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リアクション
「いかん、今の攻撃だけでアルマイン二騎が、戦場を離れる結果になった。攻めている内はいいが、受けに回ると弱いのが敵に露呈しては、敵に積極的な攻撃の機会を与えてしまうことになりかねん」
先程の攻撃の被害を把握した啓が、懸念を口にする。そうなれば今以上に激戦が予想されるが、数の上で大きな優位に立っているエリュシオン側が、いずれ制空権を握るのは自明の理となろう。というより、空戦だけで決着がつきかねない。
「確かにそうかもしれないけど、でも、どうしようもなくない?」
啓の意見に、雷華が振り返って答える。ちなみに雷華の背中には、持ち込んだエレキギターが背負われていた。今はまだこれで操縦出来るようにはなっていないが、気分でも、ということらしい。
「要は、こちらに迎撃以外の手段があって、積極的な行動を取れば大被害を被る可能性があることを、敵に知らしめられればいい。
例えば……世界樹で直接乗り込むなど」
「そんなの無理に決まってるじゃない! ただでさえニーズヘッグの襲撃でダメージいってるのに、これ以上ダメージ与えられでもしたら枯れちゃうってば」
雷華に反論され、しかし啓がむぅ、と唸り、次の案を口にする。
「昨日の敵は今日の友、という格言がある。ニーズヘッグに出てもらうのも一案だな」
「うーん……それは、ニーズヘッグと契約したっていう生徒に任せるわ。
とにかく今は、数を減らして撤退させないと話にならないと思う。考えるのはそれからよ!」
そう言い切って、雷華がカノンのモードをSに切り替え、迫り来る竜兵部隊へ銃口を向ける。
(ここを落とされれば、後に引けなくなる……。これ以上、イルミンスールに近付けてたまるもんですか!)
放たれた魔弾は、ある距離を進んだ後炸裂し、前方にいた複数の龍騎士に損害を与える――。
低空を進む竜兵部隊が通り過ぎるのを、森に潜んでアルツールとそのパートナーが気配を殺して見届ける。後続に部隊が続いていないのを確認して、ペガサスに搭乗したシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)を先頭に、ソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)を装備したアルツール、エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)と続いて森から飛び出す。
一行の狙いは、敵指揮官の奇襲による心理的拘束。少しずつ味方の状況が敵に知られるところとなっている中(攻撃の射程、および命中精度は優れていること、しかし防御力には欠けていることなど)、敵の少しでも予想し得なかった攻撃を繰り出すことで、敵に『何をするか分からない』という思いを抱かせることは、今後の積極的な行動を抑える一因にも成り得る。
「くっ、何だ!?」
突如発生した強い光に、隊員たちの対応が僅か遅れる。
「この竜殺しのシグルズに斬られたくなくば、そこを退けぇい!」
そこを、先陣を切ったシグルズの、手にした剣によるなぎ払いが、ワイバーンに乗る従龍騎士を襲う。横合いから不意を突かれる形になった隊員は、バランスを崩して落下、森へと消えていく。
「迎撃しろ! ドラゴンへは近付かせるな!」
号令が飛び、数騎のワイバーンがドラゴンへの進入を防ぐべく立ちはだかり、もう数騎のワイバーンがシグルズを仕留めるために編隊を組んで進路を変える。
「ここで本気を出すのもいいが……僕たちの狙いは別にある」
敵が推測通りの対応を取ったことを確認して、シグルズが突撃姿勢を解き、向かってくるワイバーンに囲まれないよう、そして彼らを引き付けるような位置取りを心がける。ドラゴンとそれを守るワイバーンと、迎撃に飛び立ったワイバーンとの距離が開いたところで、アルツールが箒を全速で飛ばし、予め構築した雷の魔法を発動させる。ある程度密集していた敵部隊へ、上空から雷が降り注ぎ、複数の従龍騎士が少なからず損害を負い、航行速度を落とす結果になる。
「ちっ、狙いはこちらか! だが、生身で我ら竜兵に挑んだこと、後悔するがいい!」
