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リアクション
第四章
「すみませんドロシー様、手伝ってもらって……」
「いえいえ、構いませんよ」
申し訳なさそうに言う葉月 可憐(はづき・かれん)に、ドロシーが笑顔で答える。
「それに、流石にこの量を一人で纏めるのは大変でしょう?」
書庫に海達が戻ると、既に書庫を調べている者達が居た。可憐もその一人だ。
多くの書物を抱え、仕分けをしていた所ドロシーが手伝いを申し出たのだ。
「しかし、これほどの書物をどうするのですか?」
そう言ってドロシーが見たのは、伝承やおとぎ話が書かれた書物の山だ。
「ええ……ティル・ナ・ノーグの他に世界があるのかを調べたいと思いまして」
「ティル・ナ・ノーグの他の世界、ですか?」
「はい。ティル・ナ・ノーグは重層世界……私たちが勝手にそう呼んでいるんですが、そことこの花妖精の村があるハイ・ブラゼル地方。この他に構成されている世界があるのか、と思いまして」
「何故そのようなことを?」
「ええ、『大いなるもの』が復活した際、わかっている世界ならば対処できますが……もし我々の知らない未知の世界があったとして、そこで復活したら致命的ですからね。そういう世界があったとして、少しでも知っていれば対処もできるかもしれません」
杞憂で済めばそれがいいのですが、と可憐が苦笑する。
「ただいまー。帰ったよー」
そう話していると、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が戻ってきた。彼女は子供達や他に伝わっているティル・ナ・ノーグの話を集めていた。
「お帰りなさい。どうでした?」
可憐が言うと、アリスは少し渋い顔をして答える。
「あまり芳しくなかったねぇ」
「そうですか……」
「子供達は他の話知らないみたいだし、パラミタも『妖精達の里』程度の伝承しか見当たらないねぇ」
「現時点ではティル・ナ・ノーグには他に世界は確認できないと?」
「確定はできないけど、ねぇ。今後見つかる可能性はあるけど、今は情報がないのよねぇ」
アリスの言葉に、可憐が考え込む。
「……何はともあれ、もう少し調べてみましょうか」
「そうだねー。今度は私も手伝うよ」
「お願いしますアリス。どうもありがとうございましたドロシー様。またこちらで調べてみますね」
「そうですか、わかりました」
「ドロシー、ちょっといい……あら、お邪魔だったかしら?」
書庫で作業をしていた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が話しかけてくる。
「ああ、いえ、こちらは用事が済みましたので」
「そう? なら悪いけどドロシー借りていくわね。いいかしら?」
「構いませんよ。それでは失礼しますね」
「ええ、ありがとうございました」
可憐に頭を下げつつ、ドロシーが祥子の後について行く。
「それで、私は何をすれば?」
「ああ、そうそう。これを見て」
そう言って祥子が差し出してきたのは、一冊の書物。
「ドロシー、この本のモデルになった出来事、覚えてる?」
「モデル、ですか? ……ああ、覚えてますよ」
差し出された本を受け取り、タイトルを見たドロシーが頷く。
「そう。それなら、その出来事が起きてから何回春が巡ってきたかしら?」
「春、ですか?」
首を傾げるドロシーに、祥子が頷く。
「ええ……季節から出来事の時間経過を調べようと思ってるの。ここには時間の概念がないのでしょう?」
「このお話の出来事、それほど昔ではありませんよ?」
「え? どういう事?」
「ええ……それでは、お話ししましょうか」
「うーん……空振り、か」
祥子が溜息を吐きつつ頭を掻く。
祥子がしていた作業は、書物から『大いなるもの』に関わりそうなエピソードから歴史的事実を導く事であった。神話、伝承にもモチーフとなった事柄が存在する。同様に、『大いなるもの』のモチーフを探ろうとしていたのだが……
苦笑しつつ、手にしていた書物を見る。
「まさか子供のいたずら、ってオチだとは思わなかったわ……」
「すみません……勘違いさせてしまったようで……」
「いえ、ドロシーが悪いわけじゃないわ」
頭を下げるドロシーに祥子が苦笑する。関わりがありそう、という事で『戒め』や『教訓』、『破壊』といったエピソードを抽出していたのだが、ヒットしたと思った書物は子供に聞かせるための因果応報の話、簡単に言うと『悪いことすると自分にも返ってきちゃうよー』という教訓話だった。
「ふぅ……ま、これだけ本があればそういうのもあるわね」
そう言って祥子は書庫の本を見回した。
「他にも調べてみましょう。ありがとドロシー。またお世話になるかもしれないわ」
「は、はい。それでは失礼しますね」
ドロシーが言うと、祥子は手をひらひらと振りながら再度書物に挑んでいた。
「さて、私はどうしましょうか……」
一人、ドロシーが呟いた。
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