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イナテミス防衛戦~颯爽の支城、氷雪の要塞~

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イナテミス防衛戦~颯爽の支城、氷雪の要塞~

リアクション

「中央の部隊が高度を変え、二手に分かれたわ。速度はどちらも一定を維持しているようね。
 芳樹、どうするの?」
 周囲の哨戒を担当していたマリル・システルース(まりる・しすてるーす)の報告に、四名で『アルマイン・マギウス』に乗り込んだ高月 芳樹(たかつき・よしき)は思案の結果、コクピット左手に位置する伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)に指示を出す。
「リンネさんたちに連絡を取ってもらえるか? 生徒を率いて上方の部隊を迎撃に出てほしいと。
 ……危険ではあるが、上手く行けば横と上から部隊を挟み込める。完全に守勢に回るわけには行かない、今が積極的攻勢に出る時だと思う」
「心得た、そのように伝えよう」
 玉兎が頷き、リンネたちの乗る『魔王』に連絡を取り、積極的迎撃策を伝える。イコン部隊の隊長を務めることになったリンネの下には、まだ経験の浅い生徒たちが配下として付き従っていた。確かに、経験の浅い者を向かわせる不安はあるが、今後より一層攻撃が激しくなる可能性を考えると、経験のある生徒たちの消耗を少しでも控えたい。後は、リンネの性格からすれば、守勢に回るより攻勢に回る方が成果を挙げられると踏んでの決断であった。
「改めて、私達はどうするの?」
 アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)の問いに、芳樹が答える。
「僕達は、下方の部隊をウィール支城に近付けないように食い止める。カノンの二つのモードを使い分ければ、効果的に食い止めることは出来るはずだ。アメリア、頼んだぞ」
「分かったわ、必ず、食い止めてみせる」
 直後、玉兎の方から、リンネたちと連絡が取れ、迎撃の準備に入ったことを告げられる。
「さて、こちらも迎撃準備だ。マリル、他の機体との連携は取れそうか?」
「今、これからの方針を伝えているわ」
 マリルによって、周囲のイコンに中央の部隊に対する迎撃方針が伝えられ、作戦を理解した者から順に迎撃ポイントへ移動を開始する。まだ戦闘の序盤ということもあって、先走って攻撃をしてしまう者は見られなかった。
(この秩序が、いつまで保てるか……歩兵部隊に乗り込まれでもしたら、混乱が予想されるな)
 芳樹が心に呟く、ウィール支城の占領を狙うであろう歩兵部隊の姿は、まだ確認できなかった。やはり上空の制空権を確保しない以上は、歩兵部隊を繰り出してこないのだろうと予想された。
『芳樹ちゃん、リンネちゃんの方、準備完了したよ!
 芳樹ちゃんの方で撃ったの確認してから、こっちも攻撃開始するから、よろしくね!』
 玉兎が『魔王』との連絡を繋ぎ、その『魔王』に乗り込むリンネの声がコクピットに響く。
「アメリア、Cモードで敵竜兵を狙い撃て!」
「マジックカノン、Cモード! 照準セット……行け!」
 芳樹の号令を受け、アメリアの意思に基づいて、マギウスがマジックカノンを構え、魔弾を発射する。
 その攻撃に合わせて、他のイコンもそれぞれの射撃武器で、攻撃を開始する。

『分かった、これより攻撃を開始する。そちらもよろしく頼む!』
 芳樹からの通信を終え、リンネが自分たちのこれからの行動方針を口にする。
「まずは、『ファイア・イクス・アロー』で攻撃、敵が慌てたところに『ファイア・イクス・ソード』で突っ込む!」
「リンネさん、その『ファイア・イクス・ソード』ってなんですか? アローの方はこの前の特訓で見させてもらいましたけど」
「えっとね、今思いついたの! 弓があるなら剣もあるよ、きっと! この前もなんか出せたし!」
「リンネ、こんな時までムチャクチャなんだな。失敗したらボクたち、帝国の捕虜になっちゃうんだな?」
「大丈夫、もしそうなったとしても、フィリップだけは僕が守ってあげるから♪」
「ルーレンさん、僕だけじゃなくて皆さんも守ってくださいよ」
 そんなやり取りをしている内に、芳樹の率いる部隊の方は、既に応射を始めていた。
「ほら、向こうは始まっちゃったよ! こっちも攻撃に移るよ!」
「……ええい、こうなったらやるしかない!」
 フィリップも少しずつ、リンネの猪突猛進っぷりに毒されて? きたようである。

「……天界の聖なる炎よ、魔界の邪悪なる炎よ。
 今ここに手を取り合い、
 大気を切り裂く雷迅に乗り、
 立ちはだかる敵を塵と化せ!」


 呪文の詠唱と共に、『魔王』の片手に光る弓が出現し、もう片方には同じく光る矢が出現する。
 矢を弓に番え、『魔王』が狙いを敵竜兵部隊へ向ける。

「ファイア・イクス・アロー!!」

 号令と共に、『魔王』が矢を放てば、その矢はまるで空間を薙ぎ払うように突き進み、高高度を進んでいた竜兵部隊を閃光と爆風に包み込む。
 直撃を受けたドラゴンやワイバーンはもちろんのこと、閃光および爆風に巻き込まれた兵士たちはまったく混乱し、あちこちで衝突事故を起こして落下していった。

