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リアクション
二十三章 血染めの狂戦士 後編
罠による被害は幾分少ないほうであった。
そのためか戦況はあまり変化せず、エレンは無双の強さを誇る。
幾つもの修羅場を潜り抜けてきた血染めの狂戦士の傷を負い血反吐を吐きながらも、その剣閃は衰えることが無かった。
だが、それは英雄に立ち向かう戦士達も同じ。
「――ぁぁああアアッ!」
エレンの咆哮は大気を揺るがし、戦士達の心を震わせる。
「くそ、形振り構ってられる場合じゃねぇな」
エレンの大剣に弾かれ、後退したロアは一人ごちた。
(けど、どうする。超感覚を使うか? あの姿になるのか? それが一番だろうけど……)
ロアの視線の先には、交戦しているグラキエス。
アウレウスの魔鎧を纏い、キープセイクの後方からの援護を受けながら、刀と銃の二刀流で応戦していた。
(あの姿はまだグラキエスに見せたことがない。もし、あの姿をグラキエスに恐れられたりしたら、俺は――)
「サンダーブラスト!」
ロアの思考は、グラキエスの大声によって中断させられた。
消耗を避けるため、普段は抑え気味にしている魔力をグラキエスは全開。
巨大な雷がエレンに向けて降りかかった。
――耳をつんざくような雷鳴が辺り一面に反響する。
煌く光の後は、周囲が焼け焦げていた。
そこに居たはずのエレンの姿は無かった。
「やった、のか……?」
グラエキスは肩で息をする。
狂った魔力は自身の身体を蝕んでいたが、今は大分発散できた。
が、その分魔力を調整しながら戦うため自身の消耗が激しくそれによる反動。
それが、グラエキスの隙を生んでしまった。
「エンド、まだです! 上を見てください!」
後方からのキープセイクの言葉に、グラエキスは我に返った。
空を見上げれば、エレンがこちらに向けてやって来ていた。
バーストダッシュ。
ヴァルキリーが持つ、高速ダッシュのスキル。
フェイタルリーパーの弱点である機動力の無さを、エレンはそれを巧みに操ることにより補っていた。
「……くっ!」
キープセイクはサイコキネシスで戦闘用イコプラをエレンの目前に移動させた。
だが、エレンは戦闘用イコプラに足を置き跳躍してその障害を飛び越える。
より高く飛んだエレンは大剣を思いっきり振りかぶり、力を溜める。
「……スタンクラッシュ」
重量を組み合わせた、強力な一撃。
アウレウスは龍鱗化でグラエキスの皮膚を固めるが、それでも守りきれるかどうかは微妙な線。
膨大な威力を有した血染めの大剣がグラエキスに迫る。
「……ッ!」
やって来るであろう衝撃に身構え、思わずグラエキスは目を閉じた。
だが、それよりも早く自分を包むかのような優しい衝撃がグラエキスを襲った。
「え……?」
グラエキスは目を開ける。
神速と軽身功の素早い動きで速度を上げ。
自分を抱え上げ、あの場所から運んでくれた。
「ッ、間に合った」
大きくねじれた角や鋭い爪や牙が生えた、ロアの姿があった。
「……言っただろ? 俺が助けてやるってな」
「……ありがとう、ロア」
グラエキスは自分で立ち上がり、変わり果てた姿のロアを見た。
グラエキスは驚かない。むしろ、普段からかぶりつかれたりしているので、逆に納得していた。
「ロア」
「……ん?」
グラエキスは大好きな友人の名前を口にした。
そして、言葉を紡ぐ。
「その姿、格好いいよ」
「……ッ、当たり前だろ」
ロアは嬉しそうにそう言いながら鋭い爪が生えた拳を構える。
グラエキスもどこか嬉しそうに刀と銃を構える。
「さぁ、ぶちかましていくか。グラエキス!」
「ああ、分かっているよ。ロア」
二人の魔獣と魔人は、互いに笑みを零した。
――――――――――
ロアが魔獣のような戦いで接近戦を行い。
グラエキスが魔人の如き魔法で援護する。
その二人がエレンと交戦している間、サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)とフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)が呟いた。
見れば二人の身体は傷だらけで、至る所から血を流している。
「……後、少しなんですけどね」
「うん、何か決め手があれば……もしかしたら」
二人が求めているのは、この戦況を変える確かな変化。
ヴェルデの罠による変化がない分、硬直化した戦闘は変わらない。
そこに、二人が求めていた変化が訪れた。
「ごにゃ〜ぽ☆」
妙な挨拶と共に、この戦場を訪れたのは鳴神 裁(なるかみ・さい)。
ナラカ人の物部 九十九(もののべ・つくも)が憑依し、魔鎧となったドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を身に包み。
颯爽と登場する姿はまさに風の如く。
遊撃で動いていた彼女らは、まだまだ元気そうに身体を動かす。
増援という名のそれは、二人が求めていた確かな変化だった。