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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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●WANDERING LUSH(1)

 小山内南一行は、ようやく収まりつつある雨の中を歩いていた。
 アルツール・ライヘンベルガーの厳しい言葉に活を入れられたか、道中南はずっと気丈にふるまっていた。
「南よ、寒うないか? レインコートの中に水が入ったりしておりはせんか?」
 なにくれとなく世話を焼いてくれるのはマリアベル・ネクロノミコン(まりあべる・ねくろのみこん)だ。ありがとうございます、大丈夫です、と南は返答した。マリアベルの気遣いはともて嬉しいが、好意に甘えきるわけにはいかない。彼女はここに観光に来たわけではないのだ。
「マリアベルさんこそ大丈夫ですか。危なくなったら、私の背に隠れてくれても……」
「なに心配は無用じゃ。荒事は好まぬが、状況が状況ゆえ選んではおられまい。これを用意しておる」
 と、マリアベルが抜いたのは非殺傷性のエアガンである。
「エアガンといってもあなどるなかれ、コンクリすら凹ませる威力があるのじゃ。クランジどもが相手じゃろうと遅れはとらぬ!」
 すごいです、と言われて胸を張っている。本当に、南といると嬉しそうなマリアベルなのだった。
 どうやら、控えめな南とお気楽なマリアベルの相性は良いらしい。なんとも馬が合うようである。ああ見えてマリアベルも寂しがりやの一面があるものの、これは、控えめに見えて靱いところもある南の性格と補完しあえる。
 その一方で、西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)の顔色は冴えない。
(「シータもΛ(ラムダ)のような末路になるのは避けたいもの。……それでも最初からお話するのは無理でしょうし、戦いながらでもお話したいわね」)
 話したいことはいくつかあるが、やはり幽綺子としては、父である御桜凶平(みさくら・きょうへい)のことはどうしても明らかにしておきたかった。
(「私が復讐しなければならない相手……きっと彼女達にも少なからぬ因縁があると思うの」)
 実の父であり天才科学者であったが、幽綺子にとって父は、地の果てに隠れていようと探し出し、復讐を果たすべき相手であった。機晶姫の研究にとりわけ突出した才能を発揮していた父のことである、その後塵殺寺院へ走り、クランジの誕生に関与していたとしてもおかしくなく。
(「といっても、既に誰かに殺されたか、野垂れ死んだかも知れない事は覚悟しておくわ。そんなことになっても、あの人であれば、おかしくない」)
 うーん、とフレアリウル・ハリスクレダ(ふれありうる・はりすくれだ)は、南と幽綺子、それにマリアベルを見比べながら思った。皆、それぞれに必死であるということはわかる。だから、
(「……事情はわかんないけど、あたしも頑張らないと。皆お話したいことあるみたいだし、短絡的な行動は控えたいね」)
 それでも、南が不安を感じている理由だけはフレアリウルははっきりとわかっているつもりだ。
 南のパートナー『カースケ』は行方不明なのである。名前からカラスのようなイメージを抱くかもしれないが、実際はカエルをかたどったマスコットのような姿だという。シータの洗脳によって、ただのぬいぐるみをカースケと思わされていた南は、真実を知って精神崩壊を起こすに至った(参照)。そこから推測するに、カースケの行方はシータが知っている可能性が高い。
 一行には現在、教導団のレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)とそのパートナーエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)も加わっている。やはり、退院したばかりの南を危惧して護衛として加わっているのだ。
(「同行者はチェックして、例の変身クランジΚの可能性はほぼゼロとわかっているけれど……」)
 それでも油断できないと、エリーズは危惧しているのである。Κが紛れ込む危険もあるが、シータと会うことを考えるのであれば、彼女の催眠術にも警戒しなければならない。
(「騙された、と思ったときにはもう、取り返しが付かないところまで来てるっていうからね……気をつけなくっちゃ」)
 やはりエリーズとしても、南がシータと接触することは避けたかった。それがいくら、本人の希望でもだ。
 しかしいくら危惧しようと、現実というものはこちらの事情など斟酌しないものだ。
「えっ……!」
 銃型HCの通信機能から、情報を得てレジーヌはさっと振り返った。
「みなさん、聞いて下さい」
 大人しく見えてもレジーヌとて教導団少尉である。告げる言葉は凛乎としたもので、変事に臨んでも動揺は小さかった。
「クランジΘとその手勢が近くにおり現在、味方勢力と交戦中です。シータは、『ピース』と呼ばれる強化型クランジの一派を引き連れているとか」
「大丈夫……?」
 エリーズは無意識のうちに、南を見上げ問うていた。
「怖かったら、行かなくたっていいんだよ」
「いいえ、大丈夫です」
 小山内南はエリーズの手を取り頷いた。
「私は克服しました……その、つもりです」
「最初も言ったが、根拠のない希望的観測で無謀な行動に出ないようにな」
 アルツールが念を押す。
「シータは強力な相手と聞きます」博季・アシュリングが言った。「けれど、後出しジャンケンじゃないですが、援軍となる僕たちに有利な点もあるはず……行きましょう」