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リアクション
第三章
「さて……どうしましょうか……」
妖精の村、一人になったドロシーが呟く。
ドロシーを村に連れてきたリトルはというと、着くなり子供達に『私の歌をきけー!』と何処か行ってしまった。
海はまだ戻ってくる気配は無い。
「……少し、散歩でもしましょうか」
「はー、遊んだ遊んだー」
花妖精の村、草の上にセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が寝転ぶ。
「こら、はしたないことしないの……けどちょっと疲れたわね」
セレンフィリティを窘めつつ、横にセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が腰掛ける。
セレンフィリティ達は村で英気を養う、という事で色々と見て回っていた。途中、子供達に混じって遊んだりもした為少し疲れを感じていた。
「……天気、いいよねー」
「そうねぇ」
「……なーんか、もう任務に戻りたくないなぁ……」
空を見上げてセレンフィリティが呟く。
「セレン……それだけ聞くとダメな人みたいよ?」
セレンフィリティの横でその呟きを耳にしたセレアナが、窘めるように言う。
「仕方ないじゃない……なんていうか、落ち着くんだもの」
「それは言えてるわね」
セレアナも空を見上げる。二人が訪れた第三世界とは違い、この村は居るだけで安らぎを感じてしまう。
――この村は平和だった。異変が近くにあるというに、そんなことを全く感じさせることがない。
「それに、あんな第三世界なんていうSFな世界見てきたからちょっと疲れちゃったわよ」
「まあ、休息は必要ね」
「そうそう……というわけで、ちょっと充電たーいむ」
そう言うと、セレンフィリティはセレアナの腕に自身の腕を絡ませ、身を寄せる。
「ちょっと……子供に見られたらどうするのよ?」
「今日くらい気にしない気にしない」
その言葉にセレアナは溜息を吐きつつも、まあいいか、と思ってしまう。
お互いの体温が心地いいせいか、いつの間にか二人は目を瞑ったまま、眠りに落ちて行った。
「はい、お待たせ。用意ができたよ〜」
神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が、花妖精の子供達の前に持参した菓子を並べる。
サクランボのクラフティにブッセケーキやスコーン……目にしたことがない物を前にして、子供達は興味津々に眺めている。
「どうぞ、召し上がれ」
有栖に勧められた子供達は恐る恐る菓子を口に運ぶ。おっかなびっくりとした様子だったが、一口口にすると子供達は顔を輝かせ、もう一口、もう一口と夢中になっていった。その様子を、有栖は目を細めて見ていた。
「みんな、美味しい?」
有栖が尋ねると、子供達は菓子を頬張りながら頷いた。
「良かった〜♪ それじゃ、一緒に食べようね〜♪」
そう言いながら、有栖も子供達に混じり菓子を口にする。
「ね、そう言えばみんなに聞きたいんだけど……」
菓子を食べ終え、一息吐いた子供達に有栖はおとぎ話について聞いてみる。ドロシーから聞いた話を子供達がどう思っているのか興味を持った為だ。
が、子供達から意見は出るものの、その意見は全て『よくわからない』という結論に行き着いてしまった。
「これ、もひとつたべていい?」
そうしていると、菓子を食べ終えた子供達が聞いてくる。
「うん、いいよ〜。もっと作ってくれば良かったかな?」
「これ、おねえちゃんが作ったの?」
「そうだよ〜。また作ってくるから、一緒に食べようね〜」
そう有栖が言うと、子供達は目を輝かせながら頷いた。
「……やれやれ、やっと戻ってきたか」
近くの森から子供達を伴い戻ってきた天城 一輝(あまぎ・いっき)が溜息を吐いた。森へ行っていたのは、食材を採りに行くためだ。
元々、パートナーのコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)が花妖精の子供達と遊んでいただけだったのだが、
「こういう時はやっぱり『お茶会』だよね!」
