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リアクション
――リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)が暴れている。
そんな情報を聞きつけた当人は、すぐさま噂の渦中へと向かった。
「陽気で優しい彼に、なにがあったんだ?」
そう不思議がる人々の先には。
目をぎらつかせながら、赤いスプレーで『お前ら全員狂い死ね』と壁に書き散らす、裏リアトリスの姿があった。
「ちょっと君、なにしてるの!」
「呪いだよ」
本人の登場も意に介さず、ドッペルゲンガーは落書きをつづける。
「俺以外の人間は死ねばいいんだ。頭がおかしくなって、自分で喉を掻きむしり、眼球をえぐりだし、歯を抜いて、腸で首を吊ればいい」
「なに言ってんの!? やめてよ! みんなに迷惑かけちゃうし、僕のイメージが壊れちゃう!!」
すぐに止めようとするリアトリス。だが、ハイコドのドッペルゲンガーが飛び出し、彼を横から蹴り飛ばした。
吹っ飛ぶリアトリスだが、さすがはグラップラー。
うまく受け身を取り、すぐさま体勢を整える。
「ひどいよ、ハイコド君。なんでそんなことするの!」
と、そこへ割り込んできたのは本物のハイコドだ。
「違うんだ。そいつは偽物なんだよ!」
ハイコドは間に入ると、優しげな面持ちで自身の分身に向き合った。
「まずは話しあおう。君はドッペルゲンガー、偽物だ。でも、考えれば僕自身でもあるんだよね――。やっぱり殺すことはできない」
「甘えたこと言ってんじゃねぇよ」
裏ハイコドが睨む。
「俺の望みは一つだけだ。お前を殺して、俺が生き残る!」
駈け出した裏ハイコド。スキル【超感覚】【神速】【先の先】を駆使し、限界まで速度を上げた。神の域に達したスピードで【則天去私】を仕掛ける。
だが、ハイコドは距離が縮まる前に【遠当て】を放っていた。
牽制されて、両者の距離はまたしても広がる。
悲痛な表情でハイコドが言った。
「やっぱり、戦うしかないのか」
意を決した彼の隣では。
リアトリスたちによる闘いの火蓋が、切って落とされた。
【ドラゴンアーツ】で右目を龍の瞳に変え、【鬼神力】で額に角を生やしたリアトリス。さらに【ヒロイックアサルト】で強化を施してから、【龍の波動】を纏わせた【スイートピースライサー】を一閃させる。
残像すら描く疾速の戦斧。対象を破壊するには十分な力だった。
それが、同じ武器でなければ。
「うおおおお!」
ぶつかり合うスイートピースライサーで、大気がきしむ。ドッペルゲンガーだけあって、実力はほぼ互角だ。
いったん射程距離から外れたリアトリスが苦笑する。
「物理と魔法が逆になってるみたいだけど――これってあまり、意味のない設定だね!」
などと言いつつ、踊るように敵の背後へ回りこんだ。
「武器が効かないなら……こうだ!」
すかさず、相手の尻尾を握りしめる。
「ふ、ふにゃあ」
可愛い声をあげて、裏リアトリスはその場に崩れ落ちた。
ぺたりと座り込みながら、トロ顔で見上げている。
「食らえ、僕の最終手段!」
ハイコドも、同じように相手の尻尾をぎゅっと握った。
握られた方のリアクションも同様である。ぺたりとしゃがみ込み、瞳をうるませながら上目遣い。
「僕の弱点は、僕がいちばん知っているからね」
「ふ、ふにゃあ……」
甘えるような吐息を漏らす分身へ、ハイコドは手を差し伸べた。
彼の目に敵意はない。ただ相手を理解しようという、純粋な寛容さだけがあった。
「話そうよ。勝手なことかもしれないけれど……。君がしたかったこと、僕が代わりにしてあげる」
差し出された掌。
ドッペルゲンガーは、甘えと恥じらいを込めて、ゆっくりと握り返した。
☆ ☆ ☆
イルミンスールの街外れ。
ここにも、ドッペルゲンガーに悩まされる男がいた。
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)。すでに仲間のゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)はドッペルゲンガーを見過ごしており、視界に死の歯車が回りはじめている。
「急いで奴を捜さなければ……」
ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)から情報を入手しながら、元凶を探すグラキエス。
探索の結果。
ついに彼はゴルガイスの分身を発見する。
「ようやく見つけたぞ。ゴルガイスのため、貴様を倒させてもらおう」
身構えるグラキエスだが、彼の様子がどこかおかしい。かすかに体が震えている。
自らの分身を生み出したショックで、失われた記憶が蘇っていたのだ。心の傷が、血を流すほど疼き、グラキエスの動きを封じている。
(ゴルガイス……憎みたくない……)
内なる声に自由を奪われるグラキエス。その隙をついて、ドッペルゲンガーは一方的に攻撃を仕掛けた。
友の姿をした虚像に殴られても、反撃することができない。
(何だ、これは……。こいつはゴルガイスではない。倒すべきなのに……なぜだ。い、意識が…………)
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