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リアクション
第3章 「冬の女王」とスク水をかけた雪合戦のこと
学生達の用意したイベントは、アイス大会だけではなかった。
儀式なしで復活してしまった「冬の女王」のために、皆でチーム対抗の雪合戦をするというのも、今回の催し物のひとつである。
御宮 万宗(おみや・ばんしゅう)と姫北 星次郎(ひめきた・せいじろう)、宮本 月里(みやもと・つきり)の3人は、裏方の「会場設営班」として、雪合戦会場とアイス大会の会場作りを行っていた。
「星ちゃん、こんな感じでいいですか?」
月里が、氷の塊を削りながら、友人の星次郎に話しかける。
「ああ、そんな感じだと思うぞ。復活の儀式というのは、どんなものかわかりかねるが、「冬の女王」に喜んでもらえるといいな」
星次郎と、月里は、「冬の女王」の氷像を作っていた。他に、主賓であるエリザベートとアーデルハイトの氷像も作られる予定である。
「雪合戦会場の障害物ですが、雪玉を当ててしまったら大変なことになるかもしれませんね」
万宗が、物騒なことをしれっと言う。
雪合戦終了後には、星次郎のコーヒーや紅茶と万宗の甘酒など、温かいものが振舞われる予定である。テントは、ルクオールの町の人のためにスープなどの炊き出しが行われた場所のものが利用されていた。
星次郎は、「冬の女王」のために、アイスティーを用意するなど、細かい気配りも忘れなかった。
月里の用意したそりに、雪かきした雪を載せて、万宗、星次郎、月里は設営を続ける。
町の人たちも、ルクオールの町おこしにもなると歓迎してくれており、積極的に手伝ってくれる人も多かった。
こうした地道な努力が、楽しいイベントの実現には重要なのである。
「ふう、これで完成ですっ!」
月里が、腰まである美しい黒髪をかきあげて、会場を見渡す。
適度な障害物と、「冬の女王」、エリザベート、アーデルハイトの氷像が並ぶ雪合戦会場には、花道も設置されていた。
「急に呼び出したのに、手伝ってくれてありがとうな」
星次郎が、セルフレームの眼鏡の奥から優しい笑みを浮かべる。普段は釣り目で無愛想なためとっつきづらい印象を与えがちな星次郎であったが、実際には面倒見のよい面もあるのだ。
「いいえ、ルクオールの町の人たちのためでもありますから」
月里は穏やかに微笑んで見せた。
「はーい、それでは、雪合戦の選手入場です!」
審判のナナ・ノルデン(なな・のるでん)が宣言するのと同時に、花火の吹き上がる花道に選手達が入場してきた。
一方は、「冬の女王」チーム。
メンバーは、クラーク 波音(くらーく・はのん)とパートナーの魔女アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)、緋桜 ケイ(ひおう・けい)、「冬の女王」勧誘をエリザベートに提案した沢渡 真言のパートナーである魔女のユーリエンテ・レヴィ(ゆーりえんて・れう゛ぃ)、そして、「冬の女王」本人の5人である。
対するのは、挑戦者チーム。
ナナのパートナーで魔女のズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)とパートナーの白熊型ゆる族雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)、御剣 カズマ(みつるぎ・かずま)、リカ・ティンバーレイク(りか・てぃんばーれいく)の5人である。
雪合戦開始前に、ケイが、「冬の女王」に話しかける。
「なあ、あんたの本当の名前を教えてくれないか? 「冬の女王」のままだと、なんだか呼びづらいしな……」
「わらわのことは、大いなる力を持つ冬の精霊として、人間達が「冬の女王」と呼んだのだぞよ。本当の名前というのは、正直、あんまり考えたことがなかったぞよ」
うーん、と首をかしげる「冬の女王」に、ユーリエンテが提案する。
