斗に纏われているパートナー、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が疑問の声を投げた。
「今のミサイル、わざと誘爆させたように見えた」
 たちこめる白煙のせいで大吾の機体の様子がうかがえないが、なんらか考えがあってのことだろう。
「唯斗、的中だ!」
 警告を飛ばす、サブパイロットのエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)
 白煙が晴れる。上空に大吾の機体の姿がない。
「ステルスか……!?」
 周囲を見回す。目視はできない。
「背後だ唯斗!」
「くっ……!」
 咄嗟に唯斗は雲隠れとスモークを同時使用。アダマントの剣を抜き放つ。
 機体に走る衝撃。たまらず吹き飛ばされ、絶影は地面を滑る。
「!」
 だが驚愕は、唯斗ではなく大吾のものだ。
 一撃必殺を確信しての変形と、ダブルビームサーベルによる攻撃だった。
 にも関わらず、絶影は健在。直前に雲隠れ、スモークの併用があったとはいえ、アペイリアーのセンサーは正常だったはずだというのに。
「凌いだか……」
「ああ、思った以上に上手くいったな」
 唯斗の言葉に、エクスが頷く。
『なにをしたんです? マスター』
「アダマントの剣だ。センサーは、近くに強力な磁力を持つ物があると正常に機能しなくなる」
『なるほど』
 感心するプラチナムと会話を続ける暇もない。
 追撃をかけてくるアペイリアーを、立ち上がった絶影が迎え撃つ。


  10

 唯斗と大吾の衝突により、戦いの均衡が破れた。
 互いに陣形が崩れ、各機が一対一で対峙する。
「やっと追い詰めたぜ!」
 バベル4・ローザマリアの{ICN0003800#グレイゴースト?}を、V2・シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)の駆るシュヴェルト13が人工島の海辺へと追い詰める。
 シュヴェルトは中〜近距離戦闘仕様。ひたすら距離を開ける射撃型のグレイゴーストとは、ここまで間合いの競り合いだった。
「あ、待ってシリウス!」
「なん……なっ!?」
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)の警告は間に合わなかった。ようやくグレイゴーストを射程に捉え、攻撃を加えんと不用意に近づいたシュヴェルトの機体が、宙を舞う。
 体当たり。これまでクレバーに距離を取っていた相手とは思えない力任せの攻撃に、反応が遅れてしまった。
 バランスを崩した機体が、さらに腕を掴まれる感触。視界が回り、水を叩くけたたましい音。
 ごぽ、と水音。水中に引きずり込まれた。
「水中戦ならこっちも……!」
 勇ましく体勢を立て直すが、敵機の姿が見当たらない。
 嫌な予感に背後を振り向く。
 回り込まれている。神出鬼行か。
 ビームサーベルの刃が、シリウスを見つめた。


  11

「勝った!」
「いや、まだだ」
 ローザマリアの確信を、しかしパートナーのフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)は否定した。
 その否定を裏づけるように、サーベルを突き出したはずの機体が、反動以上の衝撃に揺すぶられる。
「きゃっ!?」
「こ、こら、狭いのだから暴れるな」
「ごっ、ごめんなさい」
 悲鳴を上げた口を押さえ、上杉 菊(うえすぎ・きく)がしょぼくれている。定員を越える搭乗に、コックピットは少々手狭だ。
「そんな場合じゃないでしょ! ちょ、こいつ……!」
 眼前の敵機、シュヴェルトは、グレイゴーストの突き出した刃を自身のサーベルで受け止めていた。
「なんて反応速度よ……」
 いや、それだけではない。
 水中ですぐさま体勢を立て直す対応力。それを支える機体スペック。
 機体の能力とパイロットの状況判断力が、高い次元で結びついている。これは厄介な相手だ。
 とかく、この距離はまずい。グレイゴーストにとっての本来の距離ではない。
 幸いまだ不安定な姿勢でこちらの斬撃を受けたせいか、シュヴェルトはまた体勢を崩していた。
 その隙を攻撃に使う手もあったろうが、あの反応速度を見た上では試す気にはなれない。
 本来の距離を取り戻さなければ。


