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リアクション
オールド・ボス――ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)とキアラ(新風 燕馬(にいかぜ・えんま))。
「悪くねェ……悪くねェぜ……この椅子の座り心地ってのはよ」
念願叶い、オールド・ボスが座ることを許される椅子に深く腰かけるラルクは、手にしたグラスをパートナーであるガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)に向け、そしてもう1人のオールド・ボス、キアラとその側近であるフィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)、新風 颯馬(にいかぜ・そうま)に掲げた。
あの時、ロッソを殺れたのが今の2人の地位を作り出していた。
ニューフェイスの襲撃と出口での暗殺を防ぎ、ようやく嵐が去った――。
周りにいる護衛の誰もが、最後の一息のため気合を入れ直した直後に、全てがひっくり返し、生まれ変わった。
「死ななかったの……残念」
ルチの娘キアラが逃げてきた道を悠々と歩いて外に出、すれ違いざまにロッソに呟いたのだ。
いくら仲の悪さが有名だとは言え、このタイミングでの言葉に護衛をしていた幹部達はたちまち膨らんだ脇から銃を抜き、彼女に向けた。
「やれやれ――。間の悪さはルチ譲りだな、キアラ」
「そうかしら――。ここしかないんじゃない?」
このアマッ――といきり立った幹部の1人が一歩踏み出した瞬間だった。
彼の足元からバチバチと火花が脳天駆け巡ってあがり、焦げたのだ。
「迂闊に足を踏み入れるなよ。ボスの為にトラップをわんさか仕込んだんだからな」
ガイが笑い、躊躇った瞬間だった。
ラルクが銃を構えた幹部達に飛び掛かり、七曜拳の1発で1人ずつ――一瞬で7人の幹部を叩き伏せた。
「言ったでしょう。ここしかない……って」
銃口をピタリ、ロッソの額に充てたキアラが隠してきた感情の全てを込め、別れの言葉と引き金をプレゼントした。
「……あんなんでもさ、私の父親だったのよ」
ロッソが死んだ――。
しかし、ここで時を止めて浸るわけにはいかない。
ラルクの太い腕がキアラの首にかかり、一瞬にして二代のボスを超えようと打って出た。
「完璧だな、ルチの娘がボスを射殺。そしてそれを見た俺様が娘を殺して――そうなれば自動的に俺がオールドのボスだ。まさかこんな早く機会が巡ってくるとはなッ」
「……ふぅ。鍵……そいつのスーツの襟の裏……」
キアラは生死の境にいても震えることもなくそう言い放つと、ガイが死んだロッソの襟裏を弄った。
手に堅いモノが触れ引き抜くと、スペードとクローバーが刻印された2つの鍵があった。
「……何故教えた」
「破滅思考なのよ。ただそれだけ。私としてはロッソを殺して気持ちも整理できたし、後はエデンが紛争で滅んでいく様を見ていることにするわ。殺すならどうぞ。地獄からでもここはよく見えるでしょうしね」
「ガイ。鍵を1つ寄越せ――」
ラルクは鍵を受け取ると、キアラから銃を取り上げ銃弾を抜き、空いたその手にクローバーの鍵を握らせた。
「……どういうつもり」
「何、1人で地獄には行かせネェって話だ。時がくるまで二頭体制ってのも悪くないだろ」
こうしてオールドはロメロ、ルチ、ロッソと経て、ラルクとキアラが共同で保有するマフィアへと姿を変えた。
「ふむ……ふぅん……」
キアラはラルクの乾杯に一度目を配っただけで、街中で情報収集を試み続けていた若い衆から上がった報告と一通の手紙を頭の中で反芻していた。
勿論そこにはホテルで今一度ドンパチが行われ、決着の公算大というものもあった。
「ねぇ2人共、特別な日はやっぱり素敵な夜景を見に行きましょう」
どういう結論に辿り着いたのかキアラはそう口にした。
2人とは無論パートナーである颯馬とフィーアのことであり、しかしながらその反応にいち早く反応したのは対等な男であった。
「おいおい、キアラ。これからが忙しいって時に記念日を愉しもうなんざどういう了見だ?」
椅子から立ち、グラスを片手に持ったままのラルクは、ソファーに腰掛けるキアラの顎を指先で持ち上げた。
酒臭い吐息に少しばかり顔を背けながらキアラはラルクの手をゆっくりと外し、一度身体を横に倒してから足の位置を身体に持ってきてラルクの正面から外れ、起き上がる様に立ち上がった。
ふぅっ、と1つ大きく息を吐いてみせると、そのままキアラはパートナーを連れてドアの前に向かい、ラルクに背を向けたまま言った。
「まあ、そういうわけだから」
「オイッ、テ――ッ」
「――後の事はよろしく……お願いね。さて久しぶりにドライブと洒落こみましょう。ホテルまでだけどね」
キアラ達がそう言い残して部屋を後にすると、今度はラルクがキアラの座っていたソファーに腰掛け、酒を煽った。
「いいんですかい、ラルク」
ガイが空になったグラスに酒を注ぎながら尋ねると、ラルクは口角を上げて小さく笑った。
「いいも何も、あっちはあっちでよろしくやるってこった。いいじゃねぇか、キアラと俺――共に行動しないなら、敵さんは必然的に戦力を割かなければならない」
「二頭体制を作ったワケから考えれば想定通りに動いている、と」
「ああ、兵隊もどういう駒の使い方をするかも、アイツは完全に俺に委ねたんだ。やりたいようにできる……ッ」
ラルクの笑い声が、室内にやけにクリアに響いた。
ガチャリ――。
とそこに、キアラと一緒に出て行ったはずのフィーアが戻り、半開きのドアからひょいとラルク達へ向かって投げた。
何を――?
「危ねぇッ!」
ガイが咄嗟にラルクの前に立ち、投げられたそれから彼の身を守るようにしたのだが――ただのぬいぐるみ。
「キィらんからのプレゼントを渡すのを忘れてましたぁ〜♪ 大事にモフモフして下さいぃ〜。では〜他にもぬいぐるみを配ってくるのでぇ」
きゃは、と可愛く笑ってドアを閉められると、フィーアが走り去っていく音だけが残った。
ラルクは床に無造作に転がった熊のぬいぐるみを手に取ると、その短足の間に挟まったメッセージ・カードを見た。
――殺していいのは、殺される『覚悟』のあるヤツだけ。
そしてもう1つ、手紙が挟まっていた。
「……そうかい――ッ」
キアラがどんな考えをもってこれをラルクに見せたかは定かではない。
しかしながらフィーアは、これを他にも配ると言った。
「要するに『俺達』を煽るだけ煽ろうって魂胆か――ッ。だが、俺は手前ェの破滅には加わらねぇぞッ、ゴッドファーザーになって生き残るッ」
奥歯を噛みしめるラルクの額には青筋が浮かんでいた。
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