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リアクション
犯罪幇助者たち
クーペリアンになっとけ、と二十二号を置き去りにした葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、パワードスーツとカタナを持った犯人まがいの恰好で、こそこそと街中を歩いていた。
電柱の陰に隠れたり、無意味に登ってみたり、自動販売機のおつり口に手を入れてみたりと、怪しさ全開で進んでいく。
吹雪にも一応、特殊9課候補生という肩書はあるのだが、打ち合わせや研修は全て二十二号に任せたままだった。そのため、今日の事件も合体という言葉だけを聞いて放りだし、リア充相手にテロを画策している。
一方、仁科 姫月(にしな・ひめき)は大層ご立腹だった。
成田 樹彦(なりた・たつひこ)とデートで行った空京ヒルズで、事件に巻き込まれたのだ。
幸いにも一階に居たのですぐに逃げ出したが、楽しいデートを邪魔されたという恨みは残ったままである。
同じく逃げ出した人たちの話によると、爆発の犯人はパワードスーツの忍者っぽい人物だという。
そんな怪しい人物を偶然見つけた姫月が、吹雪を攻撃するのに五秒と掛からなかった。
「む、殺気であります」
ごろんと転がって避けると、地面に剣が突き刺さった。
振り返れば姫月と樹彦が怖い顔をして吹雪を睨んでいる。
「なんとっ! リア充にテロをしたことはあっても、逆にテロされたのは初めてであります」
良く見れば美形のカップルで、吹雪は酷く動揺していた。放心状態のまま、繰り出される攻撃をカタナで受け続ける。
さらに、勘違いの悲劇は連鎖した。
辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)とファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)が、姫月と吹雪の戦いを見てしまったのである。
刹那は秘密裡に、空京ヒルズで起きる事件の犯人に手を貸し、逃走を助けよという依頼を受けていた。犯人の特徴はパワードスーツにカタナ。それ以外は機密事項で教えられないと言われたが、それで十分だった。
刹那は柳葉刀を構え、犯人の逃走を助けるべく、姫月に攻撃を仕掛ける。
突然現れた斬撃を、危険を察した樹彦が受け止めた。
「テロの仲間か!」
樹彦の問いに刹那は応えず、攻撃を続ける。
さらに、先ほどまで全員敵ごっこをしていた放心状態の吹雪が、無意識で刹那にカタナを振った。
「ちょ、ちょっと待つのじゃ。わらわは依頼を受けて、おぬしの助けを……」
そこへ、姫月までもが刹那を切りつける。
刹那の危機を見かねたファンドラまでもが戦闘に加わり、やがて三勢力により三すくみの状態が生まれた。
「はっ!? 一体これはどういう状況でありますか?」
我に返った吹雪が、奇妙な状態を見て問いかける。
「だからわらわは依頼を受けたのじゃよ。おぬしを助けろと」
「やっぱり! あなたもテロリストの仲間だったのね!」
刹那の言葉に姫月が反応する。
「待つであります。あなたたちはどう見ても自分の倒す対象、敵であります」
だが吹雪は、刹那とファンドラという組み合わせを見て、即座にリア充認定を下していた。
吹雪にとってはリア充イコール全て敵なのだ。
「えっ? 仲間割れ? それとも人違い?」
困惑する姫月にジト目の吹雪が言い放つ。
「リア充は全員倒すべき対象であります!」
「わ、私がリア充? そんなこと、ねえ」
姫月は顔を赤らめながら、樹彦に同意を求める。
樹彦は肯定も否定もせずに、無言で笑顔を返した。
そんなやり取りの中、冷や汗を流した刹那が、ファンドラに話しかけていた。
「ファンドラ、もしかして、もしかするとじゃな……」
「大丈夫ですよ、刹那さん。きっと何かの手違いで、私たちのことを知らないだけなのでしょう」
ファンドラもまた、にこにこと笑いながら刹那に応える。
そして、二組のカップルが仲よくする姿に吹雪が暴れる、というやりとりが日が暮れるまで続いたのであった。
■■■
散々暴れまわり、教導団や空京警察の注意を引いたアンズーが追手を振り切り、郊外へと逃走している。
本部からの報告を受けたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)と合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)を連れて先回りしていた。なんとしてもここで捕まえなければならない。これ以上逃げられてしまえば、追うのが困難になるだろう。
やがて、道路の真ん中で仁王立ちをするエヴァルトの前に、イコンの巨体が現れた。
逃走中のアンズーである。
「ロートラウト、ローランダー、任せたぞ!」
「何としてもここで機晶合体の第一人者だって見せつけちゃうもんね! いくよ、ランダー!」
