空京

校長室

建国の絆 最終回

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建国の絆 最終回
建国の絆 最終回 建国の絆 最終回

リアクション



旧王都戦

 第一陣の部隊を蹴散らした先陣部隊は王都内を突き進んでいた。
 先頭の方では、ボクシングスタイルの構えを取るカッティが「ガンホー! ガンホー!」と海兵隊式に周囲を鼓舞し続けている。
 前方には、彼らの気配を察した寺院兵たちが隊列を組み、こちらを迎え討とうと構え始めていた。怒号に混じって響き始める銃声。弾丸や光が飛び交う間を飲み込むように二つの部隊はすぐに接近し、ぶつかり合う。
 イレブンはカッティと共に先頭へと駆け出ていた。
 前方に飛び出てきたゴブリンの姿へと一閃を振り落とす。
 その向こうで、
「さあ、殲滅の時間だ……」
 葉月 ショウ(はづき・しょう)が、前方の敵を鬼眼で睨みつけながら敵陣へと突っ込んでいくのが見えた。
「とにかく敵を倒しまくって注意を引き付けてやればいいのよね――」
 如月 玲奈(きさらぎ・れいな)がランスバレストで敵をふっ飛ばしながら後を追う。二人とも、その手にしているのはレプリカ・ビックディッパー。そして、幾つもの喪悲漢に身を包み、完全に防御を捨てた特攻、といった格好だった。再び、玲奈の剣を轟音を立てる。
「面白そうじゃない、やってやろうじゃないの」
 その後方――
「聖なる炎よ……」
 葉月 アクア(はづき・あくあ)がバニッシュを、
「…我らに仇なす敵を焼き尽くせ」
 レーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)が火術を同時に放った。レーヴェのギャザリングヘクスで強化された二つの魔法が、先行したショウと玲奈たちを援護する。
 玲奈が大きく前方を斬り弾くのにタイミングを合わせて、ショウは敵の元へと深く踏み込んだ。部隊の要らしい黒鎧の男を――爆炎波で斬り上げる。
 その後、轟雷閃、アルティマ・トゥーレと繋げる彼の向こうをリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)がバーストダッシュで突き抜けて行く。
「皆が笑いあえる世界を守るんだ!!」
 大男を打ち倒したショウや彼の背を守る玲奈らと共に、
「ボク達に立ち塞がる人なんて……居なくなっちゃえぇぇ!!」
 リーズは寺院兵やゴブリンたちへと高周波ブレードを叩きこんでいった。
 そんな彼女たちを援護するように走る巨大なファイアストーム。
「ここが正念場や! 絶対に皆の行先を邪魔させたりするもんかよ!」
 七枷 陣(ななかせ・じん)が禁じられた言葉で増幅した魔法を撃ち放った格好で言う。
 そして、彼は次の魔術を紡ぎ始めた。その口元に薄暗さを持つ笑みが浮ぶ。
「――行きたきゃ必死でかかって来い。じゃねぇと……ブギーマンに食われっぞ!」
 再び走ったファイストーム。
 その先で、カッティは寺院兵を華麗なストレートで殴り倒していた。
「あたし達が倒れても、後に続く仲間がいる!」
 彼女が再び「センパーファイ!」と雄叫びを上げながら拳を突き上げる。呼応して、侍たちの『おおおおおッッ』という威勢の良い声が戦場を震わせていた。

旧王都戦・遊撃部隊

 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は薄く息を捨てながら、旧王都の街並みを駆けていた。辺りで聞こえていたのは爆音と銃撃、あるいは怒号。ハーレックの後に続く、仲間たちの駆け音。
 ふいに、ドゥッという音を空に聞く。
 前方だ。
「親分ッッ!!」
 先んじて勘付いていたらしいシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)に腹を薙ぎ払われるような感覚でその場から引き剥がされる。ウィッカーに身体を持っていかれるハーレックの視界の端には、反応の遅れた生徒たちが居た。
「逃げ――」
 ハーレックの叫んだ声は、地面を抉った凄まじい銃撃音によって掻き消された。次いで、巻き上がった瓦礫と粉塵を吹き飛ばす、突き抜けた風圧。ギッ、と目を強く細めながら、上空を睨む。彼女たちの頭上を過ぎ去って行ったのは、寺院の巨大人型兵器だった。シャープなシルエットのそれが、再びビル間へと消えていく。
「……くっ」
「来るぞッ」
 ウィッカーの声とほぼ同時に、寺院兵やゴブリンたちが、先ほどの銃撃に乱された生徒たちへと襲いかかって来ていた。
 ハーレックはウィッカーの腕を離れ、盾を構えながらそちらの方へと駆けた。ウィッカーや、銃撃を逃れた生徒たちが続く。
 先頭に躍り出ていたゴブリンの剣を盾で押し返し、コンパクトに斬り捨てて敵陣の真っただ中へと切り込む。機を取って、ブライトシャムシールを持つ手に力を込める。そして、鋭い呼気と共にハーレックが放った女王の剣が、一気に寺院勢を蹴散らし、吹き飛ばした。
 乱れた敵陣になだれ込んで行くのは様々な場所から集まった生徒たちだった。その中には対立した立場だった者も居る。それぞれの想いを胸に皆、必死で戦っていた。
 思想、立場、主張……様々な想いがあり、それは現実として決して一枚岩では無い。しかし、シャンバラが滅びてしまえば、それらには何の意味も無いのだ。だから、今は自分たちの出来ることを全力でやるのみ――
 ハーレックは長い髪と剣とを粉塵の中に滑らせながら、体勢を整えた。