と言い出し、お茶会をすることになった。食材自体は持参していたものがあったが、「ここの食材も使いたい」とコレットが言ったため食材採取に行く羽目になったのだ。
「つくづく甘いな俺も……ほら、採ってきた……って、凄いなこれ」
一輝が目の前の光景に驚く。
「あ、お帰りー」
そこではコレットが持参した【薔薇のティーセット】を広げて、お茶会の準備ができていた。横には【調理器具】まで置いてある。
「で、どうだった?」
「まぁ、余り期待はするなよ」
そう言って一輝が見せたのは種々様々なハーブだった。
食材を採りたい、と子供達に案内を頼み一輝が連れられた先はハーブ畑であった。そこでは食用のハーブは採れなかった、逆に言うとそれしか採れなかった。
「うわーありがとう!」
目を輝かせ、取ってきたハーブを受け取るコレット。
「こんなのでいいのか?」
「うん、色々作れそうだよ。それじゃ、準備するから待っててね」
コレットに言われ、腰掛ける一輝。
「……やれやれ」
ぼんやりとコレットを見ると、彼女の元に花妖精の子供達が集まってきていた。
「ねえ、なにつくるのー?」
「んー? それはお楽しみだよー♪」
楽しそうに準備する彼女の姿を見て、
「……まぁ、たまには我儘に付き合うのも悪くないか」
と、一輝は呟いた。
「はい、とうちゃーく」
「……うわぁ」
マリーとピオニアに連れられて庭園を訪れたリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)が感嘆の声を漏らす。
「ここでいいのかな?」
「うん、ありがとうね二人とも」
リアトリスが礼を述べると、マリーは少し照れたように笑い、その後ろにいたピオニアが恥ずかしそうにうつむく。
「ところで、お花が見たいって言ってたけど何するの?」
「あ、えーっと……」
マリーの言葉にリアトリスが言葉を詰まらせる。錬金術師を目指す彼は、何か錬金術に使える花があるか見たかったのだが、それを説明するとなると錬金術がどういったものか、という説明も必要になる。それをどう説明したらいいか、言葉に迷ったのだ。
「……どんな花があるのか、興味があったんだよ」
悩んだ結果、無難な答えにすることをリアトリスは選んだ。
「そうだ、ここにある花の名前とかわかるかな?」
「え? うーん……ドロシーお姉ちゃんならわかるんだけど……」
リアトリスの言葉に、マリーが申し訳なさそうに言う。
「そっか……それじゃ色々と見てみるよ。ありがとうね、二人とも」
「うん、それじゃ私達は行くね。行こう、ピオニア」
「……ばいばい、おねーちゃん」
手を振る二人にリアトリスも手を振って応える。内心『おにーちゃんなんだけどなー』と思いつつ。
「さて……とりあえず、色々見てみようかな」
振り返り、リアトリスは庭園を見る。各々、自らの色を咲き誇らせる花々がそこにはあった。
「……さて、どうしていますかね」
赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が花壇に目をやる。そこではアレクサンダー・ブレイロック(あれくさんだー・ぶれいろっく)と凪 優喜(なぎ・ゆうき)、それと何人かの花妖精の子供達が何やらやっている。
優喜は花妖精であるが、他の妖精と会うのはこれが初めてとなる。いい機会だから、と霜月は彼女を他の花妖精と遊ばせようとしていたのだ。
アレクサンダーがついているものの、馴染めるか少し不安はあったが、様子を見ている限り大丈夫そうだ。優喜の周りにも、花妖精の子供達は集まっていた。
「霜月ー」
そうして見ていると、アレクサンダーが霜月の元へやってくる。
「おや、どうしました?」
「うん、ちょっと来て」
そういうとアレクサンダーは霜月の手を引っ張り、花壇まで連れて行く。
「ねー、何やってるのー?」
花妖精の子供がに優喜に話しかけるが、彼女はただ黙々と自分の道具で花壇の土を掘っていた。
ある程度掘り終えると、優喜は満足げな表情を浮かべた。
「……ヨシ、ハナヲウエヨウ」
「いけません」
優喜の手を霜月が止める。
「優喜ちゃん、花壇の前からずっと動かないから何してるのかと思って見たら……」
アレクサンダーがそう言うと、霜月は溜息を吐いた。
「優喜……確かに花妖精の子と自由に遊んで来なさいとは言いましたが……」
