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リアクション
放課後のイルミンスール魔法学校では、最近続々とできたサークルにそれぞれの部員たちが集まって、わいわいと楽しそうに話している。そのなかのひとつに、『雪だるま王国』がある。
「えっ? マジケットで雪だるまを販売するんデスカっ!?」
「うむ。おおきいのとちいさいの、2種類用意しなさい」
雪だるま王国女王赤羽 美央(あかばね・みお)の発案に、褐色のスキンヘッドお兄さん、ルイ・フリード(るい・ふりーど)が驚愕する。
「無理デスヨ。溶けちゃいますよ?」
「おだまりなさい。女王の命令は絶対なのです」
「そんなこと言っても……」
「女王陛下、さすがに雪だるま本体販売は無茶だとおもうぜ?」
武術部部長、ではなく、ここでは雪だるま王国切り込み隊長のマイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)がフォローする。
「僕もそう思うな。クロセルさんが言うには雪だるま王国自体が青少年健全育成ナントカにマークされてるらしいですし」
金髪の青年、音井 博季(おとい・ひろき)もマイトの意見に賛同する。
「俺も反対。だいたい、出店申し込み期限、とっくにすぎてるんじゃね?」
過去の栄光(?)から、『雪だるま王国の暴れん坊将軍』なる、一応ジェネラルの称号を持つ椎堂 紗月(しどう・さつき)もうんざり顔だ。
「むむー」
国民みんなに反対された未央女王は、何かいいアイディアは無いかと知恵をしぼる。と、そこへマイトが再び助け船を出す。
「んじゃさ未央」
「む。女王様と呼ぶのです」
「あそっか、悪りぃ。んじゃ女王様、雪だるまの本を作るってことにしねーか?」
「本?」
「そうだ。雪だるま王国の宣伝になるような本作ろうぜ」
「それはよいアイディアです。褒めてとらします」
「さすがマイト部長デスね」
ルイが手を打って感心する。
「では、皆に『童話 スノーマン』の制作を命じる」
「女王陛下の仰せのままに」と、皆が唱和する。
「……で、それはいったいどんな本なんですか?」
そう音井が女王に尋ねると、女王はにっこりほほえんで、
「とびきり笑えてほんのり泣ける、すばらしいお話です」と、答えた。
「ヒャッハー! 面白そうだぜ。で、ストーリーは?」
「それは皆が考えて作るのです。締め切りは今日中です。以上王国会議終了」
「ヒャッハー! 無茶言うぜ!」
マイトは、変な提案するんじゃなかったと、そのときちょっぴり後悔した。
『童話 スノーマン』は、国民総力をあげてその日の昼夜を通して作り上げられ、翌朝になって完成した。
完成したサンプル本は、完全消耗して死屍累々の国民に代わり、未央女王自らが、パートナーのついでにパートナーのタニア・レッドウィング(たにあ・れっどうぃんぐ)と一緒に『マジケット旅行社』に持って行って出店許可を求めることになったのだが、受け付けたファタ・オルガナは、微妙に嬉しそうに、
「むふふふー。残念じゃったのう。遅刻じゃ」
と言った。
イルミンスール魔法学校の近くの森、颯爽の森の真ん中に位置するウィール遺跡にマジケット防衛委員会の非公然アジトが設けられている。
そこへ3人の少女が、周囲の様子をうかがいながら小走りに駆けてくる。
と、突然、茂みから何かが飛び出し、3人に銃口を突きつけた。
「!?」
「ふぅ、味方か」
「脅かさないでくれない? アキラさん」
全身にカモフラージュネットと草や枝をくっつけたアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)が、ようやく銃口を降ろす。
「これが仕事だ。それに俺はアキラじゃない。アクィラだ」
アクィラが「通っていいぞ」と仕草すると、3人は、巧妙に偽装された簡易施設の中に入っていった。
「リリおよびララ、特殊任務より帰還した」
前パッツンにした黒髪の少女、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)と、そのパートナー、ララ サーズデイ(らら・さーずでい)が、マジケット観光社のビラ貼りからちょうど戻ってきたところだ。
「50枚くらいは貼り付けてきたな。もっとも、ハツネの部下がはがして回ってるからいたちごっこね」
「うん。でも無事で良かったですぅ」
第一次マジケット戦争で別働隊を指揮し、今は防衛委員会の総司令官である皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が出迎える。
「それと、伽羅さん」
そういってリリは、背中に隠れるように立っているひとりの少女を、前に進み出るよう促した。
「あの、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)ですっ。よろしくお願いしますぅ」
そういってメイベルはぺこりと頭を下げた。
「おお? 新しい仲間か?」
かわいい女の子の援軍に反応したのか、奥に座っていたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が興味津々で出てくる。
「ビラ貼りしているところを声をかけられたのだよ。それで、連れてきた」
