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リアクション
オールドを筆頭にロンド、カーズ、ニューフェイスと4つのマフィアが凌ぎを削る中、契約者を多数抱えた第5のマフィアが表舞台に立とうとしていた。
カジノでの騒動が終わり、住民区画でのとあるバーにて――。
飛都はここでもバーテンダーとして働き、彼オリジナルのダブル・カクテルを頼まれれば出していた。
*
「ミスティブランシェ」
アリシア・ウィルメイルとは母方の姓で、長く使っていた性はジェニアス、アリシア・ジェニアス。
彼女はアルクラントの野望に協力するためにわざわざエデンへと足を運んでいたのだ。
ロメロの遺産とは何なのか、彼女は甚五郎の酒場で客を装いながら十嬢侍と共に一語一句その単語が出るのを逃さず聞き耳を立てていたが、全く持って有効なものは得られなかった。
大金、財宝、世界をひっくり返す武器・兵器、他マフィアの弱点――。
どれも想像の域をでない信憑性のないものばかりだった。
「こっちはどうかなぁ」
アリシアは不可思議な籠に事前に入れておいた『正解の鍵はどれか』という紙を取り出して見た。
そこには新たに細切れかけた文字でこう書いてあった。
『全ての鍵が正解と成り得る』
「……何なんだろ。ロメロの掌の上で遊ばれてる気分だよぉ」
「ミスティブランシェ2つ」
緋菜と碧葉がやってくると、彼女らはまるで世間話でも始めるかのような口調を持って振り返った。
「私達のメンバーは全員無事です。緋菜の逃走経路が役に立ちました」
「碧葉も援護射撃ご苦労様。建物が崩れ落ちる前に脱出できてよかったわ」
「そうそう、ニューフェイスの面々に襲撃に乗じてシェリーを殺したりはしないのか、さりげなく言葉を変えて聞いてみました。何人かは動揺していました、狙ってたんでしょうか。兎に角、少し押せば何人かは兵隊を増やせそうです」
「ミスティブランシェ1つ頼むよぉ」
カウンターにてアリシアの横に座ったキルケスは注文をし、テーブルを見つめたままポツリと呟いた。
「マルコの鍵の出回り具合は相当だねぇ。カジノでの両手ほど配ってたし、カーズの支配区域の娼婦にも配ってたよ。ダイヤの鍵も集めようとなれば、どれが本物かアタリがつかない以上、そいつら全員が邪魔になるだろう? まあ、邪魔な奴がいれば俺が処理してやるけどさぁ……数がねぇ……」
ほとんど愚痴に近いような報告だった。
「ここ空いてるかなぁ? あ、僕はミスティブランシェで」
サズウェルもまた同じ酒を頼み――、
「あ、そうそう。ンガイさんからテレパシーというか、あまりにも気分が良かったんだろうねぇ、気持ちが漏れてきてたよ。セレブ猫も満更じゃないなぁ〜って。ミイラ取りがミイラになっちゃったよ。で、まあ彼女の話を聞くに、やっぱりマルコがボスの間でも弄られてる情けない感じだったって。でもなんでだろう。野心の強い彼がどうにも今回ばかりは一歩引いてるっていう感情も感じ取ったみたい。実はマルコは何か知ってるのか、もう腹を括ってるのかもしれないねぇ」
サズウェルは更に追加の報告をする。
「あと、僕達のことかどうかは知らないけど、やっぱりマフィアの連中も鼻が利くねぇ。街に腰を据えそうな『団体』を気にかけてたよぉ。だから少し不利な情報も撒いて撹乱も視野に入れといた方がいいかもねぇ」
「秘書役など、楽ではないのぉ。酒じゃ酒ミスなんちゃら」
肩を解しながら深月が現れると、早速疲れ切った彼女に代わりクロニカが報告した。
「マルコはとにかく金に自信がありますね。武器密輸にせよ、コカイン畑にせよ、彼ほどのいい取引相手はいないようです。ロメロ亡き後、オールドと繋がっていた売人の連中も、3割ほどがマルコの所で流れたようです。彼の部屋で取引の足跡を追ったので、間違いありません。鍵に関しては――」
「わらわは貰わないでおいたぞ。きっと良い顔をしておれば贋作にしろ握れたとは思うが、そうなると必然的にダイヤの鍵で狙われるリストに名が載るからのぉ」
「これはこれでお揃いで――。緑色のやつね」
