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リアクション
●Re-Birthday
「言った通りよ。さっさと逃げなさい……あのシータが、なんの枷もなくあたしを残したとでも思うの? そもそも、ペナルティなく自軍に受け入れてくれたと考えるほうがおかしいわ」
「パイ! まさか! シータになにかされたか!」
ローは、癌の告知でも受けたような顔になった。
「その通り。前のよりずーーっとキツい自爆装置を新たに組み込まれたわ。この組み込みに応じることが、あたしがシータのところに入れてもらう条件だったわけ。前みたいに下手に外そうとすると大爆発するわよ」
みんな逃げなさい、とパイは言った。
「しかもこれ、自爆だけじゃないの。外部からでも爆破スイッチが入れられるのよ。……それでね、シータは起動スイッチを入れていったわ。覚えてる? 『そんなに簡単に説得できるかな?』ってさっきのシータの言葉? あれがトリガーだったわけ。今の私は、安全装置の外れた人間型爆弾よ」
あんなやつを信じた私がバカだった、とパイは自嘲気味に言った。
「早く逃げたら? 少なくとももう、あたしに話しかけないほうがいいわよ。受付装置起動のキーワードが『そんなに簡単に説得できるかな?』、これで受付状態になり、次の起爆キーワードが私に届けば爆発する。かなりの規模でね」
「訊くだけ無意味かもしれませんが、どのようなキーワードなのです?」
ロア・キープセイクが口を開いた。
「わからない……でも、きっとあんたたちが私を説得することを見越したキーワードだと思う。一生懸命説得したらボン! ってわけ……悪趣味よね」
ベアトリーチェがメモ帳を取り出したが、パイは首を振った。
「筆談でもダメ。伝われば、って言ったでしょ? シータはそういう点にはぬかりがないもの」
「パイ……そんな……ワタシ、ワタシ……」
ローラは涙をこぼしてパイを抱きしめた。
「しゃべっちゃだめ。爆死したいの?」
「パイが一緒なら……!」
「黙りなさい! なにがキーワードかわからない、って言ったでしょ!」
パイが冷静なはずはなかった。彼女の目にも大粒の涙が浮かんでいたからだ。
「それに……今のローには、大切な仲間、居場所があるでしょう? あたしはそれを壊したくないの……これでも、あんたの幸せを願ってるんだから……ね、良い子だから手を離して」
「パイ……パイ……」
ローラは泣きじゃくりながら腕を放した。
「ロー、成長したね。本当、嬉しいよ。いいね、あんたはそこに残って幸せになんのよ」
パイは涙を拭って、はじめ弱々しく、やがて毅然たる笑みを浮かべた。
「これで事実上、シータには切られちゃったわね。……っていうか、最初からシータはこうするつもりだったんだわ。あんなやつ信じちゃうなんてどうかしてた……」
でも、と止めようとする美羽にパイは首を振った。
「美羽がしゃべると爆発するかもしれないから自分で言うわね。蒼学や空京大の科学技術があれば救えるかもしれない、って言うんでしょ? そんなの御免、あたしはユマみたく身体をいじり回されるのはいやなの。それに、そこまで負い目を得て、しかも差別されながらあんたたちの中で生きられるほどあたしは強くない。一人になるわ……死ぬときも一人よ」
パイの手に、垂は何か握らせた。
「ビーフジャーキー食べるか? ……『クランジΠ』お前にとって最後のな」
「どういう意味?」
「一人で死ぬ? 気が変わって突然街中に来る可能性だってあるだろ? 正直、迷惑なんだよ。爆弾小娘」
「……!」パイは唇を噛みしめた。
「だからここで殺してやる!」
垂は仕込み箒を抜いた。白刃が現れ、その表面にパイの顔が映り込んでいた。
同時に、黒い装備の朝霧 栞(あさぎり・しおり)と夜霧 朔(よぎり・さく)とが出現した。二人とも、ずっと隠身装備を使って姿を消していたのだ。
「悪いな……垂の考えが一番正しいと思える。にゃははは〜、邪魔はさせない!」
栞は濃霧を噴射した。酸性の濃い闇である。パイに駆け寄ろうとした面々はこれに不意を突かれた。
「……」
話さないほうがいい、と判断したか無言で、夜霧朔は近づく者を排除すべくライフルを掃射した。
黒い闇の中、何度か垂が、パイを打ち据える音がした。パイはもう抵抗する気がないのだろう。されるがままになっている。
「生まれ変わったら幸せになれよ!」
垂は、躊躇なく刀を振り下ろした。
爆発が起こった。