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リアクション
第10章
壮太は、ようやくエメを掴まえた。
「エメ。どうして、逃げるんだよ!」
「では……あなたは、どうして私なんですか?」
「ああ? どういうことだ?」
ちょうどよく水たまりがあったので、壮太は鏡にして見てみた。
――顔も身体も、エメそっくりになっていた。
「なんじゃこりゃあああああ!!!」
女湯では、メイベルがずっとあることを考えていた。
――どうしてンカポカにそっくりな猿がたくさんいるんだろう。どうして……?
「もしかして、ンカポカにそっくりにさせられちゃったのかなぁ。薬か何かで……」
その通り。つまり……この温泉は、そのとき先に入ってた人と同じ外見になってしまうという恐ろしい効能があるのだ!
ンカポカそっくりの猿は、ンカポカが湯につかってるときに後から入ったのだろう。そして、唯乃はその猿が入ってることに気づかないまま入ってしまったのだ。壮太はエメの後に入ったからエメになってしまったのだ。そして、後から来たこの団体のときはどうだっただろうか。誰もいない湯に一番に入ったのは誰だったろうか……?
女湯の脱衣所には、顔拓の用意をしてまだ湯に入ってなかった桐生ひながいた。
相変わらずの早業で女湯の全員から……
バシバシバシッ!
顔拓をとった。
「はい。またまたいただきでーーーす?」
集めた顔拓を見て、ぶったまげた。
全部、メイベル・ポーターなのだ。
そして自分の顔で試してみると……
「……」
やはりメイベルだった。
男湯では、佑也が視力10.0で、何故か男湯に紛れ込んでるメイベルの身体をじろじろ見ていた。
(ラララララッキー♪ さっきからついてるなー、俺!)
と、その隣も、そのまた隣もメイベルだ。
「あれ? これ、なにかおかしいな。おーい、亮司くん。どこだ?」
「なんだよ、早く入ったらどうだ? 気持ちいいぜ」
とメイベルが喋った。
「と。ちょ。ま、まずい。何かおかしい……!」
慌てて逃げようとしたのが運の尽き。ツルンと滑って……
ドッボオオオン。
湯に入って……溺れた。
女湯の蒼は、持って入った木の棒が立派なミズノのバットになっていて、驚いた。
「あれえ? おかしいなぁ。メイベルさん。ごめんねぇ。間違えてミズノ取っちゃったみたいぃ」
「何言ってんの? メイベルさん、あたま大丈夫? ちょっとトコロテンなんじゃないの?」
答えたのはメイベル(美羽)だ。
「え? ワタシがメイベルさん? まーた変なこと言ってぇ! もう!」
と振り向くと、そこにもメイベルが自問自答している。
「なんでモップがミズノに……? プレナ、ぜっっっったいモップ手放してないのにぃ!!!」
メイベル(朔)は、何度も背中を見ようとしている。
「ない? ないの? どうしよう。困るけど、刺青がなくなったならちょっと嬉しいかもしれない……!」
たっぷんたっぷん。
「ていうか、プレナのおっぱい急成長しちゃったかもぉ〜」
となると、当然男湯ではもっと酷い騒ぎになっていた。
「どわああああ。きもち……うぃいいいいいいい!」
たっぷんたっぷん。もみもみもみもみ。
みんな自分のおっぱいをもみまくって、でも脳みそは男子のままなので同時にスケベブラッドを大量噴出していた。
大変な騒ぎの中、護衛をしていた洋兵も……メイベルになっていた。
「おじさん……こういうのはよくないと思うぜ。本物のメイベルさんに悪いんじゃねえかな」
と言いながらも、ちょっとだけおっぱいの先端に触れてみた。
「あんっ」
感じてしまった。
「って、おい! どうすんだ、これ!!」
慌てて女湯に向かった洋兵が、美羽の罠にひっかかった。
ガランガランガランガラン。
鳴子が響いて、ひゅーーーー。美羽の下着と一緒に逆さ吊りにされた。
「んぱーんぱー」
「うわああああ。おねがいですぅ。私に、私にさわらないでくださいぃ〜〜〜〜」
今のが、おそらく本物のメイベルの言葉だが、たくさんいるので、もしかしたら違うかもしれない。
メイベルになったメンバーを整理すると、元祖メイベル、プレナ、朔、美羽、ひな、レキ、蒼、総司、ハーポクラテス、洋兵、亮司、佑也。の12人。……十分野球ができる人数だ。
持ち物もそっくりになるので全員がミズノを持ったバスタオル姿の……ミズノオールスターズのできあがりだ。
そして、ミズノオールスターズは次の一言を機にさらなる混乱に陥るのだった。
「おい、ンカポカがいるぞ!」
どのメイベルかわからないが、とにかくメイベルが叫んだ。
「きゃああああああああ!!!!」
「この中に、ンカポカがあああ???」
「殺されるーーーー!!!」
「バカ、この中とは言ってねええ!」
「嘘だぁ! そんなこと言うメイベル! 貴様が怪しいぃ〜」
「ちょっと待て。それを言うなら、あのメイベルなんかすぐ逃げようとしてて怪しいじゃねえか!」
「え。ワタシが? ミズノ振り回してるメイベルが一番危ないんじゃ……」
「もうダメだああああ……んっぱーーーー」
そこに、2人のエメが駆け込んできた。
「助けてくれ! なんか大変なことになっちまった!!!」
「誰か、誰かあああ。石鹸を貸してさしあげますから……私の人格を1つにいいい……い???」
ダブルエメの前には、大混乱のミズノオールスターズ!
