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リアクション
第1章 お騒がせ研究生・ニコラ
「どこに行ったんだろう、僕のドッペルくん……」
奪われた装置を探すニコラが、深いため息を吐いた。
「まぁー! 男の娘ですわ!」
校舎内にとつじょ響き渡る嬌声。
ピンク色のロングウェーブを揺らしながら、とある女性がニコラを抱きしめる。
瞳は『きゅるるんっ』と輝いており、形の整った鼻から、思い切りニコラの体臭を吸い込んでいた。
「はぁ……ニコラ君……。いえ、ここはニコラ様とお呼びいたしますわ!」
「えっ。あなたは一体……」
「ああ、私としたことが! 申し遅れましたわー。私、天御柱学院に所属しております、退紅 海松(あらぞめ・みる)と申しますの。なんでもニコラ様がお作りなさった装置がもう一人のショタを産み落と…………ゲフッ」
まくしたてる海松を沈黙させたのは、フェブルウス・アウグストゥス(ふぇぶるうす・あうぐすとぅす)だった。彼が突き出した拳が、海松の脇腹にめりこんでいる。
「いい加減にしてください。僕は身内に、犯罪者を抱えたくありません」
彼はジト目で睨みながら、シャドウボクシングをつづけている。
「なんか大変なことになってるね」
騒ぎを聞きつけ、新たに駆けつけたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。彼女は機敏な仕草でニコラに確認をとる。
「大量発生したドッペルゲンガーは、ニコラの作った鏡を壊せば消えるんだよね」
「はい」
「じゃあさっそく、ルカたちで協力して壊そう!」
張り切る彼女だったが、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の表情は暗い。沈思黙考といった様子で唇を結んでいる。
「フハハハ! 悩んでいるようだな、諸君。だが安心し給え。俺がいれば恐れるものはなにもない!」
「誰!?」
皆が振り向いた先には、高笑いを上げる白衣の男。
「あっ。ドクター・ハデス(どくたー・はです)!」
思わず、ルカルカが身構える。ふだんから『悪の秘密結社オリュンポス』の幹部を名乗り、世界征服を企んでいる男だ。警戒するのも無理はない。
だが、彼の様子はいつもと違う。
「フフフ。俺は正義の科学者、高天原御雷!」
本名を名乗る彼の正体は、ハデスのドッペルゲンガーであった。性格はオリジナルと逆になり、正義感の強い好青年のようだ。
一同に、安心感と違和感が入り交ざった、微妙な空気が流れた。
「みんな! 兄さんは装置を悪用して、世界征服を企んでいるんです!」
駆け寄ってきたハデスの妹、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が言う。どうやらこちらは本物のようだ。
「それは大変。こうしちゃいられないね。早くドッペルくんを探そう!」
走りだしたルカルカを先頭にして、皆がそのあとを追った。
「ところで。みなさんの目には、灰色のギアがありますか?」
鏡を探索しながら、ニコラが仲間たちに聞いた。彼の質問に、裏ハデスを除いた全員が首肯する。
「死の歯車……とかいうものでしたわね」
「そうです」
海松の言葉にうなずき、ニコラがつづけた。
「ドッペルゲンガーを見失ってから三時間経つと、本体に死が訪れてしまうのです」
時間はあまり残されていない。こうしている間も、ギアは死へ向けて回り続ける。
急ぐ彼らの前に。
巨大で、屈強な影が立ちはだかった。
「――ってことはだ。俺のドッペルゲンガー相手に、足止め食らってる場合じゃねーよな」
影を見上げながら、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)がニヤリと笑う。Dフォーゼで黒き巨龍と化した、裏カルキノス。それが影の正体だった。
「こいつあ俺が引き受けた!」
カルキは、自分も同様に巨龍化した。それに対抗したのか、今度は裏カルキがスペアボディを出し、三体に増加する。
「こんな化物を相手にできるのは、俺しかいねーだろ!」
再び、二体のスペアボディで応じるカルキ。
「ここはカルキに任せて、先を急ごう!」
ルカの合図により、一同はいっせいに走りだした。ドッペルくん探しに戻った仲間たちを見送ると、カルキは咆哮を上げる。
「さあ、化物は化物どうし、喰いあおうぜえ!」
巨大龍三体 VS 巨大龍三体。
もはや異次元だった。
巨龍たちによる、ガチバトル。
多彩な攻撃魔法が嵐の如く飛び交う。彼らが競っているのは、ドラゴニュートの尊厳か。それとも七つ目の大罪か。地獄を具現する六匹の龍が、骨肉を相食んでいた。
高められた装甲値は強硬だ。加えて、ナノマシンとリジェネの二重回復機能。装甲が火花を散らすなか、闘いは長期戦へともつれ込んでいく。
☆ ☆ ☆
一方。イルミンスール魔法学校、校長室にて。
やる気のないエリザベートを、レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)が説得していた。
「お願いがあるの。あなたの力を貸して……」
「知らんですぅ。私には関係ないですぅ」
「そんなこと言わないで! これが終わったら、私のこと好きにしていいから……」
服を脱ぎ、みずみずしい素肌を露わにするレオーナ。肢体をくねらせながら身を近づける。これには、さすがのエリザベートも困惑を免れない。
「は、離れるですぅ〜」
「お願いエリザベートちゃん。私……君のためなら産める!!」
「な、なにを言ってるですかぁ!」
もがくエリザベートを不憫に思ったのか。クレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)が助太刀に入る。
「エリザベート様。わたくしからもお願いします。事態を解決しないと、あなたの命も危険なのですよ」
「ニコラとやらに任せたですぅ」
「あなたの力が必要です。ご自身の生命のため。そしてなにより貞操のために、ご協力ください」
彼女の説得で少し心が動くも、頑固なエリザベートは簡単に改心しない。徐々にレオーナの性的アプローチも過激になっていく。
バンッ。
いきなり扉が開き、校長室へ二人の女の子が乱入してくる。
レオーナとクレアの、ドッペルゲンガーだ。
「……この世の終わりですぅ」
二人目のレオーナを見たとたん、エリザベートが呻いた。しかし裏レオーナは、菩薩のように澄んだ瞳で言う。
「煩悩が抑えきれないなら、私が贄になります」
そしておもむろに服を脱ぎ始める。
「さあ、女を悦んでください」
「うっひょー!」
裸になった裏レオーナへ、誰よりも先に飛びついたのは、裏クレアであった。
「ちょ、止めてください! 仮にもわたくしのドッペルゲンガーでしょう!」
「ぐへへ。ぴちぴちギャルの柔肌サイコー!」
「……そんな台詞、今どき中年男性でも言いませんよ」
もはや校長室は、乱交パーティー会場と化していた。
「お願いです、エリザベート様。ご英断を……」
青ざめたクレアが、必死に頭を下げつづけた。
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