「おじょーちゃん、俺はラルクだ。よろしくな」
ラルクは気さくに握手を求め、メイベルは戸惑いながらもそれに応じる。
「はっはっは。そんなに堅くなるな。もしもの時は俺が守ってやるさ?」
「あ、ありがとうございますぅ。でも私にはこれがありますからっ」
と、メイベルはミズノと書かれた野球のバットを掲げた。
「わたしとあとふたりのパートナー、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)とフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)、3人あわせて白百合撲殺天使隊なのですぅっ」
「うはぁ。こりゃおっかない女の子だねぇ。失礼失礼」
ラルクが苦笑いしながら頭をかく。だが、そこに、
「えとぉ、あんまり言いたくないんだけど、大丈夫なのですかぁ? メイベルさん、突撃軍のルカルカ・ルーと知り合いですよねぇ?」
と、伽羅が会話に割り込んだ。伽羅は不安げな顔を隠さず、
「前回のマジケットではスパイのおかげで大変な目に遭いましたしぃ、それに戦部さんや志方さんの件もありますからぁ……」
と、続けた。
「スパイなんかじゃありませんよぅ。さっきもふたりにさんざん言いましたっ。ハツネってオバサンをボコンボコンにするためにきたのですよぅ!」
「うむぅ……」
「ま、信用しようぜ。ただでさえ仲間が足りねーんだ」
「リリもラルクに賛成だな」
「あのぉ、仲間ってこれしかいないんですかぁ?」
メイベルは辺りを見回す。
「マジケット観光社で受付やってるふたりも仲間なんですよ。彼女たちには道中の護衛をお願いしてあるのですぅ。それから四条 輪廻(しじょう・りんね)さんと青 野武(せい・やぶ)さんが会場の下見に現地に向かってて、七尾 蒼也(ななお・そうや)さんとミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が、今回の後援団体の潜入調査任務についてます。松平 岩造(まつだいら・がんぞう)さんも仲間に加わってくれるみたいですけど、連絡が取れないんですよぉ……」
「ふむむぅ。まともに戦って勝てそうにはないですねえ」
そこへ。
「あのぉ、防衛委員会に入れていただきたいんですけど……」
と、やってきたのはカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)だった。
「だめですよぉっ! カレンさんは前にスパイやってたじゃないですかぁっ」
「あは、やっぱり、ダメ……ですよね?」
伽羅はどっとため息をついた。
その頃。
ヒラニプラの駐屯地で。
龍雷連隊総員100名の精鋭を前に、連隊長松平 岩造(まつだいら・がんぞう)はパートナーの武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)と共に、出撃命令を発しようとしていた。
「よいか皆のもの。これは我が龍雷連隊総力を持って望む一大作戦である。我々の連隊はこれよりキマクに向かう。作戦目標はキマクにある黒豚逓信社。これは鏖殺寺院の手先である。この黒豚逓信社の無力化が諸君らの任務である」
隊員たちがざわめく。噂のマジケット関係の任務なのか、それにしてもマジケットが鏖殺寺院と絡んでいたとは……。等々。
松平はさらに言葉を続ける。
「作戦はそれで終わりではない。作戦第一段階の終了後、迅速にマジケット会場前に部隊を展開し青少年健全育成装甲突撃軍に対して打撃戦を行い、司令官、寒極院ハツネを身柄確保あるいは殺害すること。これを第二段階とする。何か質問はッ?」
松平は二度目のマジケット戦争へ並々ならぬ執念に燃えていた。第一次マジケット戦争において、松平はハツネを殺害する機会を与えられていた。そのときに助命などせず地獄にたたき落としておけば、この様なこともなかっただろうにと歯がみしていた。
「では龍雷連隊、全軍出撃!」
隊長の号令と共に、連隊は戦場へと向かっていった。
それとときを同じくして、青少年健全育成装甲突撃軍も着々と進撃の準備を整えつつあった。
「新型ゴーレムの配備状況は現在73機、現時点での稼働率はほぼ100%です」
屋外にずらりと整列された新型装甲ゴーレムの前を寒極院ハツネと、その副官として任命された戦部小次郎が並んで歩く。
「ゴーレムはそれだけあれば充分ザマス。航空隊は?」
戦部はさらにメモを読み進める。
「前回マジケット戦争で消耗した分は補充してあります。ただ、イルミンスール魔法戦闘航空団団長の茅野 菫(ちの・すみれ)が航空総隊の指揮権を要求しているとのことですが、認可なさいますか?」
「問題があるか?」
「いえ……あまり外部の者に重職を割り振りすぎては、と」
「戦部、おまえが言うザマスか?」
「は……」
「いいだろう、念のため政治将校を2、3人つけておけ。処刑許可書も前もってサインしておく」
「了解しました。それから教導団から『アーエル・コープフ』を名乗る士官たちが参加を希望しています。彼らは今、ロビーに待たせております」
「うむ。案内するザマス」
そんな会話を、レオンハルト・ルーヴェンドルフは遠くから冷ややかに見つめていた。
「裏切り者の腰巾着が。まるで道化だな」
「せやせや。戦部といい志方といい、なんちゅー神経しとんねん」