  12

 V4・シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)が操るアイオーンと、バベル1・柊 真司(ひいらぎ・しんじ)の駆るゼノガイスト
 ベースとなった機体はどちらもジェファルコン。共に近距離装備が充実し、さらに天学生同士の戦いということもあって、攻防は高い次元で噛み合っていた。
 アイオーンのサーベルが疾駆する。
 ゼノガイストは右手のシールドで斬撃を受け流すと、殴りつける要領でアイオーンの頭部へシールドを叩き入れた。
 衝撃に揺らぐアイオーンの機体。ゼノガイストはさらにシールドで打撃を加えるが、アイオーンのクローアームに右腕を掴まれ、制止される。
 掴んだ状態のまま地面へ投げつけようとするアイオーン。ゼノガイストは左のビームサーベルを振るい、敵機の動作を遮った。
 アイオーンが掴んだ腕を放し、襲いかかるサーベルへ自身のそれを撃ちつける。
 拮抗。直後に崩壊。互い同時に地を蹴り、距離を取った。
『手強いわね』
「こーゆーガチガチの戦いも、けっこー面白いね!」
 アイオーンのコックピット。
 魔鎧状態の四瑞 霊亀(しずい・れいき)は警戒を強め、ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)は無邪気に笑う。
「距離を取ってみても……っと」
 呟いて、シフは離れた位置からライフルを照準。ゼノガイストへ銃撃を放つが、敵機にとってこの距離は、さして苦手な間合いでもない。
 頭を振って銃撃を回避するや、鋭いリズムで懐へと潜り込んでくる。
「今のギリギリでしたね」
「ああ。けどまだまだ!」
 一方ゼノガイストのコックピット。
 パートナー、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の言葉に応え、真司はさらに敵機との距離を詰める。
 交錯する光刃。衝突した刃を中心に衝撃が走り、互いの装甲表面をびりびりと打った。
 ヴェルリアは機体の状態を確認しつつ、仲間の各機とテレパシーで情報を共有。その情報を元に、真司が仲間との連携の隙を窺う。
 だがどの仲間も自身の敵の相手で手一杯。とても援護をし合える状況ではない。
 再び光刃の交錯。衝撃。どちらも武器を取り落とす。
 噛み合う攻防は、次第に二機を白熱させた。
 武器を拾う素振りすら見せず、二機は示し合わせたかのように同時に、拳を突き出す。装甲に撃ちつけられる拳。
 地面が揺れ、大気は弾けた。
 事故じみた衝撃は互いのコックピットを獰猛に貫き、パイロットの三半規管を狂わせる。それでもなお、止まらない。
 拳を唸らせ、勝負はひたすら膠着の一途を辿る。 


  13

 枳首蛇を駆る叶 白竜(よう・ぱいろん)世 羅儀(せい・らぎ)は、綾乃たちのグランシャリオを相手に、長距離での射撃戦を繰り広げていた。
 敵機の射撃を紙一重で回避。機体を旋回させ、二梃のレーザーライフルで反撃する。
 向こうも回避した。かわしざまにさらに反撃が来る。こちらも急上昇で回避。機体を反転。射撃。
「ひゃっ!」
 羅儀の口から漏れた独特の笑い声に、白竜は眉をひそめた。
 普段はアンズーで、ドリルを用いた穴堀りや障害物除去作業が多い。それだけに射撃戦は刺激が強いのか、当初から羅儀は興奮気味だった。
 加えて長時間持続した緊張状態。強化人間として精神に不安定な部分を抱える羅儀には、少々まずい状況かもしれない。
「あまりはしゃぐな。落ち着いて――」
 たまらず声をかけた瞬間、機体に衝撃。
「ぐぅっ!?」
 被弾した。
 パートナーに気を取られ、わずかに反撃の手が緩んだがゆえの隙。
 原因を俯瞰し、己の未熟を呪うがすでに遅い。
 バランスが崩れ、回避機動に移れないままの一瞬の隙。だがその一瞬を見逃してくれるほど、敵機のパイロットたちの腕はぬるくない。
「!?」
 しかし訪れた衝撃は、覚悟したものは全く別種。
『無事!?』
 衝撃は横合いからの衝突だった。
 衝突したのはルカの機体。白竜と羅儀の窮地に、慌てて割って入ってくれたらしい。おかげでダメージは敵の射撃を受けた場合よりずっと少なく済んだ。
「感謝します」
『どういたしまして。無事なら良かったよ』
『そろそろ時間がないな』
 と、やや下方、地上の貨物コンテナの陰に陣取ったのは唯斗だった。
 見れば、シフとシリウスもすぐ傍らに集まっている。こちらの対面にはバベルの面々。決着がつかず、仕切り直しの意味もこめてどちらともなく距離を取ったのだ。
『残り五分……どうする?』
『もう、アレをやるしかないんじゃないでしょうか』
 シリウスの問いへのシフの答えに、全員が同意する。
 まだ連携に不安が残るため、できれば最後まで使う事態は避けたかった。が、残り五分で確実な勝利を収めるには、他に方法がない。
『ま、このメンバーならなんとかなるでしょ。チームは一匹の獣、これが私の持論よ』
 ルカの言葉に、心なしか皆の肩に入った力がほぐれる。
『それじゃ、俺の合図で』
 唯斗の合図を待ちながら、シュトゥルムヴィントの面々の意識が徐々に研ぎ澄まされていく。


