空京

校長室

戦乱の絆 第3回

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戦乱の絆 第3回
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リアクション


出撃前・涼司と花音・セリヌンティウスの首

■出撃前

天御柱学院整備科メンバー達は、出撃前のイコン整備を行っていた。

佐野 誠一(さの・せいいち)は、操縦に不慣れであろう他校生の乗るイコンの整備を行っていた。
「東とか西とか関係ないね。
同じ釜の飯食って同じシャンバラの国民だろう?」
本当は自分でやるのがいいんだが、とつぶやきつつも、誠一は手際よく整備を行っていく。
パートナーのカーマ スートラ(かーま・すーとら)も、誠一を手伝う。
長谷川 真琴(はせがわ・まこと)は、
同じ整備科の誠一に声をかける。
「こちらをお願いします」
「おう!」
クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)も、
重い機材を運びながら、手際よく整備を行っていく。
しかし、真琴には気がかりなことがあった。
(今回の戦いが終わればこの内戦状態も一段落つくと思います。
ですが、このイコン達が、戦場でイコン以外に向けられる可能性があるのではないでしょうか。
かといって、整備を怠って乗っている人を危険に晒すわけにはいきません。
皆さんの無事を祈る整備士として私はその職務を全うしなければいけません)
そこに、荒井 雅香(あらい・もとか)が、真琴の肩を叩く。
「……雅香さん」
「そんな思いつめなくても大丈夫よ。
お姉さんがついてるんだから」
パートナーのイワン・ドラグノーフ(いわん・どらぐのーふ)もやってくる。
「シャンバラの空はシャンバラの物だ!
オレ達の力を見せ付けてやろうぜ!
大丈夫だ、パイロットを信じよう」
「そうですね」
真琴はうなずく。
「おーい、クェイルの飛行パーツの設置を手伝ってくれ!」
「はいはーい、今行くわよ!」
誠一は、雅香達を呼んで、クェイルの整備を手早く行い始めた。

6人は、出撃する学生達にねぎらいの言葉をかける。
「正念場だ! しかも数は相手が圧倒的に上。
だが、俺達は全力を尽くした。
これを乗り越えればきっとなんとかなるはずだ!
おまえ達も全力でやってこいよ!」
「格好悪くてもいい、必ず生還してくださいね。
今回負けても生きていればリベンジはできますから」
誠一とカーマ スートラがパイロット達を見回して言い。
「これは一整備士からのお願いです。
改めて、その銃口を向けるべき相手を間違えないでください。
イコンは一つ間違えれば神の代理から悪魔の化身となります。
そのことを心の片隅において置いてほしいです」
「今回の戦いが終われば、一応一段落といったところだね。
だからといって無茶な戦いだけはするんじゃないよ。
あくまでイコンの力は同じイコン、
もしくはそれと同等の力相手にしか振るっちゃいけない。
それだけは覚えておいてくれよ。
皆が無事に帰ってこれるように機体の整備を完璧にしておいたからね。
あたいも真琴も皆の無事を祈ってるからね」
真琴とクリスチーナも誠実に言い。
「お姉さんがしっかり整備しておいたから大丈夫よ☆
いつもどおりの実力が出せるようにがんばってね」
「ガハハ、オレが整備しておいてやったんだ。安心して行って来い!
たとえ龍騎士が相手でも、無理しなければ大丈夫だ!」
雅香とイワンも、年長者として励ましを行った。

こうして、整備科メンバー達は、今日も、出撃するイコン達を見送った。
必ず帰還してくれることを信じて。


■花音と涼司

 蒼空学園。
 ソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)の手にある資料には、今までに見つかったブライド シリーズの種類と持ち主が記されていた。

『剣:ブライドオブブレイド 花音
 刀:未発見
 弓:未発見
 槌:ブライドオブシュトルムボック リフル
 槍:ブライドオブパイク エメネア
 銃:未発見
 杖:未発見
 器:ブライドオブシックル マレーナ(ただし武器は行方不明)』

「ブライド シリーズって……あと四つもあるんですね」
 ソルファインは、花音・アームルート(かのん・あーむるーと)の方を見やった。
「ええ」
 彼女が作業を続けながら頷く。
 彼女は戦場や避難所へ送る物資の確認をしている。
 野戦病院への支援品だ。
 薔薇学や空大にも要請があったようで、そちらからも戦場へ支援品が送られるという話だった。
 ソルファインは資料を置いて、花音の手伝いを再開した。
「ブライド探しですけど、僕も協力させてもらっていいですか? デスクワーク方面で」
 花音が手を止めて、ソルファインを、きょとと見上げる。
「断る理由はありませんけど……デスクワーク、ですか?」
「苦手なんです……戦うのとか」
「……剣の花嫁なのに」
 花音が不思議そうに見つめてくる。
 ソルファインは、ぽり、と頬を掻いて、
「駄目、でしょうか……?」
「いえ、断る理由はありません。どんな形でも協力していただけるなら嬉しいですよ」
 軽く首を振ってから言って、花音が作業に戻っていく。
 ソルファインは、彼女に気づかれないように小さく息をついた。
 とりあえず、第一関門はすんなりと通れたらしい。