「全くですよ。我々古参の部下を差し置いて、ハツネさまは何を考えてらっしゃるのでしょうねぇ」
合いの手を入れたのは同じく第一次マジケット戦争でハツネの側近……というより何となくくっついていて殆ど何の役にも立たなかったふたり、日下部 社(くさかべ・やしろ)とクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だった。
「フッ。貴様らがそれを言うと悪いジョークにしか聞こえんぞ?」
「なにいうてますねん? 俺らは命がけで戦こーてましたで?」
「そのとおりっ。我らは最精鋭部隊『ローテ・リッター』と共に敵軍のまっただ中にっ!」
「ほう。ではなぜ貴様らのバートナーが情報収集そっちのけでプレミア同人誌をあさっていたのかな?」
「うほ!」
「なぜ……それをご存じでっ?」
「スパイはひとりではない。スパイ同士の相互監視も任務のひとつだということだ」
「そのお、それはつまりアレですわ。その……なんちゅーか。はっはっは」
「日下部君はつまりですねえ、その、遠足にだって自由行動の日があるでしょう? ということを言いたかったのでありましてですね!」
「それですわ! クロセルはん、えーこというた!」
「だまれ……貴様らと話すと頭痛がする」
「これは大変、風邪を召されましたか?」
「殺されたいのか?」
「ひぃぃ」
「……まあいい。同じ道化でも貴様らのほうがまだ愛嬌がある。ハツネさまが前回の作戦での『背後からの一撃』を教訓としていないはずが無い。貴様らも気をつけるのだな。土壇場で裏切るのは構わんが、それもおそらく計算済みだぞ?」
クロセルと日下部は肝を冷やしていた。この男、どこまで自分たちのことを知ってるのやら。これは一度ハツネ司令官に面通しして、忠誠ぶりをアピールしなきゃまずいだろう。と、ふたりは思った。
ハツネと戦部がロビーに入ると、5人の教導団軍服の士官がかかとを鳴らせて起立した。と、待機していた突撃軍下士官が「ジークハイル!」と叫んでから上申する。
「報告します。装甲突撃軍入隊志願者として以下の者たちが志願しております!」
「よろしい。順に名前を名乗るザマス」
そう言われた志願者たちは右から順に、敬礼しながら名を名乗った。
「クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)教導団第一師団参謀科少尉でありますっ!」
「参謀か。どちらかというと前線指揮官がほしいザマスが。次っ」
「航空科士官候補生、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)でありますっ!」
「航空隊配属希望と言うことか? パイロット資格はあるのだろうな? 次っ」
「憲兵科士官候補生マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)でありますっ!」
「憲兵は多い方がいい。次ザマス」
「ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)。自分は工兵科士官候補生でありますっ!」
「連中の仕掛け爆弾で犬死するでないぞ。次」
「歩兵科士官候補生ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)でありますっ。閣下に一命を捧げます」
「歩兵こそ軍の要。心強いザマス。以上ザマスね? 何か質問は?」
と、クレーメックが一歩前へ出て、再びかかとをカツンとならした。
「僭越ながら申し上げます。我々『アーエル・コープフ』は独立梯団として行動することを上申いたします」
「具体的には?」
「はっ。本官クレーメックを梯団指揮官とし、ゴッドリープはキマクまでの路程にある集落の焦土作戦、マーゼンはマジケットウェブサイトへのサイバー攻撃、ハインリヒは封鎖・検問を行い、ケーニッヒは偽情報によってマジケット守備軍の出撃を誘発し、これを奇襲殲滅するものとしますっ」
そう言ってクレーメックはハツネの顔色を伺った。が、ハツネはいまいち気乗りのしない様子で考え込んでいた。
ハツネは「少し待つザマス」と言うと、戦部をつれて少し離れ、なにやら相談事をする。そうして戻ってくると、
「よかろう。貴官らを『ゾンダーコマンド(特別任務班)』として独立梯団の設立を認める。必要な人員と装備を書面にして戦部に提出するザマス」
と言い、5人が改めて敬礼するなか、足早にオフィスへ戻っていった。
オフィスに戻ってから、戦部はハツネに心配げに話しかけた。さきほどの内緒話で5人の計画に反対した戦部は、ハツネの命令が理解できなかったのだ。
「閣下、本当にあのような作戦を認可されるのですか? 校長の指示への明確な違反行為です」
「ん? 私がいつ『作戦そのもの』を認可したザマスか? わたしが認めたのは特別任務班の編制だけザマス。戦部、奴らに特製だと言って別の制服を渡すように。部隊編成はキマクでさせるザマス。そのあたりなら粗暴で頭の悪いシャンバラ人どもが集まるザマしょ」
「……閣下はひどいお方です」
「褒め言葉ザマスか? おまえもたまにはいいことを言う」
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