「ソレヨリボクハカダンガキニナル」
優喜の言葉に、もう一度霜月は溜息を吐く。
「あのですね……ここは他の人が使う花壇なんですから……」
霜月が言っても、優喜は花壇から目を離さない。
「……何言っても聞かないみたいだね」
アレクサンダーが苦笑する。
「……後でドロシーさんに植えてもいいか聞いてみます。それまでいじらないようお願いします」
「うん、わかった」
アレクサンダーに優喜を任せ、頭に手を当てつつ霜月は花壇から離れる。
ふと、霜月は振り返ってみる。
「ねー、おはなうえるのー?」
「ウエル」
「ちょっとストップ、まだ許可貰ってないから勝手に植えないの!」
「なんのおはなうえるのー?」
「え? 優喜ちゃん、何植えようとしてるの?」
「……ハヤクウエタイ」
「……まぁ、あれはあれでいいのでしょうか」
そう呟き、霜月は苦笑を浮かべた。
「うわー、あの子上手いねー。そう思わない?」
歌を歌う花妖精の子供を見て、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)がアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)に言う。
「……ええ」
アデリーヌは、それに曖昧な感じで頷いた。
さゆみ達は今子供達と居た。遊んでいる所を見かけ、声をかけた所『歌でも歌おう』という話になった。
「あの子の歌、いいなぁ……それにあの衣装可愛いね。コスプレのネタにもなりそうだし、今度あの衣装作ってみようかな」
歌う妖精の子供を見て嬉しそうに笑うさゆみ。その顔を見て、アデリーヌは少し俯く。
(……似ている、あの子と)
アデリーヌが、心の中で呟く。『あの子』とは、アデリーヌの昔亡くなった恋人のことだ。
(……あの子も、こんな風に笑っていた。こんな風に、歌が好きだった)
今、アデリーヌはさゆみに、亡くなった恋人の面影を見ていた。無邪気に嬉しそうに笑うその顔に。
「ねえ、どうしたの?」
「え? い、いえ……何でもありませんわ……」
さゆみに話しかけられ、我に返ったアデリーヌは何とも言えない後ろめたさを感じ、また俯く。
「もー、また俯いて……あ、あの子終わったね。よし、行こうか」
「え?」
さゆみはアデリーヌの手を取ると、
「じゃあみんなー、次はお姉ちゃん達が歌うよー!」
そう言って、半ば強引に彼女を引っ張り立ち上がらせる。
「あ、あの……さゆみ?」
「ほらほら、一緒に歌おうよ。子供達も待ってるよ?」
そう言ってさゆみが笑う。
「……そうですわね」
その笑顔を見て、アデリーヌは少し気持ちが軽くなるのを感じ、笑みを浮かべた。
「……あの、何この状況?」
片野 ももか(かたの・ももか)が引きつった笑いを浮かべる。
ももかが手に持っているのは木の棒。対峙するのは花妖精の子供達。
子供達と遊ぶ、という事になり何をするかと話していると、
「戦いごっこなどどうじゃ?」
と、モリンカ・ティーターン(もりんか・てぃーたーん)が提案。『まあチャンバラくらいなら……』とももかが了承すると、
「よし、ならば子供達よ。束になってかかるのじゃ」
「……え゛?」
モリンカの言葉に従った子供達が、ももかを取り囲み、そして現在に至る。
「え、ちょっと、え? これどゆこと?」
「相手は子供じゃぞ? 一対一で敵うわけがあるまい」
「そ、それはそうだけど……私、後ろも取られてるよ?」
「そうじゃのう」
「モリンカは?」
「わいは見てるだけ。安心せぇ、応援くらいはしてやろう」
「い、いやいやいや! 無理だってこの人数は! 子供って言っても束だよ? 花妖精の子供達が束だよ!? 花束だよ!?」
「最後訳がわからんようになってるわい……そりゃ、開始!」
モリンカの合図と同時に、子供達がももかに向かって棒を振りかぶる。
「ひ、ひえぇぇぇぇぇぇ!」
それに必死になって応戦するももか。
「ほぅ、子供とはいえ中々の動きじゃのぅ……これももか、腰が引けとるぞ」
「そ、そうは言ってもぉ……ひゃっ! ちょ、あ、あぶな……」
花妖精とは言え相手は子供。流石に攻撃するわけにはいかないため防戦一方になるももか。それに加えて子供達は複数いる。おまけに二刀流の子供まで。
そんな数、相手にできるわけもなく、