 一方、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、山葉 涼司(やまは・りょうじ)と共に校長室に居た。
「花音君のことだ」
 言ったリカインを見やり、涼司が薄く息をつく。
 リカインは彼の態度に構わず、続けた。
「涼司君の考えがどうあれ、彼女は、かなり悪い意味で自身と光条兵器を同一視している――そのせいで酷く死に無頓着だ。あれでは、いつか本当に……」
「それで、俺にどうしろってんだ?」
 涼司の言葉に、リカリンは片手を軽く腰に当てながら、髪先を揺らした。
「出来れば、無茶をしないように見ていてあげて欲しい」
「…………」
 返らない声に嘆息して、リカインは続けた。
「君が立場上、難しいというなら私が彼女の特務隊として、彼女を守る」
「そういうのを、おせっかい――」
「と、思われようともだ。それで、代わりというわけではないが、君からティセラに伝えてほしいことがある」
「うん?」
「同じ特務隊としてリフルやエメネアのことは私が守る、任せてくれ……と」
「自分で言った方がいいんじゃないか? ティセラの親衛隊なんだろ?」
 涼司が、わからん、という風に軽く眉根に皺を作りながら言う。
 リカインは少し沈黙を置いてから、視線を彼から落とした。
「……ロイヤルガードにはロイヤルガードとしての仲間や関係があるのかと思うと、どうにも気後れしてしまって……」
「分かった。伝えておいてやるよ」
 そして、涼司がため息をついた気配。
「しかし……たいがい不器用だな、おまえも」


■セリヌンティウスの首

「んー……ないですねぇ」
 レオパル ドン子(れおぱる・どんこ)は体を伸ばし、空を仰ぎながら、とんとんと自分の腰を叩いた。
「こっちもサッパリだ」
 声が降ってきて、ドン子はそちらへと顔を上げた。
 瓦礫の上でしゃがみ、ドン子を見下ろしていたロア・ワイルドマン(ろあ・わいるどまん)と目が合う。
「こんだけ探しても無いってことは、誰かが持ってたんだな」
 ドン子の目の前にロアが降り立つ。
「あの教頭の首だから、超パワーとか発揮しようだったし……干し首にでもしたら高く売れそうだったのになぁ」
「あ〜、確かに、この前ロアが読んでいた本にあったぁ……なんでしたっけ〜? 『ぱふぱふ』? ああいうのとかしてあげたら、うっかりパワー発揮しそうでしたよねぇ」
「ま、ともかく、物が無いんじゃしゃーねーな」
 歩き出したロアがすれ違いざまに、ドン子の肩をぽんっと叩いた。
「それより――そろそろ頃合いだ。いっちょ派手に暴れてやろうじゃねぇか」
「はい〜!」
 ドン子はロアに続いて、自分たちのイコンの方へと向かっていった。

 宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)は、瓦礫の影からソソッと顔を覗かせて、ロアたちが去っていくのを確認した。
 小さな安堵と共にチュルリと舌を虚空に滑らせ、その腕の中の生首を持ち直す。
 ブラックコートの中に抱え込んでいるそれを改めて見やり、
(さて……随分、無造作に放ってあったとこから察するに、どうにもこっちの狙い通りにゃならなそうだが……。まあ、いいか。俺ァただお嬢に言われたことをこなすだけだ)
 神よりも何よりも“お嬢”が怖い。
 さっさと仕事は終わらせるに限る。
 と――
 蕪之進は、何者かに突き飛ばされて転がった。
 校舎跡の地面に散らばる瓦礫屑を跳ねながら、蕪之進は、ずるんっと一つ空中に身を巡らせ、足先で地面を捉えた。
 そうして……彼は、先ほど自分が抱えていた物が無くなっているのに気づく。
「……あらぁ?」
 慌てて振り返った向こう、ニース・ミョルニル(にーす・みょるにる)が首を抱えながら走り去っていく姿があった。
 
 ニースは身重の葛葉 明(くずのは・めい)に代わってセリヌンティウスの首を手に入れるため、隠れ身を用いて、ここに潜り込んでいた。
 そして、蕪之進が首を拾い上げるところを目撃し、隙を窺い、先ほどそれを掠め取ることに成功したのだった。
 が――
 蕪之進から逃げた直後に、彼女は弁天屋 菊(べんてんや・きく)ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)に、首を奪われていた。

「返しなさい。それは、わたくしが――」
「いやいや、最初に見つけたのは俺だからねぇ」
 ニースと蕪之進に追われ、菊は首をラグビーボールさながらにガガとパスし合って逃げていた。
「駄目だ駄目だ。おまえたちに渡すと、ロクな事に使わなそうな気がするからねぇ」
「エコの観点から有効に利用しますので安心してください」
 ニースの言葉に菊は、ハン、と息捨てて、
「セリヌンティウスの男気を台無しにするようなことに使うのはお断りだよ。だったら、あたしが貰っといた方が何倍かマシだ」
「菊はセリヌンティウスに惚れたのかい?」
 ガガが菊からのパスを受けながら問いかける。
 菊は目を細めて笑った。
「あいつは漢だ。そう思っただけだよ」
「惚れたんですね」
「ゲテモノ好きってヤツだな」
 後方から聞こえてきた言葉に、菊はやれやれと首を振った。
「ヤボな連中ばっかだねぇ」
 そんなこんなの内に、菊たちはセリヌンティウスの首をキープしたまま逃げきり……
 首は、ひとまず菊の持つイコンの中に作られた神棚に祭られることとなる。