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リアクション
第4章 アイス大会のアイス作り、事前準備のこと
ルクオールの特産品であるシャンバラ山羊のミルクを手に入れるため、フィッツ・ビンゲン(ふぃっつ・びんげん)とパートナーのヴァルキリールーザス・シュヴァンツ(るーざす・しゅばんつ)、アルフィエル・ノア(あるふぃえる・のあ)は頑張っていた。
「火術で温度調整に気をつけて小屋を暖めれば、シャンバラ山羊もリラックスするよね」
「同じことを考えてくれている人がいて助かりました。1人では、小屋を暖めるのも限界がありますからね」
フィッツとルーザスは口々に言い、フィッツが魔法を使うのをルーザスが注意深く見守る。
アルフィエルは、音楽をかけたり、グルーミングやマッサージを行うなど、山羊の執事になったつもりで、献身的に世話を行っていた。
「アーデルハイトちゃんとエリザベートちゃんの仲直りのためにも! 山羊とも仲良くなるんだ」
アルフィエルにブラシをかけてもらい、シャンバラ山羊はうれしそうに鳴く。
和泉 真奈(いずみ・まな)、仁科 響(にしな・ひびき)、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も、それぞれのパートナーがアイス作りに使用できるよう、ミルク入手に協力していた。
「私は料理が苦手なのですが、アイス大会にまにあうようにミルク調達ができるといいですわね」
「ボクも、頑張りますよ! 絶対にミルクが出るようにしてみせます!」
真奈と響の言葉に、ベアトリーチェもうなずく。
「お湯を沸かして身体を拭いてあげたり、藁を小屋に敷き詰めてあげたり、雪かきしたり……できることはたくさんあると思います。がんばりましょう」
「ええ」
「よーし、力仕事は任せてください!」
真奈は笑顔で、小屋の外でお湯を沸かし始める。
響は、アーデルハイトを神と崇めるほど尊敬しているため、シャンバラ山羊のミルク調達に全身全霊を注ぐつもりだった。
「小屋がだんだん暖かくなってきたよ。元の環境にも近づいてきたんじゃないかな」
「フィッツ殿、山羊もだいぶ機嫌がよくなってきたようですね」
フィッツとルーザスの言葉通り、小屋は温室のように暖かくなり、リラックスしたムードが漂い始めた。
「山羊がすりすりしてきたよ! あははははは」
小柄なアルフィエルに、山羊がじゃれついていき、ほのぼのとした光景が広がっていった。
そこに、シャンバラ教導団軍服に身をつつんだ長身の男、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)があらわれた。
「冬になって驚いてしまったのなら、夏になればミルクが出るでだろう。北風と太陽ということだ」
「うんうん、優しくしてあげれば、きっとミルクが出るよね」
フィッツがイレブンに微笑むが、イレブンの言葉の意味はだいぶ違っていた。
「熱くなれば万事解決するはず! 爆炎波!!」
カルスノウトを一閃し、イレブンは地面をほとばしる炎を出現させる。
シャンバラ山羊の小屋は、火の海と化した。
「らめええええええええええええええええええええ!!」
「何っ、うごっ!」
シャンバラ山羊が絶叫を上げ、渾身の蹴りを放つ。
顔面にシャンバラ山羊の蹴りが直撃し、イレブンは派手に小屋の外に吹っ飛ばされる。
「わー、早く火を鎮めないと!」
フィッツがあわてて、火術で火の勢いを弱め、真奈と響、ベアトリーチェが、あわてて雪かきしていた雪を火の上にかける。
「え、うそ!? 皆、見て見て!」
アルフィエルの言葉に、その場にいたメンバーが注目すると、シャンバラ山羊のミルクが出るようになっていた。
「今ので、びっくりして出るようになったんだね。……結果オーライ、なのかな?」
「とにかく、ケガ人が発生せずによかったです……」
首をかしげるフィッツの顔を見て、ルーザスはため息をついた。
とにかく、シャンバラ山羊のミルクは確保されたのであった。
そして、アイス作成に参加していた者たちは、シャンバラ山羊のミルクを充分な量、手に入れることができていた。
ルクオールの民家を借りて、ジャックとエレート・フレディアーニ(えれーと・ふれでぃあーに)とパートナーの剣の花嫁レトガーナ・デリーシャー(れとがーな・でりーしゃー)、樹月 刀真(きづき・とうま)とパートナーの剣の花嫁漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、一緒にアイス作りを行う。