ロートラウトの合図で、ローランダーが縦に浮かびあがった。
身体に光の亀裂が入り、光に沿って腕、足、胴とパーツが展開されていく。
人型に展開されたパーツの蓋が開き、ロートラウトがすっぽりと収まる。
そして最後に、頭の部分の装着が完了して、光に包まれた。
『機晶合体! キングロートラウト!!』
光が閉じると、そこには合体のポーズをとるキングロートラウトの姿があった。
重量感溢れる音をたてながら着地したキングロートラウトは、アンズーへ向き直る。
だが、キングロートラウトを前にしても、アンズーは速度を緩めなかった。
相手をするよりも、逃げることを選んだのだろう。ここで逃げ切れば、捕まる確率が極端に減るからだ。
「逃がすな、キングロートラウト。やってしまえ!」
ちょっと瞳をうるうるとさせているエヴァルトが叫ぶと、キングロートラウトの目が光る。
逃げようとしたアンズーの背中にしがみつき、左腕をねじ上げた。
鉄の軋む音が響き、肩の部分から破砕したアンズーの左腕が宙に飛んでいく。
ガリガリ、と音を立てて止まったアンズーが、右腕のドリルを回転させた。咄嗟に離れたキングロートラウトに、超高速で回転するドリルパンチを放つ。
怯まずに踏み込んだキングロートラウトとアンズーの腕が交差し、火花が飛び散った。
ドリルパンチを左の脇と腕で挟んだキングロートラウトが、右腕を持ったまま自分を軸に回転する。
ぽーん。と、回転の力を利用して、アンズーを空高く放り投げた。
「ローソード、パワー解放!」
手にした剣に炎と雷が宿る。
「いっくよー、バーニング・サンダー・フラッシュ!!」
落ちてくるアンズーに、必殺の一撃を叩き込んだ。
勢いよく地面を転がったアンズーが起き上がることは無かった。
「少々やりすぎだったかな……」
完全にのびているパイロットを操縦席から引きずりだし、エヴァルトが苦笑した。
「まあいい、こいつを引き渡したら、今日は合体記念パーティだ!」
■■■
空京の郊外に近い都市部の一角。
一際高く、頑丈なつくりのビルの屋上でドクター・ハデス(どくたー・はです)が腕を組み、白衣をはためかせていた。
「さあ来い、我がオリュンポスが作りし改造人間ペルセポネよ! まずは機動性能のテストだ!」
ハデスの召喚に、金属がこすれ合う音を響かせながらペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が姿を現した。
重装甲な見た目に反して、等間隔に置かれたパイロンの間をすいすいと走っていく。
「フハハハ! 順調ではないか! やはり、我らオリュンポスの科学力は世界一ィィィ!」
ハデスはひとしきり成果を堪能すると、ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)を呼び出した。
「お呼びでしょうか、ご主人様……じゃなかったハデス博士」
「うむ、研究も大詰めとなった。最後に合体機能のテストおよび戦闘力の計測をおこなおうと思うのだが……」
ハデスは屋上を囲むフェンスの上に飛び乗ると、街行く人々を見下ろした。
そこへ、通常の車両とは違う、機晶重機が走っているのを見つける。ひとしきり暴れた後、仲間とはぐれて道に迷った機晶重機だった。
「……ふむ、あそこに、ちょうどよい機晶重機がいるな。ターゲットはアレにしよう」
爆破事件についてまったく知らないハデスだが、偶然にも犯罪に加担した者を目標に選んでいた。
「さあ、ペルセポネよ、ヘスティアと合体し、オリュンポスの究極兵器、合体機晶姫オリュンピアに機晶合体するのだ! そして、あのターゲットを殲滅せよっ!」
「かしこまりました、ご主人様……じゃなかったハデス博士。ペルセポネとの機晶合体を開始します」
ハデスの命令で、ヘスティアのミサイルユニットと機晶魔銃が前に展開される。本体はコンパクトに収納され、武器としての姿となった。
それは、ペルセポネの各部に装着され、オリュンピアとなる。
『合体機晶姫オリュンピア! ……です』
「ククク、我らオリュンポスが作りし合体機晶姫オリュンピアの性能、見せてもらおう!」
合体の完了したオリュンピアは、宙へ飛びあがると、ターゲットへ向けて落下した。
空中で内蔵型飛行ユニットが展開し、速度を調整しながら機晶重機の前へ着地する。
目の前にオリュンピアが突然現れ、それに驚いた機晶重機がアームを振って攻撃してきた。
オリュンピアは機動力を生かして後退すると、ミサイルを撃ち込んだ。機晶重機の表面を覆う装甲が次々と破壊され、フレームが露出する。
「よし、そろそろトドメだ。吹っ飛ばせ」
ハデスの命令に、オリュンピアが距離を詰める。
機晶重機の懐深くに入り込み、振りかぶった右足で、文字通り空高く吹き飛ばした。
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