空京

校長室

戦乱の絆 第二部 第一回

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戦乱の絆 第二部 第一回
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ヘクトル

そのころ、空母に潜入した
匿名 某(とくな・なにがし)
結崎 綾耶(ゆうざき・あや)は、
通信室で従龍騎士を倒して、ヤークトヴァラヌスに乗っているヘクトルに呼びかけていた。
「ヘクトル。俺だ、匿名某。覚えてるか?」
「何、おまえ、どこから……」
「俺はお前を責めるつもりは毛頭ない。お前にだって立場とか事情があるんだしな」
「……」
「本当なら俺だってお前と戦いたくない。
けど、お前達をヴァイシャリーに来させるわけにはいかない事情もこっちにはある。
だから、今回は『護る』ために戦わせてもらう……言いたかった事はそれだけだ」
「ここは戦場だ」
ヘクトルはそれだけ言って通信を切った。
「某さん……」
綾耶は、某の横顔を見つめた。



橘 舞(たちばな・まい)
地上からヘクトルに呼びかける。
「どうしてそんなに戦争ばかりしたがるのですか?
もっと他にすることはいくらでもあると思いますよ。
シャンバラの地でも、
多くの人たちは仲良く幸せに日常を楽しんでいるのに、それを壊して何か楽しいのですか」
ヘクトルから返答はない。
「私にはまったく理解できません。
いったい誰がこのような戦乱を望んでいるのですか?」
舞は続ける。
「大義名分があれば、人殺しをしていいとでも思っているのですか。
国や民族が違えば、方針や価値観の相違があるのはある程度は仕方ないです。
ですけど戦争は悲劇を増やすだけではないですか。
話し合えば解決出来るかもしれないのに……。
争いからは憎しみしか生まれません。
ですから、私は戦いません」
パートナーのブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)は、その様子を見て言う。
「舞は甘いのよ。
そんな連中に何言っても無駄。
今も昔も帝国の考えてることは何も変わらないわ。
ただ、シャンバラの土地が欲しいだけなんだから。
自分たちが神だと思い上がった者たちは、その傲慢さゆえに自らの無知に気づきもしない。
周囲からはとっくに見限られていることに気づきもせず、自分達が世界の中心だと夢想してる。
哀れだとしか言いようがないわ。
世の中には殴られないと目を覚まさない馬鹿もいるものよ。
目の前にもね」

「おまえ達は善意の第三者を気取っているのか?
ここにいるのは誰もが当事者だ。
戦う理由が見いだせぬなら、死ぬ前に帰れ!」
ヘクトルは、舞とブリジットを一蹴する。

そこに、
朝霧 垂(あさぎり・しづり)
ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)の搭乗する
是空が、ヘクトルのヤークトヴァラヌスの前に飛来する。
「宣戦布告と同時に奇襲を仕掛けるなんて、騎士のやる事じゃないよなぁ!
その間違った騎士魂、俺が叩きなおしてやる」
「エリュシオン帝国は何で戦いたがるの?
無理矢理属国にしようとしたり、建国したら話し合いの余地もなく宣戦布告を行ったり、
力で一方的に押し付けようとすることが正しい事なの?」
垂とライゼにヘクトルは応戦しつつ言う。
「すべては大帝陛下の大義のため。それがオレの騎士道だ」
ヘクトルはヤークトヴァラヌスのキャノンを撃つ。
「やべえ!」
垂は、パイロットとしての練度を積んでいる。
だからこそ、ヤークトヴァラヌスをけして陸に上げてはいけないということを見て取った。

さらにそこに、
緋桜 ケイ(ひおう・けい)
悠久ノ カナタ(とわの・かなた)
アルマイン・マギウスと、
ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)
雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)
アルマイン・マギウスが飛来する。
「ヘクトル、あんたが戦うのは帝国への忠義だけじゃなくて、
守りたいものがあるからじゃないのか?
……それは、俺たちも同じなんだ。
シャンバラもエリュシオンも、そこに住まう人の心は同じなんだ!」
後方支援に徹するソアも言う。
「ケイにとっては、ヘクトルさんも守りたいものの1つなんですよ。友達ですからねっ」
「そうだ。守りたいものがあるからだ。
オレはシャヒーナや祖国の人々を守りたい。
だから、そこをどけ!」
ヘクトルは、ケイやソアの機体にキャノンを撃つが、なるべく当たらないようにしているのだと、
ケイはすぐ理解した。
「なら、俺たちは話し合えるはずだ!
お互いに守りたいものがあるなら!
なあ、ヘクトル!」
ケイは叫ぶ。