比較的損害が軽微で済んだ竜兵から体勢を立て直し、アルツールへ迎撃に移る。それに対しアルツールは、対抗せず反転して離脱を図る。
「逃げられるとでも思っているのか!」
「いや、逃げる。さっさと逃げる」
突っ込んでくる竜兵へ、人の姿になったレメゲトンが酸の霧を発生させる。結果として霧に飛び込む形になった隊員は、自らと愛騎を蝕む酸に苦しめられ、後退を余儀なくされる。
さらにエヴァも酸の霧を展開し、敵の追撃を阻む。独力で追っ手を撒いたシグルズと、再び本の姿に戻ったレメゲトンを抱えたアルツールとが合流し、一旦森の中に身を潜める。
「やれやれ、さっさと逃げたいところだが、そうもいかんのが宮仕えの辛さよなぁ……」
ウィール支城へ戻る道すがら、レメゲトンがぽつり、と口にする。これから一行は支城に戻り、生徒たちと共に防衛戦に参加する心積もりであった。
「……魔法で動く兵器、か……。なんだ、貴方も私と同じ様な物じゃない」
出撃前、『アルマイン・ブレイバー』、機体名『セプテントリオン』に触れ、ベルフェンティータがぽつり、と口にする。
剣の花嫁として生み出された自分と、似通る物を感じて――。
「エリュシオンの龍騎士団つったらエリートなんだろ? なら、所詮学生の俺達より経験も実力も上ってこった。でもよ……」
背後に感じた気配、そして声にベルフェンティータが振り返ると、北斗が拳を握り締め、そして高らかに言い放つ。
「自分より明らかに強い奴らを自分達の手で追い返せたら……気持ち良いと思わねえかっ!」
その言葉に、ベルフェンティータは呆れつつも、悪い気はしなかった。もう一度『セプテントリオン』を見上げ、心に呟く。
(私が鞘であるなら貴方は剣。だったら天翔る剣としてその役割を果たしなさい、セプテントリオン。
……大丈夫、私達も一緒に戦ってあげる)
微笑んだベルフェンティータの耳に、北斗の声が届く。
「一緒に行こうぜ、ベル、セプテントリオン。俺達はもっともっと、高く速く、翔べる筈だ!」
その言葉に、振り返ったベルフェンティータが微かに、微笑んだように見えた――。
「こんの馬鹿北斗! 良く見なさい僚機の邪魔してどーするの! 射線の位置は私が指示するから、回避する時はそこを避ける! 良いわね!」
「ちぃっ……見て避ける、じゃ遅いな……意識して操縦する以上、タイムラグが在るのは仕方ねえか。となると……」
「ちょっと、聞いてるの!?」
「失敗して身体で憶えていけって事だよな! 上等だ、足りねえ分は努力で補う!!」
「って、失敗イコール私まで巻き添えなんだけど!? ……はぁ、大丈夫かしら、ホント……」
勢いだけで操縦しているようにしか見えない北斗の背中を見つめ、ベルフェンティータが溜息をつく。それだけでも問題だが、さらに大きな問題が発覚していた。敵を攻撃するための武器が装備されていなかったのである。
(クリムリッテがいないのは……もしかして、彼女があえて武装を外した? 何考えてるのよ、もう! 武装なしで何を一体どうしろって言うの!?)
昨晩意気揚々と「アルマインの整備終わったよー」と報告してきたクリムリッテを後で問い詰めようと決めたベルフェンティータが、この状況をどうにかならないかと考え始めたところで、数騎のワイバーンがこちらをターゲットに定めたらしく、編隊を離れ向かってくる。その数、四。
「北斗、敵が来るわ! このままじゃやられる、せめて味方の――」
「うおぉぉぉ! どこからでもかかってきやがれー!」
「って、自分から向かってってどうするのよー!」
ベルフェンティータの悲鳴が響く中、セプテントリオンが敵編隊へ一直線に突っ込んでいく。
「お、おい! あの機体、真っ直ぐこちらに向かってくるぞ」
「ザンスカールのイコンとやらにも、近接戦闘をこなせる仕様のがあるのか?」
「どうする?」
「どうするも何も、戦ってみなければ分かるまい。二騎ずつに分かれ応戦する。行くぞ!」
その挙動に、敵竜兵は動揺を受けつつも即座に作戦を決め、ワイバーンを操り攻撃姿勢に入る。
「受けてみろぉ!」
すれ違いざまに繰り出されるランスの一撃を、一度は回避するセプテントリオン。
「反対側が、ガラ空きなんだよ!」
