|
|
リアクション
再び、ホール
「そうですわね、あの時はどうなる事かと思いましたわ」
クラスメイトと談笑していた冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、ついと時計を見上げた。
──10時。そろそろ、だろうか。
「あら、もうこんな時間ですのね」
小夜子の視線に気づいてクラスメイトの一人が言えば、もう一人髪の短いクラスメイトが、
「楽しい時間はあっという間ですのね。……そういえば、私もそろそろご挨拶に行かなければいけませんでしたわ。皆さん、良いお年を」
と言ったのに、小夜子も続いた。
「私も、失礼いたしますわ。良いお年を」
一通り友人知人、関係者と親睦を深めた小夜子は、テーブルの間を縫って彼女の姿を探して歩き始めた。
行き交う人々と笑い声のせいで探しにくいかとも思ったが……、彼女たちは、目立っていた。月並みな表現ではあるが、美しい顔立ちに豊満な肢体。男性が放っておかないような二人である。
泉 美緒(いずみ・みお)はは夜子を見付けると、あら、と声をあげた。
「小夜子お姉様……いえ、小夜子ですわ」
「それでは美緒、また後でね」
パートナーのラナ・リゼット(らな・りぜっと)は察したのか、小夜子に微笑むと去っていった。
美緒は薄い素材のピンクのドレスの裾を揺らして、小夜子に小走りに駆け寄った。
「お話は終わりました?」
「ええ。……気遣ってくださったの? ありがとうございます」
「気にしないで、私もお話したいと思っていたところですから。それより、そんな薄着では寒くない?」
会場の暖房は効いていたけれど、それにしても美緒は胸元や背中が大きく開いたドレスを着ている。
案の定、少し肌寒いかも……と、軽く頷く彼女に、小夜子は温かなカップを差し出した。
「甘酒を貰って来たの。生姜入りなの、身体も温まりますわ」
「ありがとうございますわ」
二人は空いているソファを見付けて並んで座った。
「……本当、暖まりますわ」
二人寄り添って甘酒を飲む。甘くて……甘ったるくて、中にちょっと刺激がぴりっとあって。今の二人みたいに。
賑やかで煌びやかなホールの喧騒をどこか遠くに見つつ、たわいもない話を続ける。
今日の出来事、昨日の出来事、今年一年にあったこと。
甘酒に少しずつ口を付けながら、少しずつ話す美緒の横顔は幸せそうで、「今」と「今まで」に幸せを感じているようだったけれど、小夜子は気になっていることを聞いてみた。
「来年ですけれど、美緒は何をしたい、何を目標にするのかしら。私、美緒の手助けが出来れば……と思っていますわ」
「来年ですの? ……小夜子は?」
「私の来年の目標は、今より強くなることでしょうか。美緒もだいぶ強くなりましたし私も負けていられませんから」
美緒はしばし考えていたが、
「自立したいですわ」
と、言った。思わず小夜子は訊き返してしまう。
「自立ですの?」
「ええ、心身ともに。小夜子という恋人ができたのですもの」
美緒はふふっと笑った。
やがてそのままぴとっとくっついて年が明けると、二人は立ち上がって改まって、礼をした。
「美緒、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」
「あけましておめでとうございます。わたくしこそ、宜しくお願いいたしますわ」
顔を上げて、幸せそうにほほ笑んでいる美緒を見て、小夜子は思う。
(お互いに頼り頼られつつ、今年一年を貴女と一緒に幸せに過ごせれば……)
──でも、まずは。
「さ、一緒にお雑煮やおせちを食べましょう」
「はい」
手を繋いで、白百合会が配っているお節を取りに、皆のところへと行くのだった。