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リアクション
●ウィール遺跡
遺跡内部では、精霊たちが慌しく(それでも、他の精霊に比べるとゆったりとした様子で)自らの居場所を守るための対策に奔走していた。
「私たちは状況が変化するまで、ウィール支城と雪だるま王国を防衛し続ける方針を採ったの。
今後、『味方の疲れが見え始めている』もしくは『ウィール遺跡まで敵が迫っている』状況になれば……ヴァズデルにも出撃してもらうことになると思う」
「そうか……分かった。彼らもよく働いてくれている。ウィール遺跡はそう易々と落とされはしないだろう。
どれほど役に立てるか分からないが……その時は私に出来ることをしよう」
ウィール遺跡を守護するヴァズデルが、やって来た鷹野 栗(たかの・まろん)の説明を受けて了解の意思を返す。
(……大丈夫。羽入とヴァズデル、そしてシェリダン、クゥアイン。
大切なパートナーが、そばにいるから)
視線を向ければ、ここまで乗ってきたワイバーンのシェリダンとクゥアイン、そして二匹の世話をしている羽入 綾香(はにゅう・あやか)の姿があった。
「さて、クゥアイン。此度は栗でなく私が乗らせてもらうこととなったが、宜しく頼むぞ」
綾香の言葉に、クゥアインが懐っこさを感じさせる声で鳴く。一方のシェリダンは栗と距離を取り、栗が言葉をかけてもプイ、とそっぽを向いたり、反抗的な態度を見せていた。
(……ま、あれでもいざという時には栗の力になってくれる。
ワイバーンに限らず、イルミンスールの生徒も個性的なやつが多い。……しかし、このような時には互いに支え合う。
そこには軍とは違う、確かな強さがあるのじゃ)
組織だった行動は取れなくとも、共通した一つの想いさえあれば、人は協力し合える。
『自らの居場所を守る』その為に今、種族を超えた協力の輪が創り上げられようとしていた――。
●雪だるま王国
赤羽 美央(あかばね・みお)が女王を務める『雪だるま王国』、その中心である王宮には、雪だるま王国の臣民を始め、多くの協力者が集っていた。
「女王陛下、この鬼崎朔、恥ずかしながらこの地に再び戻ったこと、まずは報告申し上げます」
一度は雪だるま王国を離れ、エリュシオンの第七龍騎士団に所属していた鬼崎 朔(きざき・さく)が、美央の前で膝を着き頭を垂れ、誓いを口にする。
「その上で、私は特攻隊の一員として戦働きすることを誓います。『白魔将軍』の脅威、敵に知らしめてご覧にいれましょう」
「そうですか、分かりました。朔さんの活躍に期待しています」
薄く微笑んだ美央に、頷いて朔が身を起こし、集った者たちの中へ戻る。席から立ち上がった美央が、その者たちへ訓示を告げる。
「……残念ながら、この雪だるま王国にもエリュシオンの手が迫ろうとしています。
もちろん、何もしないでいるわけにはいきません。私は雪だるま王国の女王として、エリュシオンと戦うことを決断しました。
ですが、例え敵が私たちを殺すつもりで向かってきたとしても、私は敵を殺すことを望みません。
殺されず、しかし殺さず、そして戦いに勝利する。……非常に難しいとは思いますが、それでも私はあえて、【犠牲者ゼロ】を掲げます。
こんな戦争なんかで、誰も死ぬ必要なんてありません。
全員が生きて、戦争を終わりにしましょう!」
訓示を受けた者たちは、これこそが『スノーマニズム』なのかといった思いで、しかし明確な反感を抱くことなく協力の意思を示していた。
「犠牲者ゼロ、ね……。いいわ、約束したし、やってやろうじゃないの。あたしに不可能なんてないのよ!」
意気込むカヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)が美央に呼ばれ、【雪だるま王国バケツ要塞守備隊副隊長】の秋月 葵(あきづき・あおい)と共に、方針の確認を行う。
「初戦では、カヤノさんはウィルネストさんと同行してもらいます」
「ウィルと!?」
美央の言葉を聞いて、カヤノが背後を振り返れば、ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)と共に来ていたウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)がにひひ、と笑みを浮かべていた。
「何よウィル、文句あんなら――」
ドタドタと近寄ったカヤノだが、ウィルネストが胸元に【かやののともださ】と書かれた名札を付けているのを見て、思い止まる。カヤノの視線に気付いたウィルネストが、再びにひひ、と笑う。
「ほらよ、付けてきてやったぜ。しっかし、ださ、ってなんだよ。俺がダサいとでも言いたいのかよ」
「う、うるさいわね! 『ち』を間違えただけでしょ!?」
『ち』を間違えて『さ』と書いてしまったことをバカにされたと思ったのか、カヤノが激昂してウィルネストに詰め寄る。
「ふーん、そかそか。じゃあさ、俺だけ付けててもアレだし、カヤノも『うぃるのともださ』って名札でも付けるかぁ?」