「惨敗、じゃのぅ」
「うぅ……か、勝ち目なんて無いから、これ……」
「だらしがないのう……しかし、中々器用な動きをする子じゃのう」
そう言ってモリンカが花妖精の子供の頭を撫でる。撫でられた子供は、くすぐったそうに身をよじった。
「……ま、残念賞ということで、慰めてやろう」
「うーれーしーくーなーいー……」
モリンカに頭を撫でられ、半べそをかきつつももかが言った。
「……何故いる」
「来ちゃった。えへへ」
「えへへじゃねーよ……」
誤魔化すように笑う置いてきたはずのミシェル・アーヴァントロード(みしぇる・あーう゜ぁんとろーど)に吉崎 樹(よしざき・いつき)は頭を抱え、溜息を吐いた。
「所で、ギターなんてもってるけど調査するんじゃなかったの?」
ミシェルが樹が持っている【アコースティックギター】を指さす。
「ん? ああ、ちゃんとした調査は他の人に任せておいて、俺は子供と交流してみようと思ってな」
「なんで?」
「え?」
冷たい視線でミシェルが樹を射抜く。
「なんで子供と交流なんて考えてるのかな? 調査を差し置いて交流を優先って。子供が好きなの? そうなの?」
「そ、そりゃ好きだけど……って! そ、そっちの意味じゃない! ただ純粋に子供好きなだけだ! ロリとかショタとかそっちじゃない!」
樹が必死で弁明する。ミシェルは結構嫉妬するタイプであり、そもそも今回置いて行こうとしたのは、子供相手だろうと不安は残るからだ。
この状態は樹の精神を凄まじく摩耗する。怒り狂う態度を見せるわけでもなく、ただただ恐ろしい空気を醸し出す。それが目に見えない分、余計に精神に来る。
「ふーん……ま、いいや」
興味を無くした様にミシェルに言われ、ほっと胸をなでおろす樹。
「で、どう交流するの?」
「そうだなー、これを演奏したり、遊んだり……ひょっとしたら何か情報がポロっと出てくるかもしれないしな」
「そうか……うーん、となると僕も歌ったりとかする必要があるのかな……でもそこまでうまくないし……」
「いや、別に何もしなくていいんだけど……」
「あ、そうだ」
そう言うと、ミシェルが何やら包みを取り出す。
「クッキー焼いたんだ。食べてくれるかなぁ」
樹が固まる。ミシェルの料理の腕は微妙……というか、ぶっちゃけ不味い。本人は自信満々だから余計タチが悪い。
「や、やめといたほうがいいんじゃないかなぁ?」
子供達の為に止めるべきだと思った樹が言う。
「……なんで?」
「え?」
「なんでやめとけ、なんていうのかなぁ?」
再度、樹は精神を摩耗することになりそうであった。
「……これでお話はおしまいでござる」
童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)が朗読を終え、本を閉じる。読んでいた本は、自分と同じ名を持つおとぎ話『童話スノーマン』だ。
「なかなか好感触みたいですね」
クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が子供達の顔を見て呟く。彼らは子供達を集め、自身が持ち込んだおとぎ話を朗読して聞かせていた。初めて聞く話に、子供達は興味津々だったようだ。
「うむ、気に入ってもらえたようで何よりでござる」
「できればドロシーさんにもこの話を聞いてほしかったんですがね……」
クロセルが呟く。持ち込んだ絵本などがあるため、寄贈しようと思っていたのだが何処かへ行っているのか、姿が見えない。
「また後で探すでござるよ……ん? どうしたでござる?」
スノーマンが、もじもじと何か言いたそうにしている子供に話しかける。
「あ、えっと……」
「何か聞きたいことでもあるのかな? オニーサン達に遠慮なく話してごらん!」
子供の目線まで屈み、笑いかけるクロセル。少しもじもじとしていたが、ゆっくりと子供は口を開いた。
「えっと……ゆきって、なに?」
「雪? 見たことないんですか?」
クロセルが言うと、子供は頷いた。
「ふむ……みんな! みんなは雪を見たことがあるのかい!?」
クロセルの言葉に、手を挙げたのは数名の子供。見たことがない子供もいるらしい。
「そうでござるか。ならば拙者が【ブリザード】で」
「いえ、嵐になったらまずいのでやめましょう」
