First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
ティセラたちがビルに突入する少し前に、状況を把握するため、桐生 円(きりゅう・まどか)は良雄と、テレパシーで連絡をとっていた。
『変な爆発が起きて、パワードスーツが上の方から飛び降りた後、エメネアさんが急に倒れたッス。そしたら全身が光って暴れ始めたッスよ』
という情報を、なんとか時間をかけて聞くことが出来た。
良雄の話によると、エメネアは意識があるらしい。だが、なにかしらの力で妨害されているのか、エメネアとの連絡はとれなかった。
ビルの内部へ入って上へと向かう途中で、円はそれをパッフェルに伝えていた。それを聞いた彼女は、眉を少ししかめて考え込んでいた。
「パワードスーツ……気になる、けど……エメネアとは関係なさそうね」
「そうだねえ。最初に起きた変な爆発が、多分そのパワードスーツの仕業なんだろうけど」
円は言いながら、突入前に見たビル周辺の様子を思い出した。パトカーや消防車、救急車だけでなく、やたらゴツイ車両もあったような気がする。
さらに空京警察の恰好は、どれも普段より多めの武装をしていた。単なる事故なら必要はないだろう。
ほぼ同じような場所、タイミングで起きたのは気になるが、それ以外でエメネアと爆発犯に関係性が見いだせない。
「あっちはあっちで大変そうだね」
「そのようね」
今はエメネアを止めることだけを考えよう、と円は思った。
■■■
エメネアの前に立ったティセラは、優しく語りかけていた。
皆が来てくれたことに嬉し泣きするエメネアに、励ましの声をかけている。
「きっと貴女を救ってみせますわ。だから、我慢できる?」
「はいっ! 耐え切ってみせるですよ。でも、痛くしないでくれると嬉しいです……」
そう言い放つエメネアの目には、早くも涙が浮かんでいた。
■■■
「少し、良いかな?」
言葉数が減り、エメネアをずっと見ていたセイニィが振り返る。
彼女の近くで護りについていたシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)と霧雪 六花(きりゆき・りっか)、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)がセイニィに目を向けた。
「私がエメネアの注意を引くから、後ろから押さえてもらいたいの。頼めるかな?」
「任せてくださいセイニィさん」
「やってみます」
「わかったわ」
満面の笑みで返事をする三人に、セイニィは苦笑を浮かべながら人差し指を口に当てて注意する。
「気付かれないようにお願いね。やる事は単純。私がエメネアの注意を引くから、その隙に彼女の後ろに回って動きを封じてもらいたいの。ちょっと確かめたいだけだから、無理は厳禁。危なくなったらすぐ引いてね?」
小声で伝えるセイニィに、三人は無言で頷いた。
そしてそのままゆっくりと移動していく。
セイニィは、三人が後ろに回り込むのを悟られないように、反対側に移動しながらエメネアの前に立った。
「ごめんね、エメネア……冷蔵庫に入っていた納豆パフェ、食べちゃった」
「えええっ、あれこの前の健康番組で体に良いって評判だったから、凄く楽しみにしてたんですよー。どこのバーゲンでも売り切れで、頑張って探したんですから〜」
「かなり微妙だったわ」
「勝手に食べられた上にケチまでつけられましたかっ!?」
セイニィとエメネアがよく分からないやりとりを交わす間に、牙竜とシャーロット、そして六花が音もなくエメネアの背後につく。
視線を動かさずに三人の位置を確認したセイニィが軽く頭を落とす。
まずはセイニィが、動いた。
音を立てて床を蹴り、光の鞭がつくる球状の範囲内へ飛び込む。
鞭が二本、しなる動作で斜め上からの打撃を当てにくるが、セイニィはパイルバンカーで受け止めて後ろに下がる。
そのタイミングで、三人も同時に行動を開始した。
向かって右側の牙竜はレーザーブレードを手に、鞭の隙間に飛び込んでいく。
左側から突撃したシャーロットはダンシングエッジを構えて突撃した。六花は隠形の術で姿を消し、宙から攻める。
しかし。
範囲の中に身体が入った瞬間、光の鞭は意思を持つ蛇のような動きで襲い掛かってきた。
あらかじめセイニィに言われていた通り、三人は無理をせずに後退する。
「自動的に防御するタイプか、少々やりづらいな……」
「そうですね。使えれば便利そうなのですが、相手にするには面倒ですね」
牙竜の言葉にシャーロットも同意する。
「本人の意思に関係無く動くんじゃ厄介だわ。しびれ粉を使っても意味無さそうだし」
