空京

校長室

選択の絆 第二回

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選択の絆 第二回

リアクション


【1】偵察

 本隊より前に先行し地上の状況を偵察していたジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)が上空を見上げる。
「上空では戦闘が開始されたか」
「敵イコンの機動力は侮れませんね」
 ジェイコブのパートナーであるフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)が言う。
「しかし、地上だっていつまでも平和というわけではないだろう」
「そうですわね。進むにつれ、嫌な雰囲気が漂ってきますわ」
 宮殿へ近づくごとに這い寄ってくる嫌な空気。
「オレ個人としては、こんな面倒な任務はさっさと終わらせたいんだが……そういう訳にはいかんか」
「ええ。この作戦には色々な人の思いがありますからね」
「そうだな。……強行偵察部隊、気を引き締めろ。これより先には魔物たちがいるだろうからな」
 ジェイコブ、フィリシアの視線の先には大小様々な魔物がいる。
「フィリシア、いつでも援護できるように頼む」
「了解ですわ」
「オレたちの目的は相手の殲滅ではない。最も安全なルートを探すことだ。うまくやってやろう」
「ゆっくりゆっくり時間をかけて、無理しないように行こうってことですわね?」
 バウアーの横からひょこっと顔をのぞかせるシャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)。隣には浜田 鬼麿(はまだ・おにまろ)の姿もある。
「時間をかけ過ぎるのはよくないがな」
「でも、根を詰めて体調を崩してはいけませんし、どうでしょう? 休み休みながら行く、というのは」
「休憩を取るのはいいが……まあ支障がでない範囲で休憩は挟む」
「それがいいですわ。それじゃ、鬼麿?」
「了解だよ!
 元気な返事をする浜田 鬼麿(はまだ・おにまろ)
 と、一人で走り出し偵察部隊より更に先行する。
「彼がこの辺りを見回りますので、戻ってくるまで休憩にしましょう?」
 家庭的な雰囲気満載の彼女に押され、一度休憩を挟むことになった偵察部隊。どうして彼女がこの隊にいるかは謎である。
「戻ってきたよー!」
「お疲れさま。どうでした?」
「ちょこっと魔物がいたけど、それくらいだね!」
 鬼麿の情報を聞いたジェイコブが腰を上げる。
「少しか。……殲滅して進もう。各自戦闘準備だ」
 各々が準備をする。準備完了後、息を殺して進行していると鬼麿の言った通り、少数の魔物の姿があった。
「あれだけなのであれば、わたくしが空から陽動いたしますわ、ですぅ」
 名乗りを上げたのはサオリ・ナガオ(さおり・ながお)。既に、ペガサスであるマリア・テレジアに騎乗していた。
「麿も参ろうぞ」
 サオリのパートナーである藤原 時平(ふじわらの・ときひら)も急襲実行の意思を告げる。
「なら、その間に私たちは回り込んで横から行くとするか」
「挟み撃ちで一網打尽だぜ!」
 ギュンター・ビュッヘル(ぎゅんたー・びゅっへる)サミュエル・ユンク(さみゅえる・ゆんく)も共闘し相手を叩く事に賛同する。
「わかった。ここは四人に片付けてもらい、残りの者は周りの偵察、次の進路の大まかな検討をする。では頼む」
 バウアーの手短な作戦を聞いた後、サオリがペガサスに乗って上空を舞う。
 ギャーギャーとやかましい魔物たち、どうやらまだ気付いていないようだ。その隙を見透かし、サオリが突風と化す。
 それがただの風切り音ではないと察知した時には既に遅く、弓矢が魔物たちを襲う。
 悲鳴をあげつつ、空を飛べる魔物がサオリへと襲いかかる。
「はわわ……大変ですぅ」
 言葉とは裏腹に見事なペガサス捌きで魔物の追撃を危なげなくかわすサオリ。
「一人を見つめ続けていると、痛い目を見るであろうぞ?」
 サオリを追うのに夢中になっている魔物に小型列車砲の照準を合わせる時平。
「……そこじゃな」
 タイミングを計っていた時平が攻撃をする。高速で打ち出されるパラレールが魔物胴体部に着弾。
 攻撃をモロに受けた魔物はぐえっ!と苦痛の声を上げて地に倒れる。
 それを見たほかの魔物たちが時平の元へと移動しようとするが、その両側にはギュンターとサミュエルコンビの姿が迫っていた。
「お前ら程度では迷彩も見破れまいか」
「小物は大人しくしてやがれってんだ!」
 鬼のような目で睨みつけ、残りの魔物たちを怯ませつつ闘争心も萎えさせるサミュエル。
 怯んだところへギュンターが強力な念力を展開させ、あたり一面にサイコキネシスが漂い、荒れ狂い、魔物たちにダメージを与える。
 悲痛な声を上げて倒れていく魔物。そのうちの一体が、最後の力を振り絞って大きな叫びを上げようとする。仲間を呼ぶ気だ。
 しかし、それは叶わない。何故ならば眠りにと誘われたから。
「さぞ疲れたろう? 良い子はねんねしてなって」
 サミュエルの強力な催眠術により気力を振り絞った魔物も眠りにつき、敵を無力化させることに成功した。
「よくやった。……全てがこうあれば、楽なんだがな」
 ジェイコブの言葉には諦めが混じる。彼はその目で確かめたのだ。
 多数の魔物たちが群れを成して自分たち偵察部隊、ひいては本隊へと向かってきていることを。
「本隊へ魔物の群れが接近中、回避は不可能と通達後、一旦合流する。迎撃し、可能であれば改めて先行し状況を探る」
 ジェイコブの指示の元、偵察部隊は一度本隊と合流するために後退した。