「そっかぁ、それがお名前だったらユーリがお名前考えてあげる! 『冬ちゃん』とかどう? マコトがねー、冬ちゃんの名前を『レーヌ・イヴェール』って言うんだっていってたよ。だったらイッちゃんとかの方がいい?」
長い間封印されていた経験を持つユーリは、「冬の女王」のことも「封印仲間〜☆」と考えて親近感を持っていたのだった。にこにこ笑うユーリに、「冬の女王」も、微笑を浮かべる。
「冬ちゃん、か。ふふふ、そんなことを言ったのは、そなたがはじめてぞよ」
「よし、じゃあ、それ採用だな! 俺は男らしく、イヴェールって呼ぶぜ!」
ケイが、力強く宣言する。かわいい女の子にしか見えない外見から、よく性別を間違われるケイにとって、「男らしく」はこだわりポイントなのである。
「そういえば、「冬の女王」様は、復活の儀式もなしに目覚められたと仰いましたが、誰が目覚めさせたのですか?」
ナナの問いに、「冬の女王」は少し考え込む。
「誰かに目覚めさせられた、というよりは、自然に目覚めたようなものだと思うぞよ。大いなる存在……シャンバラ女王の復活の兆しが、わらわを封印からといたのかもしれぬな……。でも、本来であれば、ちゃんと冬に復活の儀式をすべきだったのぞよ! だから、そのかわりに、今日はそなたたちとめいっぱい遊ぶのだぞよ!」
真面目な話から一転して、はしゃぐ「冬の女王」の様子に、「意に反して無理やり誰かが目覚めさせたのではなくてよかった」と思い、ナナは少し安堵していた。
「よーし、じゃあ、私は公平なジャッジするですよ! ……では、試合開始前の応援です!」
ナナが指し示した先には、応援席に立つ守護天使のジェーン・アマランス(じぇーん・あまらんす)の姿があった。
ジェーンは、「じぇーん・あまらんす」とひらがなの名札が付けられたスク水の上に、長ラン姿という出で立ちで、仁王立ちしていた。
「「冬の女王」チームと挑戦者チーム、両者の健闘を願って、フレー、フレー、であります!」
腕をまっすぐ伸ばして、応援団長のように応援するジェーンであったが、実は本人は恥ずかしくてたまらなかった。しかし、長ランでスク水やあらわな脚を隠そうとすれば、腕を伸ばしての応援ができなくなってしまう。きちんと応援しないというのは、軍人気質のジェーンのプライドが許さなかった。
パートナーの万宗が、遠くからその様子を楽しく見物していた。
「ヨキカナ、ヨキカナ! HAHAHA!」
(こんな衣装を用意するなんて、聞いてないであります!! あとで絶対、ボッコボコにするであります、万宗殿!!)
ジェーンは、応援しながら、強く決意していた。
「おお、素晴らしいぞよ! あと10歳外見年齢が若ければ、わらわのストライクゾーンにばっちりだったことだけが悔やまれるぞよ!」
「応援団長も俺様達を応援してるぜ! 我々の野望達成は近いな、カズマ!」
「おう、『ドキッ☆スク水だらけの寒中水泳大会♪』の開催は決まったも同然だ! 相手チームは運動が苦手のようだが、漢の浪漫のために俺は修羅となる! そして、世界で初めて精霊にスク水を着せた男『スク水皇帝』として歴史に名を残させてもらおう!」
「冬の女王」はもちろん、雪国 ベアとカズマも、テンションが上がっていた。
実は、今回の雪合戦には、「勝ったチームは負けたチームにひとつだけ命令ができる」というルールがあるのである。雪国 ベアとカズマは、前回果たせなかった「「冬の女王」にスク水を着せる」という目標のため、野望に燃えていたのだ。
「罰ゲームは氷のお立ち台でスク水ファッションショーでいいんじゃない? ボクには関係ないしね〜」
ズィーベンも、面白がって、相手チームにスク水を着せようとしていた。
それとは対照的に、ソアや波音、アンナ、リカは、純粋に「冬の女王」と仲良くなるのを目的にしていた。
「雪合戦に勝ったら、私、「冬の女王」さんと友達になってもらおうと思うんです」
「うん、せっかく、出会えたんだもん。ここにいるみんな、ずっと友達でいたいよね」