その時、空母の異変に龍騎士団は気づく。
潜入作戦が成功したのだった。

「隊長! イコン格納庫が破壊されました!」
通信を受けて、ヘクトルは歯噛みする。

そんな中、龍騎士団が空母に帰還しようとするのを、
ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)
シュブシュブ・ニグニグ(しゅぶしゅぶ・にぐにぐ)
エクシールが追う。
(白百合団を除籍になってでも西シャンバラに加担し、
その結果この侵攻を招いてしまったのはわたくしの責任もありますわ……。
例え放校されてでも神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)様を止めたいと気持ちは変わりません。
ですけれど、今この一時はヴァイシャリーを守るために戦いますわ!)
「行かせません!
わたくしごと、太平洋に落ちなさい!」
「何を……狂ったのか!?」
龍騎士にしがみつこうとするロザリィヌだが、
すぐに撃墜されてしまう。
「ロザリィヌはこういう時に後の事を考えないから困るのであるな……」
シュブシュブは、パラシュートでロザリィヌとともに脱出して、
太平洋に落ちていく。
ゆる族のシュブシュブであれば、仮にこの高度から海面に叩きつけられても平気である。



時間は少し遡る。

牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、
魔鎧のラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を装備して龍騎士団と戦おうとしていた。
コンロンで龍騎士殺害、饕餮にダメージを与えたなど、色々思い当たる事もあるので、
ヴァイシャリーを守りたいと思ってのことだった。
「ウゲンさんいらっしゃーい」
アルコリアは、フラワシを得ようとウゲンに向かって呼びかけた。
「なんだい?」
すぐさま、空間が歪み、ウゲンはアルコリアの前にテレポートしてくる。
アルコリアは異常な状況にも顔色を変えずにいう。
「生身でイコン相手に大戦果上げる事が可能って宣伝になれば、
引く手数多だと思いますよ?」
自分がヘクトルを倒して見せようと提案するアルコリアだが。
「君、“ドージェの妹”って呼ばれるぐらい強いんだからさ。
フラワシいらないでしょ?」
ウゲンは言う。
「でもまあ、僕がここにわざわざ現れたってことはさ。
君に興味があるんだよ。
なんだか面白いことしそうだしね」
ウゲンはアルコリアを見上げて言う。
「だけど、まだまだ僕に会いたがってる子がたくさんいるんだよね。
だから、もう行くよ」
ウゲンはそう言い残して、再び歪んだ空間の中に消えてしまった。



再び、雲海沿岸の戦場にて。

「きゃははははははははは」
ラズンの笑い声が響き渡る。
地獄の天使で、アルコリアがヘクトルの元へ飛来してきたのだった。

「みせて、本当の地獄と本当の戦場を……きゃはははっ」
「ここで止めさせてもらいます」
アルコリアは氷像のフラワシでヘクトルを攻撃する。
「ヘクトル!」
「ヘクトルさん!」
ベアとソアの声が重なり、アルマイン・マギウスが割り込む。
「何を……!?」
ヘクトルはすぐさまアルコリアをキャノンで攻撃する。
「ヘクトルさんは敵ですよ? なぜそのようなこと……」
「ソア! ベア!」
アルコリアは驚いて言い、ケイは叫ぶ。
「案ずるな、おそらく、直前で手加減したはずだ」
カナタはケイに言う。

「……私だって、ケイの友達は守りたいんです」
「俺様もな!」
ソアとベアは、気を張って返事をする。

戦場の状況を見たヘクトルは冷静に言う。

「……時間切れだ。だが、次はこうはいかない。
戦場で馴れ合うつもりはない」

「ヘクトル!」
「ヘクトルさん!」
ケイとソアが呼びかけるが、もはや、ヘクトルは返事をしなかった。



ヘクトルの号令で、
龍騎士団は撤退を開始する。
潜入作戦に参加した者達も無事に引き上げて、
ヴァイシャリーは学生達の手で守られた。
だが、この戦いはエリュシオンとの戦いの第一幕にすぎなかったのだ。