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ンカポカ計画 第3話

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ンカポカ計画 第3話

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第9章 

 ナオラン温泉は10メートル四方程で、大きな岩に囲まれていた。
 湯煙がすごくて視界は限られるが、その中に1人ポツンと……ンカポカがいた!
「むう。ファーストキスを……うーん……」
 なにかぶつぶつ言っているので猿ではなく、本物のンカポカのようだ。
 ンカポカは腰まで浸かって、木の実か何かを食べたりしていた。
 そこに、温泉組の第一陣、エメと壮太と和希が到着した。
「おおおお! 温泉です!!!! 本当にあったんですね。ね! ね! 壮太君!!!!」
「ああ、ホッとしたぜ」
 温泉の前には脱衣所におあつらえ向きの平らな岩が敷き詰められたスペースがあり、エメはそこで鞄を広げて石鹸を探しはじめた。
 温泉そのものはそこからは大きな岩の陰になっていて、見えない。だから、まだンカポカには気づいてなかった。
 壮太は道中を思い返して、自分を褒めてやりたいと思っていた。なかなか温泉が見つからなくて極限までカリカリしていたエメをなだめたりすかしたり、和希と2人で大変だったのだ。
「姫宮ぁ。俺は、もし温泉が見つからなかったらどうしようかと思ってたぜ」
「やーっぱりおまえもそんなこと考えてたのか。あ、そうだ。俺のことはいいから、おまえら先に入っちまえよ。俺はちょっと、ンカポカがいないか見てまわったりすっから」
 和希は「脱衣所」を離れ、大きな岩の脇から湯をのぞいてみる。
「すげえ湯煙だな。ンカポカも猿もよく見えねえぜ」
「よっ。のぞき番長、板に付いてるぜ」
 壮太が声をかけた。
 これは一見ただの冷やかしのようだが、その実とても意味がある。和希は、のぞきの神によって正式に“のぞき番長”として認められたということなのだ。
 和希はのぞきながら、感慨深く涙を流していた。
 が、全ては次の瞬間吹っ飛んだ。
「え? のぞき?」
 ンカポカが気がついて、大慌てで湯の中を反対側へ走り出した。
「うおっ! ンカポカ! 待てこの野郎!!!」
 和希が岩によじのぼって、岩の上を猛ダッシュで回り込むように追いかける。
「てめえこの野郎! 逃げるんじゃねえ! おまえのせいでどんだけの人間が死んでると思ってんだ。のうのうと温泉なんぞつかってやがって……ふざけんじゃねええええええ!!!」
「きゃあああああ!」
 ンカポカはまだ10歳なので、声変わりしていない。女のような高い声で悲鳴を上げながら温泉を飛び出して逃げていく。
「待てこらあ! 何がきゃあだァ!!!」
 和希も負けじと追いかけていった。
 ここまで、ほんの数秒の出来事だ。壮太は和希をサポートするタイミングを逃してしまい、呆然と立ち尽くしていた。
「……行っちゃったぜえ。どうしよっか。追いかけた方がいいかなあ、エメ。どう思う? ……エメ?」
 エメはそんなことはお構いなしで、念願の温泉に片足突っ込んでいた。そして肩まで浸かって。
「はあ〜。いい湯ですね〜」
 エメの満足げな顔を見ていたら、壮太も誘惑に負けた。和希には悪いが、今はゆっくり湯につかることにした。
「ふうー。たまんねえな〜」
 2人はこのあと、モヤモヤの湯煙の中で背中の流しっこをして温泉を堪能した。エメは壮太の背中を流しながら、自分と同じような体つきですねーなんて言っていたが、壮太は細身なのでそんなはずはない。
「エメ。そりゃないだろ。俺は――」
 と振り向いた壮太を見て、
「ひいい! そ……そんな、バカな!!」
 エメは、壮太から逃げるように後退りしていく。
「おいおい。どうしたんだよ。エメ〜」
「嘘だ。そんな……こ、こわい。来ないでくださいっっ!!!」
 エメは高級石鹸を握りしめて走って逃げた。
「待てよ。何言ってんだ、1人で行くと危ねえぞ!」
 壮太はエメを追いかけていった。


 温泉を目指して鬼崎洋兵が護衛をしていた女子軍団がぞろぞろとやってきた。
 すぐ後ろからは、男子もバラバラとやって来ている。
 総司はのぞき部の新入部員ハーポクラテスとお喋りしながら歩いていた。
「ハーポクラテスさんは、ほんと男にしとくには勿体ないほどきれいな人だよな」
「そうかな?」
 ハーポクラテスは腰巻きをひらひらさせて、ちんちんが見えそうで見えないという変なチラリズムを発揮していた。
「ふふっ。これはこれは……」
 ――チラリズムあるところに、この男あり。
 何故か明智珠輝が並んで歩いていた。
「どわああ! 明智さん。ナオランナを採りに行くんじゃなかったのか?」
 総司が驚いて尋ねたが、珠輝はそれに答えずハーポクラテスの見えそうで見えないちんちんを必死に目で追っていた。10センチくらいの距離まで迫って。
「のぞき部部長も、愛部部長にはタジタジだね」
 ハーポクラテスは、何を隠そう両方の部活に入っている強者だ。動じることはなかった。
「ああ、明智さんには敵わないわ。正直その見境の無さはちょっと……ひくぜ」
 のぞき部に言われたくはないが、確かに珠輝は神出鬼没の異常変態紳士だ。愛と性のニオイを感じてあっという間にジャングルを駆け抜けてきたのだ。
 そしてまた今度は別のニオイを感じたのだろうか、どこかへ行ってしまった。
「そういえば、ハーポクラテスさんはあまり下ネタとか言うイメージないね」
「部長はよく部員のみなさんと話して……」
 そのとき、トツゼン瞳孔が開いた。
 ハーポクラテスもブルー・エンジェル号に最初からいたため、奇行が発症した。
「ぶちょう〜。どこ見てるんれすかあ。腰巻きがとれらいまひゅよ〜」
 と腰巻きの両端を持って、真ん中を何かにひっかけると操り人形のように動かし始める。
「え? ハ、ハーポクラテスさん?」
「もうううう。らめえええええ。ぼくの★★の★★が濃厚な★★になって★★から★★ちゃうよおおお〜〜〜。ぶちょうの★★にぼくの★★を★★してええ、★★してええ、もっと★★してええそれで★★の★★ちょうてんに★★★〜」
「貧乳だいすきっ!」
 ガッ!
 総司がハーポクラテスの胸を鷲掴みにして、意味不明な奇行ショウタイムは終わった。
 この場に珠輝がいなくて本当に良かったと、周囲にいた男子は思った。


