リアクション
世界樹イルミンスールだよ 「つまりは旅に出たいというわけなんですねぇ?」 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)さんに訊ねられて、小ババ様はこくことうなずきました。 「いいでしょう。生徒たちに命令して、移動用のイコプラを作ってもらうですぅ。とりあえず、工作室にでも行くといいですぅ」 「こばぁー♪」 小ババ様が、エリザベート・ワルプルギスさんに元気よくお返事しました。 世界樹イルミンスールから魔力の供給を受けている小ババ様は、あまり遠出をしたことはありません。一時期ヒラニプラに修行にでかけたこともありましたが、あれはそれなりに準備し、大神 御嶽(おおがみ・うたき)さんとキネコ・マネー(きねこ・まねー)さんがお目付役でついていったからです。 けれども、最近大量の魔法石がイルミンスールの森からキマクにかけて発見されたため、準備さえすれば遠出ができそうになりました。いい機会です。小ババ様は旅に出ることにしたのです。 ★ ★ ★ 工作室に行ってみると、エリザベート・ワルプルギスさんに言われて、あちこちからたくさんの生徒たちが集まっていました。 「小ババ様専用イコンの制作? ふふふふふ、まっかせなさーい! 未来の技術にできない物はないよ」 一際、三船 甲斐(みふね・かい)さんという人が張り切っています。いったい、どんな技術を持っているというのでしょうか。 「この天然ナノマシンを使い、自由な形状の外装甲を作ってみせるよ。さあ、助手のエランダくん、ナノマシンを採取してくれたまえ」 「わっかりましたあ♪」 三船甲斐さんに言われて、エメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)さんという人が、ナノマシン原木の丸太からニョキニョキと生えた椎茸のようなナノマシンを摘み取っていきます。 小ババ様もやろうとしましたが、危ないからダメと言われてしまいました。残念です。 「お仕事はみんなに任せて、小ババ様はこっちでボクたちと遊ぼうよね」 そう言って、鳴神 裁(なるかみ・さい)さんという人が小ババ様をだきかかえました。 「がぉー♪」 そばには、テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)さんという恐竜さんみたいなのもいます。ちょっと面白いです。 小ババ様が二人と遊んでいる間にも、小ババ様専用イコンの制作が進められていきました。もっとも、イコンと呼んではいますが、小ババ様用なので、実質はイコプラです。そうでないと、さすがに生徒たちだけでは造りきれません。 「資料によると、小ババ様は一人で乗るから、凄いイコンを作っても出力は30パーセントになるぞ」 エリザベート・ワルプルギスさんがあちこちから集めてくれたパーツと設定資料を前にして、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)さんという人が難しい顔をしています。パーツは、それぞれ両手で持てるぐらいの箱に入っていて、パッケージにはイーグリットとか饕餮とかの文字が躍り、イコンのイラストが描かれていました。蒼空学園購買というプライスシールがついているような気もします。 「それに関してだが、もともと二人乗りイコンとして設計された物だから30%になっちまうわけで、小ババ様は一人なんだから、最初から一人乗りで設計すればいいんじゃないか?」 「それはいいですね。システムのプログラムは僕に任せてください、山田さ……うぼあっ!」 「俺の名前はサンダーだ!」 後藤 山田(ごとう・さんだ)さんという人が、いきなりドール・ゴールド(どーる・ごーるど)さんという人を吹っ飛ばしたので、小ババ様はちょっとびびりました。とりあえず、あの人は山田さんなのだと強く心に刻むことにします。もし殴ってきたら、小ババ百烈拳で返り討ちです。 「まあ、中身の方は他の人らに任せますさかい、うちらは見た目や見た目。こいつは重要でっせー」 「そのとおりぃ。できればぁ、等身大大ババ様型イコンにしたいと思うんだけどぉ、どおかなぁ」 ブリジット・クレイン(ぶりじっと・くれいん)さんと相田 なぶら(あいだ・なぶら)さんがそう言うと、みんなは賛成したようです。いったい、どうなってしまうのでしょう。 「参考資料はありますか?」 猿渡剛利さんが聞きました。 「ここにあるよぉ」 相田なぶらさんが出したのは、アーデルハイトのひみつ写真です。こんな写真を持っているなんて、いけない子だと思います。 「とりあえずぅ、これが俺の念写した設計図だぁ」 そう言って、相田なぶらさんがプリントされた設計図を出しました。でも、妄想を念写した設計図って、大丈夫なのでしょうか。 「いけるか?」 「まっかせてよねー」 三船甲斐さんに言われて設計図をのぞき込んだエメラダ・アンバーアイさんの姿が突然消えてしまいました。ちょっとびっくりです。なんだかよく見ると、設計図とナノマシン原木のそばで細かいキラキラが漂っているようにも見えます。 「ほいっ」 ぽこんと、イコンの外装パーツがナノマシンから作られて突然できあがりました。なんだか、こまっちいエメラダ・アンバーアイさんが頑張っているようです。 