空京

校長室

選択の絆 第二回

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選択の絆 第二回

リアクション


【1】撃退

「アイシャ女王は絶対にお守りします。全ての敵を相手取るのは愚考です。障害となる魔物だけを排除し進行します」
「アイシャ女王……少し揺れますが、ご辛抱を」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)が指示をする横で、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)は小さな機晶ポッドに入ったアイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)を心配する。
「マリー。他の方と協力し、アイシャ女王の側から離れないように」
「わかってる。だーれにも、指一本、触れさせないよ!」
 言い放つと同時に天からいかづちが降り注ぐ。右翼をうたれた飛行型の魔物が苦痛の悲鳴をあげながら地面へと落ちた。
「……もう少し、早くはならないのですか?」
 またも我慢できなくなったのか、後ろからエレクトロンボルトが現れ、急ぐように催促してくる。
 この状態のアイシャを見てもなお、だ。
「急いては事を仕損じる。無理をし、アイシャ女王陛下の身に何かあれば儀式どころではなくなります。それこそ、本末転倒ではないでしょうか?」
 礼儀正しくも端々にきっぱりとした拒絶が感じ取れる。
 しかし言っていることは至極正論。そのためエレクトロンボルトもうまく言い返せず、「……お願いしますよ」とだけ残して安全な場所へと戻っていった。
「可能なら後退もしたいのですが、そこまで危険はありませんか。ならばこのまま“慎重”に進むとしましょう」
「うまくやらないと、ね」
 二人は細心の注意を払い、アイシャを守りつつ宮殿へと部隊と共に歩を進めていく。
 無論、アイシャ護衛に従事するのは二人だけではない。
「前から大きめのくるわよ!」
 鶴 陽子(つる・ようこ)が輸送車両からパートナーであるハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)に状況を伝える。
「ああ、戦闘開始からで一番大きい個体のようだ。できればお会いしたくなかったがな」
 ホーエンシュタウフェンに搭乗したハインリヒも一際大きい個体の姿を確認する。ざっとみても五十メートルはあるだろうか。
「あんなのに踏まれたらぺちゃんこだな。まあ、そうさせないのが役目なわけだが」
 と、ハインリヒの後方からプラヴァーの援護射撃が始まる。陽子が援護するように呼びかけたようだ。
「さっさと倒して次に進むわよ!」
「ここまでされたら、やるしかないか。……安全第一、でな!」
 プラヴァーからの惜しみない援護射撃に混じりつつ、パンツァーファウストやロケットランチャーを雨のように撃ち込むハインリヒ。
 だが体の大きさはタフさに比例するのか、中々倒れてはくれない。
「こりゃ骨が折れる!」
「援護いたしますわ! コンラート!」
「はい!」
 エミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)コンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)も撃退に加わる。
「このような壁は迅速に排除しなくてはなりません。コンラート、援護を!」
「了解です!」
 そう言うとほぼ同時に神速の如き速さで二本の弓矢を足元へと撃ちこむ。
 それだけでは終わらない。
「大物と戦うときは足元を狙う、基本中の基本です!」
 相手の行動力をそぐために氷術を使用。相手の足にダメージを蓄積させつつ凍らせることで行動力を奪う。
 だが、それだけでは止まらない。
「詰めが甘いのですわ!」
 果敢にも大型個体の足元へ飛び込み、斬り、突き、叩く猛攻を見せるエミリア。
「あんまり無茶しなさんなよ」
 それを見たハインリヒがすかさず援護に入る。大型個体へのダメージは着実に蓄積され、見るからに鈍足となる。
 だが魔物はこの一体だけではない。他の魔物たちが一斉にハインリヒとエネメアをターゲットし、襲い掛かり始める。
 大型個体の相手をしつつ、多量の魔物たちを相手取るのは分が重く、危険だった。
 その危険を払う狙撃手が動く。
「……」
 狙撃ポイントでカモフラージュを施しながら息を潜めていたヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)
 彼の指がスナイパーライフルのトリガーに掛かり、引かれる。
 射出された弾丸は空気を切り裂き、程なくして二人に襲い掛かろうとしてた魔物の一体に着弾し、行動不能にさせる。
 狙撃後はすぐに移動し、その姿を確認させず、また狙撃。
 熟練した狙撃の前に為す術なく魔物たちは撃たれ、地に平伏す。
「さあ、怪我をした方はこちらへ」
 離れたところではエリス・メリベート(えりす・めりべーと)が救護活動に当たっていた。
 ハンリヒ、エネメア、ヨーゼフの連携攻撃が実り、魔物たちの勢いは落ち、遂には大型個体をも撃破に成功する。
 その隙にエリスが負傷者を癒しつつ次の戦いに備え動いていくのだった。

「アイシャ及びアルティメットクイーン護衛部隊から、大型個体の撃破とのこと。危険はないと判断し前進可能と」
 各部隊から連絡を受け取る白 玉兎(はく・ぎょくと)が【新星】のリーダー、香取 翔子(かとり・しょうこ)に通達する。
「偵察部隊はどうなって?」
「宮殿までそう距離はないためこのまま本隊と共に進行する模様」
「了解です。このまま押し切り、宮殿へ入ります。各イコン機の様子は?」
「【新星】イコン部隊は本隊上空を死守、他イコン機もゴーストイコンを撃墜し続けてる」
 上空、地上共に契約者たちの優位が続いている。その分進行も早くなってしまう。
「……まだ貯金はある。それに、例の作戦が実行されればもう少し、か」
「でもそんなにうまくいくのかな?」
「そこは、運次第かもね。だからこそ私たちも人事を尽くさなければ。……各部隊へ伝達、このまま進行を続ける。くれぐれも慎重に、ね」 
 まだやれることはある。全てをやりきったわけではない。だからこそ【新星】のリーダーは檄を飛ばし指示を出す。
 この作戦に参加する全ての者の努力が無駄にならないようにと。
 しかし、例の作戦とは一体―――。