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イナテミス防衛戦~颯爽の支城、氷雪の要塞~

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イナテミス防衛戦~颯爽の支城、氷雪の要塞~

リアクション

(絶好の、武功を立てるチャンスですわ! ここで大活躍とかしましたら、わたくしは勿論、ミスティルテイン騎士団の知名度も鰻登りというもの! 燃えて来ましたわ!)
 ついに自分の出番が来たとばかりに、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が雪面を蹴り、爆発的な加速力で向かってきた敵兵にシールドチャージを見舞う。
「ぐはっ!」
 まさかシールドごと体当たりをしてくるとは思わなかっただろう、隊員が直撃を受けて吹き飛ばされ、雪面を転がる。そして当のノートは微塵も影響を受けていない顔で、敵兵と切り結ぶ。普段は望に“ヴァカキリー”と揶揄されることの多いノート、確かに頭は残念かもしれないが、それを補って余りある体力を以て、敵兵を沈めていく。
「矢には、こういう使い方もありますわよ?」
 微笑み、背中に番えていた矢を“持った”ノートが、その矢をダーツの要領で“放る”。
「ぐっ……!」
 どす、と音が響き、太股の辺りを射抜かれた従龍騎士が崩れ落ちる。どうしてあのような見た目軽い動作で、あれほどの威力が出るのかは、永遠の謎であった。真面目に弓を撃っている人が涙目である。
(お嬢様、生き生きとしていらっしゃいますね。まぁ、活躍の機会に恵まれませんでしたから……)
 ノートの無双ぶりを横目に、望が足元の雪をファイアストームで溶かし、足を取られた敵の足元に氷術を撃ち、動きを鈍らせる。
(ミスティルテイン騎士団の今後のためにも、ここは少し、張り切りませんとね)
 現在のEMU情勢のことを考えると、できればこの戦いでの功績を、ミスティルテイン騎士団によるものと印象付けたい。匙加減を誤れば、この戦いの主導を担っているウィール支城や雪だるま王国の者たちに不快感を与えることになる危険性を感じつつ、望はどうまとめるべきかを思案する――。

「さあ行きなさい、私の可愛いアルラウネ達!」
 多比良 幽那(たひら・ゆうな)に命じられた、人の姿をした植物が数体、とてとて、と走りながら敵歩兵へと向かっていく。
「……幼子? だが、戦場に出てきたからには容赦はせん!」
 どう見ても幼女にしか見えないその者たちへ、従龍騎士がランスを振るう。どす、とランスが幼女の身体を貫通するがしかし、幼女は倒れることなく無表情な顔を向けてくる。
「な、なんだこいつら……くっ、ぬ、抜けん!」
 異変に気づいた時には、ランスが蔦のようなものに絡み取られ、従龍騎士の手を離れる。
「た、助けてくれーっ!!」
 しかし、武器を奪われるのはまだいい方で、ある従龍騎士は幼女から発せられる蔦に身体を這われ、身動きが取れなくなっていた。いくら彼が幼女が好みだったとしても、これは遠慮したいだろう。
「水……というか雪だけど、それがたくさんあるここだと頼りになるわね、あんたの……えっとごめん、なんだっけ」
「アルラウネです。私が精魂込めて育てた、可愛い子達です」
 傍にやってきたカヤノに、幽那が敬意を示す態度で答える。本人曰く『植物の命の要の一つである水は、愛すべきでかつ偉大な存在』とのことで、それを自在に操るカヤノは幽那が忠誠を誓う存在であるらしかった。
「私には聞こえるのです、植物の悲鳴が。先の襲撃で、そして今回の戦争で、多くの植物の命が失われました。
 もうこれ以上、悲しい声は聞きたくない……っ!」
 頭に直接響いてくる声(幽那はそれを、植物の声だと思い込んでいた。真意の程は定かではない)に幽那が顔を歪ませ、空の一点を左腕で突くように指す。すると、まるで空がひび割れるように開き、そこから鈍く光る杭がドスドス、と敵歩兵へ降り注ぐ。
「ど、どこから降ってきたんだ!?」
 その直撃を受けた者はもちろん、直撃を免れた者も、いくら攻撃を浴びせても動じることのない存在(しかも幼女なのがある意味余計に)と相まって気味の悪さを覚え、武器を捨てて後方へと逃げ帰っていく。
「確かにあなたの言う通り、自然は何かに怯えている。その理由は詳しくは分かんないけど、とにかくあんたたちはジャマなのよ!」
 叫び、カヤノが両の手の先に大きな氷塊を作り出し、動きを封じられた敵歩兵へぶつける。まるでボーリングのピンのように敵がなぎ倒され、雪面に伏せていった。

「私は、雪だるま王国バケツ要塞守備隊副隊長にて、愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおい!
 貴方達をこれ以上先には進ませないよ!!」