「組み立ては、わいにお任せや」 できあがったパーツで仮組を開始しながらブリジット・クレインさんが言いました。相田なぶらさんにパーツを支えさせて手伝わせています。 「インナーフレームは、わちきが組み立てた物を使用するさかい、装甲もちゃんと合わせてや。この大きさやと、へたにイコンにしようとするよりも、パワードスーツ系の技術を応用した方が無理が少ないさかい」 グランギニョル・ルアフ・ソニア(ぐらんぎにょる・るあふそにあ)さんという人が、メキョメキョと骨格部と内部機関を組み立てているようです。 「大丈夫やで、アクチュエータの可動範囲を邪魔するような装甲は極力排除するさかい。それより、充分な自由度を確保しといてや」 ブリジット・クレインさんが答えました。 「さあ、僕たちは装備をしっかりとするよ。長旅になりそうだから、ちゃんと中で生活できるぐらいにしないとね。オートマッピングとかナビゲート機能とかはやっぱり必要だよね」 装備担当の場所で、十七夜 リオ(かなき・りお)さんという人が言いました。 「銃型ハンドヘルドコンピュータの機能と、シャンバラ地図のデータはインプット済みです」 おでこに絆創膏を貼ったドール・ゴールドさんが抜かりはないと言いました。 「それに関しては、ランドセルコンテナを提案したい」 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)さんという人が、何やら図面を広げて言いました。そのそばには、あちこちの購買で買ってきたらしい武器とかアイテムとかがいろいろとおいてあります。 「うん。居住性を考えたら、やはり外部装備だね」 十七夜リオさんが同意します。 「居住空間……。お風呂は外せないやろ!」 「もちろんだとも」 グラキエス・エンドロアさんの主張に、柊真司さんがニヤリとうなずきました。 「とは言っても、何でもかんでも詰め込めるほどのスペースはないでしょうから、ユニットはちゃんと分類した方がいいですね」 久我 浩一(くが・こういち)という人が、図面を見て言いました。あんまりなんでも詰め込んだら、重くてひっくり返ってしまいます。ここは、必要最低限に抑えるべきでしょう。 わいわいという相談の結果、背部コンテナはランドセル型になりました。アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)さんがこの事実を知ったとき、ここにいた人たちの命の保証はできません。 「護身用の武器はほしいですね。小ババ様は可愛いですから、誘拐されでもしたら大変です。でも、あまり強すぎる武器だと、対人仕様としてはオーバーキルでしょうから」 葛葉 明(くずのは・めい)さんという人が、ちょっと物騒なことを言っています。そんな物はなくても、今の小ババ様はかなり強いはずなのですが。でも、イコンですから、カッチョイイ武器もいいかもしれません。ちょっと期待しちゃう小ババ様でした。 「こういう細かい組み立ては、わらわにお任せじゃな」 アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)さんという人が、用意されたパーツを組み合わせてランドセルを作っていきました。なんだか、ドールハウスを作っているような感じです。 ランドセルですが、完全な皮のランドセル型と言うよりは、ボックスに近い形になっています。最上部のハッチの中にはコンテナユニットが六基収められており、両端からミサイルランチャー、おやつ用食糧倉庫、お土産や特殊装備や武器を入れる予備コンテナという感じです。 内部は二層構造で、上が寝室で、下がリビングキッチンとなっています。もちろん、ベッドやトイレや流し台や冷蔵庫も完備です。そのままでは少し窮屈ですが、キャンピングカーのように小ババ様専用イコンが地面にペタンコ座りしたときに自動的にランドセルが伸縮して充分なスペースをとれるようになっています。移動時は、小ババ様は頭部コックピットにいるので、ランドセル内部が縮まっていても問題はありません。 サイドには水筒型のタンクがあり、生活用水のタンクと蓋を利用した五右衛門お風呂となっています。反対側には、メイン武装のハリセンがついています。これは、アンテナにもなるようで、小ババ様の位置を各学校に送ってくれるようです。 長旅では修理も必要でしょうから、修理用のナノマシンもランドセルのサイドポケットに用意されています。イコンの外装に損傷があった場合は、これで応急修理ができるはずです。それで、とりあえずどこかの学校まで行けば、完全修理してもらえるでしょう。 専門用語が飛び交う中、だんだんとイコンが組み上がっていきます。本物のイコンだったら、熟練のアーティフィサーでもなければメンテナンスでさえまともにできないはずですが、そこは元がイコプラですのでなんとかなっているようです。 小ババ様としては、会話の意味はよく分かりませんが、多分凄いのでしょう。ちょっとわくわくします。とはいえ、少し飽きてもきました。 「どっか遊びに行く?」 「がぉー?」 「こばー♪」 鳴神裁さんの提案に、すぐに小ババ様は賛成しました。組み立てはここの人たちに任せて、ちょっと世界樹の中を遊びに行くことにしました。 |
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