空京

校長室

選択の絆 第二回

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選択の絆 第二回

リアクション


【1】突破

「アイシャ女王も仲間も守る、ここからが本番ってな!」
「女性ばかりで落ち着きませんねえ。一瞬で終わらせてもらいますよ」
 ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)が両サイドに立ち守りを固める。
 近寄ってきた小型の魔物たちに怖気づくことなく牽制する。
 足を止めるために弾幕を張り、その間ウォーレンたちは宮殿へ走る。何も無理に相手をする必要はない。抜けられるところは抜ければいい。
「まあ、そればかっりじゃどうにもならんようだがな」
「ええ。……まったく、一際厄介そうなのが残ったものです」
 ジュノのディテクトエビルが警告する。眼前に立ちはだかる超大型個体の存在を。
「どうやら取り巻きもいらっしゃるようですね」
 ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)が超大型の周りにあるいくつもの殺気を看破する。
 まるで虎の威を借る狐のようだ。それとも単純、超大型を恐れているのか。
「己が力も信用できぬような輩など相手にならず! 拙者はミス・ブシドー……またの名を、マスク・ザ・ブシ」
「落ち着いくださいまし。油断していると足元をすくわれますよ?」
 ナナに窘められる謎のマスク・ザ・ブシドー音羽 逢(おとわ・あい)
 すぐに改めて、ナナに謝罪をする。
「申し訳ないでござる!」
「いえいえ。目の前の敵に集中して頂ければそれでよいのです」
 まるで菩薩、女神のような雰囲気を漂わせるナナ。
 しかし、その前には悪鬼と子鬼のような魔物がいる。これを打ち崩すため、ウォーレンが動く。
 それに合わせてナナと逢、ジュノが連携を決める。襲い来る小型の魔物たちは次々と返り討ちに遭う。しかし、肝心の超大型個体はまだ動かない。
「一時はどうなることかと思ったけど、あと一息! あんなテロ教団なんかにアイシャ様は渡さない!」
「ちょ、しーっ!」
 熱くなってつい言ってはならないことを叫んでしまった桜花 舞(おうか・まい)、その舞の口を咄嗟に塞ぐ赤城 静(あかぎ・しずか)
 幸いにもクイーンはいないため事なきを得たが、仮に聞かれてしまっていたらと思うとぞっとしない話だ。
「まったく、あなたは……」
「もがもが」
「ああ、ごめんなさい」
 静の口止めからようやく解放された舞。一度深呼吸をして目を開く。
「よし! 私たちも攻撃に参加しよう! こんなところで止まってられないよ」
 そう言って勇み出る舞だが静に止められる。
「それじゃ誰がアイシャ様を守るのよ。アイシャ様の盾になる、って言ってたのはどこの誰だったかしら?」
「で、でも」
「【鋼鉄の獅子】の皆は負けないわ。何せ一癖も二癖もあって、仲間思いのツワモノばかりなんだから」
 静と舞が前に目をやる。
 そこには、
「誰かの手から大切なモノを取り零さないように、この世界からアイシャを取り零さないように全力で守るってな!」
 ウォーレンが果敢に敵を打ち飛ばし
「絆の力は何者にも負けはしません」
 ナナが周到に敵を打ち払い、
「箒に乗っていざ、成敗でござる!」
 逢が颯爽と敵を翻弄し、
「さっさとどいてくれるとありがたいんだけどね?」
 ジュノが淡々と敵を退けていた。
 頼れる仲間たちが皆全力で、血路を開こうとしていたのだ。
「……そうだね。私たちは私たちにできること、しないとね!」
 特大の笑顔で自身のやるべきことを再確認し、決意を新たにする舞。
 それを虚仮にするかのように、超大型個体が動く。
 更に、呼応しているのか、他の魔物たちも一斉にアイシャたちへと襲い掛かる。
 物量では魔物たちの方が上。このままでは確実に潰される。正に、絶体絶命。
「それを覆す。それが俺の覚悟だ」
 凛と、垂が立つ。
「本当に、やるんだね?」
 最後の確認をするようにライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が垂に尋ねる。
 その言葉に、ゆっくりと頷く垂。
「メイドは誰かのために尽くすもの。アイシャはこの世界のために尽くした。……最高のメイドだ」
 ちらりと自分の左腕に目をやる垂。まるで、別れを惜しむかのように。
「そんなアイシャが……守り通してきた世界を……この世界の未来を守れるんってんなら、左腕くらい賭けてやるぜ!!」
 
 覚悟。

 それは自分では到底敵わない相手を殺しきる、重症を負わせる、逆に強大な敵から人を守りぬくことができる力。
「もう戻れないんだね……なら僕もその覚悟と一緒に突き進むよ!」
 垂の覚悟を受け、ライゼもまたこの場を何としても突破すると誓う。
 襲い来る魔物の群れ。その先頭にいる超大型個体を見上げる垂。
「図体がでかいだけのお前に、覚悟のないお前に、アイシャの前に立ちはだかる権利はない!」
 ゆっくりと右拳を構える。明鏡止水が如く心は落ち着き、爆発の時を待つ。
 そうとも知らず超大型個体は安易に垂の間合に入った。
 垂が目を見開き、全身に力を込める。
「……左腕と言わず持っていけ。こいつの命もなあ!!」
 突き放たれる右の拳。そして穿たれる超大型個体。
 刹那、超大型個体の背中が膨れ上がり、
 爆発した。
 何一つ覚悟もなしに飛び込んだ結果。それは至極、当然の成り行きだった。
「汚い花火だ……で、次はお前らか?」
 群がる魔物たちを眼光で射殺す。その気迫は魔物たちを止まらせる。
「止まるなんざ、自殺行為だな?」
 垂の体が弾ける。
 砕き、
 折り、
 裂傷させ、
 完膚なきまでに叩きのめす。
 取り囲む全ての魔物たちを容赦なく滅多打ちにし再起不能にする。
 その姿、阿修羅が如く。
 垂が暴れ終わる頃には、魔物たちの大群は壊滅、宮殿への道は開かれていた。
「……皆! 今のうちに宮殿へ急ごう!」
 垂の言葉に全員が頷き。宮殿へと急ぐ。垂に駆け寄りたい気持ちを必死に押し殺して。
 ライゼだけは、垂の側へ。

 ……左腕のなくなった垂の側へ。

「……もうかえってこないんだね」
 強大な力を振るうには、それ相応のリスクが伴う。
 垂は左腕を犠牲にして、その力を手に入れ行使した。
 それを覚悟することこそが、この力の本当の強さなのかもしれない。
「まあ、命取られるわけじゃないんだ。安いもんさ。さあ、俺たちも行くぞ!」
「……うんっ!」
 二人は走る。決して振り向かず、後悔なぞ微塵もなく前へ向かって走る―――。