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エデンのゴッドファーザー(後編)

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エデンのゴッドファーザー(後編)

リアクション

「初めまして、ロンド・ボス・ベレッタ――。一般住民に被害は及ぼさないでしょうね?」

 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が言うと、ベレッタの護衛達が彼女に銃を構えたが『私の話を聞けェッ!』と咆哮1つで怯み、動きがとれなくなった。
 その中でも流石はベレッタで、彼女だけは腰に手を当てて足幅を取り、悠然と向かい合った。

「我々は軍隊だ。軍隊が一般市民に手を出せば、それはただ一方的な共食いだ。悪趣味極まりない」
「貴女の趣味も十分――」

 白い歯を見せてベレッタが笑うと、護衛達に手で示してリカインを素通りしていった。
 短いやりとりの中で十分に、敵にも味方にもならないであろうことと、互いの目的がわかった。

*

 咆哮し、ナコトを怯ませたのはリカインだった。
 ベレッタと言葉を交わし、丁度ホテルを下りている最中にこの場に出くわし様子を窺っていたのだ。
 彼女としては市民に累が及ばなければよい。
 が、シィ達を見ていると、生きる者全てを無に帰す勢いにも見える。

「誰がゴッドファーザーになろうとも私はノータッチよ。それがこの街の、この歴史の出した答えでしょう? だけど見境のない争いは止めてもらえないかしら」
「きゃはっ、暴力無しで戦いを止めさせたい? 簡単さ。10人中10人が暴力反対になる理論をラズン達に言えばいいのさ」
「……あまり争う気はなかったけれど……。少しだけお痛を後悔させないとね」
「決まりですな。和深、彼女に手を貸してやってくれるか?」

 アルクラントはファンタスティックの一員である瀬乃 和深(せの・かずみ)に聞いた。
 和深は頷き、2丁拳銃のスタイルをとった。

「アルクラントさんをゴッゴファーザーにするため、ホテルの最上階へ続く道を確保するため戦う――。それが俺の役目だろ」
「その心――無駄にはしないさ」

 そう言ってアルクラント達は上階へ向けて駆け抜け、残された者達の戦いが始まった。
 シィは広範囲、複数をフールパペットで手当り次第死者を利用して立ち上がらせたがリカインがすかさずシンフォニックレインでまとめて釣り、その隙に和深が撃ち抜いていった。

「そうやって死者を使ってしかやれないのか!? たまには自分でかかってきたらどうだ」

 乱舞のように1人、また1人と銃撃で2度目の死を与えながら和深は飛び上がり、天井に張り付くようにポジションを移すと、上から下へ銃弾の雨を降らせた。
 が、シィは魔鎧と化したラズンのアプソリュート・ゼロで射撃を防ぎ、ショックウェーブで吹き飛ばしにかかった。
 和深は死体のクッションでダメージを極力減らし、建物を破壊せん勢いで召喚されたナコトのバハムートに着地と同時に飛び掛かった。
 ポイントシフトでバハムートの前へ。
 更に足元を潜って一気にシィの前へ。
 魔銃を構え、再びシィに引き金を引いた。
 アプソリュート・ゼロで防ぐつもりだったのだろう。
 避ける気配がなかったシィはその身体に銃弾の貫通を許したのだ。

「何故――ッ」
「デカブツで見えなかったんだろ」

 和深はバハムートが召喚されたと同時に亜空のフラワシからPキャンセラーを取り出し、それでスキルを封じたのだ。
 あとはナコトを倒して――という和深の思考は次の瞬間プツリと途絶えた。

*

 ディカルド・オーランド(レン・オズワルド(れん・おずわるど))が神父を務めていた教会にシスターとしてノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)がやってきていた。
 手紙を受け取ったからだ。
 その手紙は神に仕える者として、あまりにも救いを求めた子羊に見えた。
 神父を辞める――。
 自らも闘争に身を投じ、マフィアと共に地獄に落ちる――。
 エデンの街を頼みたいという願い――。
 苦悩と苦痛が、短い文面から痛いほど伝わり、こうしてノアはやってきたのだ。

「祈りましょう――。今祈らずして、いつ祈るというのです――」

 神父の居ない教会で、ノアは祈った。
 弔い人の居ない大勢の死者を――。

「エデンという街が抱えている闇の部分さえも内包するように、失われた命を惜しみつつ弔いましょう。願わくば死者に安らかな眠りを――」

*

 神父によって蜂起した住民たちはザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)と共に火の放たれたホテルを包囲していた。
 ホテルから逃げていくマフィアの連中を殺すためだ。
 しかしそれは表向きの理由で、

「本当は民の手を血で汚すことを望んでいないんだろう? どこまでも甘ったれだ……」

 ディカルド自ら賽を投げたにも関わらず、住民を死地に連れて行くことには抵抗を感じてたからこそ、住民達を残して1人でホテルに乗り込んだのだ。
 そしてザミエル本人に頼んだ事は、ホテルから最後に出てきたマフィアのボスに勝利宣言をさせてはならなく、もしディカルド本人が戻ってきても殺してくれと――。
 悪党は必ず死ななきゃいけない、そういうことなのだ。

*

 これが自分が危害を加えないよう尽力した市民の姿か――とリカインは絶望しながら弾丸を受けた。

「マフィア共よッ! 神の奇蹟を見るがよいッ!」

 荒野の棺桶で乱射しながらナコト、リカイン、和深の元へ猪突猛進するはディカルドだった。
 反応がイマイチで彼らが苦い顔をするのは、事前に撒いておいた悪疫のフラワシの効果が徐々に出ているからだ。

「正義の鉛ッ! 神の鉛ッ!」
「何が正義だよッ!?」

 和深が銃を構えると同時にディカルドは超理の波動を撃った。
 名状しがたい強烈な圧迫感に膝をつくと、そのまま馬乗りになり棺桶の銃口が向いた面で押し潰し乱射した。

「バハムートッ!」

 狭い通路でバハムートが方向転換してディカルドに炎を吐くが、攻撃もなんのその――和深と同じ手順でナコトも仕留めた。
 肌が焼け焦げ、身体を動かすにも激痛が走るが、彼の神の奇蹟はバハムートと共に動かなくなるまで続いたのだった。

*

 ホテルへ来るのを渋ったマルコであったが、彼は自尊心で先にマフィアの人間を派遣していた。
 俺も後から行くから先にいって用意をしていろ――ということであり、紆余曲折を経たが、ようやくそれが結実した。
 マルコを待っていた契約者や構成員と共に、ホテルの屋上を目指す。