ソアと波音は敵チームながら笑顔を交し合う。
「楽しい夏休みを、皆で迎えられるといいですね。「冬の女王」にも、楽しんでもらいたいです」
「ええ、お互いに頑張りましょうね」
リカとアンナも、エールを交換しあう。
「よし、円陣組むぞ!」
挑戦者チームのカズマのかけ声で、ズィーベン、ソア、雪国 ベア、リカの5人が集められる。
自チームにスク水の素晴らしさを伝えて、戦意高揚を狙うというのが、カズマの目的だった。
「野郎共!俺達の特技は何だ!?」
「「殺せ!殺せ!殺せ!」」
「この試合の目的は何だ!?」
「「殺せ!殺せ!殺せ!」」
「俺達は魔法学校を愛しているか!? スク水を愛しているか!?」
「「「「「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」」」」」
「よし行くぞ!」
「「「「「オーーー!!」」」」」
最初はソアとリカは呆然としており、本気の雪国 ベアと、状況を楽しんでいるズィーベンの声だけが返っていたが、カズマの洗脳に、後半からソアとリカも巻き込まれてしまっていた。
「うーん、ス、スク水はとっても素晴らしいのですー。私だけじゃなくて、皆も着ればいいのですー。「冬の女王」さんも喜んでくれるのですー」
「そうですね、ふふふふふ。「冬の女王」に楽しんでもらって満足してもらいたいですから。それに、着るのは僕達じゃなくて、相手チームの皆さんですからね。うふふふふふふ」
ソアとリカは、目をぐるぐる回して、とんでもないことをつぶやいていた。
「ご主人……。で、でも、俺様たちの野望達成のためには多少の犠牲はしかたがないぜ!」
雪国 ベアは、ソアの惨状を嘆いていたが、すぐに気持ちを「スク水バトルモード」に切り替えるのだった。
「な、なんだか、挑戦者チームがおかしなことになっちゃってるよ? でもでもっ、みんなで遊ぶときっとたのし〜よ!」
波音は、「冬の女王」の手を取って、無邪気な笑顔を向ける。
「うむ、勝てばスク水……わらわ達も絶対に勝利を目指すぞよ! 頼りにしているぞよ!」
「冬の女王」は一瞬、不穏な笑みを浮かべていたが、波音に笑顔を向ける。
「うんっ、あたしたちにまかせてっ」
波音は胸を張って見せるのであった。
アンナも、「冬の女王」にそっと耳打ちする。
「あの子、あなたとお友達になれそうでとても嬉しいみたいです。よかったらお友達になってあげてくださいね。もちろんあたしも、お友達です」
パートナーの波音のことをお願いするアンナに、「冬の女王」はうなずく。
「波音ちゃんもアンナちゃんもとってもかわいいから、お友達になるのは大歓迎ぞよ!」
「それでは、スノウファイト……レディィィゴォォォォですっ!」
審判のナナのかけ声とともに、試合が開始される。
「さっそくだが、まずは「冬の女王」を集中攻撃だ!」
カズマのかけ声で、挑戦者チームの雪玉が「冬の女王」に投げつけられる。
「させるか! 女性陣への攻撃は、俺がすべて防いでみせる!」
ケイが男気をみせようと、「冬の女王」の前に立ちふさがる。
「アシッドミストで雪玉を溶かしてやる……って、さすがにまにあわねえっ!?」
ケイに雪玉が次々当り、身体中が雪まみれになったところで、ナナがホイッスルを吹く。
「はーい、ケイさんはリタイアです!」
「くっ、後は任せたぜ!」
ケイは悔しそうに、「冬の女王」チームのメンバーを見る。
「そなたの勇姿、わらわは忘れないぞよ。皆の者、かわいい魔女っ子の敵を討つぞよ!」
「イヴェール!……俺はウィッチじゃねぇ。ウィザードだ!」
ケイは思わず転びそうになり、激しく自己主張するが、「冬の女王」は全然聞いていなかった。
「集中攻撃かぁ。じゃあ、こっちもやっちゃうよー!」
波音は、「冬の女王」を守ろうと、手を握りながら、ターゲットを定めようとする。そして、障害物に隠れつつ、雪玉を製造して、供給していたズィーベンの姿を捉えたのであった。
「補給を立てば、敵の攻撃も穏やかになるよね! 「冬の女王」、やっちゃって!」