「まず、材料を計量器で測ります。お菓子は、正確に測らないと、味が変わってしまいますものね。慎重に……」
アイス作りがはじめてのエレートは、手順を小さく声に出して確認しながら、ゆっくり着実に作業を行っていた。
「それにしても、アイスとは美味しいものか? 妾は食べたことがないので、知らぬ」
レトガーナは、エレートと一緒に桃やブドウなどのフルーツをカットしながら言った。
表情にこそあらわれていないが、レトガーナは楽しそうだった。
「おう、アイスはめちゃくちゃ美味いぜ! エレートも、そんなに細かくやらなくていいと思うぜ! 料理はパッションだ! ファイヤー! なあなあ、これ入れると美味くなると思わないか?」
「ジャック、いいと思う。色もきれいだし」
カレー粉を取り出すジャックに、月夜は素人考えで同意する。
「アイスにカレー粉は使いません、コラその怪しい食材は何ですか!?」
「え? 納豆と塩辛入れてみたんだけど」
刀真のつっこみに、ジャックはきょとんとした表情で答える。
「ジャック、ワサビアイスというものがあるって本で読んだ。だからこのファイアーペッパーとかアイスにどうかな?」
「おお! 情熱の赤だぜ! ファイヤーだぜ!!」
月夜の提案に、ジャックは拳を振り上げて叫ぶ。
「そんなに暑苦しくやったらアイスが溶けちゃうでしょうがッ!」
「ぐえっ!?」
美羽の後ろ回しかかと蹴りが、ジャックの側頭部に炸裂した。
気絶したジャックの襟首をつかんだ美羽は、往復ビンタで叩き起こす。
「へぶっへぶっ!?」
「私がちゃんと教えてあげるから! アイス作りは女の子のたしなみなんだからね!」
美羽は、ジャックを乱暴に揺さぶって、無理やりうなずかせる。
「アイス作りは女の子のたしなみ、なんですの……?」
「どうしたのだ? 衝撃を受けたような顔をして」
美羽の言葉にショックを受けるエレートに、レトガーナが不思議そうにたずねる。
「な、なんでもありませんわ。美羽さん、私にも教えていただけないかしら」
「うん、皆まとめて、私が面倒見ちゃうよ!」
知識追求のためには、「聞くは一時の恥」と考えたエレートに、美羽が拳を胸の前に当ててみせる。
「私も……お手本見ながら作ってみる」
月夜はそう言いつつ、ファイアーペッパーをアイスに投入した。
試作品を刀真に差し出し、月夜は期待のまなざしを向ける。
「赤いアイスか……苺かな? ……ブッ! かっ辛っ、唐辛子アイスなんか作るんじゃね〜」
ファイアーペッパーアイスを吹き出して、刀真はちゃぶ台返しをする。
「ダメ? じゃあ、今度は甘いのを……以前甘いモノに塩をかけると甘味が引き立つと本に書いてあったのを読んだことがある、だから塩を少し混ぜて……」
そう言うなり、月夜は塩の瓶の中身をボウルにぶちまけた。
「……塩アイスって食べ物もあるらしいし」
月夜は、また、試作品を刀真に差し出す。
「今度は色はまともだな……塩辛い」
口に運ぶなり、刀真は机に突っ伏す。
「なあ、やっぱり、俺たちもああいうの作ったほうがいいんじゃねえの?」
「いいわけないでしょ!!」
美羽の蹴りが、またもジャックに炸裂する。
かくして、一部で被害を出しつつも、3種類のアイスが完成した。
まずは、エレートとレトガーナの、桃とブドウの二色の正統派フルーツアイス。
「無事に完成してよかったですわ」
「きれいな色彩だな。きっと喜んでもらえるであろう」
エレートとレトガーナが、顔を見合わせて満足そうに言う。
そして、美羽が、パートナーのベアトリーチェが入手したシャンバラ山羊のミルクと、地球の生チョコを合わせて作った、濃厚チョコミルクアイス。
「ジャックもやればできるじゃない!」
「おうっ! 当然だぜ!」
美羽が褒めると、つっこまれすぎてボロボロになっていたジャックは、うれしそうに笑ってみせた。
そして、月夜が独創性を発揮して作ったアイスであったが。
「こ、これは一体? 煙が上がっているんですが……」
刀真は、白い煙を上げる真っ黒い謎のアイスを見つめ、戦慄していた。
「アイスの親戚だろうと思って、白い塊……ドライなんとか、っていうのを入れてみたの。刀真、今度こそ大丈夫……美味しいはず?」
「ドライアイスはアイスの親戚じゃないし、そもそも食べ物じゃありませーんっ! ぜ、全力で遠慮させていただきますっ!!」
謎アイスのその他の材料は、怖くてこれ以上聞けない刀真であった。
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