「エメさんが2人いますううう!」
「どっちがンカポカなんだああああ!!!」
みんな脳みそがトコロテンになりながらどこかに走って逃げてしまった。
ンカポカ(唯乃)はこの状況を見て、やっと自分の股間についている光るちんちんに気がついた。
「うわっ! なんかついてる!」
唯乃は脳みその理解の範囲を超えてしまい……
「んぱーんぱー」
トコロテンになって、夢遊病患者のようにどこかに行ってしまった。
「さよーなら!」
九十九は笑顔で手を振っていた。
と、そのとき、九十九はトツゼン。
「どりどり〜」
人間ドリルになって、穴を掘ってどこかに行ってしまった。
そして、誰もいなくなった。
温泉を目指しているナガンと円には、今の騒ぎがかすかに聞こえていた。
「どうせのぞき部かなんかだぜ。静かになったってことは、またパンダ隊にでもやられたんだろ」
「おんぶー!」
「はいはい。どうぞっと」
ナガンは、円にはやさしいお姉さんだった。
「すすめー!」
「はいはい。行きますよっと」
そして、温泉についたナガンは円の服を脱がしてやった。
「ナガン、石鹸がないー。洗えないー」
「石鹸? お! あれはエメ・シェンノートの鞄! 100%石鹸が入ってるぜ……ほら。やっぱり」
「あーだめだー。シャンプーハットがないじゃないか! 頭洗えないよー!」
「シャンプーハット? ……それは流石に入ってねえぞ」
「おなかすいたー。大根食べるー」
「よしやるか!」
ナガンは大根足をもいで、途中で拾ってきた木の枝で改造して、円と一緒に温泉に入った。
温泉の外には、姫宮和希がいた。
またンカポカが現れるのを待って見張っていたのだ。
「いいニオイがするな。大根か。もしかして……ナガンか?」
和希が温泉をのぞくと……ンカポカの頭をシャンプーしてやってるンカポカがいた!
「円、いつからこんなにクセだらけになったんだ?」
「股間にソーセージがついてるよー。なんだこれー」
これで、唯乃と合わせて3人もンカポカが誕生してしまった。
和希は戸惑った。
「ンカポカ! てめえコラァ、なんで2人なんだ!?」
「なんだって? ンカポカ?」
「ンカポカって誰だっけー?」
ナガンンカポカは声の方を振り向き、岩の上で叫んでる秋葉つかさを見た。
「秋葉つかさ……話し方が違うけど、イメチェンか? ますますパラ実送りにされそうな言葉遣いだぜ?」
「え? あれ?」
和希はどうも体の動きが鈍いことに気がついた。
「おかしいな……って、なんだこれ。俺の胸が、ででででかっ!!!!!」
2人のンカポカに、自分の巨乳。わけがわからなくなり、脳みそがトコロテンになった。
「んぱーんぱー」
そこで、風が強く吹いて湯煙が薄れると、湯の真上に洋兵が逆さ吊りになっているのが見えた。美羽の罠にやられたまま脳みそがトコロテンだったのだ。
「んぱー。この温泉は……コピーを作る。ダメだ……入ってはいけねえ……」
ウッキーウッキー!
「なんだって!」
ンカポカ猿が出て行き、ナガンは全てを悟った。円はまったくわかってなかったが。
そして、秋葉つかさは和希の他にも3人いた。
温泉で何をしてたのかのぼせて外で涼んでいる3人の秋葉つかさだ。元祖つかさと神無月勇、そして如月正悟だ。
正悟は今、つかさの凄さを感じていた。まさに身をもって感じていた。
「つかささんの身体……す、すごい感度ですね。感度というのか……何もしてないのに、疼く。疼いて……はあっ。こんな身体で日常生活がまともにできるの……ですか……」
勇は我慢できなくなったのか、ンカポカ猿を一匹掴まえていた。
「はあっはあっ。なんてスバラシイ……パラミタ真珠が2つも……ああっ。お猿さん……はやくっ。キミのバナナを……!」
「勇様。その猿、次に私にも貸していただけないでしょうか」
元祖つかさも、当然のように疼いていた。3人のつかさが相手では、この猿はしばらく腰がたたないだろう。
正悟は猿の順番待ちに痺れを切らして、悶えていた。
「ま……待てません。私の番は……」
そのときだった。
――エロスあるところに、この男あり。
つかさトリオにとって、彼は救世主だった。神だった。3人は一斉にその名を叫んだ。
「珠輝様!!!」
そして、ちんちんあるところに、この男あり。
聖だ。
バシッ!
