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戦乱の絆 第二部 第四回

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戦乱の絆 第二部 第四回
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■地下1・探索

 清泉 北都(いずみ・ほくと)の提案した通り、全員が一緒に行動するには、地下鉄構内は狭いし、効率的でもない。
 北都やザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)らは、手分けすることを選んでそれぞれ別のルートから地下を進んでいた。

 青葉 旭(あおば・あきら)から送られるデータを、パートナーのゆる族、強盗 ヘル(ごうとう・へる)の持つHCで受け取り、地下鉄の路線図と都内の地図を重ね合わせて見ながら、ザカコはひとつの予測を立てていた。
「……やっぱり、此処だと思うんですよね。一番怪しい」
 とん、と地図の中央を指差す。
「此処は?」
 ヘルが訊ねる。
「桜田門に行きましょう」
「ああ、なるほど……」
 地図を見て、ヘルも納得したように頷いた。
 言われて見れば確かに、そこしか無いと思える。
「確かに、此処なら……」
 地上のイコン戦を避け、早めに地下に下りつつ、ザカコ達は地下鉄の構内から、桜田門を目指した。
 念の為、光学迷彩で姿を隠しつつ進む二人の背後から、やがて、ゴー、と地響きのような音が響く。
「地下鉄か?」
「通常の路線は全て止まっているはずですから……機晶姫が乗っ取っているという、あれですか」
「どうする?」
「姿を隠していますし、やり過ごしましょう。結晶を探すのが先です」
「だな」
 二人はそう決めたが、地下鉄をやり過ごそうと壁に張り付いていて、それが通り過ぎる瞬間、信じられないものを見た。
 一瞬だが、間違いない。
 先頭の車両の屋根の上に、シャムシエルが乗っていたのだ。
「おい、今の……!」
 追いかけるか、という提案をする間もない。
 あっという間に地下鉄は通り過ぎ、行ってしまう。
「……」
 二人は顔を見合わせた。――進む方向は、同じだ。


 清泉北都は、一旦はミルザム達と合流したが、
「ひとつの道を皆で固まって進むより、分かれて進んだ方がいいよね。
 先回りされて道を断たれている可能性もあるし」
と言って、パートナーの守護天使、クナイ・アヤシ(くない・あやし)と共に、彼らと別れた。
 新宿は、東京の地下鉄が多岐に渡って展開されている、路線的に拠点といってもいい場所である。
 此処からなら、何処へ行くにも、何通りかのルートを選ぶことができるだろう。
 あとは、仲間達の情報待ちである。

 地下は無音ではなく、どこかで地下鉄の走る音か、地響きのような音があちこちからして、やがて音のひとつが近付いて来た。地下鉄だ。
 余計な戦闘は避けようと、二人は壁際の物陰に潜む。
 だが、はっ、とクナイが顔を上げた。
 あらかじめ北都に対して施していた、『禁猟区』が発動したのだ。
「奇襲?」
 北都が声をひそめる。
「――いえ、これは……」
 ミシ、と頭上から音がした。
「北都!」
 クナイは北都の手を引き、近付く地下鉄に構わず、羽根を広げる。
 とにかく、今この場を離れることを最優先した。
 壁や天井にひびが入り、轟音と共に砕け、瓦礫が走る地下鉄に叩き付けられて、地下鉄が傾ぐ。
 壁の向こうから現れたイコンが、パイルバンカーで地下鉄車両の側面を串刺した。
「……アンズー?」
 そのイコンを見て、アヤシが呟く。
 そのイコンは、イコンには低い天井のトンネル内で身を屈めながら、頭部カメラで左右を確認し、横倒しになった車両を乗り越えて、向かいの壁に、掘削用ドリルを突き刺した。
 やがてくぐれる程の穴があくと、イコンはその中を進んで行く。
「……無茶するなあ」
 見送って、北都は呆れたように呟いた。
「この路線はもう使えませんね」
 脱線した車両を見て、アヤシが言う。
 地下には今、多くの機晶姫車両が縦横無尽に走り回っているようだが、此処を通ろうとすれば巻き込まれて脱線するだけだろう。
「行動範囲が狭まったのは、こっちも同じって気がするけどねえ」
 皆に通達しないと、と、北都は肩を竦めた。