続いた六花の愚痴が本気で残念そうだったので、シャーロットが苦笑いを返す。
「ならば、全部を集めればいいんだね!」
そう言いながら自信満々の表情で前に出たのは立川 るる(たちかわ・るる)だった。
「まだ未知の光条兵器が残っていたなんて、るるはビックリだったのです。でも謎は解けた! あの怪しげに輝く光の鞭は……」
真剣な表情に変わったるるが、エメネアを前にして語り続ける。
ゴクリ、という音がどこからか聞こえてきた。
「実は……固体、液体、気体に続く物質の第四の状態、それがプラズマッ! あの光はプラズマだったのよ!」
「な、なんだってー!?」
驚きの声を出すレオーナに、るるがさりげなく親指を上げた。
辺りが静まり返る中、勝ち誇った顔のるるがエメネアに向かって両手をかざす。
「ふふふ、博物館でたっぷりと遊ん……いえ、練習した成果を見せちゃうよ」
「今、なにか不安になるような単語が出たよね!?」
「き、気のせいじゃないかな〜?」
怪しい言動へ突っ込む円にしらを切って、るるが前進を始めた。てくてく、と光の鞭が織りなす球状の結界へ近づいていく。
その手が内部に入った瞬間、近くの鞭が反応した。
「ほーら、こんなに光が集まって……こない〜? あっ、痛い痛いっ」
鞭の範囲ギリギリのところで、るるはぺしぺしと殴られていた。そして鞭が腕に巻きつき、内側へと引っ張られていく。
「剣の鬼嫁エメネア……強敵だったわ……」
ガクリと崩れ落ちる、るる。
そのまま引き込まれてしまう思われたとき、飛び出してきた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が手にした光条兵器で鞭を切りつけた。
「切れない!?」
切りつけられた鞭はるるの手を放すと、新しい敵に向かって伸びていく。
そのわずかな隙に素早くるるを担ぐと、美羽は軽い足取りで後退した。
「もう、なにやってるのよ! はい、ベアトリーチェ、お願いね」
「よいしょっと。るるさん、しっかりして下さい。傷は浅いです」
美羽は、るるをベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)にわたすと、じっと様子を見た。
ベアトリーチェは手をパタパタさせてるるを扇いでいる。どうやら目を回しているだけらしい。
「るるの行動は突拍子もなかったけど、今ので解ったことがあるわね」
そう言いながらルカルカ・ルー(るかるか・るー)がエスカレータを登ってきた。その後ろからダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も姿を現す。
ルカルカの言葉に、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が首をかしげる。
「範囲のこと?」
「そうだ。まずひとつ、あの光で構成されている鞭は範囲内しか攻撃してこない。だが、中に入らないとエメネアを止められないから非常に厄介だ」
ルカルカの代わりにダリルが答える。
美羽は納得したようにうんうんと頷くと、ダリルの話の続きを待った。
「そしてふたつめ、どういう原理化分からないけれど、物理的な特性を持っている。光条兵器の変化したものだと思うのだが、るるの手に巻きついた。そして光の部分で攻撃を受け止めていた」
「中途半端に暴走したせいかもね。今だってありえない状態だし」
そう言いながらルカルカがエメネアに目を向けた。彼女から伸びた無数の光の蛇が、うねうねと動きながらも球状の縄張りを愚直に護っている。
ありえないことが多すぎる、と円は思った。
光条兵器は特殊な魔法の武器であり、その特性上、斬る殴る撃つといったダメージを与える効果しか持たない。なにかに巻きついて引っ張るということは出来ないのだ。
「確かに不思議な感じだわ。でも、それならまだ何とかなりそうね」
リカインはアブソービンググラブをはめながら言った。横にいる空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)も攻撃の用意をしている。
「んー、それで結局、どうすればエメネアの暴走を止められるのかな? ……あっ、もしかして」
あごに指を当てながら考えていた美羽が、何かを思いつき声を上げた。
ルカルカは無言で頷き、ダリルの方を向く。
美羽もベアトリーチェに近づいた。
二人の剣の花嫁がまばゆい光に包まれる。
そこからそれを、光り輝く覚醒光条兵器を、引き抜いた。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last