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リアクション
第2章 エリザベートとアーデルハイトの仲直りのこと
ルクオールの氷の城では、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が、アーデルハイトと「冬の女王」に招待状を届けていた。エリオットは、エリザベートに招待状を届けたメリエル・ウェインレイドのパートナーである。
明るい緑色のマントで全身を覆ったエリオットが、紳士然とした態度で、優雅に一礼する。
エリオットは、まず、アーデルハイトに「アイスバトル2019inルクオール大会運営委員会」からの手紙を差し出した。
「アーデルハイト女史。貴女のために生徒が色々なアイスを作っている。シャンバラ山羊のミルクのアイスもあるかもしれない。一応エリザベート校長も誘っているが、無理に仲直りしろとは言わないので、少しの間だけでいいからケンカの事は水に流し、イベントを設営してくれている生徒たちのためにイベントを楽しんでやってほしい」
続けて、エリオットは「冬の女王」にも招待状を渡す。
「貴女に楽しんでもらおうと思ってイルミンスール魔法学校の生徒たちがイベントを考えてくれている。後、そこのアーデルハイト女史のパートナーにしてイルミンスールの校長、エリザベート・ワルプルギスもイベントに呼ぶつもりだ。割と可愛らしい外見と中身なので、アーデルハイト女史と同じく気に入ると思うから、できれば参加してやってほしい」
「そうかそうか! わらわのためにイベントを開催するとは、なかなか殊勝な心がけぞよ」
「冬の女王」は、上から目線の物言いながら、素直に喜んでいた。
「しかたないのう。大切な生徒達がせっかく開催してくれたイベントじゃ。私が行かないわけにはいかんじゃろうな」
アーデルハイトも、なんだかんだいって、うれしいようだ。
「アデルたん! さあ、このメイド服を着て、写真撮影だ!」
一方、ベア・ヘルロットとマナ・ファクトリは、ふりふりフリルのメイド服を用意していた。
「お前ら、いつまでそんな狂言誘拐の続きをやってるんじゃ……。私がそんな服着るわけないじゃろう」
「ええっ、私が夜なべして作った自信作なのに……」
「そうだぞ、マナが高い家庭に物を言わせて作ったメイド服なんだ。記念撮影しようぜ!」
「ベア、『高い家庭に物を言わせて』って何よ」
「もう、お前らとはやっとられんわ」
ベアとマナの漫才に、つっこみ体質のアーデルハイトはついついつっこんでしまう。
「だいたいな。あんなバレバレの狂言誘拐やったところで、エリザベートが来るわけがないじゃろう」
アーデルハイトがそう言った瞬間、氷の扉が勢いよく開かれた。
エリザベートを抱えた鉄 九頭切丸が思いっきり蹴破ったのであった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、壊しちゃってごめんなさーいっ!」
水無月 睡蓮はじめ、他の学生達も、続々と部屋に入ってくる。
「な、なんじゃなんじゃ、この騒ぎは」
さすがに、アーデルハイトも驚いているようであった。
そこへ、イルミンスールの講師であるアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が進み出て、アーデルハイトを批判し始めた。
「確かに今回の件のきっかけは校長ですが、アーデルハイト様がほぼ悪いとしか言いようがありません。年長者で、校長の保護者かつ後見人という立場にありながら、校長の行為を嗜めることもせず立場を放棄して逃亡した。これだけで既にアーデルハイト様に校長を非難できる資格はありません。加えて、逃亡による混乱で学校業務に甚大な影響が出ています。目下の者に敬意を払われるには、敬意を払われるような責任感と態度を示すべきです。更に、『年寄りは子どもにアイスを譲るもの』と自分で口に出すのはどうかと思いますが、この点も校長に同意ですな。可愛い子や孫も同然の校長にアイスを食べられたとして、せいぜい『はしたない』ことを注意して、後は笑って許すか『今度は一緒に食べよう』とでも言うのが大人です」
「む、部外者のくせに、何を言うのじゃ……」
いきなり正論を展開されたアーデルハイトが反論しようとすると、ソニア・アディールも、アルツールの意見に頷きつつ、説教をはじめる。
「アーデルハイト様、エリザベートさんも反省してると思いますから許してはいただけませんか。しかしアーデルハイト様……今、ご自分でおっしゃったとおり、御二人だけの問題だった事をここまで広げて周りに迷惑をかけた責任はあなたにあるのです! ちゃんとあなたも反省してください!」
「あなたたち、もうやめなさぁい!」
九頭切丸から飛び降りたエリザベートが、アルツールとソニアをさえぎる。
部屋がしんと静まり返り、アーデルハイトはうつむくエリザベートをみつめる。
「エリザベート……」
「超ババ様は、ほんとうは、ほんとうは、ぜんっぜん、悪くないのですぅ。……悪いのは、大事なアイスを勝手に食べて、いじわるを言ったわたしなのですぅ。……ごめんなさい」
エリザベートは、最後の方は消え入りそうな声で、アーデルハイトに謝罪した。いつもの強気な様子からは想像できない、年相応の、7歳の少女の姿があった。
「い、いや、もう、気にすることはないぞ! エリザベート、アイス大会も開催されるということじゃし、一緒に行こう。な!」
アーデルハイトは完全に毒気を抜かれたようで、エリザベートの手を取ると、恥ずかしそうに言った。
「まあ、その、私も、大人気なかったかもしれんからの……」
和解する2人の様子を見て、学生達は安堵のため息と、歓声をあげる。
「よかった、これで、万事解決ですな」
アルツールは満足そうに独りごちる。
アルツールの意図は、エリザベートとアーデルハイト、両者の不満と怒りのガス抜きを行うことであり、あえて自分が悪者になることで、エリザベートが謝りやすい状況を作っていたのだった。
「仲直りできてよかったです! さっそく、アイス大会に行きましょう!」
ソニアは、エリザベートとアーデルハイトの手の上に自分の手を乗せると、にっこり微笑んだ。
ソニアのパートナーのグレン・アディールも、その様子を見て、自然と笑みを浮かべていた。幼いころから戦場にいて、感情が乏しく、滅多に笑うことのないグレンだったが、こうした情景を見て、暖かい感情がわきあがったのだった。
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