 向かってくる敵歩兵部隊を前に、葵が自らの身分を明かし、警告を発する。
「なに、魔法少女、だと……!?」
「お前、知っているのか?」
「ああ……戦闘中も一切笑みを崩さず、敵対する者を消し去っていくという、天使と悪魔が混在したような存在、それが魔法少女……!」
「なん……だと……!? そのような人物が何故後方部隊にいるのだ!」
「ほぼ共通して、普段は争いを好まない温厚な人柄らしいからな。
 ……だが、一度敵に回せば、その後姿を見たものはいないという……」
 敵歩兵部隊の間で何やらやり取りが交わされ、そして彼らの足がぴたり、と止まってしまう。彼らの国が魔法技術に長けていてもなお、魔法少女という存在は理解の範疇を超えていたらしく、某終身名誉魔法少女が聞いたら「そんなことないですよー」と反論しそうな噂が飛び交っているようであった。
「な、何が魔法少女だ! 見た目ただの女ではないか! そのような輩に、我ら龍騎士団が屈するとでも思ったか!」
 しかし一部の者が、自らを奮い立たせるように言葉を吐き、ランスを構えて突撃姿勢を取る。一歩を踏み出そうとした矢先、上空から雷が降り注ぎ、直撃を受けた龍騎士が痙攣しながら地面に崩れ落ちる。
「た、祟りだー!」
 その様子を見た複数の龍騎士が、腰を抜かして後方に退いてしまう。振り返った葵の視線に、今しがた雷を放ったエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)の姿が映る。
「貴方達の好きにはさせません。……葵ちゃん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫! ありがとう、助かったよ〜」
 満面の笑みを浮かべる葵に、エレンディラも釣られるように微笑む。
(葵ちゃんには、いつだって微笑んでいてもらいたいですから)
 その思いを胸に、エレンディラが葵の背中を追いかけていく。

 敵歩兵の上空で、飛んできた炎弾が炸裂する。
「なんの、この程度で俺達の動きを封じたつもりか!」
 魔法技術の発達したエリュシオン軍人らしく、炎や氷といった現象を恐れることなく、果敢に踏み込む歩兵たち。
(これがエリュシオンのやり方なのか……! どうして、互いに手を取り合えない? 説得できる相手ではないと分かっている、だが、こんな戦いに何の意味があるんだ……)
 一抹の無常感を胸に、ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が忽然と敵歩兵の横合いに姿を現す。彼の身につけた衣は、短時間ながら身につけた者を霧に変える効果があった。この吹雪の中では霧すらも隠れ、もはや彼の姿を事前に察知することは、敵の中では不可能であっただろう。
「何!? 貴様どこから――ぐっ!」
 敵歩兵がルーツの存在に気づいた時には既に時遅し、脚を鎧の上から撃ち抜かれ、雪面に倒れ伏す。
(しばらくそうしていてくれ、後で必ず処置は施す……!)
 申し訳ない気持ちを抱きつつ、ルーツが次の敵を目標に定め、行動を開始する。
「ったく、うざい奴らだな。ここは俺が、通させねぇよ!」
 その反対側では、蒼灯 鴉(そうひ・からす)が鬼の力を発動させ、それまでの倍の大きさに膨れ上がるように伸び、敵歩兵と対峙する。
「ひるむな、突け、突けー!!」
 動揺を気合で押さえつけ、敵歩兵がこぞってランスを繰り出すが、それらは尽く鴉の直前で弾かれる。
「な、何故俺の一撃が――」
「俺の闘気は攻撃を弾く鎧……簡単にやられるつもりはない!」
 言って、鴉が手にした剣を振り上げ、あるいは手を覆う甲の一撃を敵歩兵たちへ繰り出す。
「ぐわあぁ!!」
 斬る、というよりは叩き潰すような感じで、そして攻撃を受けた敵歩兵は鎧の上からでも手足のしびれや、骨の一、二本を折る損傷を受け、戦闘力を低下させる。
「……ここでむざむざと退くような、第五龍騎士団ではない!」
 それでも、残り数名の従龍騎士たちは、手傷を負いながらも攻撃の手を緩めない。ルーツと鴉の攻撃を振り切り、先程から炎弾を飛ばしていた師王 アスカ(しおう・あすか)に迫る。
「覚悟ーーー!!」
 叫んでランスを繰り出そうとした従龍騎士の一人が、直後、顔に触れる何かの存在に気付く。
「私に触れようったってダメ、途端に大火傷よ〜」
 そんな言葉が聞こえたかどうかは定かではないが、まるで曲芸のように兜の隙間から炎を吹き出した従龍騎士が、雪面をのたうち回る。
「お、おい、何だ今のは!?」
「分からん、俺には魔法の詠唱が聞こえなかった……一体何が――」
 周りの歩兵たちが呆然とし、戦意を喪失しかけた頃、トドメを刺すようにオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)の声が響く。
「あんたたちの指揮官は、ここで石になっちゃったわよ? どう、これでもまだ、戦うつもり?」
 集まった視線の先で、オルベールが使役するガーゴイルの背に載せられていたのは、彼らをここまで率いてきた隊長であった。
 アスカとルーツ、鴉が隊員たちを引きつけている間に、他の者たちと共に隊長の元へ向かったオルベールが、ガーゴイルの能力で隊長を石化させることに成功したのであった。
「なん……だと?」
 隊長をやられ、自分たちも数を減らし、手負いとあっては、追撃を振り切ることすらままならない。
 そう判断した隊員たちは、潔く投降を決心したのであった――。

「まったく、アスカの絵の完成を心待ちにしてる人達だっているんだからね!
 こんなKY龍騎士なんてさっさと舞台から降りてもらうわ」
 ここでの戦闘を終え、手当てを受けて雪だるま王国へ移送される敵を一瞥して、オルベールがふん、と言い捨てる。
「まったくだ、今回だけは同意見だな」
「ここの負傷者は全員の搬送が完了した。急ごう、先にはまだ負傷者がいるはずだ」
 作業を終えた鴉とルーツが合流し、アスカは先を急ぐ。味方の負傷の話は幸いにも聞いていないが、敵兵の内数名かは腕や脚を斬り落とされ、重傷とのことであった。
(作品のキャンバスでもある大地に、屍を作りたくないわぁ……。だから、敵であっても絶対殺さない。エリュシオンがイヤだとしても、私達は“共存”を目指すわ〜)
 イナテミス広場に制作中のトリックアートを、一日でも早く完成させることを誓いつつ、今はイナテミスに住まう者たちを守ることを第一に、アスカたちが進軍を続ける――。