「変態の神と呼ばれる明智様のちん拓、大切にさせていただきます……」
風のように現れ、風のように去っていった。
そして、珠輝は3人のつかさを前に仁王立ちした。
「ふふっ。忙しくなりますね」
こうして、珠輝と猿と3人のつかさたちは体力の限界を超えて愛し合っていた。
ナガンンカポカは、円ンカポカと大根を食べながら事情を説明していた。
「いいか、円。ンカポカってのはよー。悪い奴だ。ワル。わかるか?」
「ナガンがいなくなったー。キミだれー。眠いー」
なかなかわかってもらえなかった。
温泉から少し離れた獣道の草陰で、沙幸と留美はぶるぶる震えていた。
ここは、温泉につながってる唯一の道だ。
人間の足跡があったことから、きっとンカポカ一味が通ると思って張り込んでいたのだ。
2人は、ンカポカ一味のユウがンカポカの悪口をぎっしり書き込んだノートをブルー・エンジェル号で読んだ。血とお茶がかかって読めなくなってしまったが、その内容は覚えていた。そこで、それを石ころに書いて道に置いてある。こうすることで、ンカポカやユウが姿を変えたり消したりしてここを通っても反応するはずだからだ。
ちなみに、石ころに書いてあるのは、こんなことだ。
『ンカポカのやつ、バイオリンに手垢を26箇所もつけやがった。いつかあいつの大切にしてるオモチャに3倍の78箇所の手垢をつけてやる』
『ンカポカのやつ、バイオリンに唾を6粒もかけやがった。大きな粒の直径は5ミリ。3倍の15ミリの唾を大好きなオレンジジュースに入れてやる』
かなり性格が陰湿で神経の細かい人間であることが窺える内容だ。
(温泉は、大変みたいだね。メイベルがいっぱいってすごいよね)
(ええ。ここは寒いですねー。やっぱりこういうときは……)
ひそひそ声で話しかけると、留美は沙幸に抱きついた。
「きゃっ。留美?」
(しーっ。静かにしないと、バレますよ)
(それはそうだけど、話聞いてないでしょう……)
(くっついた方が、あったかいですわ。ねっ)
(あっ。ちょっ。どこさわってんの……)
(あら。ごめんなさい。少しでもあったかくと思って――)
(あんっ。もうっだめえっ……!!)
そのとき、ナオランナをくわえたパラワシが一羽やってきた。狡賢くナオランナを奪っていったズルワシだ。
ズルワシはナオランナをクチバシで突っついて割ると、中の汁を飲んだ。
「どわああ!」
思わず沙幸と留美は声をあげた。
ズルワシが、人間の姿になったのだ。しかもそれは……ユウ・ディカトゥイだった。
ナオランナには、ナオラン温泉でコピーされた体を元に戻す効果があるようだ。
「……誰かいますね」
ユウは陰湿だろうが性悪だろうが、最強戦士。2人の気配にすぐ気がついた。
沙幸と留美は、草陰から出てきた。
ユウは足元の石ころを蹴った。
「これは……君たち?」
沙幸は石ころを見せて言った。
「ノートは全部読んだよ。ズバリ言うよ。ンカポカに仕返しするんなら……私たちの仲間にならない?」
「仲間?」
「あなたもンカポカが嫌い。私たちも倒したい。これって、仲間ってことだよね」
「……」
ユウはじろりと2人を見つめた。
その目に恐怖を感じた留美は、機転を利かしてでっち上げる。
「言っておきますけど、わたくしたちがこのまま帰らなければノートはンカポカの手に渡る手はずになってますから。こ、こ、殺したって無駄なんですから」
ユウはしばし考え、小さく頷いた。
「いいでしょう。仲間ですね……」
なんと、ユウを仲間に引き込むことに成功した。
緊張が解けた2人は、見つめ合ってニコッとアイコンタクトした。
沙幸はさらに考えていたことを話した。
「そしたら……ユウ。早速だけど、みんなお腹減って大変なんだ。飲み物と食糧をくれないかな」
「案内します。ただ、ナオランナがあと1つしかなかったことを早く仲間に伝えた方がいい。温泉でコピーされた体がそれで治ることも」
「あと1つ? それ飲んじゃったら、もう体を戻せないの?」
「1年待てば、また実がなります」
「1年! 沙幸さん。わたくし、みなさんのところに行ってきますわ」
「うん。お願い。気をつけてね」
そして、2人はこそこそと話して別れた。
打ち合わせたのは、沙幸が持っていたプチプチの消臭剤を道中に1つずつ落としていくことと、朝までに戻らなかったらそれを頼りに留美が誰かを連れて助けに行くことだ。
夜が明けるまで、あと数時間。
留美は温泉に向かい、沙幸はユウに食糧のあるところまでついていった。
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