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小ババ様の一日 旅立ち編

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小ババ様の一日 旅立ち編

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空京だよ

 
 
 空京は平和です。
「ちょ、ちょっと待て!」
 空京は平和です???
 イコンを降りてちっちゃな箒でウインドショッピングを楽しんでいた小ババ様は、悲鳴を聞いてそこへ行ってみました。
 どうやら、ブティックの試着室の中からその悲鳴は聞こえてきたようです。
 なんだか、カーテンが激しくゆれています。中で何をしているのでしょうか。小ババ様は、恐る恐る中を覗いてみました。
「こ、こら、月夜、百花、よせ!」
 樹月 刀真(きづき・とうま)さんという人が、裸の女の人たちともみ合っています。変態だと小ババ様は思いました。
「……いいかげんに観念する。これを見て、刀真が平常心でいられるはずがない」
 紫色のレースの下着を着けただけの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)さんというお姉さんが、樹月刀真さんを掴んでいます。そこへ、赤いレースの下着姿の封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)さんというお姉さんがだきついていきました。赤いストッキングをガーターベルトで吊っていて、ちょっと大人です。
「平常心、平常心……」
 樹月刀真さんが、呪文のようにつぶやきます。
今、倒れるわけには……、あれっ、小ババ様!? やあ、こんな所で迷子かい。ははははは、奇遇だなあ。いいだろう、俺がちゃんとイルミンに送ってあげよう。じゃ、月夜、百花、そういうことで」
 小ババ様に気づいた樹月刀真さんが、いきなり小ババ様をひっつかむようにすると更衣室を脱出していきました。
逃しはしない……
 漆髪月夜さんが手をのばしましたが、ぎりぎり樹月刀真さんをかすめただけで捕り逃がしてしまいました。その代わり、かすめた手に何かが触れて落ちたようです。樹月刀真さんの財布でした。
「やっぱり、刀真さんには、もっと積極的に迫らないとダメでしょうか」
 計画が失敗して、残念そうに封印の巫女白花さんが言いました。
「仕方ない。これで、もっといっぱい勝負下着を買って研究する。それと、新しい服もいっぱい」
 漆髪月夜さんが、更衣室に持ち込んだたくさんのゴスロリ服や下着をかかえて言いました。もちろん、樹月刀真さんのお財布はこの後空っぽになる運命でしょう。
 
    ★    ★    ★
 
 なんだか逃げる口実に使われた樹月刀真さんと別れた後、なんだか災難続きの小ババ様は空京神社でお祓いをしてもらうことにしました。
 ええっと、空京神社の方向は……。
「何かお悩みですか?」
 二人の巫女さんが、小ババ様に訊ねてきました。シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)さんと、月詠 司(つくよみ・つかさ)さんです。って、なんで、月詠司さんは神主ではなくて巫女さん姿なのでしょうか。
「しくしくしく……。聖地巡礼の途中なのです」
 なんだか、少しやつれた月詠司さんが言いました。
「もちろん、巫女のレベルアップには聖地巡礼が一番ですわ。まずは、空京神社ですから、小ババ様も私たちと参りましょう」
 お祓い串をバサバサとわざとらしく振りながらシオン・エヴァンジェリウスさんが言いました。
「こばこばあ」
 とりあえず一緒に空京神社に登ると、揃ってお祓いをしてもらいます。これでもう変なトラブルはないといいのですが。
「さて、次の聖地は……」
「神社仏閣なんて、空京以外は葦原ぐらいにしかないだだろう」
 もうここで終わりでいいだろうと、月詠司さんがシオン・エヴァンジェリウスさんに言いました。
「何を言っているんです。パラミタにはたくさんの古代遺跡という聖地があるではないですか」
「そんな危険なとこを全部回ってたら、命がいくつあってもたりないだろうが!」
 さすがに月詠司さんが逃げようとしましたが、あっさりとシオン・エヴァンジェリウスさんに捕まりました。
「では、小ババ様、縁がありましたら、また別の聖地で。ほら、キリキリと行きますよ」
 小ババ様に挨拶すると、シオン・エヴァンジェリウスさんが月詠司さんをズルズルと引きずっていきました。
 
 
葦原島だよ

 
 
 空京からツァンダに行く途中に葦原島があります。さすがに長距離移動は大変ですし、葦原島には明倫館があります。
 イコンを降りると、小ババ様は葦原明倫館の中を見学していきました。
 武道館の方から、何やら甲走った声が聞こえてきます。
 ちょっと覗いてみましょう。どうやら、剣の稽古中のようです。水無月 徹(みなづき・とおる)さんという人と華月 魅夜(かづき・みや)さんという人が、剣を持って対峙しています。どうやら、水無月徹さんが華月魅夜さんに稽古をつけているようです。
「はーっ!!」
 ブライトシャムシールを持った水無月徹さんが突っ込んでいきました受けとめようとした華月魅夜さんがあっけなく吹っ飛ばされます。胸元の白衣が上になった方一枚だけすっぱりと横に切れています。光条兵器を使っているのに、なんだか容赦がありません。
「受けるのではなく、流しなさい。そして流れるのですよ。あなたには受けとめる力もないし、立ち止まればただの的です」
「もう一度!」
 強く言われて、華月魅夜さんがはっきりと言い返します。でも、全身うっすらと汗が滲んで、ちょっとふらふらしているようにも見えます。これでは、水無月徹さんの言う流れるような動きはまだとうてい無理でしょう。それでも、なんとか自らをグレーターヒールで回復させると、華月魅夜さんがもう一度水無月徹さんに立ちむかっていきました。どうやら、華月魅夜さんとしては、なんとか水無月徹さんを受けとめたいようです。
「こばあー」
 頑張ってねと言い残すと、小ババ様は武道館を後にしました。
 ちょっと、気の張った戦いは疲れます。
 のんびりしようと中庭に行きますと、似たような人たちがのんびりしていました。
 縁台のような長椅子に、レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)さんという人が、いくつもの新聞を広げて読んでいます。
 少し離れた所には、おっきなわんこ(?)のトリィ・スタン(とりぃ・すたん)さんというわんこが、イゾルデ・ブロンドヘアー(いぞるで・ぶろんどへあー)という人の枕にされて地面で寝そべっています。ぽこぽこのお腹は、枕にするのには最適なのでしょうか。でも、ちょっと涙目でレギオン・ヴァルザードさんの方に助けを求めているような気もしますが、新聞に夢中なレギオン・ヴァルザードさんは気づいてくれません。
 イゾルデ・ブロンドヘアーさんは微かな寝息をたてたままままです。
 実に気持ちよさそうなので、小ババ様もそろりそろりと近づいて、わんこさんの尻尾を枕にしてみました。
 ああ気持ちいい。
「なんだこいつは!」
「こばあ」
 トリィ・スタンさんに吼えられて、小ババ様はあわてて逃げだしていきました。
「なんだ……。やれやれ、トリィの奴、相変わらずイゾルデと仲がいいな……」
 やっとレギオン・ヴァルザードさんが新聞から顔をあげてくれましたが、トリィ・スタンさんを一瞥しただけですぐに新聞に戻って言ってしまいました。
 多分、わんこさんはイゾルデ・ブロンドヘアーさんが目を覚ますまで枕のままだと思います。