しかし、逆側からやって来たワイバーンへの反応が遅れ、振るわれるランスによって左腕を肩の付近から吹き飛ばされてしまう。一度攻撃を食らったセプテントリオンが体勢を立て直す、その隙を歴戦の龍騎士が逃すはずもなく、残る二騎がそれぞれ左右の脚を膝の付近から吹き飛ばす。
「ぐあぁぁぁ!!」「きゃあぁぁ!!」
衝撃に揺れるコクピット内を、二人がのた打ち回るように転げ回る。元々装甲が薄い上、自らが動く分には機能する慣性制御も、外から加えられた力に対してはあまり機能しなかった。一般的に魔法使いがタフでない(最近はその限りではないが)ことを考慮に入れれば、仕方ない措置ではある。
段々と高度を落としていくセプテントリオン、地上にそのまま落下するかと思われたが、寸前でコントロールを取り戻し、ギリギリのところで免れる。しかし、四肢のうち三つを失ったセプテントリオンに、これ以上の抗戦は不可能に思われた。
「まだだ、まだ動ける! 腕もついてるし足だって生えてる、目は見えてる骨だって折れてねえ! こんな位で止められるかーーー!」
先日までパラ実生だった、その時身体に染み付いた“死力を尽くす”、その言葉がセプテントリオンに伝わったか、満身創痍の姿ながら再び大空へと羽ばたく。
「しつこい!」
だが、一度攻撃を避けられた龍騎士の、二度目の攻撃が頭部を潰し、両側から迫る龍騎士のランスが両肩を射抜く。
「落ちろー!」
最後に向かった龍騎士の、繰り出されたランスが胸部中心、コクピットを寸分違わず狙う――。
「出てこい、“ミストリカ”!!」
直後、右腕に装着されていた柄から、本来は両手で持たねば満足に振るえぬ程度の刀身を誇る剣が出現し、それは右から左に振り払われ、トドメを刺そうとしていた龍騎士の脚を巻き込んで、ワイバーンを上下に二分割する。
「があああぁぁぁ!!」
悲鳴をあげながら落下していく龍騎士を、他の龍騎士がフォローに入る。
そして、敵を退けたセプテントリオンは、しばらくその場に佇んだ後、ゆっくりと帰投していくのであった。
「ここを通すわけにはいかないよっ!」
リンネの意思に呼応して、『魔王』の振るった炎の剣がドラゴンを襲う。直撃こそ免れたものの、翼を焼かれ機動力が落ちたのを見て取るや否や、これ以上の継戦は危険と判断したか、追撃を受ける前に引き返す。
「フィリップ、左から来るよ!」
「ありがとうございます!」
同じ小隊に所属していたワイバーンの一騎の攻撃を、ルーレンの指示を受けたフィリップが、生成した氷の盾でガードする。盾はランスの一撃を受け切り、直後に砕け散るが、新たに生成し直される。
「よーし、この調子でドンドン――きゃ!」
突如、上から下へ押されるような衝撃に、リンネは危うく水晶から手を離しそうになりつつ、落ちかけていた機体を留まらせる。
「上からの攻撃なんだな。……機体にダメージは……大丈夫みたいなんだな」
どうやら、先程のワイバーンが帰り際に、炸裂弾を投下したようだ。小さいものとはいえ、巻き込まれれば相応のダメージがいくと思われていたが、『魔王』は他の機体に比べ、頑丈に出来ているようであった。
「隊長、このままでは我が部隊は正面と上方からの同時攻撃を受ける可能性があります!」
再び伝令が、ヘレスに状況を報告する。ドラゴンの攻撃情報から、敵が受けに回ると脆いという可能性を得てはいたが、四肢の殆どを落とされたイコンがこちらの龍騎士を落とした、という情報も入り、今また鉄壁を誇るイコンが中央上方の部隊を押し返しているという情報が入ったため、ヘレスは方針を決めあぐねていた。
(……まだ戦闘を開始して一時間程度、慌てることはない、か。敵に背を向けるのはエリュシオン軍人として恥ずべきだが、無用な被害を出すのは第五龍騎士団員として恥ずべきだ)
心に呟いたヘレスが、息を吸い、新たな命令を口にする。
「第一竜兵中隊は、これより後方の浮遊要塞へ撤退する! 両脇の部隊は、中央の部隊の撤退を援護しろ! 一騎だけ外見の異なるイコンが攻撃部隊を指揮している、そいつに強襲をかけて足を止めろ!」
「はっ、了解しました! 直ちにそのように伝達します!」
伝令が敬礼を返し、ワイバーンを羽ばたかせる。
(一度、アメイア様と今後の対応を協議する必要があるな。
……彼らもこの戦いに参戦しているのだろうか。であるのならば、この結果はさも然り、であるな)