「みんな、行くよ!
 イルミンスールは、みんなの手で守るんだよ!」


 今度は手に剣を生み出した『魔王』を大空へ羽ばたかせ、リンネが従える生徒たちがそれに続く。
(アメイア卿……今はいらっしゃらないようですが、今度もしっかり出迎えさせていただきます。
 もちろん、撤退の時まで見送りをさせていただきますので、ご理解いただければ幸いです……!)
 ニーズヘッグ襲撃の際、アメイアに多くの時間付き添い、本国へ帰投するアメイアを見送った者として、今再び出迎えをし、見送る決意を秘め、恵が『アルマイン・マギウス』に四名で(グライスとレスフィナは恵に装備という扱いだが、魔力キャパシティはちゃんと増加しているようであった。一人としてカウントしているらしい)乗り込み、最初の一撃で高度を落とした龍騎士を優先的にマジックショットで狙い撃つ。いくらドラゴンやワイバーンに乗っていても、一旦落とした高度を上げ直す時には機動が制限されるという目論見は功を奏し、命中させることに優れている機体も相まって、龍騎士は体制を整える暇もなく撃ち落されていく。
「ケイ、左手の敵が、体制を整えつつあります」
「うん、それじゃあ、大ババ様から教えてもらった技を使ってみよう」
 周囲の哨戒を担当していたエーファの報告に、恵がアーデルハイトから助言を受けた、雷の魔法を行使する決定を下す。恵の意思に呼応して、マギウスがマジックショットを仕舞い、代わりにマジックソードを抜き、横一文字に構え、剣に魔力を込める。
 剣が魔力を帯び、パチッ、と電撃を放射したところで、マギウスが剣を空中へ放る。エーファの姿勢制御により的確に敵竜兵部隊の上空へ放たれたマジックソードへ、さらに上空から雷光が落ち、ソードを通過して四方に拡散しながら降り注ぐ。この攻撃も、直撃を受けた龍騎士は即座に落ちていき、直撃を免れた龍騎士も、一時的な飛行不能に陥ることで高度を下げ、それは恵の撃つマジックショットの餌食になっていた。
「向こうが退くまで持ちこたえれば良いのです。落ち着いていきましょう、ケイ」
 エーファの言葉に、恵がうん、と頷く。今はまだ自我を保っているが、これでもしイナテミス中心部が戦火に見舞われるようなことにでもなれば、それはエーファ自身にもどれほどの結果が待っているか、想像がつかないのであった。
(そのようなことにならないためにも、ここで敵竜兵を食い止めます!)

「ねえジュレ、ジュレがよく使うレールガンと、マジックカノンって似てるって思わない?」
「そうかも知れぬが……何が言いたい、カレン?」
「いやね、せっかくマジックカノンも使えるって話じゃない? だったら、カノンの方はジュレに操作してもらおうかなーって。
 ジュレがカノンで砲撃して、バラバラになった所をボクのショットでトドメ! どうかな?」
「ほう、カレンにしては考えたな。よかろう、そういうことなら任せておけ。
 機動の方はカレンに任せる、我が砲撃を行い易い振る舞いに留めておけよ?」
「大丈夫大丈夫、大ババ様の話では、そんなに機動力ないって話だし」

「そこだねっ!」
 カレンの意思に呼応して、『アルマイン・マギウス』がマジックショットを構え、魔弾を撃ち出す。二発、三発と直撃を受けたワイバーンが、たまらず暴れ出し、制御不能になったところを他の機体の攻撃に晒され、飛行不能に陥り落下していく。
「か、カレン、もう少し落ち着けと……ぬお!?」
「なんだ、結構自由に動けるねー。ブレイバーはこれよりもっとスムーズに動けるのかな? 今度乗る機会があったら試してみようかなー」
 そんなことを呟きながら、初めて乗ったはずのマギウスを既に十分乗りこなしている様子のカレンが、マジックショットで応戦する。一方ジュレールの方は、カレンの無鉄砲ぶりに振り回されているようであった。
(……いいや、我とて多くの間、カレンの無茶ぶりに付き合わされてきた。この程度で根を上げてどうする?)
 そう、ジュレールにはこれまでの数々の冒険で培った(培わざるを得なかったとも言う)経験がある。それらは長い間に身体に染み付き、不意の状況に対しても素早い対応を可能としていた。これと、機晶姫というスペックを駆使すれば、超軌道の中でマジックカノンを直撃させることなど、他愛もない……だろう、多分、きっと。
「当たれぇ!」
 ようやくとコツを掴んだらしいジュレールも、マジックカノンによる砲撃を開始する。マジックショットよりも威力の高い魔弾は、ドラゴンを守るために組まれていたワイバーンの壁をたやすく貫き、ドラゴンを火線に晒すことに成功する。
 しかし、敵もただ黙ってやられる真似は見せない。壁が破壊されるや否や、ドラゴンが口を大きく開け、炎弾を発射する。直線に飛ぶ炎弾は、周囲に火の粉をまき散らしながらイコン部隊へ迫る。
「よっと!」
 攻撃の瞬間を見ていたカレンが、軌道を読み切って炎弾を避ける。魔法使いは基本、攻撃を避けるよりも受け止める方に重きを置くが、カレンの戦闘スタイル(ちょこまかと動く)がこの場合は功を奏したようだ。
『ぐおぉ! あ、熱い熱い! すまない、一旦撤退する!』
 というのも、攻撃を装備したシールドで防御しようとした他のアルマインが、炎に包まれ煙を吐きながら、ウィール支城へ帰投していったからである。シールドは炎弾の攻撃を耐え抜いたものの、熱量までは防げなかったことが影響したようだ。
 この点、回避より防御に重きを置くイルミンスール生徒と、装甲が他の学校のイコンに比べ薄いアルマインの、運用方法の乖離が見て取れるようであった――。