 ラト・ヤートラーの操縦席には、伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)とパートナーの英霊、雷獣 鵺(らいじゅう・ぬえ)が乗っていた。
 いや、今は変装して、藤乃はセシリア・ナートというシャンバラ人、ということになっている。
 鵺はナラカの仮面で顔を隠していた。
 イコンに乗っているのだから姿を見られる心配はないのだが、念には念を入れていた。
 何故なら二人は、鏖殺寺院メンバーなのだ。
「数多走り回る地下鉄の一本くらい、潰したところで大した損害ではありませんわ」
 誰も見ていなくても、この変装の時には口調も変える。
 セシリアは脱線した地下鉄車両を尻目に、そう微笑んだ。
 鵺も、仮面の下で、にっと笑う。
 ラト・ヤートラーは鏖殺寺院で活動する際に用いたことはないので、これで自分達の素性がばれることはないだろう。
 暴走する地下鉄への対策、のように見せかけて、実のところの目的は、結晶探索の妨害である。
 掘削しながら地下を進むのは、短い距離でもかなりの時間を要したが、その甲斐もあった。
 今回はたまたま目の前に車両があったから攻撃したが、線路を歪めるだけでも充分、車両が脱線して道を塞ぐことができれば、その分探索の足は遅れる。
 瓦礫と脱線した車両で塞がれたあの場所は、もう通れないだろう。


 地下鉄による負傷者を救助するには、地下鉄の動きを補足する必要がある。
 暴走地下鉄を、マホロバの軍馬に乗って追いかけていたレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)は、地下鉄が突然止まり、前の車両に激突する形で次々脱線して行くのを見て驚いた。
「レオン、あれを!」
 パートナーの英霊、イヴェイン・ウリエンス(いべいん・うりえんす)が、光源を失った前方の暗闇を指差す。
 地下鉄車両を乗り越え、壁に穴をあけるイコンが見えた。
 その手前に、折り重なる車両。
 横倒しになり、上面を向いた窓を蹴破って、機晶姫が出てくる。
 イコンによる攻撃は、意表をつかれたものだったのだろう、あちこちに小さな怪我をしていた。
 忌々しそうにイコンを睨みつけた後、その機晶姫はレオンハルト達に気付いた。敵意を剥き出す。
「あれが、地下鉄を操っていた奴か」
 レオンハルトは冷静に言って、武器を構えた。

「――巻き込まれた人は、居ないようですね」
 戦闘終了後、周囲を探ったイヴェインが言った。
 トンネルは崩れた壁と天井の瓦礫の山だが、辛うじて塞がってはなく、何とか行き来もできた。
 脱線車両の向こう側に居た北都達は、仲間達に連絡を済ませ、車両を乗り越えて来たレオンハルト達に気付いて軽く手を振る。
「しかし、この有り様では、いつ誰が負傷しても不思議ではないな。
 連絡を密にし、地下鉄内の把握に努めねばなるまい」
「うん、情報収集組も頑張ってるみたいだよ〜」
 レオンハルトの言葉に、北都が答える。
 そのHCには、刻々と、地下鉄の動きが伝えられている。


「交通網、地下鉄網は勿論、地下に関する建設計画、ああそれと、大日本時代の地下鉄もだね。
 とにかく、都知事権限で引き出せる、地下に関する情報は全部よろしく」
 青葉旭は、地下鉄の総合指令センターを抑えた藤林 エリス(ふじばやし・えりす)から、片っ端から情報を送って貰っていた。
「無茶苦茶言うわねっ!」
 言いながらも、エリスも都知事ミルザムの名を翳し、
「就いた早々、辞職にされないといいけど!」
と、一応ミルザムの身も案じつつも、とことん職権乱用してそれに応える。
「これを実績に繋げられれば、辞職になんかならないさ」
 いや、させないよ、と旭は集めた情報を整理して、必要と思われるものを、改めて結晶探索班へ送信する。

「旭くんったら、ミルザムの護衛に飛んで行くかと思ってたのに、情報収集なんてね」
 パートナーのゆる族、山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)が意外そうな顔をして言った。
「護る他にも、ミルザムの役に立てることがあるならやるだけだよ」
「やるじゃん」
 にゃん子はくすりと笑う。
「それにしても、いい時にミルザムは都知事でいてくれたよねえ」
 都知事権限で、ミルザムに様々な便宜を図って貰っている。
「……環菜はもしかして、これを見越していたのかな?」
 御神楽環菜は何故、ミルザムを都知事に選出させたのか。
 旭はまさしくこの日の為と思えてならなかった。


