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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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【Tears of Fate】part2: Heaven & Hell

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●備えと覚悟(2)

 塔の一階部分。
 うっすらと接着剤のような香がする中、琳 鳳明(りん・ほうめい)柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は武装のチェックをしていた。とりわけ真司は念入りに、自身の銃を分解し手早く組み立てていた。その手際はじつに見事で、銃の台尻をに手にしたかと思いきや、もうパーツが揃って撃てる状態まで復している。
「真司くん、良かったの? あんなに短い会話で」
「短い?」
「ユマさんのことだよ。さっき、上の階でごくあっさりと挨拶を交わしたでしょ。それだけで良かったの?」
 鳳明はすでにフル装備を終えている。ナックルを填めた拳を握って開き、その感触を確かめた。
「俺たちが守りにつく、そう宣言しに行っただけだ。目的は果たしている」
「いやそうじゃなくて」
 鳳明の声は弾んでいた。
 さきほど二人は、連れだってユマ・ユウヅキ(ゆま・ゆうづき)の部屋に赴いたのである。そして作戦の概要を確認しあい、言葉を交わして階下に降りたのだ。
「私は、きっちりとユマさんと話したよ。私が護りたいもの、護るべきものを再確認したかったから」
「俺も確認はした。それが素っ気ないように見えたのなら……」
「真司くんはユマさん一筋なんだよね?」
「何のことだ」
 真司は無関心を装ったが、声と顔にあらわれた動揺を鳳明は見逃さなかった。
「うわ、赤くなっちゃって初々しいヤツめっ」
「初々しいのではない。慣れていないだけだ……そういうことに」
「それを『初々しい』って言うんじゃないの?」
 にぱっと鳳明は笑みを見せた。もうじきここが、戦場という非日常になることは鳳明とて十分すぎるくらいに知っている。いざ開戦となれば硝煙と金属音、これによって埋め尽くされる異空間がはじまるということも。だからこそ、細切れであろうと日常感覚は大切にしたいと鳳明は思うのだ。
「素直じゃないんだから。それはユマさんも同じかもね。もっと真司くんと話したかったと思うんだけど、そんなこと言わなかったもん。でも、目で訴えていたよ」
「よしてくれ」
 いささか真司が困った口調になったので、鳳明は笑って済ませることにした。
(「あのユマさんの目……恋する乙女の目だと私は見てるんだよね。でも、なんだか迷いがあるような………まあ任務が任務だしね。でも、他に気になる男の子がいるんだったりして??」)
 この考えをつきつめていく余裕はなかった。
 このときなのである。海岸に出現した船艦からのミサイル掃射が始まったのは。
「鳳明……!」
 部屋にセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)、そして藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)が飛び込んで来た。セラフィーナは顔色を変えているが、天樹は平素と変わらない。いや、普段より落ち着いているくらいだ。
 セラフィーナは一礼して真司にも告げた。
「やはり北面から本隊が寄せてきたようです。その数、百を超えるとも」
「来たか。しかし……連中の望み通りにはさせない」
 真司は腰に銃を戻した。このとき彼の鎧が口をきいた。
「気合い入れていかないとね。数が多いって話だから、突破とはいわずとも洩れてきた敵がここまで来る可能性があるものね」
 リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)である。彼女は現在、魔鎧状態で真司に装備されているのだ。
(「そういうわけだから、ユマの話になった途端、真司の鼓動が早まったことも知ってるんだけどね〜」)
 もちろんリーラは言わぬが花ということにしている。
 でも、戦いが終わればしっかり茶化してやるとしよう。