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第四章:君の瞳に完敗


 さて。みすみたちが貧しい村でヒャッハーしている頃、少し離れた豊かな村ではワゴンに乗っていた一行が休養を兼ねて滞在していた。
 皆が思い思いにのんびりしている中、うさぎの プーチン(うさぎの・ぷーちん)は視聴率の匂いを敏感に感じ取り、物影に隠れて撮影を続けていた。
「きましたわ。これはいい絵が取れる予感!」
 その先には、四谷 大助(しや・だいすけ)とそのパートナーのグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)、そして、{SNM9998784#雅羅 ・サンダース三世}が、思い思いの格好で芝生の上に座り、流れ行く雲を眺めていた。
「う〜ん、この旅もそろそろ終わりね。もう、騒がしいやら忙しいやら。ま、楽しかったからいいけど」
 雅羅が気持ちよさそうに伸びをする。
「道中遊んでばかりだったけど、雅羅と一緒にいれて楽しかったわ。じゃ、私はちょっと用事を思いついたから」
 グリムゲーテは言うと、思わせぶりな視線をひとつくれてその場を去っていく。
 大助は雅羅としばらくその場でじっとしていた。雅羅に特に嫌そうな様子はなかった。
 不意に、大助は言った。
「オレは雅羅のこと、好きだよ」
「……」
 驚いた表情で見つめ返してくる雅羅。
「……そう」
「もう一度言うよ、オレは雅羅のことが好きだ」
「よいお返事は難しいかもしれないわね」
 雅羅はすぐに持ち直し、いつもの表情でそういった。
「……ぐっ」
 大助は残念そうに唇をかむ。
「……そっか。やっぱりオレと雅羅とではつりあわないかな」
「そんなことはないわ。ただ……」
「よかったら理由を教えてほしいな。何処が駄目だったか」
「そうじゃないわ。あなた、買いかぶりすぎよ私のこと。わかってるのあなた? 私、災難少女よ?」」
「そんな雅羅がオレの憧れなんだよ。不幸だけど前向きで、オレに無いものをたくさんもっているじゃないか。雅羅を見ていると勇気がわいてくる。諦めたくなくなるんだ。そんな雅羅だけが持っている世界を一緒に見ていたいんだ」
 結構会話に熱が入ってきた。大助の勢いに雅羅も真剣な眼差しになる。
「ありのままでいいって言ってくれているのはわかるけど、私はそれじゃ嫌なのよ。自分を変えるためにパラミタへ来たんだもの。運が悪いとか、そんな言葉で片付けたくないの」
「完璧主義に捕らわれすぎているんじゃないのか? 雅羅は今だってほぼ完璧でとても素敵だよ。それがダメだって言うなら、あんた以外の人間は全てダメ人間だ。もちろん、オレも含めてな。それでいいって言ってるんだよ」
「私はよくないって言っているの。わかってもらえないかなぁ……」
 雅羅は、ふうっと一息ついて、少し表情を和らげた。
「私は甘えたくないの。このこだわりは、あくまで私のエゴなのよ。うん、理解しているわ、傲慢だってことは。自分を変えなきゃって、固定概念に縛られた頑固者だってこともね」
「一人じゃできないこともあるんじゃないのか? 自分を変えるって、一人じゃ難しいと思うぞ」
「それで恋愛? 恋をしたら女は変わるって、そんなのゴシップよ。それは変わったんじゃない、堕落して崩れていくだけなんだから」
「例えそうだとしても、オレなら……そんな雅羅を支えていけると思うんだけど」
「ふふ……たいした自信ね。でもおあいにく様。私はそんな容易い女じゃないわよ」
「そちらこそたいした自信じゃないか……」
 ため息をつく大助に、雅羅は素直にクスリと微笑んだ。
「だからね……、本当に私のことが好きなんだったら、しばらく放置しておいてちょうだい。あなたのこと嫌いじゃないけど、今の私は誰ともつきあうつもりはないし、特定の男性と恋愛をするつもりもないわ。今のままでいいじゃない」
「……ぐはっ! オレってば友達以下の生殺しか」
「あなたがそう思うならそれでいいんじゃない? あせらないあせらない。私たち、まだまだ時間はあるんだから……」
 そう言うと、雅羅はゆっくりとその場を離れる。彼女の姿が見えなくなるまで、大助はその場にたたずんでいた。
「……あ〜」
 やっちまった、というかやられちまった感じだった。
「やべ。雅羅のこと、ますます好きになってしまった……」
 そのとき背後に気配を感じて、大助はギロリと振り返る。
「そこのコソコソしている奴ら、出て来い」
「……ぷっくく。大助、よくやったー。君はじつにばかだなー。重要なことなのでもう一度言うであろー。君はじつにばかだなー」
 笑みをかみ殺しながら物陰から姿を現したのは、大助のパートナーの一人、白麻 戌子(しろま・いぬこ)だ。
「全然脈がないわけでもなさそうであろー。あとはボクたちがフォローしておくゆえ、安心せよー」
「やめてくれ。これ以上状況が悪くなったら、グーで思い切り殴るからな」
「いや、悪くなかったと思うッスよ。雅羅さん、結構真剣に話してくれていたッスよね。チャチャ入れるのすら忘れて、見入ってしまったッス」
 こっそりとビデオカメラで撮っていたルシオン・エトランシュ(るしおん・えとらんしゅ)は真顔でうんうんと頷く。
「まだまだ時間はたっぷりあるッス。仕切り直して次はもっと接近してみるッスよ」
「ちょ……お前ら、罪人をしょっ引くみたいに両脇を抱えてんじゃねぇ!」
「さあ、帰るであろー。敗残兵のごとくー、すごすごとー」
 戌子たちに連れられて、大助は戻っていく……。