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マジケット攻撃命令

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マジケット攻撃命令

リアクション

 キマクに向けて移動中なのはマジケット参加者たちだけではない。その後を追うように、青少年健全育成装甲突撃軍の主力部隊もキマクを目指していた。
 空飛ぶほうきに乗った茅野 菫(ちの・すみれ)が、上空から急降下して来るなり、ハツネのいる司令部のテントに乗り込んでいった。
「ちょっとっ、あれはいったいどういうことだっ?」
「誰かと思えば航空総体隊長か。茶会に来るには騒々しいザマスね?」
 ティータイムを邪魔されたハツネは嫌み混じりに答える。
「キマクへ向かう道々の集落が片っ端から襲撃を受けてる。あんたの仕業だろ?」
 つかみかからんばかりの勢いに、ハツネの側近たちが武器を手に前に出る。ハツネは、それを追い払うような仕草をしながら、
「なぜ我が軍だと?」と短く答えた。
「被害にあった住民の証言だ」
「住民どもが襲ったのは我が装甲突撃軍だといったのか?」
「いや……でも彼らが言うには、こんなことになったのはマジケットが……」
「確たる証拠はないんザマスね?」
「でもっ」
「報告は了承した。でも今は作戦中。内部捜査に割く時間は無いザマス」
 菫はイライラを隠せない。それならばと菫は切り口を変える。
「では、集落を襲撃している集団を発見したら、住民保護のため航空隊は攻撃を行います」
「絶対に不許可ザマス。我が軍が軍事力を行使できるのはマジケットの非合法勢力との交戦、それも相手方から仕掛けてきた場合のみ。知っての通り、これは校長命令ザマス」
 この雌ギツネめ……と、鋭い視線を突きつける菫。菫はハツネの行動を逐一、イルミンスールに待機するパートナーのパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)に報告していた。もしハツネが暴走して殺戮戦をはじめた場合、すぐさまエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)校長に報告、校長命令による指揮権の剥奪を計画していたのだ。それを逆手にとるとは……。
「任務ご苦労。期待しているザマスよ」
 と、目の前のハツネはどこ吹く風といった面持ちで紅茶を楽しんでいた。

 集落を襲撃していたのは言うまでもなくハツネの部下たち、キマクに先に展開していたクレーメックたちの特別行動隊だった。その司令部に、『焦土作戦』を展開していたゴットリープがもどってくる。
「これはこれはゴットリープ君。作戦の戦果はどうだったかな?」
「首尾は上々。周辺集落のほぼ全てがすでに破壊されましたっ」
「すばらしいっ♪ 参加者どもの顔が見たいな。はっはっはっ」
「まったくですな! わっはっはっは」
 クレーメックはフルートグラスを持ってこさせると、シャンパンを注いでふたりで乾杯した。
「それで、実行部隊に雇ったパラ実崩れどもはどうした?」
「どうしたといいますと?」
「始末したよな?」
「いや、報酬を渡して返してしまいましたが……」
「は?」
「何か問題でも?」
「大ありだろうゴットリープ君っ! 連中がこれから何をするかわかるか?」
「いえ……」
「あぶく銭を持って酒場に行って、大はしゃぎで手柄話をするんだよ!」
「しまったーーっ!」
「これでは秘密作戦も我々の正体も大バレではないかーっ!」
「ど、どうしましょう?」
「どうしましょうじゃないっ!」
「今からもう一度連中を集めては……」
「いや……それよりいい手があるぞ」
「おお! 本当ですか?」
「連中は君の顔しか知らない」
クレーメックはホルスターから拳銃を抜いて装填する。
「君が行方不明になれば問題は解決するじゃないか」
「ちょ……そんなあっ。長いつきあいじゃないですかあっ!」
「悪く思わないでくれたまえ」
 クレーメックがゴットリープに銃口を突きつけたとき、サイバー攻撃担当のマーゼン・クロッシュナーが駆け込んできた。彼はマジケットの公式サイトをクラックして、アクセスした参加者のPCにウイルスを感染させ、PCを起動不能にしたり、クレジットカードのパスワードを読み取って巨額の買い物をさせたりしていた。
「緊急事態だクレーメック殿っ!」
「今度はどうしたっ?」
「怒り狂ったネットユーザーどもが我々のPCをハッキングしてこちらの居場所を割り出したらしいのだ。現に今、こうしている我々の姿がリアルタイムで動画配信されている……」
「なん……だと?」
 クレーメックが周囲を見回す。
 すると、空中にぽつんと、小さなカメラのようなものが浮いている。クレーメックは反射的にそのカメラに向けて拳銃を発砲する。銃弾は標的を外したものの、その撮影者はカメラを捨てると、光学迷彩で身を隠したまま大急ぎで逃げていった。
 ネットの掲示板ではすでに「だが証拠はつかんだ」「通報すますた」などの書き込みが滝のように投稿され、祭り状態になってしまっていた。
「……どうする?」
 マーゼンが不安げに訪ねる。
「そうだ!」
 クレーメックが何か思いつく。
「おお、何かアイディアが?」
「マーゼン君、カメラを持って撮影をつづけてくれ」
 クレーメックはマーゼンにそっとささやいてからカメラの前に立つと、携帯電話を取りだし、話し始めた。
「もしもし。ハツネ閣下でありますか? 作戦はすべて順調であります。しかしながら、我々は良心の呵責にかられています。本当にこんなひどいことをして良かったのでありましょうか? はっ、なんとっ! 閣下が責任をとられると! 了解でありますっ」
 クレーメックはマーゼンに録画をやめるようにうながすと、携帯電話をしまう。
「閣下がそうおっしゃったのですか?」
 ゴットリープが訪ねる。
「まさか。さて、ハインリヒとケーニッヒにも連絡して我々は逃げるぞ」
 ハツネに負けずひどい奴らである。

