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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同忘年会!

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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同忘年会!

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調理室にて

「おーい、魚持ってくから、場所空けてくれ」
 百合園女学院の一室。男性たちのざわめきと力強い足音に混じって、少年の声が響く。
 黒髪の小柄な彼の顔は一抱えもあるトロ箱のせいで半分隠れてしまっている。どん、と音を立てて調理台の脇に置いて、そこでやっと海兵隊のセバスティアーノだと判った。せっかく洗濯したばかりの軍服もエプロンとゴム長靴のせいで魚屋見習いに見える。
「んで、どーすんだコレ? 全部使っちゃっていいんだっけ?」
「パラミタ鯉は百合園の作業台に運んでください。それから調理の手伝いを。……言うまでもないと思いますが、食中毒にだけはくれぐれも気を付けて」
 主計長のウィルフレードは、調理場で手際よく指示するコック長とその部下のコックたちに目線を向けた。
「……この魚は刺身に。あれは冷凍したからサラダの具に。それで、この赤い魚は必ず火を通す──ああ、レシピはもう調理台の上に張ってあるからな」
 視線を追ったセバスティアーノはウィルフレードに向き直ると、
「ああ、分った。……ま、どうせ俺は力仕事担当だからな」
「何かあればコック長の指示に従ってください。僕は他にも仕事がありますので。……そう、鯉はここにお願いします」
 すぐ側を指差せば、受け取りに来た女性が一礼して、
「見事な鯉ですね。分けていただきましてありがとうございます」
 白百合会の会計・村上 琴理(むらかみ・ことり)は、セバスティアーノの持ってきた大きなパラミタ鯉に感嘆の声をあげた。
「地球ではどのように調理をするんですか?」
 ウィルフレードに鯉を頼んだのは彼女だったのだ。
「この鯉は“洗い”にします。夏向きですが、日本独特の料理ですから、喜んでいただけると思って。部屋は暖かいですし、見た目も良いので、氷で作ったお皿に載せまして提供します」
 そう説明する彼女。
 ちなみにお皿は彼女のパートナーが魔法で呼び出した氷を、バーナーで溶かして作ることになっている。今回は百合園のお手伝いをできないので、と、引き受けてくれたのだ。
 お手伝いどころか琴理と会話も殆どできないということだった。
 だが琴理は接待があるのだからと決め込んで、忙しさにかまけて深い理由は聞かなかった。それに──、
「それから、残りは唐揚げにして餡かけ、余った部分はあら汁にすると温まります。残った骨は炙って……」
「全て料理にするんですか?」
「いただきますという言葉には、作ってくれた人だけでなく食べられる命への感謝が込められていると思うんです。ですから最後まですべて使い尽くすのが日本流、でしょうか」
 ──それに、頬が少し赤い。
「そうですか。では、セバスティアーノ、気絶させてください」
 セバスティアーノが言われて素直に、びちびち跳ねている巨大な鯉の頭を叩いて気絶させた。
「これでよっし。じゃ、後は頼むなー」
「ええ、ありがとうございます」
 セバスティアーノがトロ箱を置いて戻ると、ガタイのいい船乗りに交じって魚を手際よく見定めていく金髪の女性に気付いた。
 彼女は頭上に張り出されているレシピを確認している。
 レシピの中身にはかなり幅があって、コックが作ったきっちり分量が決まっているものもあれば、適当にどこかの乗組員が作ったのだろう、大味なものもある。
 共通しているのはどれもレストランにはなれないけれど、海の男たちのお腹をおいしく満たす料理、というところだろう。
「先ずはレシピの材料別にさっさと魚を選り分けてしまいましょう――中には身の傷み易い魚もあるから丁寧に、ね」
 トロ箱の中身を屈んで確認し終えると、彼女はふっと笑った。
「善い鮮度ね――年越しの夜宴に御誂え向きだわ」
 セバスティアーノは彼女に見覚えがあった。
 シャンバラ教導団のローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だ。
 彼女は鱗のある魚から手をつける。捌く前に鱗の処理を行わなければならず、一手間多いからだ。
(来年も幸福(Happy)の内に迎える事が出来るように、自分の納得できる年の瀬にしたいわね)
 自身を海軍と自認する彼女は、こうやって海の男たちと混じっているのも気にならないのだろう。気後れもしていない。
 衛生に気を遣って調理用の手袋をはめ、消毒用のアルコールをまな板に吹き付け、彼女は次々に捌いていく。
 それが終わると、魚を焼いていたコックの一人に提案した。
「レシピにはありませんでしたが、魚介類のブイヤベース、鱸のフライ、鱒のホイル焼きはいかがでしょうか? 私が調理しますので」
「いいよ、どれだけあっても困らないからね。場所はそこ使ってくれ」
 キッチンの一角を借りて、時間がかからないボイル焼きから調理していく。
 同時並行的にフライの下準備やブイヤベースの鍋の準備も行う。貝は運ばれるまでに砂を吐かされてはいたが、食べられる程度になるにはまだ時間がかかるだろう。
「あの人もシーマンなら、この辺りがソウルフードよね……?」
 鍋に白身魚を放り込んで炒めて、ぐつぐつ煮て。
 ローザマリアは料理を食べてもらおうか、と思いを巡らせながら、お玉を操った。