「ど、どうしてそういう話になるのよ! ……べ、別にあんたが作ってくれるってんなら、付けてあげてもいいわよ?」
「っしゃ、決定! んじゃ、帰ったら作ってやるからな。にひひ、これでださコンビ結成だな♪」
「あたし別にダサくないわよ!」
二人にとってはいつものやり取りを交わして、そして戻ってきたカヤノが美央の言葉の続きを耳にする。
「龍騎士の第一波を退け、唯乃ちゃんがメイルーンさんを呼んできてくれたら、カヤノさんには、葵さんや有志の皆さんと共に、ウィール支城へ援護に行ってもらおうと思っています。詳しいことは、今ウィール支城の方でタニアさんが話をつけているはずなので、彼女からお願いします。可能であれば、かつて行った【VLTウインド作戦】も検討しているそうです」
「あー、あれね。そうそう、メイルーンには今、フブエが付いてるはずよ。
彼女とも連絡取っといた方が、あとあとスムーズになるかもね」
●氷雪の洞穴
ウィール遺跡同様、こちらでも精霊たちが自らの居場所を守るため、奔走していた。
「ま、どうにもならなくなったら、ボクたちは引き篭ればいいだけだけどねー。
……ねぇフブちゃん、さっき言ったこと、ホント?」
その最奥地、洞穴を守護するメイルーンの傍には、鎌田 吹笛(かまた・ふぶえ)の姿があった。
「あなたが運命を変えると決心した時、私もあなたを支えると決心しました。決心が本物と証明して見せますので、どうか見届けて下さい。……そうでないと、私は私の魂と向き合えなくなります」
確かな決意を秘めた瞳を向けて言う吹笛、彼女はメイルーンに、契約をする覚悟と万が一の時、この氷雪の洞穴でメイルーンと共に眠りにつく覚悟があることを告げていた。
「そっかー。じゃあフブちゃん、ボクと契約しよっか」
にっこりと笑い、そしてさもあっさりと告げるメイルーンに、流石の吹笛も面食らう。
「? ボク、フブちゃんとなら契約してもいーよーって思ってるよ?」
首を傾げるメイルーン、言葉こそ軽いが、それはそういう性格のようであった。
「……では、今後ともよしなに。
これで眠りにつくことになってしまっては、せっかくの契約も台無しですな」
「大丈夫だよー、カヤノちゃんやみんなもいるし。エウちゃんからこの帽子もらった……ああ違った、預かったしねー。
それに、フブちゃんがいたらボク、もっと頑張れるよ!」
頭に被った、卵を真横に切ったような形状の帽子に手をやって、えへへ、とメイルーンが笑う。
そして、二人の手が重なり合い、光が二人を包み込んだ――。
(吹笛から覚悟は聞いているわ。私はここで、二人の覚悟を邪魔させない。
……もちろん、私は二人の所に戻るつもりだけど。帽子も返してもらわないとね)
洞穴の入り口ではエウリーズ・グンデ(えうりーず・ぐんで)が、メイルーンに帽子を“預けた”後、入り口の警備を買って出ていた。
(……辺り一面吹雪ね。これで敵は視界が利かない、こちらは影響を受けずに戦える。
どれだけ来るか分かんないけど、やってやろうじゃない!)
氷雪の洞穴が危機に陥るような状況になれば、洞穴の封鎖の必要性有りと判定されてしまうかもしれない。
吹笛とメイルーンの覚悟を聞いていたとはいえ、エウリーズはそうならないよう、出来ることをしようと思い至っていた――。
●雪だるま王国近郊
「ここら辺は大丈夫ですか?」
「ん、よし、これでいい。次の場所も頼む」
一方その頃、雪だるま王国から北方に進んだ先、ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)とシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が、ペットのパラミタ虎に乗り、敵歩兵部隊が通過すると思われる場所に、手製の罠を仕掛けていた。
光を出せば敵に見つかる可能性があるため、ラムズが暗視ゴーグルを装備し案内を担当する中、『手記』はただひたすらに『黄のスタイラス』を振るい、雪上の空間に闇術を応用した(本人曰く、『名前のない図書館』で用いているものの簡易版)魔法陣を描いていく。
「ふぁ……これは、夜を徹しての作業になりそうですねぇ」
「ぼやくな。我とて眠いが、寝床の隣で戦争なぞされては、ゆっくり眠る事も出来ぬぞ?」
「そうですねぇ……」
猛吹雪の中でも、メイルーンの加護によって影響は軽微に留められているものの、とにかく広い。
大軍故、小細工を打たず正面から来ると予想し範囲を絞っても、たった二人のトラップ班には重労働と言えよう。
「さぁ、次じゃ次。人間どもの下らぬ喧嘩に興味はないが、殴られる隣人は見とうないからの」
「えぇっと……何でしたっけ? 手記みたいな性格を確か……」
「開戦前に死にたくなかったらさっさと行け。今は時間が惜しいんじゃ」
「あぁ、すみません。では、次は……」
背後から不穏な気配を漂わせる『手記』へ、ラムズが苦笑を零して答え、次の設置場所へと虎を走らせる――。
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