 その頃、温泉では洋兵と小鳥遊美羽が男女を分ける壁を作っていた。用意しておいた布を張って、即席の男湯と女湯ができあがった。
 洋兵が男子を誘導して、美羽が女子のエリアを担当した。
「みんな、のぞきなら大丈夫。ちゃんと対策してあるからね。安心して入って」
 湯煙が凄いのでそうそうのぞかれなさそうだし、美羽も何か対策を講じているということだ。女子は、安心して服を脱ぎ始めた。
「ありがとうですぅ!」
 戦場カメラマンのメイベルも、さすがに湯煙で撮影ができないため、久しぶりにカメラから解放された。念のため「脱衣所」にあった白いバスタオルを体にまとい、さらにミズノのバットを握りして、一番に湯に入った。
「一番乗りですぅー!」
「もういないよね。いない? ほんとにいないー?」
 レキはもうトラミニくんが身体にくっついてないか慎重に捜してから湯に入った。
「入っちゃおうかなぁ。猿もンカポカもいないみたいだもんねぇ。よーし。もう身体べたべただしー、うれしいーー♪」
 蒼は木の枝を武器として持って湯に入った。
 プレナはモップを手にゆっくりと入った。
「これでもうカエルさんとお話できなくなっちゃうのかなぁ。それは寂しいなぁ〜。あれー。朔さん入らないのぉ?」
「え? いや、入る。入りますよ。温泉、大好きなんですから」
 朔はまだ服を着たままで、きょろきょろしていた。
「本当にのぞき部はいないんでしょうね……」
 と言いながら、他の女子からも身体を隠していた。
 実は、朔の背中には禍々しいドクロの刺青が入っているのだ。これは過去に不良軍人に無理矢理やられたトラウマのシンボルなので、自分でも見たくないし、他の誰にも見られたくないのだった。
 湯に入る直前ギリギリまで背中を隠して、やっと見られずに入ることに成功した。
「ふうう〜。きもちいい〜。でも、出るときまた気をつけなくちゃなあ……」
 美羽は、念のため自分の下着を壁のあたりに罠として設置して、やっと湯に入った。
「はあ〜。温泉温泉♪ 生き返る〜♪」
 その頃、男湯は非常に寂しいムードだった。
 厳重な洋兵と美羽の警備体制にのぞき部も為す術なく、湯に入る気すら失せていた。まだ誰も湯に入らず、のんびりと服を脱いでいた。
 闇商人の亮司は、いると思っていたナガンが見当たらず落胆していた。
「おかしいな。いろいろ用意したのに」
 パラワシのクチバシの他に、ショッキングピンクのカタツムリの殻も持っていた。
「佑也。こっち向いてみ」
 メガネがなくてさっきから頭や足の小指をあちこちにぶつけてる佑也を振り向かせた。
「なんだ?」
「メガネないんだったら、替わりにこれ2つ紐で結んでつけたらどうだ? 使う予定だった奴がいないから、もう必要ねえんだよ。安くしとくぜ」
 と佑也の目に殻をあてると、その目がバカでかいショッキングピンクになって……亮司は思わずぷぷっと噴きだした。
 が、
「冗談やめてくれ……よ?」
 佑也はぶったまげた。ものすごくよく見えるのだ。視力が一気に10.0くらいになった感じだ。
「亮司くん! こ、これ……売ってください!」
 結局、佑也はツケにしてもらい、ショッキングピンクのカタツムリメガネを装着した。
「これで戦える。ンカポカとだって戦える!!」
 そして、佑也の視界に入ってきたのは、神楽月九十九だ。
 不思議少女の九十九は、ここまで来たのに何故か温泉に入らずふらふらと周囲を歩き回っていた。
「あら。こんばんはー」
 九十九が挨拶したのは、闇の向こうからやってきた……ンカポカだ。
 彼女はブルー・エンジェル号に最初からいたが、異常なまでの天然マイペース少女なのでンカポカのことを未だに把握してなかったのだ。
「どうしたんですか。息が荒いようですけど」
「はあはあ。こんばんは。疲れたー。やあ、酷い目に遭ったー。はあはあ……のぞき。温泉でのぞかれて」
「まあ、それは大変ですねー」
「しかも、なんか知らないけど走って追いかけてきて、のぞきなのかストーカーなのか、とにかく変態には気をつけて。はあはあ……」
「ところで、あなたのお名前はなんですか?」
 ンカポカは、息を整えてこう言った。

「四方天唯乃よ。よろしく」