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リアクション
翌日。キマク近郊の会場では青野武と四条輪廻が会場周辺の野戦陣地をさらに強化して回っていた。
「ぬわははははは。ドクター四条殿とはなんだか他人のような気がしませんな!」
「まったくです。こうして人類の二大英知たる魔法と科学を語れる友が居るとは!」
「早速であるが四条殿、これを見てくだされ」
青は身につけていた段ボールを脱ぎ始めた。
「ほほうこれは一見普通の段ボール」
四条はめがねをずらせてのぞき込む。
「ぬふふ。ところがである。すまないがこれを広げて持って立ってくれぬかな?」
四条はその『段ボール』を手前に広げ
「これでよろしいか?」と、言った。
青は答える代わりに突然懐から銃を取り出して、段ボールをかざす四条を撃つ。
ぱーん。
「うおぁあ! って、いきなり何をするんですドクター青っ」
「ぬふふふ。我が輩は今、その段ボールを撃ったのだよ」
「なんと!」
四条が段ボールの表面をのぞき込むと、ごく僅かにこすれたような跡がある。
「120ミリ戦車砲の劣化ウラン徹甲弾でも実験済みである」
「素晴らしいっ! 青博士とは思えぬまともな発明ではないですかっ!」
「うむ。だが一点だけ弱点があるのだ。紙であるから、ぬれるとへろへろになってしまう」
「雨が降ったら悲惨ですな……」
「そこでこれだ!」
博士はてるてる坊主を取り出した。
「素晴らしいっ! 紙なだけに神頼みでありますなっ!」
ふたりがそんなバカな会話をしていると、戦闘服に身を包んだ、ブタのようなゆる族たちがぞろぞろと行進してきた。
「何だね、君たちは?」
四条が訪ねると、指揮官らしいブタゆる族の男が、ふたりに敬礼をする。
「我々は民間軍事会社『デブタフォース』のコマンドだブヒ。で、私が指揮官のブタウトマン大佐だ。大統領だってぶん殴ってみせるブヒ。でも飛行機だけは勘弁な!」
民間軍事会社というのは、要するに傭兵派遣会社のことである。社員は元軍人が多く、戦闘力では高い能力を発揮する一方、その素行が問題になることが多い。
「そのデブタフォースがマジケットに何の用かな?」
青がブタウトマン大佐にその目的を尋ねると、
「デブタフォースは黒豚逓信社の軍事部門でもあるブヒ。我々は本社の命令でマジケットの守備任務につくことになったブヒ」
と答えた。
が、青はなにかうさんくさげなものを感じていた。戦争の犬どもは飼い主にもかみつくものだ。いや、犬ではなくブタか。
「ふむ。であれば、すまんが我が輩の陣地強化を手伝って……」
「おまえたちの指示は受けないブヒ。こっちはこっちで勝手にやらせてもらうブヒ」
そういうとデブタフォースたちは青たちを無視して行進して行った。
イルミンスール魔法学校の校長室を訪ねようと、いや、正確には殴り込みをかけようとしていたふたりがいた。エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)とそのパートナーの魔導書、ヴァレリア・ミスティアーノ(う゛ぁれりあ・みすてぃあーの)である。
「大丈夫だと思うわよ。あの布告に書かれていたのは『魔法書』。で、わたしは『魔導書』。微妙に違うから規制の対象外だと思うよ」
「かもしれぬがヴァレリア、いずれにしてもあの布告には我慢がならぬ。ひとこと言ってやらねば気が済まんっ」
そういってエリオットは校長室のドアをノックし、
「エリザベート校長先生っ、失礼させていただきますよっ」
と、勝手にドアを開けて校長室に入っていった。
校長室には先客がいた。茅野 菫(ちの・すみれ)のパートナー、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)だ。パビェーダはエリザベート校長と一緒に液晶スクリーンをのぞき込んでいる。
「ご覧の通り、装甲突撃軍による集落襲撃が確認できると思います。直ちに寒極院ハツネの指揮権を取り上げるべきです」
「うむぅー。これだけではさっき電話で問いただした以上のことはできないんですよぉ。ネットでも襲撃犯の正体には諸説でていてどれがどれだかわからないしねぇ」
「あの趣味の悪い黒い軍服からもハツネが何をしたいのかおわかりいただけると思いますが?」
「でもその趣味の悪い服を着るのも『表現の自由』ですよぉ?」
おほん。と、エリオットが咳払いをする。
「校長、問題の本質はそんなことではありません。あの布告文は校長も読まれましたな?」
「一応ねぇ」
「あんな布告文では抽象的すぎて話になりません。この場で何が道徳的で、健全で、安全な魔法なのか、ハツネに替わって校長に説明を求めます。場合によってはうちの魔導書のヴァレリアのほうがよっぽど危険と言うことになりますが、その場合校長はどう対処されるおつもりか?」
「ハツネにもわけがわかんないっていったんですよぉ? でもぉ、『具体的にすると簡単に法の網をすり抜ける者がいて危険だ』っていうからぁ……」
「ほほう。ではいっそ、ハツネの気に入らないものはすべて禁止となさったらいかがですか?」
エリオットは皮肉混じりに言葉をぶつける。
「でもですねぇ、ハツネのしていることがすべて間違っているというわけではないんですよぅ。知ってるかもしれませんけど、生徒たちが学べる火術や雷術といったコモンマジックは、大勢の魔術師が安全性を慎重に実験を重ねて、悪用されないように選ばれた魔法なのですよぅ。もしも経験の浅い生徒たちに自由な改良を許可してしまうと大変なことになってしまうのですぅ。たとえばですねぇ、雷術を改良して、手から電力を直接相手に流し込む魔法が完成したとしますぅ。これを使えば、手で体を触れただけで心臓がとまって即死させる恐ろしい魔法ができちゃうじゃないですかぁ……」
「それは詭弁ですな。リスクがあるからそれをするなと言うのは、転ぶかもしれないから歩くなと言っているようなものです」
「んーと。とにかくこの件に関しては茅野菫の報告待ちですぅ。なにかあったらすぐにやめさせますよぅ」
エリザベート校長は困り果てていた。なんとかしてハツネの行動を止めたいのだけれど、ハツネは校長との約束をきっちり守っていて手が出せない。もう、こんなときに限って大ババさまがお出かけなんて。
そんなこんなの末に、作家や参加者の一団、そして装甲突撃軍などなどもキマク入りし、いよいよ『マジケットスペシャルinキマク』が開催されようとしていた。
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