|
|
リアクション
●WANDERING LUSH(4)
大黒美空は身ひとつで現れたわけではなかった。登場で美空を見つけ追ってきた契約者たちを連れてきている。
「ふむ。禿げ人形がまた出おったか……」
サティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)はその一人だ。禿げ人形というのはクランジ量産型の呼び名である。なるほどたしかに禿げていた。それは『ピース』であれ同じだ。
「装甲で飾ってみたところでしょせんは禿げ……可愛くないのじゃ」
サティナは呆れたような口調だが、かと言ってこれを看過する気はなかった。
「美空には図書館で伊織を救って貰った恩があるし、今回は伊織に付きおうてやるとするか……ただ見てるだけでは暇なのでのう。禿げ人形共でも退治しながら伊織を応援しようぞ」
と言うなり精霊の力を喚び使役する。
彼女の右手に稲光が迸った。雷電の精霊の力だ。
同じく左手に氷結が宿った。吹雪の精霊の力だ。
「クランジの同士討ちと言うより抗争と言った所ですか……。詳しい事は分かりませんが、このままにしておいて良い事ではありませんね」
これはサティナの同行者、サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)である。腕に抱くは霊妙の槍、ぐっと伸ばせばその長さ、ベディヴィエール自身の身長さえ超えてしまう。
「余計なお世話は承知の上、不肖このベディヴィエールも介入させていただきましょうか。美空様のその生き様……誰も見届ける者がいないのでは余りにも不憫と言うものです」
この二人を左右両面の柱として、土方 伊織(ひじかた・いおり)も進み出た。
伊織は、美空がクランジに挑みかかるのを目にした。Κというクランジと争っていると言うことも聞いた。
(「はわわ、何でこんな一心不乱な大せんそーみたいな事になってるのですかー。と言うか、くらんじさん達ってここまで仲が悪いんですかー」)
そう思ってしまう。実際、同族同士争うなどというのはあまりに哀しいではないか。
「どーして、全部壊さなくっちゃいけないんですか? それが美空さんの考えた結果の答えなんですかー!?」
なんとか美空の動きに追いつき伊織は問いかけた。
「考えた結果だ!……です」
美空は即、言葉を返したのである。
「そんな……」
ショックを受ける伊織の頭上を、一本の空飛ぶ箒が越していく。そこにはエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の姿があった。今回もエリシアは単身での参加だ。彼女のパートナーたる御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は、妻である環菜の傍で鉄道事業に忙殺されており動くことはできないのである。余計な心配はかけたくないので、エリシアは彼に一言も告げずにこの場所に来ている。
それはそうと、美空の発言には半ば呆れ、半ば感心する。そのブレのなさ……言い換えれば頑固さに。
「めちゃくちゃ言っておりますわね、あいかわらずあの子は……!」
お節介は承知の上だ。それでも、言わざるを得ないとエリシアは空飛ぶ箒を駆った。
「ようやく見つけましたわよ、大黒美空!」
美空の前の敵を追い払ってエリシアは言った。
「クランジ達の所業は目に余ります。正直、わたくしも全滅させて良いと思うくらいです。ですが……ひとつ言っておきます」
「何を……言うというのだ? ですか??」
いちいち反応してくれる美空に、なんとなく憎めないものを感じつつ、少々厳しめにエリシアは言う。
「あなたはあまりに自分のことしか考えていませんわ!」
「自分のことは最後に考えている、います。クランジという矛盾を解消することが、世界のためだ……ためです」
だから最後には自滅すると美空は言い切った。
「ああもう!」
なんてわからずやなんだろう、エリシアがさらに一言しようとしたとき、『ビショップ』のレーザー光が箒の柄をヒットして彼女は落下した。
「おう、無事か。頭を打ったようじゃが」
エリシアを助けたのはサティナである。
「大丈夫ですわこの程度……わたくし、石頭には自信が……」
ありますの、と言い終えるより前に、エリシアは座り込んでしまった。落ちたときに激しく頭をぶつけてしまったのだ。
「ほれ、無理はよくないのじゃ。見ておれ、お主のかわりに我の契約主……伊織が言うてくれよう」
サティナが指す方向では、伊織が再び美空に並んでいた。
「美空さん。考えたというのはわかったのです。それが美空さんの答えなら……僕が最後に美空さんを壊してあげるですよ」
伊織が放った稲妻の札が、激しい光を起こして破裂し、これを足に受けた正面の『ポーン』は転倒した。倒れたところでその頭部を、美空の刀が突き刺して完全破壊している。
「壊してくれるのですか……」
「ええ。だから、あの時はありがとーって感謝と共に一つお願いがあるのです。僕と、友達になってください。友達として最期まで付き合わせてください」
「ありがとう」
この短いひととき、美空からあの『語尾を言い直す』癖が消えていたことに伊織が気づいたのはずっと後のことだった。