スノーマンをクロセルが止める。
「となるとどうしたものでしょうか……現物を見てもらうのが一番なのですが……」
クロセルが考える。雪、という物の説明はできるが、それを子供達に理解できるように、となると少々難しい。
「……現物……か」
「ぬ? クロセル殿?」
クロセルが自分を見ていることに気付き、スノーマンが首を傾げる。
「ちょっと我慢してくださいよ……よし、この人に触ってみようか」
クロセルが子供の手を取り、スノーマンの体に触らせる。
「どうかな?」
「つ、つめたーい!」
子供が冷たさに驚き、手を引っ込める。
「そう、それが雪なんだよ! ……正確には雪だるまですが」
「ゆきだるま? これがそうなの?」
クロセルの呟きを聞いた子供達が、スノーマンの周りに集まってくる。
「さわってもいい?」
「あ、わたしもさわりたい!」
「勿論でござるよ」
スノーマンが言うと、子供達が一斉に彼の体を触りだす。
「な、なんかくすぐったいでござるよ……」
「少しの間の辛抱ですよ」
その後、子供が満足するまでの間暫く辛抱することになったスノーマンであった。
「とまぁ、卑怯にも敵は待ち伏せをしてきたわけじゃ。しかし、そこで怯むようなわしらではない。襲いかかる敵をわしがちぎっては投げ、ちぎっては投げ……」
「流石超じいちゃんであります!」
大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)が語る昔話に拍手を送る大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が拍手を送る。
「おぉー」
剛太郎に倣って、聞いていた子供達も拍手を送った。
――遺跡の調査に行き、休憩と戻ってきた剛太郎達が茶を飲んでいると、何処からか集まってきた子供達に囲まれてしまった。
「仕方ないであります」と、剛太郎が茶をふるまっていると、藤右衛門が「ただぼうっとしてるのも何だな」と昔話を語りだした。
それは藤右衛門が生きていた頃、合戦などがあった時代の話だ。
自分が経験した事や見てきたもの……それを誇張たっぷりで語っていた。昔話、というよりもはや己の武勇伝になっていた。
「なんかわからないけどすごーい」
その内容は子供達はよくわかっていなかったが、自分達の知らない物事に関する興味はある為、そこそこ満足させられているようだった。
「……はい、ここでお話はおしまい」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が言うと、話を聞いていた。子供達から拍手が起きる。
「すごいすごい!」
「あれ、どうやってるんだろ!」
「……どうやら、こっちの方が好評みたいですね」
話ではなく、手に持った物の方が好評な事にベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が苦笑する。
「喜んでくれたのはよかったけど、あんまりお話聞いてなかったのかなぁ……」
複雑な顔で美羽が手に持った【ゆるゆるパペット】を見る。
子供達に楽しんでもらおうと、ベアトリーチェと一緒に【ゆるゆるパペット】を使った簡単な人形劇を見せた。その際、何か情報は得られるかと思い、第三世界を基にした話にしてみたのだが……
「ねえねえ、あれどうやったの?」
子供達はどうやら、人形、特に腹話術の方に興味が行っていたようだ。
「うーん……これじゃ情報は得られそうにないね」
「でも、楽しんでくれたみたいですよ?」
ベアトリ―チェの言うとおり、子供達は確かに楽しんでくれてはいるようだ。
「頑張って台本作ったんだけどなぁ……」
話を作った側の美羽からすると、少々複雑な気持ちであるが。
「ね、もういっかいやって!」
「やってやって!」
あまりに珍しかったのか、アンコールまで出てしまう。
「うん、わかった! よし、もう一回やっちゃおうか!」
「と、その前に……」
劇を始めようとする前に、ベアトリーチェがお茶と菓子を用意する。
「はい、皆さん食べながら見てくださいね」
「それじゃ、始めるよー!」
美羽はまた、人形を動かしだした。
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