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忘れられた英雄たち

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忘れられた英雄たち

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 二十二章 鉛丹の重剣士 後編


「何……ッ!?」

 遺跡の爆発に気をとられ、バルカスの剣を振るう動きが鈍る。
 僅かに遅くなった剣閃は、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)にとっては十分すぎる隙だった。

 エシクはスウェー受け流し一気に懐へ飛び込む事で死中に活を見出す。
 大剣を振るうにはかかせないボディーの筋に則天去私を叩き込んだ。

「その程度では我は倒せぬ……ッ!」

 エシクは攻撃にびくともせず、重剣をエシクに振り落とした。
 重剣はエシクに触れ、大地を切り裂いた。剣圧がエシクの身体に傷を生んだ。

「然らば奥の手です」

 エシクは吹っ飛ばされながらも、自らの手に七支刀型の光条兵器を召喚した。
 それを構え、もう一度バルカスに向かう。放った一撃はアナイアレーション。
 極限まで研ぎ澄まされたラヴェイジャーの一閃はバルカスの腹部に刻み込まれた。

「隙アリや、バルカスさん!」

 続いて陣がバルカスの懐に入り、防具の継ぎ目を狙って緩急を付けた動きで攪乱しつつ蹴撃や打撃を見舞う。
 それは極端な緩急をつけて多角的に跳び回り、攪乱して攻撃する短刀を用いた格闘術――ナラカの闘技。

「鬱陶しい……!」

 ちょこまかと動き回る陣に業を煮やしたバルカスは、強力な一撃で仕留めようと大きく振りかぶった。
 しかし、それは陣の作戦通り。

「ちゃんとやれよ、クソ英霊!」

 陣はバックステップで後方に退避しつつ、磁楠を封印した魔石を放りなげる。
 重剣の斬撃が命中し粉々に砕ける。そして同時に、夫婦剣を手にした磁楠が現れた。

「散れ、英雄……!」

 黒い軌跡を描く一閃がバルカスの右腕の根元に奔る。
 血液の飛沫を上げながら、バルカスの右腕が空中を舞った。

「ぐぁぁああアアッ!」

 バルカスは片腕で重剣を振り回し、磁楠を吹き飛ばした。
 大量の血が右肩の切り口から洩れる。
 ゾンビに出血多量の概念があるかどうかは分からないが、勝負が決したことは明白だった。

「…………」

 磁楠が立ち上がり、無言で夫婦の剣をバルカスに向ける。
 バルカスは片腕で重剣を持ち上げ、それでも構えを取った。

「……皆。出来たら、最後はあやつと一騎打ちをさせてくれんか?」

 保名が頭を下げ、他の戦士達に頼み込む。
 その姿を見た磁楠はしばし考え剣を収め、くるりと踵を返した。

「せめて、その魂を華々しく散らす事が彼にとっての救いになるだろう。
 ならば一騎打ちという手法は中々悪くはない」

 磁楠の言葉にその場に居た者が頷く。
 それを見渡した保名はもう一度深く頭を下げた。

「……すまぬ、恩に着る」

 保名は拳を構え、バルカスと相対した。

「……貴様ら正気か? 戦場でそのような生温いことを……」
「呵々! それも一興じゃろう? 何しろおぬしらが望むのは美しい戦場なのだからのう!」

 嬉々として構えを取る保名に、片手で重剣を構えるバルカス。
 お互いが地を蹴り、衝突しようとした寸前。

「クスクス……壊してあげるの……」

 不穏な声が空に木霊した。
 と、同時に二本の矢がバルカスに迫る。
 首元と武器を握る手に当たったそれは攻撃体勢を壊した。

「――なッ!?」

 保名が驚嘆の声と共に動作を止める。
 が、上空の声は止まることはなく。

「クスクス……壊して壊しつくすの……」

 バルカスの身体に機晶爆弾が当たり、大規模な爆発が起こった。
 そこに、我は射す光の閃刃で生まれた無数の光の刃が炎を切り裂いた。

 爆発が消火した後、そこには何もが跡形もなく消え去っていた。

「……ッ!」

 保名は上空をキッと睨む。
 視線の先には、笑みを浮かべる斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)の姿があった。

「なぜ、誇り高き勝負の邪魔をした! 死体を跡形もなく消した!!」

 保名が憤慨しハツネを非難した。
 ハツネは首をかしげ、保名に向かって不思議そうに言い放つ。

「……どうせ壊すんだったら綺麗さっぱりの方がいいの。……それにここはお人形さん曰く『戦場』なの」

 ハツネは空を浮かびながら、クスクスと笑う。
 そして、妙に元気良く言い放つ。

「……だったら、汚いも綺麗もないの。あるのは……『壊す』か『壊れる』だけなの♪」

「――そうだ。戦場では騙撃はあたりまえ。それどころか賞賛されてしかるべきこと」

 ハツネは突然の声に我に返り、上空を見上げた。
 その上空ではバルカスが片腕で重剣を構え、重力を用いた振り下ろしでハツネを地面に叩き落とす。

「生きていたの……?」
「あぁ、あの程度の騙撃では我は殺せぬよ」

 そう言って、バルカスは保名と相対するためにゆっくりと足を進めた。

「……さて、一騎打ちを続けよう」
「よいのか……?」
「戦場では、だ。ここが美しい戦場というのなら一騎打ちも一興だろう。
 ……我は戦うことが望みなのだ、それこそ何であろうと戦えれば問題はない」

 バルカスは片腕で重剣を振るい、構えを取る。
 その姿を見た保名は歓喜のあまり思わず笑いが零れた。

「――呵々! 我が身全てが武具なり! 遠慮せず、存分に死合おうぞ!」

 保名も拳を構え、重心を落とす。

 静かな一陣の風が二人の間を吹きぬけた。

 それを合図に、二人は地を蹴る。
 保名は神速で自身の速度を強化し、バルカスはバーストダッシュで突進した。

「はぁぁああ!」

 リーチがある分、先に武器を振るったのはバルカス。
 咆哮と共に刀身に炎を纏わせ、爆炎波を放つ。

 しかし、保名はその一閃を潜り抜け、必殺の一撃を放った。

「奥義、天弧二連撃!」

 それは、神速から繰り出す歴戦の必殺術を駆使した急所への鳳凰の拳。
 その必殺の一撃はバルカスの鎧を潰し、骨を砕き、生を壊した。

「見事だ……次世代を生きる者たちよ」

 その言葉を最後に、バルカスは絶命し、前のめりに倒れた。
 武人らしく散ったその亡骸に保名は背中を向けたまま言葉をかけた。

「楽しかったぞ……古の武人よ」