「アスカ。そっちはどう?」
 エリスはパートナーのアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)に連絡を取る。
 二人は、都内の某所にあるという、地下鉄の総合指令センターに来ていた。
 場所は公開されていないので、ミルザムに都知事権限を使って貰い、他に漏洩しないことを条件に教えて貰ったのだ。
「うん、やっぱり非公開の場所だから、敵もココ知らないみたいで、敵はいなかったよ。
 職員の皆もいい人だから、色々教えてくれるし」
 メトロ線と都営線とで分かれた二人は、それぞれの場所で、地下鉄の動きを把握する。
「えへへっ、此処からなら、全部の地下鉄の動きを把握できるんだからね!
 シャムシエル、あんたの動きはあたしの手の平の上よ!」
 そう言うと、エリスは近くの職員に訊ねる。
「で、異常な動きをしてる地下鉄はある?」
「ダイヤ通りに動いている車両は一本もありませんから、今地下を走っている車両は全て異常ですね」
「固まった動きとか」
「それは無いようです。てんでバラバラですよ」
「うーん、まだ目的の場所を見付けてはいない、ってことかな?」
 とりあえず、現時点での情報を、と、エリスはまとめて仲間達のHCに送ったのだった。


 そうですね、と、訊ねられた車掌は、七尾蒼也の問いに答えた。
 ジークリンデやミルザム達が、鏖殺寺院イコンの攻撃を逃れ、結晶を探索する為の仲間達と合流して地下へ下りたのを確認し、蒼也もジーナ・ユキノシタ達と共にワイバーンを降り、ミルザム達を追って地下へ進むことにしたのだ。
 歩きながら、地下鉄に詳しいであろう車掌に、何か知っていることは無いかと訊ねると、
「都市伝説のようなものでしたら」
と、彼は答えた。
「東京の地下には巨大な遺跡が眠っているとか、
 トンネル工事中、作業者が軒並み、同じ女性の姿を夢に見たとか」
「女性の夢?」
 トレジャーセンスを駆使しつつ歩く、パートナーの機晶姫、ペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)が訊き返す。
「あとは、そのトンネル工事中に何処かに繋がる横穴が出て来て、厄介なことにならないよう、見なかったことにしてそのまま密かに塞いだ、とか……そんなところですかね」
「それはどこのトンネルなんだ?」
 蒼也が訊ねた。
「特に場所は言われていないですね。結構あちこちですよ」
 何しろ都市伝説ですし、と車掌は答える。
 信憑性はあるような無いような、どうにも適当な感じだ。
「火の無いところに煙は立たない、とは言うが……」
 蒼也は唸った。
「何にしろ」
と、ペルディータが言う。
「何かあっても、蒼也とジーナさんはあたしが守ります」
 あら、とジーナは微笑んだ。
「ありがとう、でも、私達にも、ペルティータさん達を護らせてくださいね」


「防犯上、地下鉄の路線が全く作れない区域がある、ってことは、あたしも知ってたけど」
 そう、そこが怪しい、と、桜月 舞香(さくらづき・まいか)は思っていた。
 地下鉄の走らない、広大な地下空間。
「こっそり地下に何かを隠すには、最適な場所よね」
 そして舞香は、感心したように、パートナーの剣の花嫁、桜月 綾乃(さくらづき・あやの)を見た。
「綾乃がそんな、鉄道に詳しいなんて、意外だわ」
 えへ、と綾乃は照れたように笑う。
 舞香も知らなかったが、綾乃は電車好きの鉄道娘だった。
 舞香が予測した結晶の場所を聞いて、
「その場所には、“幻のトンネル”と言われてる『連絡線』のトンネルがありますよ。
 人目につきにくいですから、こっそり移動するには最適ではないですか?」
と提案したのだ。
 連絡線とは、通常の電車の通らない、別路線同士を繋ぐ業務用の区間のことである。
「霞ヶ関から桜田門を繋ぐ幻のトンネル、か……ビンゴじゃない。まさしく目的地すぐのところだわ。
 きっと“幻のトンネル”から行ける!」

 そう、ザカコ・グーメルもまた予測していた、地下鉄路線のぽっかりと空いた、その場所。
 そこが、“結晶”の在処に違いないと。