今度は、波音のかけ声とともに、雪玉がズィーベンに集中する。
ズィーベンは、火術の勢いをコントロールして雪玉が溶ける程度の火を投げて、雪弾を水に溶かしていった。
「残念ながら、君達の雪玉がボクに届くことはないんだよぅ〜♪……っていくらなんでもそれは来過ぎでしょ!」
障害物の陰に隠れて雪玉を回避しようとするズィーベンは、応援を求めて叫ぶ。
「敵チームの数を減らしてー! このままじゃ危ないよぅー!」
「よし、俺様の雪国で培った雪合戦の経験に、ゆる族のスキル光学迷彩を加えれば無敵だぜ!」
ただでさえ白い身体が保護色になる雪国 ベアが、光学迷彩で姿を消す。
どこから飛んでくるかわからない雪玉は、「冬の女王」チームを押して行った。
「わー、どんどん来るよ! でもとっても楽しい〜。ねー、冬ちゃーん!」
ユーリは、笑顔で雪玉を避け続ける。
波音は、雪合戦に熱中しつつも、「冬の女王」に話しかけた。
「あたしたち人間が儀式で目覚めさせられなくてごめんね、でもあたしがいつかすごい魔法使いになったら次は絶対目覚めさせに行くよ! だってあたしたちもうお友達だもん」
火術で雪玉を溶かして「冬の女王」への攻撃を防ぎながら言う波音に、「冬の女王」が答える。
「ありがとう。……そんなにわらわのために真剣になってくれた者は今までいなかったぞよ」
「冬の女王」は、今までで一番、優しい笑みを浮かべていた。
「必殺! 誰に当たるか分からない魔球!」
ナイトのスキル、チェインスマイトを使用したカズマの攻撃が、「冬の女王」チームに襲いかかる……と思いきや、それはいきなり空中ではじけた。
「がふっ!?」
鈍い音とともに、重たいものが地面に倒れる音が響いた。
光学迷彩で姿を消していた雪国 ベアに思い切りヒットしていたのであった。
「くっ、戦友(とも)の犠牲は無駄にしないぜ……」
カズマはつぶやくと、さらに魔球を連投しはじめた。
「うわー、味方にも当るんですけど!!」
リカが悲鳴を上げるが、カズマには届かない。
「はーい、そこまでです!」
ナナの声でやっとカズマが静止すると、全員がリタイアした後であった。
「勝った……のか?」
「はい、勝者は挑戦者チームです!!」
「うおおおおおおおおおおお!! 『ドキッ☆スク水だらけの寒中水泳大会♪』開催だ!!」
カズマが感涙にむせびながら雄叫びを上げる。
「しかたないな、約束だから、わらわもスク水を着るぞよ。でも、寒中水泳大会なら、全員着るべきだと思うぞよ」
「そうだな、俺も男なのに、この流れだとどうあがいても着せられちまいそうだし。どうせなら、その方がいいな」
「冬の女王」の言葉に、ケイも同意する。
「あたしたちは寒い思いするのに、ただ見てるだけのつもりなの?」
「そうですね。ここはひとつ、全員平等にすべきではないでしょうか」
「ユーリもみんな一緒がいいなー」
波音とアンナ、ユーリも口々に言う。
「え……なんか予想してたのと違うんだが……」
「スク水が見たいのか、見たくないのか、どっちなのぞよ?」
「当然、見たい!!」
カズマは、「冬の女王」に押し切られ、全員がスク水を着ることになったのであった。
「寒い! 外はさらにとっても寒いですー!」
ソアは冬のルクオールでスク水を着るのは2回目であった。
「氷のお立ち台も採用なんだね。でも、面白いからまあいっか」
「審判だけど、やっぱり私も着るんですね……」
ズィーベンとナナも、スク水姿でお立ち台に乗る。
「寒いけど、「冬の女王」も喜んでますから、まあ、問題ありませんよね」
リカも、お立ち台の上でつぶやく。
「はーい、皆さん、笑ってください!」
アンナの提案で、全員が携帯で記念撮影することになった。
氷のお立ち台の上で、雪合戦参加者達は、ポーズを取る。
その写真には、全員スク水姿で、恥ずかしそうに、でも、とても楽しそうに、雪合戦メンバー達が写る姿があった。
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