  14

「来る! フルバーストだ! みんな、散開!」
『了解!』
 指揮を執る真司の声に、応じ、バベルの面々は周囲へと散る。
 直後、シフ機によるフルバースト射撃が降り注いだ。この後に及んで力押しかと真司が訝った直後、見慣れたシリウス機が急速接近をしかけてくる。
 いや、接近などと生易しいものではない。ビームサーベルを構えてのアレは――突撃だ。
「こ、の……ッ!」
 真司は機体に急スライド機動を強いる。ほぼ限界近い加速に、強烈なGで内臓が押し潰されるが、構いはしない。
 辛うじてシリウス機の突撃をかわす。
 機体が轟音を立てて左脇を通り過ぎ――真司の表情は凍った。
 シリウス機の背中、その死角に張りつくようにして身を潜めていたのは、唯斗機だ。
 飛び込んで来た唯斗機に左腕を掴まれる。
 最初のフルバーストはこちらの機体を散開させるための布石。直後の奇襲さえも囮で、本命は唯斗機によるこの技と、――。
「しまっ……!」
 真意に気づいて真司はぞっとするが、遅すぎた。
 機体がぐるぐると回転する。
 補陀落山おろし。敵を掴んで振り回し、勢いそのまま放り投げるという荒業。
 だが彼らの真意を前に、技の荒さなど問題にもならない。
 残り時間はごく短い。一機でも撃破してしまえば、判定での勝利は揺るがないものとなる。
 この場合、狙うべきは指揮を執る真司の機体。
 バベル全体への攻撃と誤解させ、実際の狙いは真司ひとり。素早い連携で、仲間が援護に入る前に、決着はつく。
 要するに、デモ戦で学生側が見せた戦術、ある意味ではあれを、より洗練させた形である。
 凄まじい回転をつけて、真司の機体は宙に放られた。
 上下左右、天地の区別もつかぬ回転。スラスターを噴かせて制動する余裕すらも持ち得ない。
 そんな状態で、真司は警告音を聞く。この音はセンサーによる、射撃用エネルギー反応の感知。
 真司が敗北を悟った、その瞬間。
 ――ルカのヴリトラ砲と、白竜のフルバーストが、放たれる。


  15

「手応えあった!」
「ああ!」
 立ち込める白煙を眺め、シュトゥルムヴィントの面々は快哉を叫んだ。
『シュトゥルムテンペスタ』――彼らによる、オリジナルの連携合体技である。
 連携はこの上ないほど完璧に決まった。
 これで間違いなく――、
「な……!?」
 驚嘆の声は誰が漏らしたものだったか。
 いや、誰であろうと同じだ。声に出さずとも、驚嘆はチームの全員に共通だった。
 晴れた煙の向こうから現れたのは、傷つきながらも、未だ行動不能には陥っていない、真司の機体。
 だけではない。バベルの面々、他の全員の機体も、真司のそれに並ぶように、ボロボロの状態で宙を浮いていた。
 五つの、機体の頭部が持ち上がる。頭部に並んだ視覚センサーが、彼らの、未だ闘志の衰えていない瞳が、シュトゥルムヴィントを射抜いた。
 シュトゥルムヴィント側の面々は、論理的思考を跳躍し、訳も分からず拍手を叩きたくなる衝動を覚える。
 最後になっても衰えない、彼らの闘志に対してではない。
 躊躇なく、仲間を守るため盾の役として割り込んだ、彼らの意思に対してだ。
 無論、一機でも撃破されれば、残時間を考えると即敗北に繋がる。そういう理由もあるだろう。
 理由はあるが、問題はあの土壇場で、誰一人迷うことなく、仲間を助ける決断ができたということだ。
 特に、戦場を経験した者からすれば、その決断の尊さはいっそ恐ろしいほど。
 シュトゥルムヴィントは、試合終了のブザーが鳴ってもまだ、誇るべき強敵、バベルへの賞賛の眼差しを外せずにいた。