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リアクション
★プロローグ
全ての始まりは、誰かが送った1通の手紙からだった――。
信憑性は全くない与太話なのだが、成る程、決着をつけるにはもってこいの舞台と演出だと鼻で笑ったのはロンド・ボス――ベレッタ。
「諸君――祭りは好きか」
祭りが楽しいのは何が心を打つからだろうか――。
準備――誰かと共に何かを作り上げていく過程の目に見える成長。そこで芽生える協調や目的の達成、完成の喜び。
喧騒――多くの人が織りなす笑いと活気、充満する満喫感に心地よい高揚。日々の溜まった鬱憤を晴らす。
ここはロンド事務所の無機質なコンクリに覆われた広い一室。
部下に集合の号令をかけ、彼らの前に立ったベレッタは、こう切り出したのだ。
「祭りの喧騒――人が織りなし鼓膜を振るわせる音の数々を自前のマーチに例える連中は、机の上で自前の銃に女の名前をつけたがるズリ野郎の無能な部下と上官と同じだ。しかしながら、ファースト・マーチは終わった。我々はいつも通り、無意味な強要で引っ張り出された出席者で、顔見せも十分に果たした。そうすれば奴らは必ずこう言う。これが終われば自由だ、キミは解放される、好きにしろ、と」
そうでなければロンドは、否、ベレッタはカジノ・フェスタを血祭り――祭り違いにできたはずだ。
しかし、そうはしなかった。
起こるであろうケースを1つ1つ想定し、かつ、その危険性を知りながらも敢えてフェスタを進行させ幕引きを迎えさせた。
儀式を終えたのだ。
「チェック・メイトまでのか細い綱渡りは机上の者の仕事で、先行して鉄火場を作り上げるのはロー・ライフ、ロー・マネーの価値を与えられた者の役目だ。そして我々の役目は盤ごとひっくり返すことだ。そうすれば奴らは慌てふためいて再び盤を立て、駒を元の位置に戻すだろう」
リングを吹き飛ばせば、戦う場所を見失ってしまう。
そうなれば、エデンにやってくる前のようなひどく底辺の無頼に、また落ち着くことになるだろう。
破滅主義ならば、それはそれで良いのかもしれない。
しかしながら、自らのマニアック・ホビーで部下の命を玩具にはできない。
捨ててはならないモノがある――。
持ち得たまま死ななければならないモノがある――。
だからこそ、リングを吹き飛ばしかねない『奴の遺産』はこのまま日の目を見ることなく眠っていて欲しいのだ。
「同士戦友たち――。定刻通り状況を開始せよ。我々が生み出す戦争のサイクル、その始まりだ。撃鉄を起こせッ」
オオオオッ――!
咆哮が身体を震わせ、武運を呼び起こす。
彼らはそう信じていた。
*
握りしめた1通の手紙と招待を受けて吐き捨てるはカーズ・ボス――マルコ。
「クソォッ」
マルコは豪華な自室にて、武器の売買にて金を運んできたロンドの小間使いが出ていったあとに、盛大にテーブルの上のジュラルミン・ケースから覗く札束を無造作に一握りし、壁に叩きつけた。
「女王気取りのイカれたスカー・フェイスめッ! 俺様までホテルの顧客リストに載せやがって! クソッ、クソッ!」
カーズの繁栄は、決して金の力ではない。
金の力を持つマルコそのものは、一摘まみ一捻りで溶けてしまう軟体部――かたつむりの一部である。
その殻で身を守ってこそ、初めて前へ進める。歩める。
悪の巣窟エデン――この殻は悪くない。
しかしながら少し身の丈に合わない大きさで、あくまで隠れ家、隠れ蓑。
だからロンドが丁度いい。
『我々』が生きていくために、凌いでいくには丁度いい。
そうして雨風を凌いで、ようやく訪れた安定の期に突然、その殻の重さにバランスを崩した。
「あの女の穴という穴を溶接して息の根を止めてやりてェッ! カジノん時ァ、最悪、あのイカれたウォー・マニアの背後にいれば良かったッ」
四つ巴は大いに予想でき、自分たち弱者が真っ先に食われるのもその範疇だった。
しかし、それでも生き残れるだろうと踏んでいた。
それは弱い者を最後に残し優位性を高めるとか、好物を最後まで皿の上に乗せペロリと頂くとか、そんな類じゃなく――運。
このエデンに置いて自分がここまで残ってきた圧倒的強運は、混ぜ物が多い場ほど発揮される。
そして、ベレッタに攻める気がないのは『自分』だからわかりきっていたことで、最強の矛を敵へ向けないとなければ、それは自分達を守る最強の盾となるのが当然だ。
だから、顔を出した。
ベレッタがカーズというマフィアを生かすのは、何も武器調達のため使いっ走りにする存在としてではなく――寄せ餌。
喧嘩相手が一時的にいなくなろうが、すぐに存在を見せ始める名も無きマフィアを生むための理由。
ロンドがナンバー1でも弱々しいカーズを叩いてすぐさまナンバー2に『俺達』は躍り出られるぜ、という気持ちを他者に生み出させる存在だからだ。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
頭の中で何遍もベレッタを殺る、殺る、殺る――。
細切れにしてやった。
ひん剥いて堪能してやった。
晒し者にしてやった。
売り飛ばしてやった。
それでも恐怖を拭い去れず、墓下から亡霊共が足首を掴んでくるのがわかり、辺りを窺えば『聖者共』が「ハーハー、すっころびやがった、ハーハーハー」と笑ってきやがる。
「やるしかねェ――ッ。あの糞ッタレが世界で最も守られてるボタンを押すんなら、俺様も腹を括ってパンドラの箱を開けにかかるしか……ッ」
マルコは施錠された引き出しから、鍵束を持ち上げ見た。
この鍵が本物であるかどうか――それに賭け、ジャック・ポットで歓喜する運に全てを託す。
ピンポイント・ベットはダイヤの鍵――!
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