ティナがカジノの店員の一員として働いて得た情報を、ミリアとスノゥの2人分も統括して報告した。
「とにかく資金はカーズに集中していますわ。例えマルコはこの街が滅びようとも大金を抱えて余所の街でまた『店』を開けばいいという考えでももっているのでしょう。ニューフェイスはもはやお仕えする存在を見出せず、しかしながらオールドにはうんざりという面もありシェリーの父親の面影だけが大事なのですね。ロンドはどうしようもありません。契約者からそうでないマフィアまで、現時点でほぼ皆が忠誠を誓っているので、付け入る隙はほぼないので鍵を奪うか戦争をするしかないでしょう。もしくはベレッタを納得させるか――。こちらはまず無理ですが」
「クソッ! 酒だ、ミスブラッ!」
明らかにイラついた和深がやってくるとカクテルを一気に煽って切り出した。
「ロッソがやられた――! 殺し屋に気を取られて守りが薄くなったとこで身内から裏切りでよ! そいつらがオールドのボスになる。しかも『オルトロス』だ。2人の契約者が1本ずつ鍵を持ってやがる――」
「ミスティ――」
オデットは酒を頼み、明らかに不調だった自分を嘆いた。
「ロンドにボスの座を狙う契約者がいたわ。私も明かりを落とすために動いたけど先回りされて――始末もできずに思う様にいかなかった。ベレッタの恋人からもいい情報は引き出せなかった。ただベレッタはゴッドファーザーには興味がなく――そう、彼女は戦っていられれば満足なのよね。そう考えると適当にドンパチすれば彼女の気はいつまでも引いていられるかしら」
こうして彼らは巨大な集団となり各々マフィアに潜り、今1つの形となりつつあった。
「さて諸君――」
首謀者――即ちこの集団のボスであるアルクラントは片手に馴染みのカクテルを持ち上げて言った。
「今や抗争でそれぞれのマフィアが消耗する中、その全てに内通し最も契約者を抱える我々こそが十分であると言えよう。私が、否、我々こそがこの街に相応しい日もそう遠い未来ではない。諸君らの働きの成果と、これからに期待を込めて。乾杯と行こう――。では――」
アルクラントと共に酒を飲み、1つの大きな勢力が産声を上げ始めた。
その中でまずはどうしても棺の行方が気になると、羽切 緋菜(はぎり・ひな)と羽切 碧葉(はぎり・あおば)は二手に分かれて情報収集と探索をしていた。
碧葉は生前のロメロと近い人物から探ろうと試みた。
彼らのほとんどは住民区画に潜り込み、カタギと同じ生活に溶け込んでいるようだったが、根回しを駆使すれば何人かの居場所は掴めた。
だが、ダメなのだ。
ロメロの名を出せば出すほどに、彼らは口を割ろうとしない。
まるで宗教の如く、ロメロ以外は認めないという空気で突き放してくる。
しかし――、
「ロメロの墓が荒らされたんですよ。こんな街の現状で貴方達はいいんですか?」
何人目かも忘れた初老の相手に碧葉が突っかかると、苦々しい口調で一言だけ答えてくれた。
「……シェリー坊ちゃんだけが……あの日最後まで埋もれていく旦那を見なかった……。今思えばそれは……」
「シェリーが掘った――貴方ならそう考えるのね?」
それ以上語ってはくれず、碧葉は礼を言ってすぐさま精神感応で緋菜へ連絡を取った。
「そう――葬儀に出た人間の1人はシェリーが怪しいと睨んでるのね。こっち――? こっちはね……収穫ありよ」
とある2階建ての雑居ビルの一室にて――緋菜は銃口を最後の男に向けながら連絡を絶った。
他にいた自称従業員は完全にのびて床に寝ていた。
ここは管理会社の一室である。
ただし、実態があるわけではなく、ゴロツキが溜まり場としているようなものだった。
銃型HCを操作しながら、緋菜は今一度情報を整理するように問い続けた。
「貴方達に金を渡したのは誰?」
――ニュ……ニューフェイスの奴だ……。
「何をするためのお金? 何の報酬?」
――ロメロが埋められた共同墓地のせ、清掃管理をする……そ、その権利を得るため、そうできる状況を作り出すための資金と手取り分だ。
「仕事の内容は?」
――ニューフェイスの連中がいいと言うまで、ロメロの墓に訪れる人間のチェック……1分1秒たりとも……目を離すなと……。