 それと似たようなことをしていた部隊がもうひとつあった。マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)と、そのパートナーカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)が指揮する『空挺部隊』である。
 彼らは小型飛行船何隻かでゴーレム2体をつり上げて空路で移動し、通りすがる作家に空から攻撃を仕掛けていたのだ。
「マリちゃん、見て見て。またターゲットはっけんだよっ」
「ふぅーむどれどれ?」
 マリーが望遠鏡でのぞくと、陸路を馬車で移動する小集団が見つかった。
「おおーう。カナちんは偉いでありますなー。それではあいつら目指してれっつごーでありますよっ」
 マリーたちの部隊は獲物に向かって飛空挺を飛ばす。そして荷馬車の隊列の目の前に、ずどーんとゴーレムを降下させた。
「はーーーるとっ! 今すぐに馬車から全員出てくるでありますっ」
 マリーがそう叫ぶと、ひとりの女の子が出てきた。
「なんですか」
「おおぅ。かわいいお嬢ちゃん」
「む。わたしは雪だるま王国女王ですよ。今すぐ降りてきてひれ伏しなさい」
 その少女とは赤羽 美央(あかばね・みお)である。
「どーした未央陛下?」
 と、マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)を先頭に、国民もぞろぞろ出てくる。
「何だよハツネの突撃軍が何の用だよ? せっかく寝てたのに」
 椎堂 紗月(しどう・さつき)は不機嫌そうだ。
「なーーーぃん。わてらは通りすがりのイタリア軍。装甲突撃軍ではないでありますよ!」
「だってゴーレムにエンブレムがついてるし」
 あっさりと音井 博季(おとい・ひろき)が正体を見破る。
「ななななんとっ。おのれよくも正体をっ。見られたからには生かしておけぬでありますよ? さあっ、ゴーレムよ。そいつらを皆殺しにしなさいっ!」
 マリーとカナリーが指輪をかざすと、ゴーレムの目が光り、動き出す。
「ルイ、そーいえば最近機晶姫ちゃんと契約かわしたんだってな?」
「そうデスけど?」
「性能テストに使ってみたら?」
「OKデス。リアちゃん、やっつけてみてクダサイ」
「了解。ミサイル全弾投射」
 六連ミサイルポッド2基を装着したリア・リム(りあ・りむ)は、ゴーレムに向けて合計12発のミサイルをたたき込んだ。
 もちろん、ゴーレムは跡形もなく吹き飛んだ。
 残りはあと一体だ。
「おっしゃ、それじゃ俺たちも暴れさせてもらうぜ!」
 マイトはバーストダッシュで一気に距離を詰める。砲口を向け機関砲を乱射するゴーレムに正面から突っ込んだのだ。
「イルミンスール武術はなぁっ!」
 弾幕をくぐって背後に回り込むと、手にしたランスで後頭部に一撃をたたき込む。
「ゴーレムなんかにゃまけねーんだよっ!」
 ゴーレムがマイトを振り返ると、今度は紗月が2撃目を加える。
「くらえっ! 爆炎破っ」
 炎をまとった蹴りがゴーレムの背中の薄い装甲を貫通した。
「これでとどめだっ」と、音井の光条兵器がゴーレムを貫いた。
 ゴーレムは崩れ落ち、爆散する。
「なんとーおっ。イヤしかし、我々が装甲突撃軍だという証拠も粉々になったわけであるからここは退散でありますよっ」
 と、マリーたちは飛空挺を飛ばして逃げていった。