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リアクション
全員が屋内に避難したと同時に、聖堂が完全に崩壊を始めた。
カラン、カン、コン――
小さな瓦礫が地を叩く。
崩落した岩壁。雪崩た岩塊。
「嫌ああぁぁッ!」
金切り声が響き渡った。
エリスは半狂乱になりながら、崩れた岩塊のもとへと駆けていく。
「私が、私が、あんなこと頼まなければ……ッ!」
エリスはもはや自分の細腕では動かすこともできない岩塊の前で、膝をつく。
そして、ぽつりと涙を零した。
「……ッ!」
ふと顔を上げれば、満身創痍の真人が必死に岩塊を撤去していた。
くるり、と不破は無言で振り向き、地面に膝をついて涙を浮かべるエリスを見下ろしながら口を開いた。
「……どうしました。続けましょう」
「……でも、もう、煉さんは、きっと……」
涙声になりながら、エリスは諦めたように言った。
真人は珍しく顔を険しくして、思いっきりゲキを放つ。
「パートナーの君が、生きていることを信じなくてどうするんですかッ!」
真人はそう言いひとつ、ふたつ、岩塊を投げ捨てていく。
それは避難し終えた戦士達も同じだった。
エリスも手伝う。腕の筋が引きちぎれそうにながら手伝った。
唇を噛みしめながら、腰が抜けそうなのを耐えながら、ただひたすらに。
エリスは手を動かしながら、必死に祈る。
(……お願い。プリベント、私の変わりにあの人を守って――)
「……よぅ」
突然、掠れたような小さな声が、ぽつりとエリスと真人の耳に届いた。
二人は必死に、声のした方の岩塊を投げ捨て、声の主を探す。
「――悪いな。心配かけた」
そこではプリベントを突っかけ、岩塊に隙間を作り。
ぼろぼろの煉とフローラの姿があった。
――――――――――
「……貴公らが私を救ってくれたんだな。感謝する」
フローラの狂気は霧散し、今は穏やかな表情をしていた。
目の縁から流れるのは血の涙。瞳に映るのは綺麗な青色。
「ふむ。いい顔つきをしているな、君たちは。……まぁ、私に勝ったのだから当然か」
なんて軽口を洩らし、フッと笑った。
「……フローラ、さん」
震える声でエリスが呟く。
一歩前に出て、膝をつきフローラに顔が見えるよう覗き込む。
「エリス……!? エリスなのか……!」
フローラが驚いたように手を伸ばし、エリスの顔をぺたぺたと触る。
「フローラさん、私……」
しかし、エリスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
それは忘れていたことえの罪悪感か。それとも、剣を交えて殺す気で戦ったからかなのか。
「そうかぁ……エリスは……」
フローラの声が朝焼けに包まれた荒野に静かに響く。
そして、頭を優しく撫でながらしみじみと。
「私より……背が高くなるんだな……」
柔らかく笑いながら、そう言うフローラの表情は昔と何も変わらなくて。
恥ずかしい、恥ずかしいけれど。
涙が堪えられない。嗚咽を噛み殺せない。
エリスは声を上げて泣き、フローラの胸に顔をうずめた。
「もっと、話したいことがあった。もっと、教えて欲しいこともありました……!」
エリスの声を聞きながら、フローラは静かに頭を撫でた。
そして、小さく謝った。
「すまないな、エリス。どうか、貴公を泣かせる私を許して欲しい」
その言葉を聞いたエリスは涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、力一杯頭を横に振った。
フローラは優しく、目を細め、柔和な笑みを浮かべる。そして、他の戦士達にも目を向けた。
「貴公らにも迷惑をかけた。すまない」
だんだんと弱くなっていくフローラの声はそれでも戦士達の耳にしっかりと届いた。
戦士達は首を横に振る。それを見たフローラはまた柔らかく、薄っすらと笑みを浮かべた。
「ありがとう――……」
その言葉を最後に、フローラは満足そうに目を閉じた。
フローラの手がエリスの頭から力無く落ちる。
エリスの慟哭が、その場に響き続けた。
――――――――――
それから、何時間かの時が経ち。
泣き止んだエリスは、フローラの剣を煉に手渡した。
「フローラさんの思いを継いでくださいませんか?」
「……俺でいいのか? エリー」
その問いに、エリスは真っ赤に腫れた目で精一杯笑みを浮かべて答えた。
「ええ、私はまだ、この思いを受け継げるほど強くありませんから」
「そうか……」
煉は薔薇の細剣を掴むと、空を見上げた。
そして、力強く呟いた。
「――あんたの思い、確かに受け継いだ」