「貴方達が真面目に見ていたとは思えないわ」
――た、確かに酒も煙草も、ポーカーもしながら適当に見てたさ。だ、だけどな、相手はマフィアだ。不真面目であっても10秒以上は目を離しちゃいねぇ。いいと言われたあの日までずっとだ。
「その日まで毎日見てたのね?」
――い、一日だけ全員が見ていない時間帯があった。警官に濡れ衣でパクられたんだ。すぐ釈放されて、次の日に俺達は追加の報酬を受け取って、任を解かれた。
「……聞こえてたかしら? これはもうニューフェイスが、碧葉からの情報も加味するとシェリーが掘ったと思って間違いないと思うわ」
銃声と悲鳴混じりの連絡を緋菜から受け取ったのはアリシア・ジェニアス(及川 翠(おいかわ・みどり))らファンタスティックの仲間で、こちらは情報収集よりも足を使っての探索がメインのチームだった。
「皆で探せばすぐ見つかるよね!」
ふんす、と鼻息荒くアリシアは言った。
ようやくボスである『お兄ちゃん』の役に立てる時が来たとはりきっているようだった。
しかし、である。
「ふぇ〜、そうは言うものの、エデンはそれなりに広いよぉ〜」
「そもそも棺なんてベッドの下に置きましょうとか、クローゼットの中に隠しましょうとか、そんなものじゃないわ。異質な隠し物なんだから絶対人目にはつかないはず」
スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)が広さをティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)が探し物としての異質さで困難を表す。
「でも消えた棺が怪しいのは間違いないわ。それにある程度範囲も狭まったんじゃない?」
ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が言った。
確かにニューフェイス――シェリーが最も怪しいのだから、探索場所は限られているはずだ。
オールドの区画――?
ロンドの区画――?
カーズの区画――?
シェリーがどこかと手を結んだという情報は全く入ってこなかったのだから、他マフィアの区画に隠したということはないだろう。
無論、裏をかいてそうしたと考えることもできなくはないが、万が一隠した区画のマフィアに見つかった場合に事だ。
最も探索を困難にさせるのがエデンの外に運び込まれた場合だ。
その場合シェリーについて更に情報収集を試みなければならないし、相当時間と骨がかかるに違いない。
そしてもう1つ――中身が重要であった場合。
「な、中身ってロメロさんですかぁ〜。ふえぇ〜、呪われそうですぅ〜」
「まあ、棺を探すんだから当然中には人間が入っているはずよね。じゃあ何、棺探しというかロメロ探し?」
腰がひけたスノゥがティナの腰に巻きつくように抱きついて震えた。
考えれば考えるほど不気味で、おかしな物を探している感覚に陥ってくる。
「もぉ、皆しっかりして――探すよっ!」
アリシアは井戸端会議並みに落ち着き兼ねないパートナー達を先導するように十嬢侍と特戦隊を呼び、後ろから叱咤しながら行進を開始した。
いくら今住民区画にいると言っても、単独行動は危険である。
「待ってよ、アリシア! とりあえず2人1組で住民区画を手当り次第探しましょう」
ミリアが後を追い、スノィとティナもアル君人形ストラップを手に探索を開始した。
*
ここだ――とアリシア達と合流した緋菜達、6人の集団が天を仰いだ。
正確にはエデンで一等高いホテルを住民区画の影から見上げたのだ。
ティナが探索時に聞き込みも兼ねて話をした娼婦の1人から有力な情報を得て、彼女の知り合い――別マフィアにボコボコにされてミイラとなった――モーテルを経営する男を召喚王の首飾りで説得し、場所を割り出した。
彼曰く、シェリーはこっそり金庫を手に入れてホテルに移った――。
しかしながら、自分達は一手遅いのだ。
既に情報を得たマフィア達が、事態を動かし始めていた。
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