 復活しているのは王都の一部らしい。
 建物の形状や風情から、復活したのは商業区や公的区域だろうことがうかがえる。居住区らしき区域は見当たらない、実際はもっと大きな街なのだろう。
 現在復活しているのは、大体、地球の日本の首都・東京都内にある山手線内程度の規模だという。
 各遊撃隊はその各地で戦闘を繰り広げていた。
 寺院の巨大人型兵器は十数機。2〜3個の部隊を組み、こちらを爆撃しては、早々に遮蔽へと身を隠していく。
 そんなあちらの慎重な運用方法を見る限り、遊撃部隊を各地に分散したのは今のところ正解だったと云えた。
 それも、各部隊がいつまで持ちこたえられるかによるだろうが。

「ナナ・ノルデン、推して参ります!」
 ハーレックとウィッカーによって作られた間を縫って駆けていたナナ・ノルデン(なな・のるでん)は、前方で銃を構えていた寺院兵へドラゴンアーツを叩きつけた。
 そして、ナナの背後で、
「神聖なる光輝よ、全てを包み込み光となれ!」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)による魔法の光が咲く。その目眩ましが効いている間に、ナナは、滑るように敵の密集地へと体を差し込んだ。ズィーベンのパワーブレスを受けると同時に、気を吐く。則天去私。彼女を爆心地として爆ぜた光に周囲の兵やゴブリンたちが弾き圧されて歪な円を描いた。
 と―――
「ナナ!」
 ズィーベンの声に、ナナは身を翻した。忙しく巡る視界にズィーベンの氷術の軌跡を見る。跳び退った場所に落ちた衝撃。構え直しながら、視線を素早く返す。そこには王都の警備システムらしい機晶姫の姿があった。
 気付けば――寺院兵の他にガードロボや他の機晶姫たちが次々と部隊の周囲を囲い始めていた。何やら、古代王国の言葉で警告らしいアナウンスを繰り返している。
 ガードロボからの銃撃――それを、ナナの側面へ滑り込んでいたハーレックの盾が受け、そのハーレックを狙った機晶姫をウィッカーのライトブレードが斬り飛ばした。
「予想通りの劣勢になってきたのう」
 ウィッカーの言葉に、ハーレックが返す。
「しかし、大人しく負けてやる気はありません」
「同感さね」
 ズィーベンが手元に光を宿らせ始めながら言う。
 ナナは拳を握り直しながら構えを取り、
「学校の皆さん、共に闘う仲間たち、そして、大切な人たちのため――」
 圧倒的に増え始めた敵を見据えた。
「全力を尽させて頂きます!」

遊撃部隊・アーデルハイトと魔法兵団

「っと」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)を狙っていたガードロボの銃先をカタールの先を擦り上げながら、銃口の下へと潜り込んだ。
 ガードロボのボディに片足の裏を叩きつけて自身の勢いを止め、ゴォゥ、とカタールに炎を走らせる。
 そして、ザカコは、ボディから滑り落とした足裏で地面を踏むと同時に、カタールで銃身を斬り上げた。その流れのまま、返す刃をひりつく冷気を纏わせて装甲を裂く。スンッ、と腰に溜めるようにカタールを引いてから、一拍、――刃に爆ぜる雷気。それを虚空に鳴らしながら、ザカコは地面を擦り叩くような踏み込みと共に、カタールをガードロボへ突き刺した。
 ギリギリと動きを鈍らせて地面に傾くガードロボから跳び離れたザカコの頭上を、アーデルハイトの放った巨大な魔法が飛んで行く。
 それはビルの端を吹っ飛ばして、ついでに巨大人型兵器の腕を掠めた。装甲の一部を散らしながら、人型兵器がビルの遮蔽へと身を隠していく。その別方向から姿を見せる、別の人型兵器。
「ちっ、的がデカイから当たり易いかと思えば、ちょこまかと――お?」
 と、空からの銃撃が、アーデルハイトの愚痴を飲み込む。空飛ぶ箒の超低空飛行で地面すれすれを駆け抜けて来たアーデルハイトへと、ザカコは片眉を垂れた。
「まったく。無茶なさらないでください。スペアが幾つあっても足りませんよ?」
 と、彼らの向こうで、
「ちっ! 次から次へと――」
 強盗 ヘル(ごうとう・へる)のショットガンが機晶姫を吹っ飛ばした。その先には、彼の言葉通り、次から次へと機晶姫やガードロボたちが、ビルの合間や屋内から現れては、集団で押し迫っていた。前からも、後ろからも。
 アーデルハイトが、「ふむ」と片目をかしげ、
「多少なりとも、こちらも合わせて片付けておかねば落ち着かぬか」
「後ろは何とかしますので、前を派手にお願いします」
 アーデルハイトと背中合わせに近い形となりながら言ったザカコの言葉に、アーデルハイトが、軽く息を捨て、
「こんなこともあろうかと思って、とっときの秘術を編み出しておるわ。背は任せたぞ」
「ええ。何としても守りますよ――替えがあるから死んでいいなんて事はありませんからね」
 ザカコは他の生徒らと共に後方で蠢く敵性戦力へと向かった。
 強盗ヘル達の銃撃や魔法が彼らを援護していく。
「ガキ共の孤児院はスフィアで守られてない土地にあるんだ――俺達は、負ける訳にはいかねえんだよ!!」
 ショットガンの銃声が響き、次いで、アーデルハイトの放った魔法の衝撃。後方で幾つも放たれるアーデルハイトの魔法が、ガードロボや機晶姫を押し払い、人型兵器を牽制している。辺りを震わせる衝撃の強さでそれらを知りながら、ザカコはカタールを閃かせた。