ヘレスがこの地にやって来るのは、今日で二度目。一度目は、イルミンスールに単身向かったアメイアを迎えに行った時のこと。
その時、アメイアを見送りに来た者たちは、敵であったはずのアメイアに礼節を尽くしてくれた。国の違い、そしてこのような状況でなければ、一度しっかりとした形で礼を述べ、語り合いたいと思わせてくれる態度であった。
「……だが今は、私は第一竜兵中隊隊長。ウィール支城の占領を、この戦争の勝利を第一に考えねばならん」
そのためには、少しでも多くの敵の情報を得、今後に生かさねばならない。……そう誓ったヘレスの下に、帰投した小隊の小隊長から報告がもたらされる。
「隊長、イルミンスールの生徒と思しき者を捕らえました。いかがいたしましょう?」
聞けば、その者は一人で浮遊要塞の方角を進んでいたという。ヘレスはすぐに怪しい、と勘繰ったが、敵勢の情報が不足している今、その者が持っている情報を利用出来るのを、みすみす見逃すのも惜しい。最悪、交渉の材料にもなる。
(……つくづく、軍人とは卑しい生き物よ)
自嘲めいた笑みを浮かべ、ヘレスは小隊長に、丁重に浮遊要塞へ連れて行け、と指示する――。
「あ、あれ? どうしたのかな? なんか、攻めて来なくなっちゃったよ?」
目の前の部隊の行動の変化に、リンネが戸惑った声を上げる。
「リンネ、右と左から、多数の竜兵が来るんだな!」
しかしその戸惑いは、モップスの警告によって霧散する。ここで迷っていたら、結局はみんなを、イルミンスールを守れない。
悩む暇もなく、リンネは左からの部隊を迎撃にかかる――。
『魔王』が仲間のイコンと共に片側の敵を迎撃に向かう、その背後を守るように音井 博季(おとい・ひろき)の駆るペガサス『ファウ』が立ちふさがる。
(リンネさんの背中は、僕が守る! 僕だって、ロイヤルガードに推挙されたんだ!)
出撃前にそのことを報告した時に、リンネはまるで自分のことのように喜んでくれた。これからは一緒だね、とも言ってくれた。
(今はファウもいる、リンネさんを今度は、僕の手で守り抜くんだ! ファウ、悪いけど……付き合ってくれよ?)
博季の心の声に答えるように、ファウが一声鳴く。そして前方から、複数のワイバーンが接近してくる。
(ここで出し惜しみなんて、していられない!)
それらに対し、博季はここまで温存してきたマジックカノンを敵竜兵に向けて放つ。次々と放たれる魔弾によって、だいたい二発で一騎のワイバーンが戦闘を継続することが困難になり、深刻な被害が出る前に撤退を図る。八発で四騎を退かせたところで、マジックカノンに蓄えられていた魔力が切れ、そして残り一騎が果敢にも近接戦を挑もうとする。
「ここを行かせるわけには、いかないんだーっ!」
マジックカノンを投棄し、代わりにマジックソードを装着した(やはりイコン用なので、短身と言えども博季が直接持つには不便であり、使用するにはこの方法がベターと思われた)ファウを、敵竜兵へ進ませる。全身を鎧に包んだ敵兵の、表情が伺い知れない中繰り出されるランスに、博季は一時恐怖を忘れて雷を見舞い、ひるんだところにソードをワイバーンの翼へ突き刺す。
「チッ、不覚を取ったか!」
龍騎士の悔し気な声が聞こえた矢先、博季は上からの飛来物にファウごと巻き込まれる。龍騎士が撤退際、持っていた炸裂弾を博季に向けて放ったのだ。危機を察知したファウが高度を思い切り下げたことで、致命傷は免れたものの、博季もファウもあちこち傷だらけになっていた。
「撤退……してくれたのかな? よかった……」
上空を見上げ、敵竜兵の姿のないことを確認した博季が、ほっ、と息をつく。
「……いたたたた! はは、緊張が解けたら、途端に傷が痛んできたよ」
苦痛に顔を歪める博季に、ファウはおそらく自身も痛いだろうに、主を気遣うような声を上げる。
「ああ、ごめんよ、ファウ。だけど、もう少しだけ、頑張ってくれ」
先程の戦闘で投棄したマジックカノン、回収してウィール支城で魔力を補給すれば、まだ使用可能である。
(多分、これで戦闘は終わりじゃない……少しでも長く戦えるようにしておかないと)
そう思った博季が、ファウを走らせ、カノンの回収に向かった――。
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