 ミア・マハ(みあ・まは)はひたすら料理を作り続けるローザマリアに感心した目を向け、
「おぬしもこれくらいできたらいいのにのう」
 そのぼやきに、パートナーのレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、トロ箱をうんしょと床に置くと、顔だけ向けて言い返した。
 こちらは小さいころから男の子と混じって遊んでいたからか、海兵隊に混じっても生き生きと働いている。
「あのさ、別に力仕事だけしてるんじゃないんだから。ちゃんとレシピ勉強してるんだからね。ほら、ヴァイシャリー湖の魚といっても、ボクは詳しくないから」
 レシピを見て、作っているコックたちの手さばきを見て。
 ……まぁ軍隊式っぽくて、皮むき部隊、切りもの部隊、煮込み部隊……などなど、それぞれ分かれていたけれど、これはこれで。
「まぁな。妾もここに来て結構経つが、まだ知らぬ物があったとはいささか驚いていたところじゃ」
 湖の魚などじっくり見た事がないから、改めて見て驚くものもある。
 奇妙な魚と言えば深海魚を連想しそうなものだが、どうしてこれで川魚もバラエティに富んでいた。中には、古代魚らしきフォルムの魚、鋭い歯がびっしり生えている魚、長い針に包まれた魚などなど一見食べるのを躊躇するような魚まで。
(どんな味がするのか想像も付かんが、レキは魚の名と調理法をしっかり聞いて居るようじゃな)
「見た目は不気味だけどさ、美味いんだぜ。最初に食おうとした奴はすげーって思うのもあるけどな」
「あるある、地球でもナマコとかウニとかね」
 怪訝な顔でもしていたのだろうか、ミアにセバスティアーノが笑いかけ、レキも頷く。
「……それでじゃな、レキ。普段料理などせぬくせに、聞いて作れるのか?」
 さっきはああいったけれど、繊細な料理をするのには向いてない、と自分で判断して力仕事を引き受けたレキは、それでもむむっとして言い返した。
「それはまあ、いつか作るかもしれないじゃん。ボクは面倒なのが苦手なだけで、料理だってやらないだけで出来ないわけじゃないんだよ」
「じゃあ、簡単なのからやってみるか。よく見てろよ?」
 セバスティアーノは包丁を取り出して、巨大な鮎に似た魚の腹を豪快に捌くと、内臓を抜いて良く洗い、中に塩コショウをして、数種類の香草をざくざく詰めていく。
「適当に詰め終えたら焼き上げるだけ、っと。シンプルだけど素材の味がよく活きるし、見た目も豪華だろ?」
「本当だ、これならボクにもできそう」
(本当じゃろうか?)
 頷いて魚を入れたオーブンを覗き込むレキに対し、食べる時は回復魔法を使う心の準備をしておこう。なんて失礼なことを思うミア。
 そのうちにレキの方は力仕事を終えて手を洗うと、他の人が最後の荷物を搬入しているうちに、休憩用のテーブルにハーブティーを淹れていった。
 忙しく声の飛び交う調理場に、そこだけのんびりした空間が出来上がる。
「お茶の淹れ方だけは、嗜みとしてってのもあるけど、自分も好んで飲むからマスターしたんだ。だからきっと料理もいつか、ね」
 集中力を高める効果のあるレモングラス。爽やかでスッキリした気分になれるもの。
 終了時のためにリラックス出来る、ラベンダーティーも用意してある。
「お、サンキュー。気が利くな」
 手を洗ったセバスティアーノがすかさず椅子に座ると、一気に飲み干しした。
「……もうちょっと味わうのですよこの馬鹿者が」
「ん? その声は……。……ってことは……」
 彼が振り返ればメイドのヴィオレッタがドレス姿で立っていて、その横には主人のフランセット・ドゥラクロワ(ふらんせっと・どぅらくろわ)が礼装で、いつの間にか。
 慌てて立ち上がって敬礼するセバスティアーノに、レキも立ち上がってお辞儀をする。
 フランセットが「休憩中だろう。そのままでいい」と言うと、ヴィオレッタが口を開く。
「ところでかまくらを作る件ですが……今日は雪が降りそうにないのです」
「えーっ」
 声が露骨に残念そうなので、フランセットは微笑して、
「で、魔法使いに話をつけた。さ、溶けないうちに順番に皆で遊んでくるといい」
「はーい」
「ありがとうございますっ」
 レキとセバスティアーノたちは張り切って駆け出していく。
「お、いいな。俺も混ざるか。雪で滑って怪我人がでるかもしれんし。……来るか?」
「……ええ」
 ぶらぶらと怪我人を探していた船医の青年も、調理場の少女を誘って、かまくらを作りにゆっくり歩いて行く。
 百合園の庭園の一角は魔法使いの作った細かい雪が腰ほどにも積もっていた。
「わらわはここで応援しているからの。寒いしの」
 出来上がったらお邪魔させて貰う事に決め込んで、ミアは芝生の上にベンチ用座布団を敷き、温かいココアを飲みながら見学している。
 早速土台を完成させたレキが、ミアを振り返った。
「年が明けたら挨拶回りかなぁ。その前に、着物に着替えなきゃね」
「そうじゃの。時間が来たら教えてやるから安心せい」
「はーい」
 こうしてかまくらは順調に作られていって……。